チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102169322

作品紹介・あらすじ

少年少女が際限なく殺されてゆく。どの遺体にも共通の"しるし"を残して-。知的障害者、窃盗犯、レイプ犯と、国家から不要と断じられた者たちがそれぞれの容疑者として捕縛され、いとも簡単に処刑される。国家の威信とは?組織の規律とは?個人の尊厳とは?そして家族の絆とは?葛藤を封じ込め、愛する者たちのすべてを危険にさらしながら、レオは真犯人に肉迫してゆく。CWA賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  •  国家保安官から地方の警官へと左遷されたレオ。
    その田舎町でおきた殺人事件が、かつて自分が国家保安官時代に“事故“だと決めつけて調査しなかったモスクワでの少年殺人事件と類似していることに気づき、さらに広範囲で類似の子供殺しが起きていることを知り、命がけで調査に乗り出す。  類似の殺人事件もそれぞれの土地で、ろくに調べられないまま、今でいうLGBTなど国家から認められないものの仕業とされ、そういう人が自白を強要され、処刑されることで片付けられていた。
    ソ連の体制の中で「殺人事件などあってはならない」とされていた中で、国家によって葬るように解決された事件を掘り起こして調べることは、バレたら間違いなく告発され処刑される。
     しかし、元国家保安官だったレオは国家保安省の裏をついて、秘密裏に行動、妻と一緒に逃避行する様はハラハラドキドキ。アメリカ映画のよう。上巻では社会派ミステリーだと思っていたが、下巻になると「いくらなんでも」と思うくらい上手くいくアクションや命がけで奇跡のように味方になってくれるソ連の庶民たち、一番近くの裏切り者、死を目前にしたラブロマンス、主人公の秘密の生い立ちなどなどエンタメ性抜群。作者はドラマの脚本家として活躍されている方だそうだ。さすが。
     犯人については、下巻の初めのほうでバラされていたのだが、上巻での伏線を覚えていなかった私は気づけなかった。でも、犯人を特定出来ても、そこからなんですよ。この小説のドラマ性は。
    犯人を推測するミステリーとしての要素よりも「極限状態に置かれたときの人間の残酷性」や「極限状態の中で生まれる愛」、「束縛された社会で生まれる偏執性」など旧ソ連を舞台にした人間のドラマとして面白く読めた。

  • 「私のためじゃない。われわれとともに生活をしている人たちのためにやるんです。われわれの隣人のために。列車でたまたま隣り合って坐った人たちのために。知らない子供たち、これから会うこともない子供たちのために。」

    正義を成そうとしたときに、その最大の敵が国家であるとき、進む先には絶望があるだけだ
    少年少女連続大量殺人犯を追う元国家保安省捜査官のレオの前に立ちはだかるのは国家と言う名の絶対的な正義であり
    レーニン主義の実現を目指す理想郷に住む人々は幸福に満ちた善良な者であり殺人犯など存在しないという作られた現実だ
    それでもレオは進む
    共に危険に身をさらす愛する妻と
    殺人犯を憎み殺された子供たちに我が子を重ねる現実の善良な人々の助けを得て

    そして国家との闘いの裏にもうひとつ大きな秘密が隠されていた!

    いやいやとんでもない傑作でした!
    終わり方も良かった!

    しかもあとがきによれば本作はロシアでは発禁になっているとのこと、それだけでも読みたくなっちゃうわー

    そして現在のウクライナ戦争にも通づるような思想も見え隠れして、今だからこそ読むべき一冊なのは間違いなし!

