トム・ゴードンに恋した少女 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102193587

感想・レビュー・書評

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  • 登場人物はほぼ一人、舞台は延々森の中。それでも読ませてしまう語り口と展開の『トム・ゴードンに恋した少女』。
    『ミザリー』『シャイニング』など、閉鎖的な舞台環境かつ、限られた登場人物でも傑作を生みだし続けてきた、スティーヴン・キングならではの作品といえるかも。

    シングルマザーの母親と、14歳の兄とキャンプにやってきた9歳の少女、トリシア。しかし延々と口喧嘩を続ける二人に嫌気が差し、用を足すためわずかの間、二人に無言で遊歩道の道を外れたがため、トリシアは二人と完全にはぐれてしまう。
    一人森の中をさまよい続けるトリシアだが、飢えや渇き、蜂や蚊などの害虫、険しい道のり、そして正体不明の何かがトリシアを徐々に追い詰めていく。

    卓越しているのは、トリシアや自然環境の描写の巧さと語り口。物語の展開自体はシンプルで、トリシアが歩いていくと、何らかのトラブルがあったり、寂しさに襲われたりといった、ものなのに、それでも退屈することなく読ませてしまう。
    普通の小説なら、どこかで間が保たなくなりそうなものなのに、この『トム・ゴードンに恋した少女』に関しては、それを全く感じなかった。理由は読んでいる自分でもよく分からないのだけど、そこはやっぱり「帝王」キングの作品だけあると感じます。

    トム・ゴードンというのは、実在する野球選手。レッドソックスで、抑えの切り札であるゴードンの大ファンである彼女は、リュックに入っていたウォークマンからかすかに聞こえてくる、野球中継と、ゴードンの活躍を心の支えに前へ進んでいく。ここのいじらしさというか、一生懸命さは自然と応援したくなる。

    リュックに入っていた食料も尽き、野草や木の実、川の水も飲んで何とか糊口をしのぐトリシア。それが胃にあたり、激痛と下痢にもだえ苦しんだり。また想像上のトム・ゴードンと会話して、過酷な状況になった場合の対処法を伝授してもらったり。
    そうした細かい場面をつないでつないで少しずつ物語は、キングらしく人知を超えたものの恐怖との対決が描かれていく。

    場面一つ一つが細かいので、読み終えてみるとあらすじは大まかなものしか浮かんでこない。でも一方で、トリシアが示した過酷な環境下での人間の強さと、そして何より勇気が素晴らしかった。キング作品は子供の勇気や成長が一つのキーワードになる作品が多いと思うのだけど、この小説のトリシアの勇気と成長も、読んでいてとても楽しく良かったです。

  • 可愛いらしいタイトルに反して、なかなかヘビーな内容でした。
    キング作品なんで、ただでは済まないだろうな~とは思ってましたが(笑)
    9歳の少女が9日間、出口を求め、たった一人で森の中をさまよい続ける。
    その道程は、大人でもくじけそうなほど苛酷なもの。

    「九回裏、神は地上に降りてくる」
    恐怖に打ち勝ち、勝利を手にしたトリシアを胴上げしてあげたい!

  • 「ジェラルドのゲーム」を思い出す

  • 9歳の女の子が森でサバイバルする話で、
    もうスティーブン・キングの意地悪な、
    9歳の女の子にこんなことさせんなよっていう試練がいっぱいでありながら、生き抜く少女の姿に感動です。
    トム・ゴードンという野球選手のこと知らないが、
    少女にとって、絶対的な存在なんだなと、
    人は心に絶対的な何かがあった方が逞しくなれると感じた。
    最後のしゃれた終わり方にやられてしましました。
    書かれた時代がもうちょっと後だったならば、
    「ショウヘイ・オオタニに恋した少女」になった可能性もあったんだろうなw

  • 再読。
    9歳の少女が森の中に紛れ込んで、必死にそこから抜け出そうとする、いわばサバイバル・ゲーム。
    ガールスカウトとかの経験があるわけでもないので、生き抜くために変なものを食べたり生水を飲んだりしてお腹を壊したり吐いたりと散々な目に遭うんだけど、なんとか生きのびる。
    その活力は、家族への愛だったり、彼女のヒーロー、トム・ゴードンだったり。
    その過程で読ませる物語だ。

