贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102157244

感想・レビュー・書評

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  • ただただ、本当に衝撃の結末。上巻は少女たちの痛々しさに苦しみながらも、繊細な語りのおかげでなんとか読み終えたが、下巻は流れが変わったかのように引力が強くて、一気に読み終えた。ただ、この結末はとても不安な気持ちになる。小説内の嘘と真実、現実の嘘と真実は必ずしも一致せず、その混乱に加えて、最後の最後でこれまでの話を握りつぶして放り投げるようなことを言われては!緻密で、鎧のように堅く、とても変な小説でした。早く新刊買いに行こう...。

  • ▼基本的には。イギリス、イングランドの20世紀前半の話で、お金持ちの話なんで。割と身分制ですから、下記のように思い出せば良い。

    ※大金持ちの令嬢(大学生)=セシリア(序盤に、多分19歳とか?)

    ※セシリアの家の召使の息子(大学生)=ロビー(序盤に、多分22歳とか?)

    (このロビーは、召使の息子なんだけどあまりに秀才で、ご主人さんが「学費出してあげるから大学行ってインテリ階級になりなよ」というありがたい恩寵を授かって、大学に行っている) 


    ※セシリアの妹=ブライオニ―(序盤に、多分12歳とか?)



    ▼ざっくりいうと上巻で起こったことは。全てがセシリアの家の郊外の邸宅でのある半日の出来事。親戚たちを招いたパーティーの日。

    1:色々あるけどセシリアとロビーは惹かれあって、親戚パーティーの夕べに誰もいない書斎?かどこかで、双方合意の上でドラマチックな初Hに至る。

    2:なんとそこの「最中」に闖入してきたのがまだまだ子供のブライオニ―。当然ながら中断して、ササっと逃げ出すセシリア姉さん。ブライオニ―は(子供だし、色々ここまでの経緯があって)、「ロビーが変態である。異常者である。そして、セシリアにいやらしいことをしていた」と激しい勘違いを強くする。

    3:色々あって、その日の夜、別の親戚の娘が庭園?の暗がりで、レイプされるという大事件が起こる。ブライオニーが駆けつけて「目撃」したときに、暗い暗い闇の中で、男性がひとり逃げて行った。被害者の娘は「襲われて暗くて、誰だか全然分からなかった」。ブライオニーも、全然見えなかったんです。人相は。なんだけど、思い込みで「ロビーだった!私は見た!確かに見た!」と警察にも証言してしまう。

    4:読者は、犯人がロビーじゃないということを知っている。だけど、折悪く、アリバイが無い。結局逮捕されてしまうロビー。(上巻ここまで)

    ここまでが、確か1930年代のとある一日だったはず。


    ▼下巻は、上巻と違って歳月が飛ばし飛ばし進みます(上巻は僅か半日くらいの出来事)。


    ※以下、ネタバレになるので、読みたくない人はここまでで※




    5:数年後。多分1941年かな。第2次世界大戦の、フランスの戦場。

    6:英国陸軍は仏軍と共同しナチスと戦った。ところが、けんもほろろに負けに負けた。部隊によっては壊滅状態、無秩序に兵たちが各々生きるために「ドーバー海峡へ」とぼとぼ歩いている。

    7:その中にロビーがいる。ロビーは、ブライオニ―の大嘘証言のせいで、有罪になった。刑務所で暮らした。悲惨だった。ただ、セシリアだけは家族全部と縁を切って、ロビーを信じてくれた。従軍志願すると刑期が短くなる。志願した。セシリアは、ロビーを信じない家族と縁を切るため、大金持ちのお嬢さんだけど経済自立するために看護師になった。ロビーは兵隊になった。なったら第2次世界大戦が始まってしまった。フランスの戦場に二等兵として従軍。またまた悲惨な思いをして、負傷もして、へろへろになって海に向かって歩いている。セシリアが待ってくれていることだけが、生きる希望。当然、ブライオニ―のことは八つ裂きにしたいくらいに怨んでいる。

    この、「戦場を生きるためだけに敗走していくロビー」のくだりが長い。これが面白い。ちょっと胃が疲れるけれど、かなり面白い。こういう形で戦場を描いたものってあまり知らない。スリルとサスペンスとげんなりする胃の重さ。ロビーがいつ死んでもおかしくないし、次にどうなるか分からない。(もちろん、「ああ、死なずに生き延びて、セシリアと幸せになって欲しい」と感情移入させられる)