  • 本っ当に面白かった…なかなかこの本を超える面白さの本は現れないであろう…。上巻の冒頭が、まさかそういうことだったとはね…。
    下巻は更に犠牲者も増え、更に絶対絶命で、ハラハラドキドキせずにはいられない。章ごとの引きも強すぎる。文章も上巻に引き続きかっこよすぎる、と、とにかく荒っぽい賞賛の言葉しか出てきません(笑)
    全体主義への理解も否が応でも深まり、良い読書でした。続編も絶対に読みたい。

  • 普通だったらレオが殺人犯を追い詰めるのにドキドキするはずなのに、ソ連では事件を捜査していることがバレたら国家に対する反逆者になってしまうので、当局対レオの関係にずっと手に汗握りっぱなしだった。理想の国家に犯罪は存在しないから。そのせいで被害者が増え続けるとは、なんて皮肉なんだろう。
    しかし刷り込まれて恐怖に支配された信念を壊すのは簡単じゃないはずで、それはレオの内心の葛藤から伝わってくる。だけどそんな葛藤は敵対する元同僚のワシーリーには見えないから、勝手に新しい信念でもって行動するレオに苛立ちを覚えたんだろうか。そのくせ逃げられているほうが生き生きするなんて、屈折してるな嫌いじゃないよ、と思ったんだけど。
    犯人が連続殺人を行う意味や、ソ連という国家についても、読みごたえがあって面白かった。

  • スターリン体制下のソ連で起きた44人の少年少女連続殺人を描いた作品。実際にあった事件から着想を得たとされる。主人公は国家保安省の捜査官。連続殺人犯を捕まえるため、自らを危険にさらしてでも孤軍奮闘する。多くの敵をつくり、味方を危険な状況へ陥れ、結果、罪のない人々が罰せられていく。当時の貧しい生活や恐怖政治に怯える人々の姿、無慈悲な懲罰や拷問などもリアルに描れており、目を伏せたくなるほど痛ましい。ストーリーが非常に練り込まれており、とにかく息つく暇もないほどハラハラする展開に襲われる作品である。

  • OH MY GOD!!! This was so cool!!!

    すっごーーーい面白かった。もう、映画を観てるような感覚で読めた。
    スケールの大きさ、話の展開、心理描写、社会背景、政治的背景、家族、夫婦、兄弟、姉妹、裏切り。。。。。
    いろんなことが凝縮されてて、衝撃的で刺激的。

    レオが本当の自分を名乗るまで、まったく気づかなかった。
    弟が絡んでくるなんて、予想もしなかった。
    レオがカンフル打たれたシーンを読んだときに、レオが本当の自分を名乗ってから、「え?え?え?何?うっそ~~。」って上巻読み返し、「ぎゃ~~~~!!」ってなり、この著者は只者じゃないな~と唸ってしまった。


    あ~~~、なんて本なの~~!!
    すっごい本、読んじゃったな。という感じ。
    私のベスト3に入れたい。

  • 下巻の途中で はっ!!となった
    それからは、色々な事が繋がってきて、鳥肌がたった

    時代によって理不尽な事で命を落とす人が多かった一方、時代が変わっても起こる殺人

    どんな時代でも子供が狙われる犯罪は心が痛む

    上下巻の本だけど、引き込まれるように読みました!

  • レオたちの絶体絶命の逃亡劇に
    もうハラハラしっぱなしで
    マジで疲れる。

    けど、気になって止められない。
    あぁ、おもろかった。

    あと気になるのは弟の娘。
    目の前で父親を殺されて
    きっとレオを恨んでいるはず。
    続編があるようなので読みたい。

  • レオは、少年少女が同じ方法で殺されてることを知り大量殺人鬼がソ連のどこかに存在することに気づき捜査を始める。しかし偉大な革命を成し遂げた理想の国家ソ連には"犯罪は存在しない"という考えから誰も1人がそんなことをしてるとは信じず、男色者、アルコール依存症など国に害を及ぼしかねない人をこの殺人の容疑者として何人も裁いた。
    レオをおとしめたワシーリーは、最後までレオの邪魔をする。そこでレオと妻は捕まり収容所に送られることになるが、ソ連の人たちは洗脳され誰も助けてはくれないと思っていたレオだが、多くの人がレオの捜査のため命をかけ手を差し伸べる。
    最終的に犯人を見つけ出すのだが、その犯人が誰であったのか、そしてレオの本当の過去とのつながりが見えてくる。
    フィクションではあるが、ソ連に実在した52人もの少年少女をレイプし、殺害したアンドレイ・チカチーロ事件に着想を得て書かれている。12年間も逮捕できなかった理由は、この本に描かれている通りソ連時代の社会システムが原因である。
    そして驚いたことに、この本はすでに20数カ国での翻訳が決まっているのだが、ロシアでは発禁書になっているという。

