イギリス人の患者 (新潮文庫)

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制作 : Michael Ondaatje  土屋 政雄 
  • 新潮社 (1999年3月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102191118

イギリス人の患者 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 素晴らしい本。美しい言葉で形作られ、練り上げられた重厚なストーリー。時間をかけて少しづつ頁を進めたが、物語はずっとそこにあった。
    町と屋敷を遮る谷間へロープを掛け、闇夜の雨の中へと消えていったカラバッジョの姿が忘れられない。

    「言葉だ、カラバッジョ。言葉には力がある。」

  • 1945年、イタリアの僧院。
    イタリアは降伏し、退却するドイツを進攻してきた連合軍が追う。
    戦地は北上し、それにつれて医者や看護婦も北上していくのだが、一人の看護婦が僧院にとどまる。
    瀕死のけが人がいるから、と。

    けが人は全身を火傷に覆われ、イギリス人であることしか身元がわからない。
    看護婦は廃墟になったその僧院で、患者の世話をしながら日を過ごす。

    そこに一人の男が現れる。
    看護婦ハナの父親の旧友。
    泥棒の腕を見込まれ連合軍のスパイとして働いていた。
    今は両手の親指を無くしたけが人。

    イギリス人の患者は、身動きをとることすらできないけれども、話をすることは出来る。
    博学な彼の話は、ハナやカラバッジョを楽しませ、また、ハナが読む物語はイギリス人の患者やカラバッジョを楽しませる。

    さらに、地雷撤去のために訪れた工兵キップ。
    インド人の彼は、イギリス兵として爆発物処理のエキスパートとなる。

    ハナとキップ、若いふたりの恋。
    キップがどこからか持ってくるワインを飲みながら、ラジオのから流れる音楽に合わせてのダンス。
    痛み止めのモルヒネを打ちながら語りあうイギリス人の患者とカルバッジョ。

    4人はそれぞれに戦争による傷を抱えていた。
    身体や心に。
    戦場は北に移動しているのに、動かない4人。
    それは、傷が癒えるまでじっとその場にうずくまっている動物のように。

    4人の日常。4人の過去。それに差し込まれてくる砂漠のイメージ。
    静謐な物語。
    日に焼けて茶色くなった、パリパリに乾いた紙に描かれた絵のような、簡単に壊れてしまいそうな4人の関係が、ただ静かに書かれている。

    そんな小説かと思って読んでいた。
    カズオ・イシグロの『日の名残り』のようだと。(カバーの折り返しを見たら、訳者が同じだった)

    あとは日本が降伏したら、この戦争も終わるわね。

    しかし、繭にくるまれていたかのような日々は突然終わりを告げる。
    “一つの文明の死”
    “これが白人の国だったら、決してそんな爆弾は落ちなかったろう”

    突然の終わり?
    最初から彼らの関係は終わりを含んではいなかったか?
    彼らは終わりの気配に気づかないふりをしていただけではないのか?
    そして読者の私も、進んで作者にだまされようとしていたのではないか?
    シーンごとの美しさに見とれている時、足下に不確かさを感じてはいなかったか?

    400ページ弱の小説に5日かけて、この世界をじっくりじっくり味わってきたつもりだったのに、最後の慟哭の激しさに全てがひっくりかえったような、でも最初から予感していたような。
    なんというか…やられました。

  • 滑らかに流れる言葉が砂漠のように乾いた皮膚に染み込んでいく。ひび割れた悲しみを繊細な文体が包み込んでくれる。読んでいる間中、筆舌に尽くしがたい昂揚感に幾度となく襲われていた。第二次世界大戦末のイタリアの修道院を舞台とした、4つの破壊された人生の物語。それは時に支え合い、寄り添い、そして時にすれ違う。個人はいつだって歴史の力には無力で、国境や人種は嫌が応にも人々を無理解という病に溺れさせる。しかし本当の優しさや美しさはいつだって、そんな痛みの向こう側から生まれてくるのだと教えてくれる素晴らしい傑作であった。

  • 具体的な言葉は思い出せないのに、想像上の情景が心に残る一冊。

    第二次世界大戦末期、イタリアの屋敷にたった二人で残っているイギリス人の患者と看護婦、そこに加わる二人の人物。4人で過ごす、不思議と心地よい時間と空間の物語です。

    壁一面に草原が描かれた部屋に横たわる、黒焦げの体。
    枕元のろうそく、読まれる物語、夜の静寂。
    麻薬、失われた親指と生垣沿いの道。
    大音量のラジオと、地雷をほどく精密な作業。
    レコード、コンデンスミルクをすする井戸、図書室のソファ。
    カイロの街、そして砂漠。
    テントの中、そしてバイクで疾走する夜道。

    何とも言えないせつなさが漂う本でした。

    詩的な文章だと思ったら、筆者は詩人でもあるそうです。この作品は映画化もされていて、脚本には手が加えられているようですが、この作品の情景がどう映像化されているのか非常に興味があります。