    8:その頃。ロンドンでは。ブライオニ―が18歳くらい?になっている。そして、新米看護師になっている。

    9:かつて、何百回でも「私は見た。ロビーがレイプした」と言い張ったブライオニ―だけど、成長するにしたがって、「私は偏見から、嘘をついた。そしてセシリアの、ロビーの人生を破滅させてしまった」という、当たり前のことがじわじわ分かってきた、ということが過去にあったらしく。謝ろうとしたけど、セシリアは一族から離脱して話もしてくれない。そしてブライオニ―は悩み、のほほんと幸せになることは(当然だが)できず、超大金持ちの娘なんだけど、姉の後を追うように両親の庇護から脱走して看護師になった。

    10:「新米看護師の、ADブギ的な苦労話」がしばらくある。おまる洗ったりとか。軍隊式の規律とか。大変やなー、と思う。

    11:その病院に、「ロビーたちのような負傷兵がどっかりやってくる。顔が半分無いような兵隊、すぐ死んでいく兵隊がごろごろ。ブライオニ―もどえらい思いをする」。
    このくだりで「ひょっとしてロビーがこの中にいるのか?」と思わせますが、出てきません。え~!ロビー、死んでもうたんか?そりゃあんまりやがな…。

    12:一息ついたブライオニ―は、かつての「レイプ事件の被害者、親戚の娘」の結婚式に出る。結婚相手は、「あのパーティーの夜」にもいた、一族の友人である、青年実業家。ふたりは金持ちでハッピーである。ここで衝撃。

    13:ブライオニ―の心理で描かれるのだけれど、なんと、「レイプ事件の加害者は、今日、今、目の前にいる新郎である」そうなんです。つまり、レイプ事件の被害者と、加害者は、(その時には本当に、女性側は、相手が分からなかったのだろうけれど)数年して、恋愛関係になって結婚してまうのである。ちなみに今はお互いに「いやー、あんときは俺、君をレイプしちゃったよね」と軽く言い合える仲なのか、そのあたりは描かれないから分からない。

    14:真犯人?が分かったところで次の幕では、ブライオニ―が絶縁されている姉のセシリアの元を訪ねます。用件は「やっぱりあの時に、自分は嘘をついていた、ということを、ロビーの名誉回復のためにも公に言おうと思う。法的にも。まずは親戚家族の中でそれを言おうと思う。」と告げに来た。

    15:そうしたら、セシリアの一人暮らしの部屋には、ロビーがいた!つまりはロンドンに生還して、無事で、まだ軍に所属しているけれど、一時休暇で今この時は、セシリアとラブラブしているのである。

    16:というわけで、ロビー、セシリア、ブライオニ―、と気まずい三者がばったり対面。ロビーとセシリアは、ブライオニ―に対して平たく言えば怒っている(そりゃそうだよな)。でもまあ、荒立ったりせずに、「じゃあちゃんと公的に告白ざんげしてくれよ」と通告して終わる。

    17:‥‥そして、終章はドーンと1999年。ロンドン。ブライオニ―が77歳。職業作家になっている(もともと作家志望の少女だった)。そして、どうやらロビーとセシリアのふたりは、あのあとすぐに死んでしまっている(ロンドン空襲で、だったかな)。ブライオニ―は、「大嘘証言してロビーを冤罪に叩き込んでしまった過ち」をとにかく公的にしようと努力をずっとしてきたみたいなんだけど、そう上手くもいかない。どうしてかっていうと、「真犯人と被害者夫婦」が大金持ちのセレブで、当然ながら認めないからだ。

    18:で、ブライオニ―は77歳の今、「徐々にボケていって死にますわ」という診断を受けたばかり。そして、「自分が死んだら公開する、全ての真実が固有名詞もありのままに書かれた原稿(ルポ?ノンフィクション?)」が存在することが分かる。

    で・・・・終わりです。


    ▼下巻の方が上巻より遥かに面白かった。なるほどなー、と思った。なんだけど、全般に恐らく原文の語り口がちょっと、「文が長めで描写がくどい」 「語調がけっこう、ウェットでしつこい」 感じがあって、そのあたりは好みとしてはイマイチでした。

  • 皆の運命を変えたタリス邸の事件から時は流れ、舞台は1940年戦時下のダンケルク、そしてロンドンへと移る。第一部の技巧を凝らした文体は影を潜め、ロビーとブライオニーが、全ヨーロッパが直面した戦禍が重厚な筆致で語られる。そして最後に明かされる、この小説の仕掛け。
    前半と後半のトーンの落差やヴァネッサ・レッドグレーヴの登場場面の違和感など、映画の不満点が原作を読んで全て解消された。本書の白眉は構成そのもの、小説による贖罪という主題そのものだろう。第一部の夏の一日と第二部・第三部の戦争物語の間隙が埋まることはない。しかしそれが終章で突如一つの枠組みにすっぽり収められる。違和感までもが意図されたもので、読み手は作家の罠にまんまとはまり嘆息するのみ。

