芝生の復讐 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102147030

感想・レビュー・書評

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  • 「西瓜糖の日々」と「アメリカの鱒釣り」は生に満ち溢れた(少なくともすごく肯定的な)雰囲気だったのにこれはなんとも言えない影とアメリカを問い続ける問題意識みたいのが見え隠れしていて、今まで読んだ作品とは違った雰囲気を味わえた。

    私はこういうの好き。

    「太平洋のラジオ火事のこと」が一番よかった。

  • 『アメリカの鱒釣り』のあとに書かれた作品を集めた短篇集。


    今まで何回もパラパラと開いてきたが、読み通すのは初めてだと思う。柴田元幸の『翻訳教室』を読み返していたら、そこで取り上げられている「太平洋のラジオ火事のこと」でボロ泣きしてしまい、今が『芝生の復讐』を読むタイミングなのかもと思ったのだ。何を読んでも泣くスーパーセンシティブ状態だったけど、本当にめためたになったとき、ブローティガンの言葉がこんなに入ってくることがあるんだなと思った。
    『アメリカの鱒釣り』は世界の空虚さを描きながらも言葉を使うことの楽しさ、ジョークの愉快さに満ちていたが、それに比べて『芝生の復讐』は湿っぽい印象があった。読み終わってもやっぱりそれは正しい。ブローティガン流の、比喩と現実が完全に等価であるような、言葉に置き換えられた途端にすべてが質量を失ってぺらぺら飛ばされていくような軽さはそのままなのに、笑いが消えて真顔に変わっている。自分がびしょぬれのボロ雑巾だと気づいた人間のための言葉たちだ。
    記憶のスケッチから散文詩まで短い文章が集められているが、私はやはり物語風のものが好きだった。コーヒーを求めて関係を持った女たちを訪ねる「コーヒー」、1ポンドも肉を買う老婆の秘密を描いた「サン・フランシスコの天気」、安楽死させた犬の死骸を高級な絨毯で包んで葬る「冬の絨毯」。あるいは、ドライな風景描写が独特の美しさをみせる「砂の城」、夜の闇に恐怖した少年時代がありあり蘇る「許してあげよう」。
    言葉が心にぴたりと寄り添い、ここに自分のための言葉があったのかと思える体験は特別だ。それがブローティガンだったというさみしさも格別だ。藤本さんの訳者あとがきも愛に満ちていて、読むと心がしみしみになる。ブローティガン、死なないでほしかったな。

  • どうしようもない愛おしく、
    同時に心の底から嫌悪する「アメリカ」。

    (もちろん「」の中は任意です。
    あなたも思い当たる言葉を入れてください。
    僕だったらあれやこれやそれや。)

    なんであれ、
    そんな引き裂かれた場所に立つ人は、
    どんなふうに振舞えばよいのかと聞かれれば、
    それはブローティガンのように、と答えます。

    まるでライフルを持ったキチ○イのような。
    まるでなにも知らない子供のような。
    まるで死を直前にしてチューブにつながれ、
    ベッドに横たわる老婆のような。
    まるでそれを見守る息子のような。

    自伝的でノスタルジックなトーンのみで書かれた
    (なんてことだ!)「談話番組」と
    「きみのことを話していたのさ」に涙涙。
    でも、それでさえこの感情の渦のような
    短編集のほんの一部の側面でしかありません。

    たぶんそれはなにをもってしても代えがたいなにか。
    文字を順番に書いて/読んでいくことでしか得られないなにか。
    言葉だけがなしうるなにか。

    いまいましくもいまいましい四月初旬は、
    「芝生の復讐」からはじまる。
    僕はそんなふうにして「アメリカ」「文学」
    を読んでしまったのだった。

  • 『アメリカの鱒釣り』に続く超短編集。1962年から1970年の間に書かれた短編が収められているらしいです。この8年間でブローディガンもかなりの心境の変化があったことでしょう、長編も3作書いています。『愛のゆくえ』のラストでは特殊図書館に引きこもっていた主人公が世の中に出ていことするところで終わっています。そうなんです、ブローディガンも普通の男になってきた、普通の感覚を身につけ始めたことがこの短編集から読み取れます。なにが面白いのかよくわからなくなっているブローディガン、創作と現実の間でくるしんでいるかれの姿が浮かび上がってくる愛すべき小説たち。そこらへんが最高に面白いのです。

  • ①文体★★★★★
    ②読後余韻★★★★★

  • 62篇の形体も文体も色々な作品が楽しめる。ワシントン州タコマがどこにあるのか、どんな場所なのか、そんなことはどうでもよくて、独特な美しい比喩に彩られた文章に浸れる、ただそれだけで良い。外国文学を翻訳で読む醍醐味を存分に味わわせてくれる一冊。

  • 明らかにある時代のアメリカを描いているのに、どこかタイムレスな文章だなと感じる。鮮烈なイメージの連続は、古びて今なお鮮やかな発色を保つポストカードセットのよう。絵を鑑賞するように読んでほしい。

  • ブローティガン「芝生の復讐」も読んだ http://www.shinchosha.co.jp/book/214703/ ブローティガンヤバイ。こういう脆いバランスで暴力と繊細な幻想世界を繋ぎ合わせることができる人は、本人もぎりぎりなのかな。精神的に不安定な作家を次々に出すアメリカ。いったいどういう国なんだ(つづく

    ヨーロッパだと精神崩壊はたいてい宗教や土着との葛藤だしフランスなんて周りを置いて勝手に内面世界へ入り込んで行く感じだけど、アメリカの不安定さは全然違う種類。一人を怖れる寂しい人たち。想像上の恐怖に押し潰される。孤独と暴力が直結する国。なんなのメイフラワー号で何があった(おわり

  • 古き良きアメリカの幻想を紡いでいく詩的なスケッチの数々…もう笑っちゃうくらい美しい短編集。村上春樹の原点ともいえる巧みな比喩とユーモアで、どのページを開いても心震える一節に出会います。名訳。

  • 藤本和子氏の訳書。

著者プロフィール

作家、詩人。1935年、ワシントン州タコマ生まれ。56年、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグらビート・ジェネレーションの集うサンフランシスコへ。67年に小説『アメリカの鱒釣り』を刊行、世界的ベストセラーとなる。主な著作に『西瓜糖の日々』『ビッグ・サーの南軍将軍』など。風変わりで諧謔に富んだ作風は世界中の若者たちの想像力をかき立てた。84年、ピストル自殺。

「2023年 『ここに素敵なものがある』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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