  • 初読

    うーむむ、一気に動いたなぁー
    読み進める方としては勢いに乗っていけるけど、
    これ、全部載せ過ぎて尺が足りないんじゃないかなぁー

    レオの変節からの構築、夫婦の関係性、体制からの人間の自由とは民主とは正義とは、
    人を抑えつける側だったレオが人によって救われるカタルシス、ネステロフのキャラクター性、ワーシリーの妄執すら、尺が、尺が足りない!!

    しかし、アレクサンドルの嗜好やチャプキン医師、イワンやレオの自白剤?等等伏線にいちいちオオー!
    と反応し続ける私。
    の割に、パタパタと小ぶりに収束していって、
    続編に期待!な気配濃厚なまま
    結局チャイルド44の動機は若干なんやそれ
    な面も否めず…

    イワンのアパートいいなー

  •  スターリン政権下にある理想の国ソ連には、犯罪は存在しないという考えから52件の連続殺人事件をゆるしてしまっていたという事実を元にした作品です。

     体制側の国家保安省の秘密警察に属す主人公が、この事件に関わるにつれ、自身の存在や思想の根幹を揺るがすような疑問に直面し、その度に痛々しいほど心身ともに傷つきながら新たな道徳を地道に見つけていきます。当時のソ連において、その代償は大きく、失うものの大きさが生々しく描かれています。暗く、冷たく、深く沈み込むような心象で、閉塞した社会の描写にやりどころのなさを感じますが、読み応えがある作品でした。

     訳者あとがきによると、ロシアでは旧体制を批判した本書は発禁書のようです。今の時世もあり、ウクライナの描写、大善のための犠牲、共産主義などいろいろ考えさせられる作品でした。

  • 旧ソ連時代から連綿と続く裏切りや密告や残虐性が、ロシア人に顕著な理由がわかる作品。家族や友人を平気で売ることで、より強く国家権力への忠誠の証明となり、容赦ない残虐性はかろうじて残っている良心や後ろめたさを麻痺させ誤魔化す。その結果、自分を安全圏へと導くが、代償もハンパない。
    現在進行形のウクライナ民間人への虐殺は、もはやロシア人の遺伝子として組み込まれていると理解しなければ説明出来ない。私にとっては、ストーリーよりも全体主義国家の怖さの根源を知る本となった。

  • 1950年代のソビエト連邦。
    第二次世界大戦中に一仕事を成し遂げ、
    英雄と持ち上げられたレオ・デミドフは、
    戦後、国家保安省(MGB)捜査官となった。
    政治のありようや権力闘争に一定の疑問を感じながらも、
    自分の地位と働きによって
    両親と妻にいい暮らしを送らせることが出来るのを
    誇りに思っていたレオだったが、
    一人の少年の轢死事故をきっかけに運命の歯車が狂い始め、
    封印された自らの過去を直視することになった――。

    社会主義国家で生まれ育ち、
    ホロドモールや第二次世界大戦を経験して、
    エリートと持て囃されながらも
    精神的には安閑とした暮らしと縁のなかった男性が、
    出世コースを外れたことがきっかけで
    自分自身を見つめ直す物語……と言えばいいだろうか。

    左遷された先で事件資料を見るともなく見やり、
    遺体の状況に既視感を覚えたレオは、
    同一犯による広範囲での連続殺人事件が起きていると直感。
    しかし、
    「秩序正しいソヴィエト連邦において、そんなことがあるはずはない」
    と一蹴されるどころか、
    存在しない事件を捏造する「反ソヴィエト行為」と断罪され、
    殺人鬼の正体を突き止めるために策動すると共に
    当局から追われる身になってしまうのだった。

