モンキーズ・レインコート (新潮文庫 ク 11-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102282014

感想・レビュー・書評

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  •  『ロスの探偵エルヴィス・コール』との副題が付いている。今では副題は不要なくらい有名なシリーズとなってしまったが、一時は日本の出版社があまり熱心に版権への触手を伸ばさなかったことから未訳作品も残念ながら目立つ当シリーズ。

     この作家を日本で改めて紹介し、人気をかつてより増して引き寄せたのが、2019年以降翻訳出版を遂げた警察犬マギーのシリーズ『容疑者』と『約束』だった。後者はエルヴィス・コールを再び翻訳ミステリーの壇上に、見事、呼び戻した。

     ぼくも警察犬マギー・ザ・ドッグを経由して、エルヴィス・コール探偵シリーズという、ひときわ魅力的な潮流に乗った平凡な読者の一人である。だが、コール・シリーズを読みたいと思っても、『サンセット大通り』以前の過去作品は再版がなく、古書としてしか入手できないし、コールのシリーズで5作、パイクのシリーズで2作と、未読作品はそのまま埋もれたままの状態である。

     そうした不運で貴重なエルヴィス・コール作品なのだが、過去邦訳作品の中でも、まず抑えておきたいのが、シリーズのスタート作品である本書である。手元にあるのは、1989年に日本で出版された初版文庫本。今ではあまり安くは入手できないシロモノである。

     基本的には今描かれているコールとパイクの人物像は、当然ながらいささかも変わらない状態で、第一作からお目にかかることができる。コールのへらず口。パイクの寡黙さ。どちらも、まったく今と同じ状態である。

     違うのは、そう、背景となる時代や世相なのかもしれないが、彼らの生きるロスのストリートやハリウッドの界隈は基本的にはあまり変わらないようだ。フィリップ・マーローにもハリー・ボッシュにも行き会いそうなくらい、同じ街と地形が舞台なのである。ぼくの想像の中のLAは、いかにもハードボイルドが似合いそうな、お洒落と自由と犯罪の街そのままのイメージだ。

     本書でもまるで基本的な構成で描かれた、けれんのない街の風景が描かれる。映画の世界で出世したりおちぶれたりするキャラ。その周りで取り残される家族。美しい妻。育ちつつある少年。彼らをひとまとめに食い物にしようとする悪玉。男と女の複雑な感情。金と名誉への危険な急階段。

     急展開の後に待ち受ける危ういまでのバイオレンスと、まるで荒野の決闘に向かいそうなコールの正義漢ぶり。もちろんパイクの方も、彼ならではの活躍と、その思いがけない結果も、おまけとして付いてくる。

     翻訳者による巻末解説で初めて知ったのだが、作者はロバート・B・パーカーを意識しているし、それを隠そうともしていないのだそうだ。ボストンとロスではずいぶんと舞台は異なるし、スペンサーとコールとでは、会話のやり方もライフスタイルも随分と異なるように思うけれども、パイクの立ち位置は確かに、ホークに似ているかな、なんて感覚は、ぼくにはある。その辺りの類似点、相違点なども読んで楽しめるシリーズである。

     今では絶滅種に近い、私立探偵という生物を主人公とした古典的なハードボイルドのシリーズの、これはスタート作品なのだ。

     ホンモノのコクをもつストロングなカクテル。確かなキックを感じる手ごたえのあるシリーズがここから始まっていたことを、ぼくは2019年まで知らずに過ごしてしまった。明らかな失態である。

     ※さて、最後にこの作品に冠された不思議なタイトルの原典だが、何と芭蕉の俳句だそうである。

      初しぐれ 猿も小蓑をほしげなり

     ううむ。

  • 警察犬マギーに導かれて、エルヴィス・コールシリーズに出会いました。「約束」「指名手配」と読み進めるうちにコールとパイクのことをもっと知りたくなり、シリーズ1作目から読むことに。2人のキャラクターは30年前から変わっていない。軟派と硬派の真逆に見える彼らだけれど共通するのは信念に基づいた行動。決して後ろに下がらない。

    ロスの街並みやコールの暮らしぶりが丁寧に描かれていてるのも魅力のひとつです。

    久しぶりに心が持っていかれるシリーズに出会ったのに、絶版&未訳の作品が多くて追っかけるのが大変そう。。でも楽しみです。

  • ネットで見かけて。

    ロスアンジェルスの探偵のお話だが、
    一人称が「わたし」ってどういうことだろう。
    ちょっと口調が探偵らしくないというか、
    ハードボイルドっぽくない。
    「I」をなぜ「わたし」と訳したのか。
    そんな事を言えば、ヨガをするのも意外だが。

