オウエンのために祈りを 下巻 (新潮文庫 ア 12-11)

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  • Amazon.co.jp ・本 (597ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102273111

感想・レビュー・書評

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  • 何もかもが完璧な「物語」

    まさに教科書のように隅から隅までが出来上がった物語は、福音書と言って過言ではない。

    オウエンの周りを囲む人々、起こり得るストーリーと人々。どれをとっても言うことはない。

    若き頃のキリスト教演劇とクリスマスキャロルで示されたオウエンの選民意識。
    素晴らしき生徒でありながら、校長に本気の対抗意識を持って総代を降ろされるオウエン。
    大学に入ってからの彼の堕落っぷりとベトナムへの複雑な想い。
    僕の人差し指を落とすシーンのアルコールの香りと指の痛みは、まさに現実に残るものがある。

    そして偉大な文学への愛が遺憾無く発揮させられる。オウエンのハーディー分析や僕が教えるフィッツジェラルド。こうやって読者は一つの作品から偉大なる別の作品へと自分の文化圏を広げていく。

    何度でも読み返すことのできる、最高レベルの傑作の一つ。

  • 「人のためにわが身を投げ出すヒーローになれないクリスチャンは臆病野郎だ」。潰れた声を持つ小柄な少年オウエンが、ヒーローになるまでの長い長い物語。読み終わった後より、エピグラフと上巻冒頭のオウエンの描写をもう一度読み直した時の方が感動的だ。「神様の道具」と自称し続ける彼の使命は初めから決まっていて、散りばめられたいくつものたわいない出来事が最後にすべて意味づけられる体験が、久しく無かった爽快な読後感だった。あまりにあまりに冗長的な「ぼく」の語りに読み飛ばしもかなりあるかもしれないが、結末ありきでもう一度読んでみたいなと思えるのはすごいことだ。
    思えば登場人物にはみんな何らかの悲しさがある。ぼくとオウエンの出生、母の最期、長い独り身を余儀なくされる継父、満たされない従兄弟たち。そのすべての悲しみを「意味」や「奇蹟」に変換してしまう信仰はともすれば恐ろしい。オウエンを英雄にしたのは考え方次第ではキリスト教の思想であって、何万人といたベトナム戦争の一被害者と言うこともできる。それでも弱く小さく変わり者のオウエンに、生きる道筋を照らしたのは予知夢と信仰であった。「……生きていて、わたしを信じる者は、いつまでも死なない」。死に際してもその福音が彼を微笑ませたのだと思うと、動物の中で人間だけが持つ「宗教」の力を考えさせられる。幸福の近道は何らかの信仰なのかもしれない。そういえばそんな現代作家の本を最近読んだ気がする。


    「……愛している誰かが死ぬとき、しかも予想していない時に死なれた場合、一度に突然その人を失うわけではない。長い時間をかけて、少しずつ少しずつ失っていくのだ。しだいに郵便物が来なくなり、枕やクローゼットの衣類からにおいが薄れていく。少しずつ、なくなった部分、欠けた部分を積み重ねていき、そしてその日がやってくるーーある失われた部分に気がついて、(母は)永久にいなくなったのだという痛切な思いにかられる。そしてまた一日、すっかり忘れて何ごともなく過ぎたと思うと、またもや何か失われた部分、欠けた部分に気づかされる。(上巻p.263)」

  • 非常に長い話だった。単純にページ数が多いというよりも、正直に言えば読み飽きてしまうせいで感じるのだと思う。
    だが、人一人の人生を丁寧に第三者の視点から描き挙げた物語なのだから、時に冗長になっても当たり前だと思った。
    オウエンの運命を読者は中途で察するのだが、それでもラストはまったくひたすら圧倒される。

    精巧にきっちりと作り込まれた伏線の回収、というよりは、無駄なことなどこの世にはなにひとつない神の思し召しによって
    パズルのピースが次々と嵌っていくようなすべてが集約されていくある種の爽快感がある。

    オウエンがジョンに諭した”ちょっとした勇気”の凄まじさ。
    オウエンの言うことに従うジョンは勿論のこと、それを決行しようとするオウエンの決意の凄まじさ。決断はけして軽く行われたものではなく、彼自身どれだけ苦しんだ末だったのか。

    また、空港で己の”預言”を信じ疑うオウエンに、歳相応の普通の人間としての迷いに泣きたくなった。
    死なずに済むなら死にたくない、という痛ましいほどの悲しみ。しかしそれが定めでどうしようもないと悟り行動に移す冷静さ。
    それは正に磔になることを嘆き神に問い、真っ直ぐに受け入れて命を落とし
    後に復活したイエス・キリストである。

    また、本書では太字のゴシックで表されるオウエンの台詞だが、原書では全て大文字なのだという。
    彼の”ヴォイス”がここにあるのだ。
    原書で読めばより一層彼の言葉を感じられるかもしれないと思った。