    上巻はなかなか本題に入ってくれない感じが
    まだるっこしかったのだが、テンポがよくなって来た辺りから、
    反面、前半にあった冷ややかな緊張感が失せ、
    格調高さもなくなり、若干ご都合主義的な展開が続くことも含めて
    二時間サスペンスドラマ風に。
    全体として、とにかく長い(もっと端折れた箇所があったと思う)……。
    作者は英国人なのだが、
    物語の核の部分――ネタバレを避けるため黙秘――が
    ウェットな情緒に訴えかける種類のもので、その点は
    非常に日本人好みだと思った(皆さんお好きでしょ、そういうの)。
    とはいえ、過酷な状況に追い込まれた一組の夫婦が
    本音をぶつけ合い、結果、
    揺るぎない信頼で改めて結び合わされるところは感動的。
    ライーサ、よく頑張った、エラい。
    結末は、途中から「こうだったらいいな」と
    思っていたとおりだったので、そこは満足。

    余談だが、第二次大戦中、
    ユダヤ人を救済するフリをして自宅で殺害した医師、
    マルセル・プショー(Marcel Petiot)の名が
    ドクター・ペティオとして紹介されたところ(p.107)
    で「おお」とのけ反った。
    『怪人プチオの密かな愉しみ』はいいぞ(笑)。
    https://booklog.jp/item/1/B00005H304

  • ミステリーとしての内容よりも、共産主義国の怖さが衝撃的だった。
    この国で犯罪が起こるわけがないという思い込みから捜査は進まず、被害者だけが増えていく。正しいことが言えずに誰が味方で誰が敵なのかも分からない恐ろしさ。
    様々な思いを抱える登場人物たちの心情が良く伝わってきた。
    ここまで過酷な運命を辿る主人公もなかなかいない。現在起こっている戦争のことも思いながら…小説を読んでこんなに怖くなったことはない。

  • 「 20数カ国での翻訳が決まっているようだが、ロシアでは発禁書になっているという 」(訳者の田口俊樹氏のあとがき)スターリン時代末期のソビエトを舞台にした連続殺人犯の追跡を描いた物語。管理社会の悲惨な状況が描かれており迫力がある。テンポも良く面白くて一気に読めた。

  • スターリン体制下のソ連、実在したサイコパス、アンドレイチカチーロをモデルにした小説。

    独裁政権、共産主義国家での正しい捜査の難しさと、正義を求めて奔走する主人公。
    最後はあっと驚く結末になっていました。

  • 最初からもういちど読み直したくなりました

  • 昔のベストセラーを今更言うのもなんですが、確かに凄かった!一気読み。現代小説の収穫は複雑な要素を絡めることでこれを大佛次郎や国枝史郎のように想像力で広げるのでなく緻密に積み上げることだが、これが見事にハマっている。スターリン体制下のソ連を舞台とするが、要は西側の常識など通用しない世界で謀略的にスパイ容疑をかけられた国家保安官が逃亡しながら44人の子供を殺す連続殺人鬼を捜すのだが、ミステリー、政治スリラー、ラブ、狂気、隠された秘密、バイオレンス、家族の絆、個人と国家など要素てんこ盛りなのだ。国に追われると言えば思い出すのは、高倉健主演映画の君よ憤怒の河を渡れ。日本よりアジアで大ブレイクした国家権力と戦う男の荒唐無稽な映画だが、こっちはもっとシリアスでもっと絶望的な中で戦うのだ。敵味方の観念すら崩れる。凄すぎて第2弾は読めない。リドリースコットが映画化しても描ききれなかったのがわかる傑作

  • 海外ミステリーって馴染みがなかったけど、ぐいぐい引き寄せられた。おそロシア(ソビエトだけど)で、少年少女を狙った殺人事件が横行。「犯罪のない素晴らしい国」ではあっという間に犯人が捕まるけど、左遷された国家保安官が真相を暴く!妻の存在がいいなー、結婚当時から愛なんてなかったけど、この事件を通して夫婦が再生するという側面もあり、読後感はいい。

