犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)

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制作 : Valerij Gretchko  増本 浩子  ヴァレリー グレチュコ 
  • 新潮社 (2015年11月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102200063

犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • SFという形を借りて倫理を問う。作品の内容もゾッとするが、いつ殺されるかわからない社会でこれを書いてのける作家にも恐れをなす。人間がどんなに想像を逞しくしたところで、この世で一番こわいのは獰猛なアナコンダなどではなく、人間そのものなのだ。そしてそのこわさの源泉は人間の愚かさである。人々の幸福に資するためであれば何をしても良いのか?自分が他人のためにしていると思っていることが本当に他人の幸せにつながっているのか?間違いを犯したときに責任を取るのは誰なのか?様々な問いが湧いてくる。科学の進歩は人類の繁栄をもたらしたけど、その代償も大きい。そして実験には失敗はつきものだというのには、社会体制も含まれるのだな。ロシアは物理的な距離だけでなく、精神的な距離も遠い、と感じてしまう。

  • 新潮文庫からブルガーコフの新訳。「運命の卵」のほうは岩波文庫で読んでいたけど「犬の心臓」が読みたかったので。二作どちらも科学者(?)が発見した特殊な技術により、生物が変貌をとげ人間をパニックに陥れるという共通点があり、良い組み合わせ。

    とりあえず初読の「犬の心臓」について。死んだばかりの人間の脳下垂体を犬に移植する実験のせいで、どんどん人間化しちゃう犬。言葉を喋れたり二足歩行するようになるのは悪いことじゃないけれど、いかんせんどうやら、移植元の人間の人格のほうに問題アリだったようで、おバカでも素直で可愛げのあったワンちゃんが、手術した博士とその助手に「身の毛がよだつような人間のクズ」「まったく信じられないようなクズ」と、さんざんクズよばわりされるようになってしまう(苦笑)

    序盤は犬目線での語りだったので、ユーモラスで可愛かったのだけど、中盤人間になってからは周囲の人から見たそのクズっぷりばかり強調されてて可哀想。本人(犬)はどう感じてたのかな。第三者である読者の目からは、周囲の人間たちもそれぞれ醜悪なのだけれど。終盤はアルジャーノンよろしく、もとの犬の知性に戻っていくのだけれど、やっぱり犬のままのほうが幸せっぽい。

    当時のソ連の歴史的背景をかなり皮肉っているようだけど、単純にSFファンタジーとして読んでも十分面白い。

  • いや、コレはソヴィエトで発禁になったのも分かるわ。皮肉やら当て擦りやら諷刺やら満載で面白かった。
    訳注が多いのが初心者仕様で読みやすかったよ。

  • 「犬の心臓」★★★
    「運命の卵」★

  • 『犬の心臓』と『運命の卵』の二篇。
    どちらも科学の力が暴走し、人間を混乱に陥らせる話。

    『犬の心臓』はロシア版『フランケンシュタイン』かな?と
    思っていたら、
    犬が人間になったらまさに「犬畜生」な人間になっただけで、
    残念なことに知性がまったく伴わなかった…そんな犬人間に振り回される
    人たちの描写が面白かったです

    日本の作家さんが人間になった犬を書いたら
    きっと聡明な人間になっただろうなぁ
    犬の捉え方がロシアと日本で違うのでしょうか…?

  • 注訳がとても良かったです。
    ブルガーコフのいたソ連はめまぐるしく変わり、革命に内戦等、街や建物も次々と代わる時代だったそうで、内容もバタバタしてます。

    犬の心臓はまず倫理に反する内容だし、痛烈過ぎて胸が痛かったです。
    可愛いボロボロの犬が、下品な悪党になるなんて...。
    めまぐるしく変わる母国を皮肉りながらも、戯曲の要素もあり色々と知れたし楽しめました。
    なかなかマニアックな内容でした。

    運命の卵はパニック小説でした。
    犬の心臓の後だから結構後味悪いです。
    大量のカエルと鶏と人が死に、カエルが可哀想でした。

    何だかんだと言って、ブルガーコフは動物愛護主義者だったように思えます。
    犬の気持ち、カエルの気持ちを純粋に描写されているところが、唯一ほっとできる瞬間だと思います。

