ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (507ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102193129

感想・レビュー・書評

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  • スティーブン・キングの中編2作、「刑務所のリタ・ヘイワース」と「ゴールデンボーイ」を収める。
    原著は全体として、中編4作でDifferent Seasons(それぞれの季節)として発刊されている。1編ずつ、春・夏・秋・冬を現す副題がつく。
    邦訳では「恐怖の四季」とされる。おそらくキングがホラーの大家として知られるためにつけられたのだろうが、本作は実はホラー要素は薄い。
    それぞれの作品はキングが長編小説を書いた後に余力で(!)書いたようなもので、書かれた年代も違えば、深い関連もない(1つの作品の劇中人物が他の作品にちらりと出てくることはある)。
    ホラー色が薄い小説、しかも中途半端な長さとあって、なかなか刊行の機会がなかったものを、4編をまとめて出すことになった、という経緯である。
    原題のDifferentはホラーとは「違う」ということも示唆しているのだが、にもかかわらず邦題ではわざわざ「恐怖」と銘打っているのはなかなか皮肉な感じではある。

    新潮文庫版は、春・夏にあたる「刑務所の・・・」と「ゴールデンボーイ」で1冊、秋・冬にあたる「スタンド・バイ・ミー」と「マンハッタンの奇譚クラブ」で1冊と分けている。4作のうち、「マンハッタン・・・」を除く3作が映画化されているというのはさすがキングというところか(「マンハッタン・・・」も映画化の計画はある(あった?)らしい)。

    「刑務所のリタ・ヘイワース」
    Rita Hayworth and Shawshank Redemption - Hope Springs Eternal
    今回本書を読んでみる気になったのは、久しぶりに映画「ショーシャンクの空に」を見たため。本作の映画化作品である。
    妻と愛人を殺害した容疑で、アンディー・デュフレーンがショーシャンク刑務所にやってくる。「調達屋」と呼ばれるレッドは、アンディーと友だちになる。銀行家だったというアンディーはどこか超然とした雰囲気で、周囲の囚人たちとは違っていた。自分は無実だと主張していたが、皆本気にはしていなかった。
    アンディーは、刑務所の無法者たちに痛い目に遭わされもするが、彼らに対抗する術も持っていた。聡明で根気よく、希望を失わない彼は、1つ1つ、刑務所では不可能と思われた事柄を成し遂げていく。
    ある日、入所してきた男はアンディーの事件の真犯人を知っているといった。そこから大きく状況が動くかと思われたが・・・。
    映画とは少々ラストが異なる。途中のエピソードも映画の方が輪郭がくっきりして劇的なイメージ。だがこちらはこちらで悪くない読み心地である。余韻の残るラストもよい。

    「ゴールデンボーイ」
    Apt Pupil - Summer of Corruption
    「刑務所の・・・」の方が主目的だったので、ついでという感じで読み始めたのだが、いや、これは少し驚いた。
    いわゆるホラーではないが、これは怖い。
    13歳の少年トッドは、両親自慢の優等生。勉強だけでなくスポーツも万能。金髪碧眼で顔立ちも整っている。家も裕福、前途洋々である。
    彼はある時、街に住む老人が隠れナチであることを突き止める。そして老人の家を訪れ、黙っている代わりにナチ時代の話をしろとせがむ。強制収容所や大量殺戮に興味があったのだ。老人は渋々ながらそれに応じ、2人は毎週、多くの時間を共に過ごすことになる。両親には、「気の毒な老人のために本を読んでやっているのだ」と偽って。
    だが、過去のサディスティックな所業の物語は、次第に語り手と聞き手の両方を蝕んでいく。自身の中のサディズムが呼び覚まされ、2人は徐々に道を踏み外していく。お互い憎み合いながら、お互いを理解してもいる老人と少年。2人を待ち受けるものとは。
    原題のApt Pupilとは「物分かりのよい生徒」といった意味。邦題のゴールデンボーイは将来性のある青年を指し、映画でもこの邦題を使用している。誰がどの時点でこの邦題にしたのかよくわからないが、中身を汲んだタイトルとは言えるだろう。
    本作で特に怖いのは前半で、思春期の不安定さと相まって、少年が徐々に闇に飲まれていくわけである。少年は当初は事態を制御できると思っていたのだろうが、そんなはずはない。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」。サディズムは特殊な人にだけ宿るのではないのだろうと思わせ、ひたひたと怖さが忍び寄る。
    但し、彼が実際に道を踏み外して以降はそれほど怖くない。個人的には、いくら何でもここまでのことはしないだろうとすっと冷めた。
    動物や人に対する残虐シーン、女性や人種に対する差別的発言(独白)はかなりきつい。
    映画化にあたっては、ラストなどが改変されているようだ。