  • おおおー。

    っと唸らされたクライマックス。
    レオがどんどん「人間」になっていくのは、ドラマ過ぎる気はしたけれど、それでも良かった。

    以下ネタバレ。

    この時代のロシアに巣食う不信感と暴力が、ワシーリーに見えてしまう。
    憎悪を生きる糧に変えて、ただ執拗に復讐することだけに光を見出す男。
    ワシーリーから逃げ続けるレオだけど、強制収容所行きの貨物列車からの大脱出は、もう不死身映画としか言いようがない(笑)
    それでも、彼が追い続ける猟奇殺人が、一体どんな結末を迎えるかと思いきや。

    あり得ない。
    あり得ないけど、レオが自白剤?責めで、自分がパーヴェルだと吐いた時にはゾッとした。
    なるほど。ここで冒頭に結びつくわけか!
    ごめん。アンドレイ、影薄すぎたよ……。

    そんなわけで、かなり仕立てられた話ではあるものの、自分の中では繋がり方が良くて、アンドレイとワシーリー(ひいてはナージャとゾーヤ)の締め括られ方も良くて、満足したのでした。

  • この理想の国に犯罪は存在しない――共産主義下における建前が怖い。解説によると、この作品はロシアでは発禁書になっているとか……。ここまで極端ではなくても、どこかの国を思い起こしながら読んでいた。正しいことをしようとしているのに嵌められ、追い詰められていくレオとライーサだけど、ふたりで困難を乗り越えるうちに絆が芽生えていったこと、こんな抑圧された環境で良心に従い行動する国民がいたことが救いだった。あの冒頭の飢えた村のエピソードは、こう繋がるのかと驚きつつ、アンドレイが哀れだった。

  • 最初「カビの胞子みたいなのがついた変な地図~」としか思ってなかったのが、殺人事件の現場都市だと結構後の方で気づいて「わー!!」ってなった。何にも書いてなかったのは不親切というかお楽しみなんだろうなこれ。あと自白剤の「お前の名前は?」の所でも「えーっ!???」って。でも上巻でステパン親爺が嫁を切り捨てろって断言しちゃったのに違和感あったのが、ああこの男がそうだったんだ~と思うと何か納得。一応手紙には葛藤があったみたいなんだけど。

    下巻は上巻でばら撒かれてた断片を縫い合わせてアクション映画みたいな逃走劇。ただ派手な割にオチというか犯人との邂逅や、妻との恋愛感情の再生が説得力に欠けたのが残念。もっと会話と心理描写が要るよ。暗黒時代のライーサはよかったのに。抑えるのと不足するのは全然違うよ。

    そして姪っ子ナージャの動向が微妙に気になる書き方。
    続き物にしたいのだったら、強制収容所脱走からの~って感じの、裏切りにねじ曲がった新たなモンスター誕生になるんだろうか。
    続編って大体第一作より落ちるしな。でもこれデビュー作だし、不自由な社会で奮闘する刑事レオの葛藤と家族愛みたいなのは見てみたい気もするし。どうしようやっぱり読まない後悔より読んで後悔だろうか。

  • 上巻において出落ちと思われた冒頭のシーン。
    これこそが作者が読者に仕掛けた叙述トリックだったのかと後半で驚愕。
    ソ連で40人以上の少年少女を殺し、ケースに入った状態で出廷したアンドレイ=チカチーロ。
    彼のトラウマの一つに幼いころ兄が殺されて食べられたと聞かされ育ったことというのはwikiでも調べればわかる。
    つまり、この話はソ連の体制が生んだ惨劇を中の人が解決していく話なのかと思いきや、主人公の心のうつりかわり、家族の再生の物語らしいと解釈したら、実は……ネタバレなので、ここでストップ。
    あの出落ちはサスペンスマニアの多くが知っているあの事件を想起させるためのミスディレクションだった。
    むしろ、それがなければもっと早い段階でつながりに気付いた。
    下巻はライーサの壮絶な過去。おおよその見当はついていたが、男たちにも言い分はあるだろうが女子供、特に美しい女は普通の時ならともかく、法が守られない場所ではこういった目にあわされる。
    つい先日も正義を掲げる国の軍隊が子供たちに何をやったか明らかにされ、世界の批判を浴びている。
    その中でライーサがレオに対して恋心を告白するシーンは救いのひとつだ。
    信じることがお互いにできなかった夫婦が相棒、そして恋人になっていく。
    彼女はレオに対して愛を抱いたことはない、と上巻で告げるが、それは誰に対しても同じだったのではないかと思う。
    この二人が最後家族を作っていく決心を示すシーンに、ここまで頑張って読み続けてきてよかったと思った。

