秘密の花園 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (439ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102214046

作品紹介・あらすじ

十歳にして両親を亡くし、親戚に引きとられたメアリ。顔色も悪く愛想のない彼女を唯一楽しませたのは、隠されるように存在する庭園だった。世話役のマーサの弟で、大自然のなかで育ったディコンに導かれ、庭園と同様にその存在が隠されていたいとこのコリンとともに、メアリは庭の手入れを始めるのだが――。三人の子どもに訪れた、美しい奇蹟を描く児童文学の永遠の名作を新訳。

感想・レビュー・書評

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  • 私を含むアラフォー世代が子供だったころ、大多数の子供たちにとって、児童文学は読むものではなく、テレビで観るものだった。私たち世代のほぼ全員が、「ハイジ」や「赤毛のアン」や「トム・ソーヤー」について多少の知識を持っているのは、日曜夜のアニメ「世界名作劇場」の功績といっていい。海外の児童文学1作品を1年かけて放映するシリーズである。

    バーネット作品からは『小公女』が取り上げられた。逆境を耐え忍ぶヒロインが最後は幸せになるという、西洋版「おしん」みたいな物語で、私はあまり好きになれなかった。ヒロインが優等生すぎて、共感よりも反発の方がまさってしまったのだ。「こんな子いるわけないじゃん」と突っぱねることで、大人に教化されるのを無意識に拒んだのかもしれない。

    そんな私でも、同じバーネットの『秘密の花園』は楽しく読むことができた。まず、ヒロインのメアリが偏屈なワガママ娘という設定が面白い。もうひとりの主人公コリンときたら、メアリ以上に病んだ少年だ。両親の愛を知らず、ことなかれ主義の召使によってスポイルされてしまった子供たちが、「秘密の花園」を通して生きる力を取り戻す物語である。

    うち捨てられた花園は、孤独な子供たちの心の象徴でもある。荒廃しているように見えても、心ある人が気を配り、正しいやり方でケアすれば、驚異の生命力で息を吹き返すのだ。花園の復活と連動するように、子供たちの心が解き放たれ、子供たちの成長によって、哀れな大人の魂が救われる。子供たちは大人に教化されるのではない。ムーア育ちの少年が、12人の子供を育てる母親が、ヨークシャーの大自然が、子供たちをあるべき姿に導くのだ。

    世界名作劇場は20年以上も前に終わってしまったが、もし同じような企画があるなら、ぜひ『秘密の花園』を取り上げてほしいと私は思う。子供たちの成長物語はもちろん、20年間に進歩したアニメーション技術で、ヨークシャーの広大なムーアや、薔薇の咲き乱れるイングリッシュ・ガーデンを映像化してほしいと思うからだ。昔ならあり得なかった無愛想なヒロインも、今の時代なら割とすんなり受け入れられると思うのだが、どうだろう。

  • 『若草物語』と同様に、この物語にはじめて触れたのはテレビアニメでした。
    そのときの感動が忘れられず、30年ぶりくらいに、今度は新潮文庫の畔柳和代訳を読んでみました。
    メアリもコリンも、人は性格悪いとか言うけれど、私は全然そんなことないと思います。
    最初からむしろ好感を持ちました。
    多少なりとも感情移入しているせいかもしれません。

    枯れ果て、荒れ果てたかにみえた‘秘密の花園’に、新しい風が吹き春の空気を連れてきて、眠っていた植物たちが動き出す。
    それはメアリやコリンたちの心の風景でもあり、この‘秘密の花園’を有する屋敷の主人であるミスタ・クレイブンの心でもあるのでしょう。

    子供は大人の知らないところで成長し、いつのまにか大人の手を引いて導いてくれるようになるのですね。

    誰だって、忘れていない‘秘密の花園’を堅牢な屋敷のような心の中に隠し持っている――のだと思います。というより信じたいのだな、私は。

    追記
    たぶん、梨木香歩さんの『秘密の花園』の分析本の影響を受けての感想がこれだと思います。
    あんまり覚えていませんが、今年読みました。
    同じような事書いててもパクリ感想ではありません。

  • この時期にバスに乗りながら、電車で横目に景色を流しながら読めたのは運命なんじゃないかと思います。
    希望と色と幸せな香りが満ち満ちている。花を見て空を見て空気を胸いっぱい吸い込んで、幸せだと実感する。できる、できる、できる、の魔法がある。私にもあなたにも、世界中のみんなのところに魔法はある。
    生きる歓びを再確認しました。

