第四の手〈下〉 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102273166

感想・レビュー・書評

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  • アーヴィングの作品の中では短い長編で、文章も平易で読みやすい。主人公がライオンに腕を噛みちぎられたのも、彼女と病院であっという間のセックスをしたのも現実にはあり得るのかあり得ないのか、アーヴィングが書く多くのエピソードと同様、ギリギリのリアリティを保っている(か?)全体にコミカルで楽しめるけれど、今まで読んだアーヴィングの中では、ヒューマニズムというか人の奥深い優しさや悲しみの表現という部分においては、今ひとつ物足りなかった。
    彼女の心理描写も物足りず、主人公に対してなかなか心を開かない理由は夫への変わらぬ愛情だと理解は出来るが、共感は難しい。主人公と寝た後も「わたしも愛せるように努力するわ」と言いつつ再婚の決心はしているという。そのことをどう捉えていいのか、もやもやしたまま読了。

    追記
    彼女が「愛せるように努力する」というセリフについて、同じ本を最近読了した友だちと話していて、「紋切型の『愛してる』に対するアーヴィングのアンチテーゼなのでは」という解釈に辿り着いた。
    たしかに、男から「愛してるよ」と言われて、女が「わたしも愛してるわ」と言わなくちゃいけない道理はない。「愛せるように努力する」もまたひとつの愛情表現とは捉えられないか。

    追記
    ドリスがパトリックを受け入れるまでにかかった時間のことだけど、たぶん、ドリス・クラウセンは、パトリックが自分のことを愛していることを理解しつつも、見え隠れする彼の軽薄さをも理解してしまっていたのだろう。それでも彼を愛せそうか(愛せるか、ではなくて)推し測っていたのかもしれない。
    パトリックはパトリックで、彼女との会話のやり取りの中で気付きがある。
    わたしの好きなくだりがある。

    「キャサリンがアルマーシに「私を奪って」と言うところがじつによいではないか。
    「原作の話ね」とクラウセン夫人は言った。
    「原作と映画」
    「映画にはないセリフよ」とドリスは言う(いや、見たような気がする―たしかに セリフがあったはずだ!)。「すごく気に入ったせいで、聞いたと思ったんじゃないの」
    「気に入らなかった?」
    「男好きのするセリフなのよ。あんなこと言うなんて信じられない」
    またしてもウォーリングフォードは馬鹿になったような思いを味わった。 ドリス・ クラウセンが愛する書物、および思い出のある(少なくとも彼女には悲しい思い出が まつわりつく) 映画に、 ずかずか入り込もうとしたのだった。だが本というものは、 映画もそうだろうが、もっと一人だけの、ひっそりしたものなのだ。 いい作品だとうなずき合えることもあるだろうが、 こうだから好きと言えるような理由までが、 すんなり一致するわけではない。」

    本にしろ、映画にしろ、みんな自分の読みたいように読み、観たいように観る。じぶんの理論を小説や映画で裏付けしたいのだ。でも、自分の中では論理的になっているようであっても、自分が思いたい方向に自分で論理を展開するのでそうなっているにすぎない。
    だいたいにおいて、本や映画の作者が男であった場合は、その中の女性の言動や心理描写は、かなりの確率でそれは「女性にはそうあってほしい」という作者の願望の具現化じゃないかとわたしは思ってる。
    話は逸れるけど、悲しいことに、日本の女流作家は男社会にあまりにも組み込まれ過ぎていて、無意識に男性視線に忖度がみられるとわたしはときどき思う。女性が描く女性にすら、あまりリアリティがないのはそのせいじゃないか。

    何がいいたいかというと、ジョン・アーヴィングにおいては、「男性が喜びそうな女性の描写」をしていない。わたしがアーヴィングのことを好きな理由の重要な要素のひとつだ。
    上の引用文はそれをよくあらわしているのではないかな、と思う。パトリックがそそられた「わたしを奪って」というキャサリンのセリフを、ドリスはバッサリと「男好きのするセリフ」だと切り捨てているのが気持ちよい。男性作家がフェミニズムを表現しようというこころみは、このご時世とてもハイリスクだしデリケートだと思うけど、ちゃんとそこをおさえているところがすごいし尊敬できる。

  • 上巻に記載。

  • 2012/1/1購入
    2014/5/11読了

  • こういう愛の形もあるのかな。途中、主人公がプレイボーイすぎて萎えた。タイトルの意味は、まぁ予想通りではあったけど着地するところに着地したって感じかな。2011/364