    しかし、ヤンデレな男二人に熱愛執着される主人公っていったい。

  • (上巻から続く)

    だが、安心しろ。
    後半、まったく思いもよらない方向へ話が展開していき、
    あまりの下りの急勾配に足がもつれそうになる。
    そして、救いさえ感じさせられるラスト。

    「1984年」とカインとアベル、連続殺人、子供殺し、食人にラブストーリーが混じり合う恐ろしいまでのミステリーだった。

  • さすがー!ほんっと最後まで気が抜けなかった。これだけ閉塞感を保ちながらハラハラさせるミステリってなかなかないんじゃないのかなー。しかも実際の事件を元にしてるとかー。

    先が見えないミステリであり、苦しくなるくらい鮮明に国家を描いた社会の話でもあり、夫婦がお互いの存在を確かめ合う話でもあり。苦しい描写がうまくて読むのしんどかったけど、翻訳も個人的には好きだったし、すごかった。これで新人って!気力と体力があるときにまた他の作品読みたいです。

  • おー見事に伏線回収!!
    ていうか、現ロシアでも発禁書扱いなの?!
    そこが怖いんですけど…。

    この本と並行して、偶然「卵をめぐる祖父の戦争」も読んでいたので、なんだかソヴィエトめいた12月であった…。ウクライナの大飢饉(ホロドモール)とレニングラード包囲戦、なんて悲惨な歴史だろう。

  •  十年に一度の傑作という作品は本当にある。それはもしかしたら万人が認める作品ではないかもしれない。もしかしたらベストセラーですらないかもしれない。しかしそういう作品にはやはり巡り合いたいと願う。

     新潮文庫の海外小説は新人作家発掘への飽くなきチャレンジを細く長くだが、現在も続けている。娯楽小説界にとって一つの係留索のようなものであり、そのため、時にこれはというような傑作を掘り出して見せる。

     傑作の存在に最初はあまり多くの人が気づかない。傑作の匂いを嗅ぎつけるには、どんな能力が必要なのだろうかと、ぼくは常日頃悩む。判断材料の良し悪しを問われるかもしれない。ぼくにとっての判断材料はあまりこれと言った確実なものがない。帯の文句には何度騙されてきたか知れない。カバーのシックさ、クールさにも。それらに較べると翻訳者により判断するという一つの方法は、けっこうヒット率が高いように思われる。

     本書はかのローレンス・ブロックの翻訳で知られる田口俊樹。そこで本を手に取るまでは行ったものの、スターリン体制化のソヴィエトの時代、あの連続殺人事件に関わる、といっただけで、今さらサイコ・スリラーでもないだろう、とぼくは本を書棚の平積みコーナーに戻してしまったのだ。

     『このミス』でこの作品が2008年度海外部門の一位に輝いたときも、ぼくはさほど衝動を受けなかった。最近富に選択傾向に距離を感じるようになっているぼくにとって『このミス』は全然絶対的な価値を持たないでいるのだ。なので、一位になった作品くらいは気が向いたときに読んでおこう、くらいの気持ちでとりあえず買ったのだった。それが年末の『このミス』に触発されて年明けて冬の真っ只中。

     それでも、ぼくはこの作品を手に取らない。結局読み始めたのは、単身赴任先から月に一度だけ帰る札幌への航空機の中、真夏の八月のことだった。

     ところが、読み始めるや否や、ぼくは作品世界に捉えられることになる。1950年代のソヴィエトというある種、何もかもが極度に懐疑的な時代に展開するその物語の苛烈さに。人間たちの命の重さ、罪深さに。まさにこれは十年に一度の傑作ではないのかという実感に捉われながら、ぼくは札幌の我が家に到着してからも、カウチに横になってずっとこの本に捉われ続けた。