  • 春が美しいことは知っていたけど、ここまで素晴らしいものだとは。匂い立つような、湧き出でるような。素朴な絢爛さが咲き誇って、土から萌出て空に昇っていく。朝も昼も夜もそれぞれに魔法がかっている。
    子供って素直。環境に対して真っ直ぐで、素直に受け取って自分に映し取っている。

  • 子供の頃は村岡花子訳を、10年前は光文社古典新訳文庫の土屋京子訳、今度は新潮文庫の黒柳和代訳。12歳の時からの長い付き合いだけど、何度読んでも奥深さがある。

    両親が亡くなって義理の伯父に引き取られるメアリ。インドとはまるで違う本土イギリスへ。暗鬱で荒涼としたヒースばかりの野中に建つ古いお屋敷へ住むことに…そうして見つけた秘密の花園。

    そう、読む少女たちにとっては秘密がワクワクドキドキ請け合い。まして可愛くない性格がゆがんでる、っていうこのヒロインですから興味そそられ、そうして輪をかけたわがまま少年コリンが登場してくるので、面白くなってくる。まるでコリンが主人公のような雰囲気。

    ところが野性的で植物や動物に対する知識豊富さや、おおらかさ、優しさあふれるディコンという少年が、間に入っていろいろ進展する、彼が主人公なのか?

    彼のその魔法的な性格は、生い立ち、貧しい大家族、それを束ねる彼のお母さんからの影響らしい。また、登場人物皆が尊敬し、いろいろ影響を受ける、そのおっかさんの「スーザン・サワビー」が素晴らしい。この人こそヒロイン、作者の分身なのだとわかった今回の再読。

  • 大好きな本の新訳が出ていたので買って読んだ。

    私の家にバーネットの三つの有名な作品が入った本があって、
    (但し、しばらくして別の本を読んで
    この本は作品を一部省略していることがわかったが)

    私はもちろん断然「小公女」が好きでしつこいほど読み、
    たまーに「小公子」を読み、「秘密の花園」は
    はじめをちょっとみて読む気がせず、ずっと読んでいなかった。

    兄と母は「一番『秘密の花園』が面白い」と言っていたけれど、
    可愛い人も出てこないし(はじめは)、
    行儀も悪くて反抗するような主人公は馴染めなかった。
    (「大草原の小さな家」のメアリーみたいな人が好きなんですもの)

    中学に入ったくらいか、そのくらいに読んで
    やっと楽しさがわかった。

    ほとんどの人がご存知かと思いますが、
    一応粗筋は、
    両親を亡くし、ヨークシャーの伯父さんに引き取られた
    インド育ちの少女メアリー。

    派手好きでパーティー三昧のお母さんと
    仕事で忙しいお父さんに
    「ほったらかし」に育てられ、
    我儘放題で可愛げの無い娘であったが、

    引き取られた先で、ざっくばらんで優しい明るい人々と、
    美しい自然に接するうちに徐々に変化が…

    そしてお屋敷とお庭の秘密を探り当てる…

    動植物が慕う、ディコンちゃんが素敵だね。

    この新しい翻訳では
    女中頭のメドロックさんもそんなに怖くなく
    (ただ驚いたり呆れたりする方が目立つ)
    読みやすいからかどんどん話が進んであっという間に
    ハッピーエンドを迎えたと言う印象。

    私の好きな「よくって?」とかの昔風の面白い言葉遣いは
    全然なくって、うーん、描写が割とハキハキして
    直接的で情感が薄いような気がした。

    でも、やはり今の若い世代が読むことを考えれば、
    こう言う新訳って大事なのだろう。
    「へ?何この言葉?何のこと、これは?」ってやってると
    話が進まないものね。

    私の愛読している以前の翻訳は
    あら!改めてみてみれば、
    モーム先生の翻訳でお世話になっている龍口先生ではないの!
    へえ~、そうなんだねえ。

    古めかしいもの、翻訳の本でしかない言葉遣いが好きな私は
    やっぱりどうしても龍口派だけれど、
    若い娘さんが初めて出会うのには、
    畔柳版、とても良いと思った!