  • 先月、金曜ロードショーでたまたま見た「ショーシャンクの空に」がとても良かったので(放映されたものは本来の映画からいろいろカットされていたらしいが)、原作のこちらにも興味が出て読んでみた。
    恐怖の?四季シリーズ、秋冬編たる「スタンドバイミー」もとても良かったので、満を持して、春夏編にあたる「ゴールデンボーイ」を図書館で借りてきた。
    オリジナルは1982年刊。


    ・刑務所のリタ・ヘイワース 春は希望の泉
    こちらがショーシャンクの原案。
    登場人物の造形が映画とはけっこう違うので驚きだった。
    アンディー・デュフレーンは小男だったのね。
    レッドも黒人ではなくアイリッシュ系。(←これに言及するセリフ、映画でもハテナと思ってた)
    ちょこちょこと違いはあれど、素晴らしいストーリーで、映画と同じく感動で胸がいっぱいになる作品だった。小説のほうがアッサリした印象。
    映画は脚本の再構成に隙がなく、映像と合わせて、説得力があって、映画として見たい映画、という作品だった。
    有名なセリフ
    「希望はいいものだ、たぶんなによりもいいものだ。そしていいものはけっして死なない。」
    このデュフレーンのセリフに呼応するように、ラストはレッドの願いで終わる。
    p186
    どうかアンディーがあそこにいられますように。
    どうかうまく国境を越えられますように。
    どうか親友に再会して、やっと握手ができますように。
    どうか太平洋が夢の中とおなじような濃いブルーでありますように。
    それがおれの希望だ。

    いい小説だなあ。購入しようかなと思っていたところ、

    ・ゴールデンボーイ 転落の夏
    こちらが凄まじくて、とてもこの本を手元に置けなくなった。
    怖い。ホラーではないけれど、わたしには怖かった。
    あらすじは、少年と老人の交流というか、裏/夏の庭 というか…。
    始まりからすごく不穏で、量も「リタヘイワース」の2倍くらいあるので、どん底オブどん底が、読んでも読んでも終わりが見えなくて、どこに着地するとかとヒヤヒヤした。
    初めの、屈託もなくヤバイことを言い連ねるトッド少年が不気味で恐ろしいので、サイコパス万能少年って怖いなと思っていたのだけど、だんだんナチス戦犯たるドゥサンダー老人と立場が逆転していく様から目が離せなくなる。
    2人は一種の共依存であり、それぞれが相手のせいで受けたストレスを同じく第三者の殺人ではらそうとし、結局は思わぬことで共犯状態にもなる。
    トッドが思春期の陰鬱さを抱えながら、自分とその周囲を騙していく様子も怖い。
    性差別、人種差別、ナチスの問題は、やはり簡単に手に負えるような歴史ではない。
    人間の負の面がこれでもかと染み出してくる。
    前途洋々たる少年→青年の抱える、真っ黒い心理がこんなふうにじわじわ描かれて、読み終わって放心状態になった。
    ラストはお互いに新聞や手紙といった、はじめお互いが接近するために使ったアイテムからボロが出て行く様も皮肉がキマッている。
    やっぱり生きてる人間が一番怖いんだな。

    それにしても、これらの四季シリーズは、スティーブン・キングが大作の合間に気分転換に書いていた、との事実に驚かされる。
    いつか、本来の彼の小説に挑戦できる日が来るだろうか。ドキドキする。


    ゴールデンボーイの序盤に、デュフレーンが間接的に登場する、という読者サービスもある。ここが、この小説で唯一ホッコリした箇所。

    • 111108さん
      mario3さん、こんにちは。

      こちらも読了しました。図書館で待ちきれず購入しましたが、キング読み慣れてない私には「ゴールデンボーイ」が読...
      mario3さん、こんにちは。

      こちらも読了しました。図書館で待ちきれず購入しましたが、キング読み慣れてない私には「ゴールデンボーイ」が読むのつらくてつらくて‥ご飯食べたくない気分です。
      でも今mario3さんのレビュー見返して、デュフレーンがチラと出てくる読者サービスを発見してちょっと気が紛ました。ありがとうございます。

      そして「刑務所の〜」は覚えておきたいフレーズ満載で「ショーシャンク」を絶対観たくなりました!
      2022/09/19
    • mario3さん
      111108さん、ありがとうございます(o^∀^o)
      そうそう、ゴールデンボーイのあとには食欲が減退しますよね…ダイエット向きです。
      そうい...
      111108さん、ありがとうございます(o^∀^o)
      そうそう、ゴールデンボーイのあとには食欲が減退しますよね…ダイエット向きです。
      そういえば、こちらも映画があるそうですが、もうこのストーリーをなぞる気力はないなあ、と思いました…(^o^;)

      刑務所の~の映画『ショーシャンク~』、ぜひぜひ見てください。きっとお好きだと思いますよ。
      私は、この映画が有名すぎて却って及び腰だったのですが、見終わって、素直にこれは有名になるなあと納得しました。デュフレーンは小男じゃないのですが、独特のかわいさがあって、私もすぐに好きになりました。
      2022/09/19
    • 111108さん
      mario3さん、お返事ありがとうございます。

