- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102201114
感想・レビュー・書評
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奴隷少女として働かされた著者による自伝的ノンフィクション。白人医師の奴隷として性的虐待などを受けながら数十年育てられた、自らの苦しみの人生を語っている。自由を手にいれるため、祖母の家の狭い屋根裏に7年間も隠れ続けていたという事実には驚嘆した。非常に読みやすい訳で、彼女の息づかいが聞こえてくるようである。本書では生々しい描写はあえて避けられているが、希望を捨てずに生き抜いた彼女の不屈の精神は、多くの人に希望を与えてくれるのではないだろうか。
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小説だと思われ一度忘れ去られたが、126年後の1987年に実話とわかり米国でベストセラーに。私はちょうどこの頃、南部が舞台の『風と共に去りぬ』に没頭。併読したかった。「奴隷制は、黒人だけではなく、白人にとっても災いなのだ」。奴隷であった著者の言葉。素晴らしい知性の持ち主だ。
奴隷制の現実は凄まじい。スタンフォード大学の監獄実験ではないが、役割・制度が人を狂わせるのかもしれない。虐げ続けた白人の主人の多くは、神の教えに自らが背いていたことを認めるためか、死ぬ間際になりたまらなく恐ろしくなったという。
人間の愚かさについて、知りすぎるということはないな。 -
いただき本
とても読みやすくしっかりとした翻訳。
奴隷制の不条理と、悲しさ、そこに身をおかねばいかなかった人々の苦労は、私などには計り知れない。
強い意思を持ち、思慮深く生き抜いた作者を思う。
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内容も衝撃的だが本作が歴史の中に埋もれてしまっていた時代背景、ラベリングに嫌悪感...。しかし、同時代に生きていたら同じように思えるのか、甚だ疑問。法律だから、制度だから、決まりだから...。無自覚に、無関心を装っているかもしれない。忘れた頃に読み返す本になりそうだ。
「鞭で打たれる痛みには耐えられる。でも人間を鞭で打つという考えには耐えられない」 -
この本との出会いは、ほんの偶然、時間をつぶすためだったという訳者の堀越ゆき氏同様、私も、実家のある田舎の小さな小さな書店で、時間つぶしのために手に取ったことだった。
翻訳本、それも北欧ミステリー好きなのに、その書店にはそれの類が無く、仕方なく、、、期待もなく、、、海外コーナーわずか十数冊の中から選んだ一冊だった。
しかし、読み出したら止まらず一気読み。
作家でもない一人の奴隷少女によって書かれた彼女の過酷な実体験を綴った本作は、アメリカの古典名作ベストセラー・ランキングで上位というから納得である。
自由を得るために、彼女が選び自らに課した運命は、あまりにも悲痛なものであり、その痛みは想像を絶する。
最後に訳者によって語られる彼女の身内のその後には、言葉も失ってしまった。
彼女自身が持つ崇高な魂と、恵まれた有難い人々との出会いによって培われていく才気によって、過酷な運命を自ら切り開いていく彼女の強さから、生き方を学べたことは、この本を世に送り出してくださった歴史学者のイエリン教授や訳者の堀越氏に感謝しかない。
彼女が手にしようとした差別からの解放のための運動に対して、現在のアメリカの大学、航空業界、医療業界においては何%かの割合で黒人を受け入れることが義務付けられている。それは果たして、彼女が望んだ解放なのか?平等なのか?
彼女の自由を買い取るつもりでいる心優しい夫人の行為に対して、彼女は「自分の心が啓発されていくに従い、自分自身を財産の一部だとみなすことは、ますます困難になっていた。自分を痛ましく虐げた人々に金を払うことは、これまでの苦しみから、勝利の栄光を奪いとることのように思えた。」と考える。現代においては、有色人種であれ、女性であれ、各自の努力の上に手にしたものを最上で尊いと受け止めていくことが、彼女の生き方に近い気がした。優遇は、彼女の求めた平等や解放ではないはずだ。
彼女の如き、気高い精神を持ち、常に努力を怠らず、自己を磨いていきたい、と思えた。
私にとって、時間つぶしが珠玉の一冊となった。 -
19世紀奴隷として生まれ、人として認められないその過酷な制度から、不屈の精神で、考え逃げて時に戦い遂に自由を掴んだ少女の手記。
書かれている全てが事実というところがベストセラーの所以。人はどこまで冷酷になれるのか、理解を超える事実もある。
文章はわかりやすいが、話のつなぎとか流れがぎこちないところがあり、多少想像しながら読み進める。もちろん奴隷制度の証言としても重要だと思うが、一人の少女の自由への渇望の物語。 -
ある奴隷少女リンダの伝記小説
126年後に実話と証明され作者が主人公の奴隷少女だったとわかるという長い時を得て日の目を見た本
奴隷少女が書いたとは思えないほど知的でセンスの溢れる文章
だからこそ、執筆者を著名な白人に間違われていたのかもしれない
それほど物語としての惹きつける力がある
そして彼女に起こる残酷で凄惨な現実に打ちのめされる
死を選ばなかったことを単純に賞賛できないほど苛烈だった
実際自分に置き換えたら...