  • トム・ゴードンに恋した少女を読了…
    9歳少女が家族とはぐれて森で遭難、登場人物も少なく、物語も複雑にならず、少女が極限の状況を生き延びるためサバイバルする様が描かれる…

    いやー良かった、何が良かったって、九回裏の死闘!
    自分に負けないため勇気を振り絞るけど、氷水だね、そして自分の中に静けさを作る、そしてウォークマンが最後まで活躍する!
    やっぱ親の目線でハラハラヤキモキ読んじゃったね

  •  昨今 日本でも子どもの遭難が相次いでいるので、決して「遠い国の作り話」とはいえない作品( ´ ▽ ` )ノ

     キングらしいオブセッションまみれのリアルな少女の心理描写( ´ ▽ ` )ノ
     歩いても歩いても出口の見えない原野は この世の終わりの姿のよう( ´ ▽ ` )ノ
     絶望と自失のはてに生じる幻想、そこに彼のホラーの原点があるのかと思い知らされた( ´ ▽ ` )ノ
     読み進めながら、何度も「ここにスーパーボランティア尾畠さんが来てくれたら!」と思った( ´ ▽ ` )ノ
     百人中九十九人が予想する通りのラストで泣かせるキングは、やはり最高の手練( ´ ▽ ` )ノ

     しかし実在の野球選手をこうまではっきり作中に登場させるなんて、まるで「フィールド・オブ・ドリームス」もしくは「走れタカハシ(映画だと「イチロー」)」みたい( ´ ▽ ` )ノ
     名選手として引退(09)したようだからまだしも、もし薬物や八百長事件なんか起こしたら どうなってたんだろう?(´ェ`)ン-…
     ちなみに キングに限らず、この手のアメリカ小説でいつの日か日本選手が(名前だけでも)登場してくれないものかなあ……といつも思う( ´ ▽ ` )ノ
     トム・ゴードンの息子のディー・ゴードン選手なんかイチローを師と慕っているわけだし( ´ ▽ ` )ノ

     とまれ、下痢や嘔吐といった生理現象まで徹底して描きこんだ、サバイバル小説の傑作( ´ ▽ ` )ノ
     キング作品の中でも屈指の出来( ´ ▽ ` )ノ

    2018/11/18

  • 森で迷子になったトリシア。彼女はシングルマザーの母と兄と暮らしているが、ほんとは離れて暮らす父が好き。だって私たち野球大好きなんだもん。
    そんな彼女のサバイバル小説。
    もちろんスティーブンキングらしいSF的エッセンスも存分に振りかけて!
    彼女が生き抜く様だけでも相当面白いが、所々で人知を越えた力が助けに入るところや、森に棲む何かがトリシアを狙っていることに感付きながらも気持ちを強く持とうとする姿…のめり込めました。

  • 道迷いの少女が森で生き抜く話

    最後の熊はいらなかったかなぁ…
    フィクションだとは思えないほど緊迫感とリアリティのある話で飽きること無く最後まで読めるんだけど熊のくだりだけはちょっと嘘っぽい
    それがなくても十分に感動する話になったと思うだけに勿体ない

  • 母親と兄の三人でハイキングに行った森で、末っ子の9歳の女の子が一人迷子になり約一週間森の中をさまよい歩く話。
    蚊や蜂に刺されたり、持ってた食べ物や飲み物が底をついたり、すべり落ちたり、泥沼を歩いたり、、、読んでいて「大丈夫?!」と心配になるほど悲惨な日々を過ごす。でもめげずに、もとに戻れることを信じて進み続けるところに感心させられる。子供の純粋な心や適応能力のすごさや想像力の豊かさが描かれている。

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著者プロフィール

1947年メイン州生まれ。高校教師、ボイラーマンといった仕事のかたわら、執筆を続ける。74年に「キャリー」でデビューし、好評を博した。その後、『呪われた町』『デッド・ゾーン』など、次々とベストセラーを叩き出し、「モダン・ホラーの帝王」と呼ばれる。代表作に『シャイニング』『IT』『グリーン・マイル』など。「ダーク・タワー」シリーズは、これまでのキング作品の登場人物が縦断して出てきたりと、著者の集大成といえる大作である。全米図書賞特別功労賞、O・ヘンリ賞、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞など受賞多数。

「2017年 『ダークタワー VII 暗黒の塔 下 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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