  • 20世紀ロシア社会がどうこう、ということはさておいて、単純にSFミステリ(もしくはサスペンス、またはパニック)として読み応えが十分でした。

    「犬の心臓」はやはり、「フランケンシュタイン」を彷彿させた。
    もし「怪物」と「コロフ」を目の前に並べてみたらそれはもうおぞましくて恐ろしくて卒倒してしまうに違いないけれど、多分「怪物」のほうは駆け寄って助け起こしてくれるんじゃないかという気がする。一方、コロフのほうは鼻で笑うだけだろう。
    「怪物」のほうはその醜さと不気味さを殊更に強調して描写しているというのもあるけれど、コロフは仕立ての良さそうな服を着せられて(ある程度の)教育も受けていて、さらに市民権まで取得している分、容姿はちゃんとしていそうに思える。算段ずくとは言え結婚してもいいという女が現れるくらいだし。

    ヴィクター・フランケンシュタインは、生命の神秘に対する純粋な(幾らかは行き過ぎた)探求心から新しい生命を作り出した。生み出されたのは無垢な心を持った醜い怪物だった。
    フィリップ・フィリーパヴィチは、「若返り」という命題の下に、成功と名声を夢見て新しい生命を作り出した。生み出されたのは野蛮で下品な、見た目には人間と大差のない生物だった。

    この違いは、創造主となった人間の精神性の違いを示唆しているのかも知れない、とも思った。
    それはつまり、科学技術に対する人間の姿勢である。

    「運命の卵」はほかの物語ではなくて、原発事故のことを思い浮かべながら読んでいた。オランジェリーは原発、スモレンスクは福島であり、アナコンダは放射能、光線は核エネルギーそのものである。

    そういえば「フランケンシュタイン」の副題は「現代のプロメテウス」だったな、と、書棚の本を手に取ってみて思い出した。
    なんて因果な。

  • 「運命の卵」はストーリーだけを要約すれば、B級パニック映画。しかし、ソ連共産主義批判として解釈すれば、なるほどと思う。
    「犬の心臓」の方が、物語として普遍性がある。これもソ連共産主義の批判ではあるが、人間の醜さ、愚かさ、社会の欺瞞を描いていて、ソ連時代を知らなくても考えさせる作品。読みながら『アルジャーノンに花束を』にそっくりだな、と思った。勿論アルジャーノンが後だが。
    チャーリーとコロは愚かだが純粋で愛すべき人物(コロは犬だが)。知恵をつけて悪質になったコロの物語の方が、変に情緒に訴えなくて私は好きだ。
    この翻訳者は柳瀬尚紀のように登場人物の名前も訳してしまうが、これは好みかな。コロって小さい犬のイメージなので、個人的にはそのままシャリクの方が良かった気がする。
    註釈は素晴らしく、この註釈でソ連がどんな国であったかよくわかる。

  • 「犬の心臓」この中の犬はきっと革命そのものを表しているのかなあ。

    「運命の卵」は英語版で以前に読んだ。

  • 新訳版。てっきり岩波と河出から出ていたものだと思っていたら、そうではなかった。
    訳によって印象がかなり変わるのは翻訳ものの常だが、『運命の卵』は兎も角、『犬の心臓』はかなり印象が違う。個人的な好みを言うと河出版なのだが、本書はよりドタバタ感が増していて、終盤の犬がもたらす騒動の臨場感は新訳版の方が強かった。
    また、訳注がマメについているのも、初めてブルガーコフを手に取った読者には親切ではないだろうか。

    さて、本書収録の中編はどちらも『人為的に作り出されたものと、それに続くドタバタ』を描きつつ、当時のソビエト社会を強烈に風刺してもいる。そのせいで散々、発禁処分や上演禁止の憂き目に遭ったわけだが……。

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犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)の作品紹介

人間の脳下垂体と睾丸を移植された犬が、名前を欲し、女性を欲し、人権を求めて労働者階級と共鳴し、ブルジョワを震撼させる(「犬の心臓」)。ある動物学者が発見した生命光線を奪った役人の過ちにより、大量発生したアナコンダが人々を食い荒らす(「運命の卵」)。奇妙な科学的空想世界にソ連体制への痛烈な批判を込めて発禁処分となった、20世紀ロシア語文学の傑作二編を新訳で収録。

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