    そして、オウエンを見届け彼のために祈るジョンの、
    友情という簡単な一言で言い表すには抵抗を覚えるほどの感情の緩やかさと激しさを見る。

    章タイトルもあまりに秀逸である。

  • すごくよかったー(ため息)。もしかしたらアーヴィングの作品のなかでいちばん好きかもしれない。これまで、キリスト教の知識がないと読みにくいのかなと思って敬遠していたのだけれど、確かに教会や聖書やキリスト教の話はたくさん出てくるけれど気にならず、むしろ興味深かった。まあ、信仰の話かもしれないけど、それもすべて人生の話、ということで。運命とか、人生の不思議さを考えさせられる。語られるのはおもに、主人公ジョンと、体が小さくてひどく変わってる親友オウエンの少年時代から高校大学時代。クリスマス劇や夏休み、いたずらの数々、学校のこと、ちょっと変わったエピソードはどれもおもしろおかしくて、せつなくて。アーヴィングは語るのが世界一うまい作家のひとりだと思う。変わっている人たちとかとっぴょうしもないこととか、不思議なできごととかが浮かずになじんでいて、すごくリアルに感じられる。「ほら変わってるでしょ?」っていうような自慢たらしさ?がないというか。説得力がある。そして、おもしろおかしかったり不思議だったりするたくさんのエピソードにすべて意味があることがあとでわかってくることがまた、すごい。茫然としてしまう。最初から結末というかジョンとオウエンの行く先はわかっていて、いつどうやってなぜそうなるのか?と、ぐいぐい引っ張られていくのがまた、すごい。最後まで読んで結末がはっきりわかったあと、また最初から読み返したくなる。そして、もっともっと続きを読みたいなあとも思った。語り手のジョンが自分のことを、自分の人生はただ玄関前に座って通りすぎるパレードをながめているようなもの、とかいうことをいっていて、そんなジョンの人生の続きをもっともっと読みたくて。ケネディ大統領やベトナム戦争など、アメリカの歴史みたいな部分もわたしにはすごく興味深かった。あと、学校のレポートを書くところや、ジョンが教師になって文学を教えるところで、ディケンズ、ハーディ、ブロンテ、ジェイン・オースティンなどなどについて語られるのもおもしろかった。出てくる作品をまた読みたくなったり。また読み返したい作品。あと、「サイダーハウス・ルール」「ガープの世界」「ホテル・ニューハンプシャー」も、もう一度読みたくなった。

  • 以下引用

    「他人をだまして、信仰はそう重要なものではないとか。簡単な問題だとか信じ込ませる権利は誰にもない。信仰とは、もっとも重要で、もっとも困難なものです」
    (p.26)

    正義の君なる 神の御子の
    血にそむ御旗に つづくは誰ぞ。
    悩みのさかずき おおしく受け、
    十字架を負う者 その人なり。
    (p.222)

    ぼくたちは頭を垂れ祈りつづけた。不器用なやり方ではあったが、メリル師は、オウエン・ミーニーのための祈りには終わりがないことを、ぼくらにはっきり示したのだ。
    (p.224)オウエンのために祈りを。

    「恐れるな」オウエン・ミーニーは言った。彼がインディアナに行く前にぼくらに言っておきたかったのは、それだけだったのだ。
    (p.368)

    「恐れるな」オウエンは僕に言った。「やりたいと思うことはなんでもできる――やれると信じさえすればね」
    (p.394)

    「恐れるな。きみには悪いことは起こりっこない」
    (p.573)


    「ときどき星になりたいと思うことがあるんだ」オウエンが言った。「くだらない歌があったじゃないか――『星に願いをかけるとき、きみが誰だろうとかまわない』--まったく虫唾が走るよ!」彼は言った。「ぼくは『星に願いをかけたい』なんて思わない。ぼく自身が星になりたいんだ――そういう歌があればいいのに」
    (p.564)

    「きみがここにいなきゃならなかった理由が、やっとわかったよ」オウエンがぼくに言った。「きみにもわかっただろう?」
    「ああ」ぼくは言った。
    (p.588)ここさあ…ほんと…ああ…

    オウエン・ミーニーをみんなで頭の上まで持ち上げたり、彼の身体を前後にパスしたり――なんの苦労もなく――したとき、オウエンには重さなんかないのだと思い込んでいた。その遊びの向こうに、ある力が存在していることに気づかなかった。いまのぼくには、それが、オウエンは重くないという幻想をつくりあげた力だったことがわかっている。それは、ぼくたちが、それを感じられるだけの信仰を持っていないがために感じなかった力であり、ぼくたちが真実ことのできなかった力であり、ぼくたちの手からオウエン・ミーニーを抱き上げ、奪っていった力なのだ。
    ああ神様――どうか彼を返してください!ぼくは永遠に、そう祈り続けます。
    (p.592)

  • 言葉を失う物語だった。オウエンとジョンは離れ難く結びつき、人生を共にする。死ぬ瞬間まで。死んだ後も。全ての出来事はオウエンの殉教の象徴であった。殉教には社会と時代の理不尽さが背景にある。アメリカの政治と宗教を深くえぐった物語であった。

  • 主人公ジョニーとオウエンの友情をめぐる様々な出来事がそれぞれにクライマックスを迎え、衝撃的な「事件」で幕を閉じる。終わって欲しくなかった。ずっとオウエンの姿を見ていたかった。オウエンがクールすぎる。

  • やっと読み終わった♪

    アーヴィングは生まれてから死ぬまで一つの話で描いているので読了後、フラーっとしてしまうけど達成感もすごくある。

    オウエンの声の意味、ジョンのお父さんの正体、お母さんが『赤いドレスの女』として歌っていた意味、ヴェトナム戦争での事件、、、展開が速かった。

  • いまでもラストの一文を読むたびに身体が震えます。

  • 中盤は単調に感じてしまったが、それは全て結末に至るまでの布石にすぎなかったのだと震えた。 寓話めいた雰囲気の中、飲んだくれで無茶な性格のへスターが異彩を放っていて、好き。 その後の彼女の気持ちを思うと、胸がはりさけそうだよ。 祈ることの意味を考えさせられる、貴重な小説。

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