      あれから両方とも画像検索しました。
      ゴールデンボーイは映像化無理かと思うけど映画になってま...
      mario3さん、お返事ありがとうございます。

      あれから両方とも画像検索しました。
      ゴールデンボーイは映像化無理かと思うけど映画になってますね。私も観たくないです。

      『ショーシャンク〜』は有名ですもんね。自分の想像してたのとデュフレーンもレッドもちょっと違う‥と思いましたが、きっと映画は映画の良さがある作品なのでしょうね。mario3さんの言うようなデュフレーンの独特のかわいさを見たいです♪
      2022/09/19
  • 初めてのキング作品。
    中編なら余裕でしょと思っていた。
    だけど予想以上に重厚な内容で、どっと疲れた。
    面白いというよりも物語の世界に引き込まれる。
    表題作がまさにそれ。
    物語前半までは嫌悪感すらあったのに、2人の奇妙な交流の中に親愛らしきものを感じるようになった時にはさすがに戸惑った。
    また、不思議な爽快感を味わえる『刑務所の中のリタ・ヘイワース』も印象深かった。

  • 映画「ショーシャンクの空に」の原作である「刑務所のリタ・ヘイワース」と、ゴールデンボーイの二編を収録。
    「刑務所の……」のほうがおもしろかった。

  •  恐怖の四季という中編連作集を二分冊したこれは春夏編ということなのだが、内容的な関連性もないし中途半端な長さのを4つ集めただけ感が強い。春編の刑務所脱獄譚と夏編の隠遁ナチ将校と少年の虚虚実実の物語、さすがはキングということでそれぞれ単独に読んでもおもしろいし無理にまとめる必要もないような。そもそも中編とは何ぞやとは後編のスタンド・バイ・ミーに著者が講釈しているが、内容とはなんのかかわりもないことなのだから。恐怖の四季という総題もなあ。一般にホラー作家という位置づけのせいなんだろうけど、少なくとも痛快無比の春編は恐怖とは無縁だよな。二編のうちではこっちが好み。

  • ショーシャンクの空にを久しぶりに見て読んでみようと思った。
    ゴールデンボーイはぐいぐい引き込まれる面白さで(後味悪すぎだけど),映画を観てなかったらリタ・ヘイワースも相当おもしろいんだろうなと思った。他の本も読んでみたくなる。
    ショーシャンクの空には素晴らしい換骨奪胎だと思う。何で映画化したのと言いたくなることばかりな最近の日本映画には見倣って欲しい。

  • 『再会』

    言葉ではなく、音がそこにあるだけ。
    文章ではなく、字がそこにあるだけ。

    もう一度、再会したい。
    あの人に。
    それがショーシャンク。

    お台場の空。

  • 「刑務所の空に」は絶望から希望に向かう物語で、気持ちよく読み終えた。一方の「ゴールデンボーイ」は希望から絶望に向かう物語で、救いゼロである。風邪ひきの時に読む小説ではなかった。これなら「スタンドバイミー」と「刑務所の空に」を上巻にして、「ゴールデンボーイ」と「マンハッタン奇譚」を下巻にしたらどうだろうか。しかし、それなら確実に下巻を買わないと断言できる。

  • 初スティーヴン・キング。

    まあまあだったかな。「刑務所のリタ・ヘイワース」「ゴールデン・ボーイ」の二本立て。いずれも物語はシンプルだし、特段読者を唸らせるような仕掛けがあるわけでもない。兎に角、描写が細かくて物語のテンポが悪い印象。個人的には楽しみ方がイマイチよくわからなかった作品。彼の作品ってみんなこんな感じなのかなぁ。好き嫌いが分かれそう。

  • 刑務所のリタ.ヘイワーズは、あの有名な映画の原作。映画をみたけど、昔にみたので、ほとんどおぼえてなかった。
    ゴールデンボーイは、少年がナチの兵士だった老人の話をきくうちに、次第に取り憑かれ、殺人による快楽?に目覚める話。
    キングは、例えが難しいものが、多く読むのがしんどいイメージがあるが、読みやすかった。

著者プロフィール

1947年メイン州生まれ。高校教師、ボイラーマンといった仕事のかたわら、執筆を続ける。74年に「キャリー」でデビューし、好評を博した。その後、『呪われた町』『デッド・ゾーン』など、次々とベストセラーを叩き出し、「モダン・ホラーの帝王」と呼ばれる。代表作に『シャイニング』『IT』『グリーン・マイル』など。「ダーク・タワー」シリーズは、これまでのキング作品の登場人物が縦断して出てきたりと、著者の集大成といえる大作である。全米図書賞特別功労賞、O・ヘンリ賞、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞など受賞多数。

「2017年 『ダークタワー VII 暗黒の塔 下 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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