  • 「小公女」は子供の頃に読んだけど、梨木さんの書評本を読むにあたってこれは未読だったので読んでみたんだけどすごくよかった!「裏庭」や「西の魔女が死んだ」など、梨木さんの作品に通じるものも確かに感じることができる。
    偏屈で尊大で常に不機嫌な子供だったメアリ、癇癪で人を支配する病んだ小さな王様だったコリンが、動物や植物の友達がたくさんいるディコンと秘密の庭での庭仕事と交流を重ねるうちに成長していく。二人のやせ細ったからだと精神が膨らんで豊かになっていくのと、秘密の花園が目覚めさせられ、芽吹き、花を咲かすのが同期していて、エネルギーに満ち溢れた優しい小説になっている。病気が治っていないふりをするために、用意された食事に毎回手を付けずにコックの心遣いを無にするくだりだけは気になったけど。

    コリンは自分がもうすぐ死ぬと思いこんで一人発狂する日々を送っていたけれど、信じる力をもらうことで抗うことができるようになる。

    「ぼくはもう変でなくなる。毎日花園に行けばいい。あそこには魔法がある──よい魔法が」
    「本物の魔法じゃなくても本物だって思えばいい。何かがある──何かが!」

    「魔法」を信じること、そのエネルギーを胸にともしてもらうこと、それこそが児童書が子供のわたしにくれた大切な宝物だったと思う。そして、「秘密の花園」は大人の私にも確かに作用する。優しいディコンやそのお母さん、動物や植物たちの温かいまなざしに助けられて元気をもらえる。大好きな小説になった。

  •  コミカライズされたものを読んであらすじは知っていましたが、小説は初めて。
     著者は「小公女」「小公子」の作者でもあり、話のトーンはとてもよく似ていますが、こっちのほうが好み。
     序盤のストレスフルな描写と、後半のカタルシスいっぱいの展開が、合わせ技でとっても気持ちいいです。終盤は上手くいきすぎかもですが、児童文学だし、いい方向にいく描写だし、何より読んでて楽しいので、これで全然OK。ハッピーエンド万歳。
     ビジュアル的にも映えるので、風景を想像するのも楽しい。バラ園とか、広大なヒースとか、古いお館とか。春が来て、クロッカスやスノードロップが咲いて、バラが次々とほころんで。動物を引き連れた農家の少年とか、ベッドに伏せてるお坊ちゃんとか……いい萌えをありがとうございます。
     子供のかんしゃくシーンも、大人になった今読むと、すごく微笑ましい気持ちになれます。子供のかんしゃくだと思えば、メアリはワガママな部分も含めてかわいいです。お坊ちゃんも。

  • とてもとても良かった。この一言に限る。

    メアリさまが変わっていく過程が丁寧に描かれているのがいい。コリンのかんしゃくを聞いたメアリさまのセリフに笑った。

    ディコンと出逢えて、メアリさまもコリンも人生が大きく(良い方に)変わった。出会いって本当に大切だなあと改めて思った。

  • 子供のころ読んだお話、文庫一冊ほども長さがあるとは知らなかった。ムーアの描写に、ありったけの愛が込められている。
    それから花園の、花の息吹に満ちあふれた様子と言ったら!子供心には登場人物のことしか印象になかったけど、いま読み返せば大自然の描写にかなり割かれているのがわかる。駒鳥夫婦の気持ちまでつづってある。
    メアリが花園を見つけた瞬間、それと、メアリがコリンに花園の様子を聞かせるシーン、雨の上がった朝の花園の景色が素敵。ぞくぞくするほどの、足元から駆け上がってくるような喜びや期待に満ちている。そんな感情を呼び起こす、春というものはなんと素晴らしいものだろうと、知らず知らず感銘を受けている。
    コリンの一生懸命な姿、魔法や科学実験と呼んで他力に頼っているように見えてそのじつ、みずからの意思と力で次々とステップを上っていく姿は、面白いほど着実。
    物事が回り出してからは、ひとつの挫折も失敗もないところが、芽吹きの勢いに巻き込まれる感覚がして好き。

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著者プロフィール

一八四九年イギリスに生まれる。幼いころに父を亡くし、十六歳のときに一家でアメリカ合衆国に移住。十八歳のときに初めて、短編が雑誌に掲載される。以後、アメリカとイギリスを行き来しながら、大人向けの小説や戯曲、子ども向けの物語を多数執筆し、人気作家となる。一八八六年に発表した『小公子』は、空前のベストセラーとなった。『オンボロやしきの人形たち』は、アメリカで一九〇六年に発表された。ほかの作品に『小公女』『秘密の花園』『消えた王子』など。一九二四年、アメリカで死去。

「2021年 『オンボロやしきの人形たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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