- Amazon.co.jp ・本 (513ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102142042
作品紹介・あらすじ
うら若き未亡人のジョーンは、幼い息子を養うため少々怪しげなバーで働いている。そこで彼女は、初老の富豪に見初められるものの、若くてハンサムだが貧しいトムにも出会い、心惹かれる。彼女はどちらの男性を選ぶのか。そして、いかにして自らの人生を切り開いていくのか――。あの永遠のベストセラー『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の巨匠が生前秘した、幻の遺作が堂々の上陸!
感想・レビュー・書評
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特に気には留めていなかったのだが、書店で『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の隣にディスプレイされていたのもあって、選書候補にも入れてみようか…と読んでいた。原題もそのまま“The Cocktail Waitress”。聞けばJ.M.ケインの遺稿だという。
夫を亡くし、シングルマザーになった女性・ジョーンの周りで起こる波風の数々。DV夫はどうも勝手に死んだらしいが、「ひょっとして」という噂も絶えない。子供を育てる余裕もないが、事情があって実家には頼れず、やむなくタイトルどおりの「水商売」に身を投じて…という展開。水商売のやりとりの描きかたがなかなか巧みに思う。あちらの給仕はチップ商売なので、その額をはずんでもらう駆け引きや、はずんでもらうと、この種の店ではそれに含まれるであろう「追加サービス」などなかなか下司な事情も織り込まれながら進むのだが、主人公の女性・ジョーンの育ちのよさで、話の品が保たれているように感じる。
サスペンスはあるものの、基本的にはミステリーではなくハーレクイン方向の話だと思う。でも、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』でも感じたように、本人が意図して行ったものではなく、意図していない「悪意」に見える立ち居振る舞い、言動と、そこから生まれる誤解や曲解(らしきもの)が典型的ながらすごく巧みに描かれている。「火のないところに煙は立たぬ」という状況を描き出す手腕にきわめて秀でているということだろう。ジョーンの行動の隙を突いて立ち上がる世間の悪評、付随するように起こるうさん臭い出来事がねちねちとリアル。確かに、ジョーンのふるまいのいくつかは軽率だが、そう浮ついたものではなく、むしろ自分と息子が生きていくためにはこれしかない、という直球のストロングスタイルの戦法ではないか、という解釈の余地も現代では大きくなっているのではないだろうか。それにしても、ジョーンが生きている世界にネットがなくてよかったと思う。まあ、作中でも新聞で毒婦扱いされたりしてバンバン叩かれているけれども、現代社会はその比ではありませんからなあ。
「遺作にうまいものなし」的な言い回しがあるというのを読書仲間から最近仕入れたので、ちょっと心配していたのだが、そこは余計な心配に終わったようで、ガシガシ読みとおしてしまった。この作品を発掘したチャールズ・アルダイ氏の解説がノンフィクションのようで面白いのと、本筋とは関係ないが、薬禍で有名になった薬の名前を久しぶりに目にして、時代の流れなども感じてしまった。それ以外は、今でも同じ素材でまったく通じる話だし、事実そういう小説をまだまだ沢山目にするわけで。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
うら若き未亡人のジョーンは生活を立て直し、義姉に預けた息子を取り戻すためにカクテル・ウェイトレスとして働き始める。
そこで出会った初老の富豪とハンサムな貧乏人のどちらを彼女は選ぶのか?
リドリー・ストーリーもの。
古き良き時代の香りがプンプンするよ。
田口さんの訳文、いいなぁ。
ジョーンはファム・ファタルなのか? 彼女の一人称の回顧譚をどこまで信じていいのか。
そして新たなる悲劇を予感させるラスト。
いろいろと怖い読書だった。 -
うーむ、再読してみればわかる、奥深さ
過去(2014年12月)の感想はこうだった
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カバーの絵がキュートなジェームス・M・ケインの小説
有名なベストセラー『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を初読
なるほど生きのいい面白さ!
ところがケインの幻の遺作というので一緒に購入した
『カクテル・ウエイトレス』がなんとも面白い
子持ちのうら若き未亡人が初老の富豪に見初められて
おさだまり、貧乏なハンサム青年にも心惹かれ
さてどうすのるか?
っていう通俗が、あら、あら、あーらら
なまなかな女ではないのよね、でも、最後が...
*****
という簡便な感想だったが再読してみると、奥深いメッセージがわかってくる。
DV夫が酔った末自動車事故で死んで、幼子と無一文で残された21歳のジョーン・メドフォードは、恵まれた容姿(すらりとした脚、金髪碧眼)を生かして、カクテル・ウェイトレスをすることに
ハンサム貧乏青年や初老の富豪に巡り合う機会があるのは当然、ハンサムに惹かれ、見るもの嫌なのにそのお金持ち老人に屈服してしまうその展開はさもありなん。
さて、どうするのか、手に汗握る展開なんだけれど、ヒロインが語ることによって味わいあり秘密めく。
計算高い利口な女が揺動し、聖女(ぶってるのか)の品性が明滅するようでいて、とんでもない悪女か?
賢い女性の品格もほのあるような、最後まで分からない、そのミステリーアスなところ、女性は少なからず、こういうところがあるのだ、と言っていい。 -
語り口(文章)はよく、主人公女性の人間性の臭みを的確に捉えて描いている。代表作『郵便配達は二度ベルを鳴らす』でも同様に感じられたもので著作に通底する美質かと思う。ただ比較すると本作は冗長な感じで、それは代表作の倍もある頁数のその印象もあるのかもしれないけれど、登場人物たちの思いを寄せるこの主人公にあまり魅力を感じなかったことの方が大きかったように思われる。また物語の成り行きもご都合主義的なものが感じられた。それでも力ある筆致に惹かれて最後まで退屈することはなかった。
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ゴーンガールのエミリーのおばあちゃん。という印象。欲しいものは手に入れるのだっ。
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ジャケでやられて中身でさらにやられた。
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作品は、全般的には一連の事件後の主人公による回想で、一人称の語りだ…これが、なかなかに好い…
何か「甦った古典」という感であると同時に、「敢えて“一寸昔”を作中世界とした新作」という感でもある。この女…悪女なのか?周辺事態が悪い方へ転ぶばかりなのか?何か不思議な感でもある…