    ただこの小説の真の素晴らしさは、第二部のダンケルクへの行軍と第三部のブライオニーの病院勤務の、静かではあるが生々しく迫ってくる描写にあると思っている。これがあるからこそ第一部の嫌らしいまでの美しさが意味を成す。その逆も然り。あまりに重たくて、トリッキーな構造の中では突出してしまいそうにも感じる。しかしそれすらも作家の仕掛けのうちなのだろう。

    作家の腕前にうなりつつ、やっぱり手放しで好きとは言えない。ただ第二部・第三部は、そんなへそまがりでもひれ伏さずにいられないほどの圧倒的な語りだった。

  •  下巻は各章の初めの一文字が特大で印字され、読者に何かの仕掛けがあることを匂わせる。事件から5年、ロビーは刑務所から戦地へ送られていた。セシーリアは家を出、看護婦になった18歳のブライオニーは己の罪を償うかのようにひたすら瀕死の傷病兵の看護に当たる。「決してあなたを宥さない」という姉の怒りに怯えながら。
     だが終盤、1995年に話が飛び、作家になった老ブライオニーがもたらすどんでん返しに読者は驚愕させられる。彼女の行動は「償い」と言えるのか。59年にも及ぶ重い罪悪感から逃げた卑怯者ではないのか。読み終わった時には皆しばし茫然とするだろう。イギリスを代表する作家イアン・マキューアンの技巧に富んだ構成は、「これぞ小説の醍醐味」と唸らせる読後感である。
    (※改版により現在は全1巻に統合されている。第二部からが下巻に相当。)

     なお、これを映画化した「つぐない」も原作の雰囲気を損なわずブライオニーの罪悪感、緊張感に満ちた傑作。ぜひ見て頂きたいと思う。

  • ひとつの罪があった。けれども恋人たちもいた。

    原題 ATONEMENT
    個人的には「贖罪」より、宗教観のない「償い」とか「罪滅し」のほうがしっくりきます。

    かつて小説家が犯した罪は、小説による償いが可能か——

    いわゆる作中作なんだけど、絶妙な設定とあまりにもみずみずしい(もしくはなまなましい)文章が小説と現実の境を曖昧にしていて、ブライオニーの告白を聞いてもしばらく判然としない感じ、がいいです。

    感性で引き起こされたことは、感性で償おうとするしかない、という試みの小説だと思うけど、やはりというか、償いは為し得ず・・・やるせないなぁ。

  • 久しぶりに「やられたー!」と言いたくなる小説。
    純愛小説という殻を被った小説論であり作家論。その構造がだんだんと明らかになっていく過程に痺れる。まさか上巻の冒頭部分を「読みにくいなー」と思いながら読んでいた(いや、読まされていた)、あれすら仕掛けだったとは…。

  • ブライオニー(主人公)を全然好きになれなかった。自愛と自己憐憫(作中何回かこの言葉出てくる)しか感じない、ある意味新鮮な主人公。セシーリアとロビーの一時の触れ合いがやけにリアル。感情の描写もリアル。贖罪と言ったってあくまで自己満足。共感を呼びやすそうな作品。

  • あいかわらず,読むのに時間がかかる.小説はとくに.

    さて,著者は第二部の終わりを思いついた時は嬉しかっただろうな.豊穣の海の幕切れを思い出す.

  • 52
    やっと下巻まで読んだ。
    あと2回ぐらい読んでみないと
    この作品は心にしみ込んでこない。

    海外物は読み慣れてないとだめだね。
    ラドラムの作品でも中断しているのがあるし、、。

  • 上巻で締めくくられた切実さが、次元を変えて、その度を増す。

    そして、まさかのセカイ系だったとは。
    小説の本質とは、物語を求めてしまう読者の心象とは。

    戦争に関する叙述、リアリティは凄まじかった。

    ・人間関係のせばまりが第一に意味するのは自分のアイデンティティが抜け落ちていくこと。

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著者プロフィール

イアン・マキューアン1948年英国ハンプシャー生まれ。75年デビュー作『最初の恋、最後の儀式』でサマセット・モーム賞受賞後、現代イギリス文学を代表する小説家として不動の地位を保つ。『セメント・ガーデン』『イノセント』、『アムステルダム』『贖罪』『恋するアダム』等邦訳多数。

「2023年 『夢みるピーターの七つの冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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