  • (再読)
    映画を観たのはずいぶん前で、断片的なイメージだけが記憶に残っていたが、理解の助けにはなっただろう。映画を観ていなければ最初は戸惑ったかもしれない。

    この物語の主人公は誰なのか。飛行機の事故により火傷で顔を無くした“イギリス人の患者”、若くして既に多くの兵士を看取っている看護婦のハナ、ハナの父親と親交があった盗賊カラヴァッジョ、イギリス兵として地雷を処理するインド人の兵士キップ。

    それぞれの人物の立ち位置から、記憶から、彼らの見ている情景が、まるで歌うような、叙事詩のような、リズム感のあるフレーズが心地良い。体言止めの重なりが効果的。信頼出来る土屋政雄訳。

    多くの兵士を看取ったハナが最後に選んだ患者は知的な謎のイギリス人。その患者が断片的に語る自分の人生、砂漠の風景、愛した女性の追憶。父親を介したハナとカラヴァッジョの親子とは違う信頼関係。ハナと兵士キップの愛情の親密さ。イギリス人に学びたいというインド人の文化的渇望。彼らそれぞれの記憶と経験は繰り返し咀嚼しながら生活が流れていく。

    映画ではイギリス人の患者と呼ばれるかつての砂漠探検家アルマーシとクリフトンの妻キャサリンのラブストーリーが中心になっているが、原作の小説は地雷処理兵キップの物語の色合いが圧倒的に強い。彼のイギリス人に仕える身のインド人としての立ち位置の描かれ方。キップの兄はインド人がイギリス人の戦争を戦う矛盾をとなえる、その兄は投獄されている。

    アルマーシは人妻キャサリンに歴史書『ヘロドトス』を貸す。彼女があえてその本を砂漠の仲間の前で朗読する。それはカンダウレス王が寵愛する妻があるがゆえに部下ギュゲスをそそのかす、その部分をあえて彼女が朗読することによってその後の展開が暗示される。クリフトンは妻を寝取られるカンダウレス王に重なり、アルマーシは自身をギュゲスに重ねる。砂漠の地図を描くアルマーシは、欲望の対象となった女性に新たな地図を見出している。彼女の庭園と、プラムのイメージ。

    いつか戦争は終わる。唐突にラジオから伝わる情報。誇り高いキップは圧倒的な破壊力を持った新たな爆弾の出現に、これまでの自身の経験が否定されて立ちすくむ。もし彼らの肌が白かったら緑の島国に原爆は落ちなかっただろう、日本に想いを馳せるインド人のイギリス兵キップ、その怒りを“イギリス人の”患者に向ける、その心境。

    映画を観た後でも、小説は独自のイメージが喚起された。再読に耐えうる傑作。

  • 第二次世界大戦末期のフィレンツェ郊外にある崩れかけた屋敷において従軍看護婦だったカナダ人のハナ、彼女の父親の友人で泥棒(のちにスパイ)のカラバッジョ、爆弾処理の仕事を専門とするインド人でシーク教徒でイギリスの工兵キップ、そして「イギリス人患者」と呼ばれる瀕死の男。
    四人それぞれの物語が詩的表現で綴られていく。

  • 映画イングリッシュペイシェントの原作。舞台は終戦直前のイタリア。看護婦ハナ、全身やけどの患者、元泥棒のカラバッジオ(ハナの叔父)、爆弾処理のインド人のシン。この4人の物語が交互に語られていく。最初は非常に読みづらいが、後半から誰の話なのか、いつの話なのか、つかめてくると、非常に興味深く読めるようになる。何よりも、哲学的な言葉が随所にちりばめられ、そこにサスペンス、恋愛の要素がからみ、非常に高尚な読み物に仕上がっていると思う。映画とかなり違うようだが、映画を観て、それも楽しみたい。ブッカー賞受賞作品。

  • 主人公が何人もいるように思える。

    それぞれの感情の起伏が繊細かつ美しい。

    キップが怒りをぶちまける場面が印象に残る。

  • 詩のような物語。

    様々な登場人物のエピソードがバラバラに重なり合っていくので
    最初のテンポをつかむまでは読みにくかった。
    だけど、一旦流れをつかんだら後は駆け抜けるのみ。
    読み終わってしまうのが惜しいくらい幻想的な世界。
    映画も有名らしいけれどこの小説の世界を表現するのは大変だろうなぁ。
    全くの別物と思って観てみたいかも。

  • イタリアの忘れ去られた屋敷を舞台に自称「イギリス人」の死に瀕した患者と三人の男女の悲しい過去が少しずつ語られていく。叙情詩のような文章と美しい断片を集めて出来た物語。

  • 【呪われた土地に足を踏み入れたとは思わない。悪なる状況に陥れられたとも思わない。どの場所も、どの人も、私には恵みだった。泳ぐ人の洞窟で壁画を発見したこと。遠征でマドックスと歌を歌ったこと。砂漠にいた私たちの前にキャサリンが現れたこと。】(p336 l6~8)

  • 読み終えたは良いものの、描写が細かすぎて飽き飽きしていました。でも映画を観たら、情景が事細かに豊かに浮かんできて、涙があふれました。

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