     上下巻を一日一冊ずつ二日間で読み終える。そのストーリーの重たさが一つの魅力なのだが、その重心を象るものは、警察官である主人公が弱き人民に対し持つ権力の重さであり、夫婦、親子の愛という以上に生存への渇望の激しさであり、それらの日常生活に染み入ってくる社会的懐疑の深さである。国が、上司が信じられぬ中で、主人公は連続殺人事件の真相に触れてゆく。鉄路をめぐる殺人事件の奥を探る行為は、記憶をめぐる失った兄への追悼の儀式でもあるかのようだった。

     この作家は、イギリス人の母とスウェーデン人の母との間に生まれた1979年生まれの29歳だという。信じがたい才気だ。読者の側がいかに知らぬ時空だとは言え、その時代の重さを感じさせてやまない圧迫感に似た小説の持つ迫力を、青年と言っていいような年齢の新人作家が書いたのだと言う。まさにこれは天才の仕事なのかもしれない。

  • レオとライーサのアクション?が見所。推理は順調に進むのだが、犯人を追いかけるためには逃げ続けなければならない二人。走っている列車から降りたり、川の中を歩いたり、トラックの下に隠れたり。ドキドキしながら楽しめた。しかしそこには上巻のようなリアリティも感動もなく、ご都合主義ともいえる展開になっている。特に列車や逃げ込んだ村でのエピソードは、主役だけ弾に当たらないハリウッド映画のようだった。正直になれば助けてもらえるんだったら、なぜミハイルはブロツキーを一度は殺そうとしたのかと思わざるをえない。ミハイルの葛藤、正しいと思う友人さえも裏切らざるをえない社会こそがこの小説の出発点ではなかったのだろうか。

  • 旧ソ連で、1980年代に実際にあった連続殺人事件をモデルに。
    時代を1950年代に変えて、別な設定も加えた迫力の展開。
    極限状況で起きることは、想像を超えます。

    恐怖政治が吹き荒れたスターリン時代の末期。
    理想的な社会には犯罪はないという建前から、事件の捜査はおざなりになりがちだった。
    しかも、いったん容疑をかけられれば、拷問や脅迫で罪を認めさせられてしまう。

    国家保安省のレオ・デミドフは、地方の人民警察に左遷されたが、気づかれていない連続殺人の捜査を続けようとする。
    ところが、事件が起きるたびに逮捕される人が増えてしまい、犯人と決めつけられてしまう。
    その過程では、同性愛と発覚しただけで収容所送りになる人間も。

    ヴォルアウスク人民警察署長のネステロフは、他の地方で同様のことが起きていないか調べて欲しいというレオの依頼をいったんは退けるが、家族の休暇のついでに、調べ続けることにする。
    下手に発覚すれば、家族の命にまで関わる危険な行為だった。

    レオは、手がかりを求めて、モスクワに潜入するが…
    妻ライーサの同僚イワンを頼るが?
    逃走しながら、決死の捜査。
    犯人を公の捜査で逮捕することは諦め、ただ犯行にストップをかけるために。
    ひそかに見も知らぬ一般の人の助けも借りていく…協力して貰うことは出来ると妻が勧めるのです。
    権力側にいた夫が知らなかったこと、一般の人は恐怖政治のこの体制に忠誠を誓ってなどいないということでした。
    愛情なく結婚した妻が、異常事態の中で、夫への気持ちを新たにしていくあたりは感動させられます。

    著者は1979年ロンドン生まれで発表当時29歳。
    英国人の父とスウェーデン人の母を持つ。ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学中から脚本を手がける。処女小説「チャイルド44」は刊行1年前から注目を浴びていたという。
    2008年度CWA賞最優秀スパイ冒険スリラー賞を受賞。

  • 読み応えがすごい!

    ロシアの作品だから,人の名前がなかなか馴染めなかったけれど,
    内容はとにかく面白い!

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著者プロフィール

1979年、ロンドン生れ。2001年、ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学当時から映画・TVドラマの脚本を手がける。処女小説『チャイルド44』は刊行1年前から世界的注目を浴びたのち、2008年度CWA賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞をはじめ数々の賞を受ける。

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