  • 再び腕を失い、クラウセン夫人はウォーリングフォードにわざわざ会う理由を失う。一方のウォーリングフォードは確かな恋心と愛がクラウセン夫人に対して芽生えており、会う理由を彼らの息子オットーJrに求める。
    下巻はコメディ色は薄く、情事とウォーリングフォードの思いを言葉と行動に落とし込むことに終始してたようなんだけど、それが彼の本気度であるように感じた。メークの若い子との夜遊びは、ガムが飛んだり、彼に噛り付いたりの描写が、少し笑を誘う感じがまさに彼のお遊びで、自覚のなさというのか、Kのつくモニカの頃に戻るのかダメ野郎と思った。ダメ野郎なんだけど、ずる賢くなくって正直なところが主役を張れるポイントなのだろう。扱いやすさもあるのかもしれないけれど。
    クラウセン夫人とは距離が心理的にも肉体的にもあり、身近にいるおそらく外見、スタイルが完璧であろうメアリに気持ちが流れきらないあたりが、恋してるなあと感じるのと、余程、仕事にうんざりしていたのだろうと思った。

  • 主人公のウォーリングフォードさんが、クラウセン夫人を大切に思うようになって、クラウセン夫人のために多くの物を犠牲にするようになっていく過程が、面白かった。
    ウォーリングフォードさんが、新しい職を手にするための思いつきであっても“ニュースで報道されない裏側”に着目しようと言っていることで、小説の中の様々な不幸なニュースは、お笑い種以上の存在感を示すようになったと思う。それとともにまともになっていくウォーリングフォードさんは、だんだんと現実的な重みのある人間に変化していきました。

  • インドでサーカスの取材中、ライオンに左手を食われてしまったパトリック。5年後に手の提供者が現れたのだが、その元持ち主の妻が手の「面会権」を主張してきて――?

    えーと、まずは、この話のどこがロマンチック・コメディなのか、私には全くわからなかったのである。文庫の表紙裏あらすじにそう書いてあったのだが・・・ロマンチックって、どこが? というか、何が?? わ、わからない! 

    とにかく、読んでいて話に全く必然性が感じられず、とても苦しかった。なんだか全てが、主人公・パトリックのために進んでいるような気がして・・・。
    彼がある意味「憎めない」男なのは、わかる。しかし、彼がそんな自分に傷ついていないことが、私には解せなかったのだ。なぜ彼はそんな自分に平気なのか? そして、なぜ周りの人間も、そんな彼と対等な(あまり対等ではないかもしれないけれど・・・少なくとも、情けをかけてやっているような)関係が築けるのか、全くわからなかったのである。
    だから、クラウセン夫人がパトリックを受け入れ、共に生きていこうとするラストにびっくり仰天してしまった。どうして彼女がそういう結論に達したのか、さっぱりだったからである。

    私には以前にも全く同じような感想を持った本が、つまり物語の必然性が見えず、ストーリーの全てが主人公のためだけにあるように感じてしまう本があった。ポール・オースターの『ムーン・パレス』である。あの話も、最初から最後まで、「ど、どうしてそうなるの?」という違和感ばかりがあって、私には意味不明小説だった。

    この『第四の手』も『ムーン・パレス』を読んだ感想にあまりに似ていて、私はちょっと怖くなってしまった。どちらもアメリカの最近の男性作家で、しかも結構な売れっ子である。ということは、大部分の人にこういう話が受け入れられ、面白いと思われているのかなぁ、と思ったからだ。
    アメリカの現代男性作家を読んで、自分がその全てにこういう感想を持つとは思えないし、そんなことはないだろうと思うけれど、それでもちょっと不安になってしまったのだった。

  • 「本当の愛を求める」割には行動が伴わない主人公。下品でコミカルな感じは、アメリカのテレビドラマみたいだ。

  • そうなってほしかったから、何となくすっきりしました。
    彼がその後どうなったのか知らないけど、果たして浮気性の人が一途に人を愛せるようになるのかな…と思う。
    分からないけど、上手くいくものなのかな…あくまでも小説なんだから、疑問はなしにしよう。

  • 2010年6月6日読了

    アーヴィングにしては本棚の場所をとらない短めの小説。
    アービングらしいノイジーさは小説が短くても健在。ただし残念ながらアーヴィングの傑作とはなりえない作品かと。

    この本を買って初めてアーヴィングの顔を知ったのだが、けっこうハンサムではないですか。

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