リンダの弟ウィリアムは言う
鞭で打たれる痛みには耐えられる
でも、人間を鞭で打つという考えに耐えられない
リンダは思う
大きな毒ヘビですら文明社会と呼ばれる地に住む白人男性ほどは怖くはなかった
リンダは奴隷売買に思う
自分の心が啓発されていくに従い自分自身を財産の一部とみなすことはますます困難になった
正しく自分のものでは決してなかった何かに対し、支払いを要求した悪人のことは嫌悪している
私は売られる
私の自由を売買される
リンダは奴隷逃亡生活の苦しい中で尊厳は取り戻していく
自分を差別しない友との交流で
リンダは自分の子供を奴隷制度から逃れさせるため逃亡をするが、人間の自由が売買される制度に強烈な嫌悪感を抱く
剥奪されるのは人権だけではない
尊厳や自主性、主張も持つ事を許されない
奴隷のくせに傲慢だとみなされる
聖書がなんの救いになるのだろう
何を我慢すればいいのだろう
なぜ なぜ なぜ
と憤るしかなかった
弱者に押し付けられる清廉という欺瞞の中で
これだけの意見を持つ彼らはその聡明さが故に理不尽極まりない現実に苦しみ悶えた
リンダの戦いは自由になったから終わるわけではない
奴隷制度が撤廃されても歴史は残る
リンダの言葉は今を生きる私にも必要なもの
先人が血と汗と涙をふり絞って手に入れた人権、尊厳を権力の元に投げ出してはいけないと
リンダという名も無き奴隷少女が綴った小さくて聡明で抗う力を与えてくれる本
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ハリエット・アン・ジェイコブズ『ある奴隷少女に起こった出来事』新潮文庫。
出版から120年以上経過し、やっと陽の目をみたという貴重な自伝的ノンフィクション小説。本作に描かれているのは生まれてから物心がつくまで自身が奴隷であることを知らなかった著者が、奴隷として生きてもなお希望を失わずに、自由を求める物語である。
奴隷制度について描いた作品と言えば、アレックス・へイリーの『ルーツ』が有名である。しかし、『ルーツ』は、あくまでも事実に基づいたフィクションということで読み物としては確かに面白い作品だった。一方、本作は奴隷という身分に身を置いた経験を持つ著者が書いただけに恐ろしいまでのリアリティを感じると共に人間の残虐さを再認識する内容になっている。そして、読み進むうちに知らぬ間に著者の奴隷という視点で考えることを追体験することとなり、本当に不思議な感覚を味わうこととなった。 -
つい150年ほど前にアメリカで行われていた非常な歴史、奴隷制度。国がオフィシャルに黒人を奴隷として堂々と扱えること。彼らにとっては、生きるも死ぬのも同じ死を意味するような生活だったことだろう。アメリカでは、もちろんすべての生徒にこうした奴隷制度を教えているわけである。今後このような人間を人間とも扱わぬようなことがあってはならない。だからこそ、アファーマティブアクションという制度をとって、人種やマイノリティに偏りがなくなるように国がサポートをしていく制度はとても良い案だと思う。(この制度を使って悪事を働く者もいるが…)
日本でもきちんと自国の歴史を正確に学ぶべきことである。私たち日本人が、どのようにしてアジア人を苦しめたか。日本は、西洋人(白人)を崇拝するかのように自動的に自分たちより上、アジア人や黒人は下と順位付けする。(知り合いが中国人のことを笑いながらチャイニーといっていてゾッとした。どう考えても差別的なネーミング)こんな考えは排除しないといけない。どんな人種だって、同じレベルであって同じように接することが当たり前だと言える社会でありたい。 -
「事実は小説より奇なり」ということは、往々にしてあることを痛感させてくれる一冊。
同じことが『アンネの日記』にも言えるのでしょうが、ジェイコブズの場合は、ある少女に起こった出来事を事実として記すだけでなく、読者に伝えようとしています。その点において、小説を読んでいるかのように思えるときがあり、結果として文学性を獲得しています。訳者あとがきにおいて、本書を『ジェーン・エア』などの古典文学と並ぶ位置づけにしているのも頷けます。
本書の訳文はすばらしく、その読みやすさに感じ入ったのですが・・・。あとがきを読むと、現代の読者には通じにくい箇所などを割愛したりと、意図的に読みやすくしているとのこと。判断の分かれる訳業ということで★★★★。