マネーチェンジャーズ 下 (新潮文庫 ヘ 4-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102145067

感想・レビュー・書評

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  •  刑務所で地獄の日々を過ごすマイルズ・イースティンが、すんでのところで自殺を思ひ留まつたのは、罪を被せやうとしたファニータ・ニュネスにどうしても謝罪したいといふ思ひがあつたからです。

     FMA保安部長のノーラン・ウェインライトは偽札や偽造クレジットカードの蔓延に頭を悩ませてをり、偽造団を摘発せんと、スパイを送り情報を得てゐました。しかしスパイは正体を見破られ、惨殺死体となつて発見されたのです。
     ウェインライトは、出所したが仕事がないマイルズ・イースティンを新たなスパイに仕立て、連絡係にファニータ・ニュネスを指名します。マイルズは重要な情報を次々と送つてくるのですが、偽造団のボスは用心深い男で、マイルズの正体を突き止めてしまひます。ああ、マイルズとファニータの運命や如何に?

     サテ巨額の融資をしたシュープラナショナルですが、実は経営が傾いてゐて、破綻寸前でした。自転車操業状態で、とにかく現金が欲しかつたところに、FMAのヘイワードが喰らひついた訳です。彼の失脚は時間の問題であります。これが報道されるや、大量の投資金が焦げ付くと予想されたFMAのある支店では、つひに取り付け騒ぎが現実のものに。これに対し、アレックス・ヴァンダーヴォールトはどんな行動を取るか......?

     いやあ面白い。上巻が終つた時点では、この広げ過ぎた風呂敷を如何に収めるのか、不安に思つたところですが、結末に向けて伏線を次々回収し、一気に収斂してゆくさまは痛快ですらありました。マイルズとファニータについては、ちと甘い御都合主義も感じましたが、まあ良いぢやありませんか。

     銀行の頭取争ひを軸に、偽札・偽造カードを巡る暗黒街を舞台に描く、一大エンタテインメントと申せませう。名翻訳者永井淳さんですので、翻訳文苦手の人も難なく読破できることと存じます。
     デハまた。ご無礼しました。

  • 原書名:The Moneychangers : vol.II

    著者:アーサー・ヘイリー(Hailey, Arthur, 1920-2004、イングランド、小説家)
    訳者:永井淳(1935-2009、秋田県、翻訳家)

  • FMA銀行の巨額融資先が、キャシュフローの悪化により倒産。一部の支店で取り付け騒ぎが起こるが、アレックスの機転により他店への波及を避けることができた。一方、贋札シンジケートに潜入していたマイルズはその贋札製造の核心に近づいた。潜入捜査に感づいた組織は情報の中継点に圧力をかけてくる。いっぽ、巨額融資の焦げ付きから頭取の跡目争いからころげおちたロスコーの運命は。
    FMAをめぐる人間模様を精緻に描かれた秀作。

  • 銀行 というものを スケール大きくとらえた作品。
    銀行とは何か というのを とらえることに
    アーサーヘイリーの巧みな 編集力が 際立つ。
    ただ,銀行が 金利だけで 経営するという 牧歌的な時代。
    もっと,銀行業務は 複雑化している現在は
    単純な 対立が 生まれないような気もする。

    ロスコーヘイワードは 銀行と言えども 利益を優先する。
    そのために、成長する産業と結びつくべきで、
    そこでの融資による利益が 大きいのだという。
    ロスコーは 戦略家でもある。
    数の論理で物事がすすむということも理解している。
    しかし、ヘイワードの妻の 
    ビクトリアとは セックスレスになっている。
    そして問題は、家計が赤字なのだ。

    アレックスヴァンダーヴォルトは、銀行が取り組むべきことは、
    環境問題 企業の社会的責任 弱者救済という姿勢で取り組むべきだ
    という 銀行の公的な責任を強調する。
    FMA銀行の頭取 ベンロッセリは 創業者の孫であり、
    基本的な銀行の方向は、アレックスの考えていることに近かった。

    アレックスは シーリアと結婚していたが
    シーリアは 内気な性格で ストレスがこうじて、精神病院に。
    一度は離婚したが シーリアのために それを取りやめている。
    病院に会いにいくが シーリアは震え涙を流す。
    いっこうに 症状はよくならない。
    そういうなかで、社会運動家の弁護士 マーゴットブラックン
    と つきあっている。

    マーゴットは 空港職員の待遇改善として
    空港のトイレ占領という奇襲で 改善を獲得した。
    おなじように FMA銀行が 
    低所得者住宅建設の融資を半減するという方針に対して
    新規の口座開設者が押し掛けることで,
    通常の銀行利用者がつかえない 状態となり
    その半減方針を 撤回せざるをえなかった。

    ベンが死ぬことで ロスコーとアレックスの
    頭取の椅子をめぐって激しい闘いが始まったが、
    暫定的に ジェロームパターソンが頭取になった。

    マイルズイースティンは、ギャンブルによって
    銀行の休眠口座からオカネをとっていた。
    そのことを 窓口 のファニータヌニェス 
    の犯罪のように見せかけたことが ばれたことで、刑も重かった。
    そして,刑務所では人格が破壊されるような体験をうけた。

    ロスコーが 大企業の現実を 見抜くことなく,
    その手厚い接待の中で 銀行マンとしての 矜持を失っていく。
    コールガールの手練手管にはまっていく。
    高級コールガールだが 200ドルプラス
    ホテル/飛行機代こみで500ドル以内とは 
    時代が すこしちがうのだね。

    ロスコーは 断りきれない 何かを 抱えていく。
    アレックスは 孤立しながらも 自分の信念を貫き通す。
    そこで、銀行の 新しいスタイルを打ち出す。
    顧客のための銀行。
    それが 評価されることで 自分の持つ銀行のイメージに近づく。

    マイルズとフェニスの関係が びみょうに
    しっとりしていて,いいのだ。
    ピーナッツには 笑えたが。

  • 後半最後に向かうに従い展開が速くなってくる。ハッピーエンドには終わらない。銀行の頭取合戦は一方の死による終焉。スパイもばれて拷問となる。これからどうなるか。明るい未来でないことが予想されるが、それでも皆、幸せなのだろうか?使命に生きるという感じがした。
    読み終わって全体を振り返るともう30年前の著作でありながら、真髄は古さを感じない。金の根本はいつの時代でも変わらないということだろう。そして欲望も。金本位の制度は維持する必要があることがわかる。本書ではクレジットカードを取り上げているがカード発行の趣旨は本書で語られている通りだろう。そして意図した方向に、個人に負担がかかる方向に進んでいる。当時は予想しえなかったインターネットの普及により、現在のお金、経済というシステムは机上の数字を受け渡しするだけとなっている。誰が多くの点数を集めることができるか、つまりゲームと同じである。

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