    行方不明の夫と息子を探すことを依頼にきた妻。
    夫は芸能プロダクションを経営して浮気をしていたが、
    映画界がらみなのか、愛人がらみなのか。
    夫は死体で発見され、依頼人も誘拐される。
    夫に頼りきりだった妻が、
    最後に銃を撃って探偵とそのパートナーを助けたのは、
    印象的だった。

    あとは、高級マンションに入り込むための届け物を偽装する時に、
    最後に踏みつけにして形を崩したのは面白かった。

    依頼人とその友人、それぞれとベッドに入ったのはかまわないが、
    ネコにビールを与えるのはやめてほしい。

  • 「約束」「指名手配」を読んだ後で、エルヴィス・コールの初登場作を頂いた。30年以上前に翻訳されたモノで、事前に聞いて覚悟してたけど古さは否めない。無駄にタフガイぶる探偵はすぐに女性と寝るし、頼りないか弱い女性像とか突っ込みいれたくなる。
    でもエルヴィスと相棒パイクの立ち位置は変わらないんだな。とにかく弱い立場の人間と味方でい続けようとしてる。人質を救い出したら、それ以上は関わらないクールさも同じだ。なかなか面白かった。

  • ノリが西海岸を舞台にしたハードボイルドのイメージにぴったりかな。信の置ける相棒として描かれるパイクが格好イイネ!80年代!って雰囲気も楽しかった。

  • 登場人物が良い!

  • 1988年アンソニー賞受賞
    原題は『The Monkey's Raincoat』
    芭蕉の句「初しぐれ、猿も小蓑を欲しげなリ(Winter downpour, even the monkey needs a raincoat)」から流用

    私立探偵のエルヴィス・コールは、エレン・ラングから失踪父子の捜索を依頼される。
    夫のモートンが息子のペリーを学校に迎えに行ったあと、二人とも消息を絶っていた。

    モートンの愛人だというキンバリー・マーシュは不在で、褐色の大男が訪ねてきたという。
    その夜、ラング邸の室内が破壊され、物色されたが、ドアも窓もこじ開けられた形跡はなかった。
    プロの仕業とみられたが、エレンは夫の仕業だと被害届を出さなかった。
    なにもかも夫任せのエレンは、ひとりで小切手をきることもできなかった。
    「逆境は力の源泉だ」とコールは言う。彼はヴェトナムで気楽に生きることが生き延びる秘訣だと知り、心を正常に保つためにヨガや東洋武術を学んだ。
    「エレンも生き延びる方法を学ばねばならない」と語った。

    翌日、モートンの射殺死体が発見された。
    さらに、エレンが行方不明になり、スーパーマーケットの駐車場で彼女の車が発見された。

    コールはキンバリーの隠れ家をみつけた。
    彼女はモートンに誘われてドムというメキシコ人の家で開かれたパーティに出席した。
    そこで、モートンはドムと恋の鞘当をし、怒ってキンバリーと一緒に立ち去った。
    翌日、モートンから電話があり、誰がきてもドアをあけないように言われたという。


    <解決編>

    相棒のジョー・パイクは、キンバリーの部屋を見張っていたメキシコ人を尾行し、元闘牛士の実業家ドミンゴ・ガルシア・デュラーンの屋敷にたどりついた。
    一方、コールは褐色の大男にデュラーン邸に連れて行かれる。
    デュラーンは、モートンがコカインを盗み、それをコールが持っていると思ったのだ。

    コールはデュラーンの部下の車を尾行し、捕えられていたエレンを救出する。
    そしてペリーを救出するため、ポイトラス刑事に援助を求めるが、特捜部捜査官オバノンから捜査をやめなければ私立探偵のライセンスを取り消すと言われる。
    パイクはエレンの護衛をしつつ、彼女に銃の撃ち方を教えた。
    パイクはヴェトナム帰りのプロの兵士で、肩の矢の入れ墨には生きて行く指針である<後退するな>という意味があった。
    それを聞き、エレンは「もう過去のわたしに戻れないということね」とつぶやいた。

    コールは麻薬の売人から、コカインを売ろうとしていた男がいたと聞く。
    それはキンバリーのボーイフレンドのラリーだった。
    コールは、キンバリーがデュラーン邸のパーティーでコカインを盗み、窓から放り投げ、それをラリーが持ち去ったと知る。
    コカインを手に入れるとデュラーンに連絡し、明日、グリフィス・パークのトンネルの入り口で会うことにした。
    エレンがコカインを持参することを条件に、ペリーを解放するという。

    先回りして公園を見張っていると、デュラーンの部下の車が5台、周囲に配置された。
    リムジンの中には子供はいなかった。
    デュラーンに子供の居場所を聞き出すために、屋敷に向かう。

    屋敷にはアリゾナのギャングのボス、ルディ・ガンビーノとその部下がいた。
    コールとパイクはペリーの姿を認め、母屋に忍び込む。
    パイクは胸を撃たれるが、「俺にかまうな、子供を助けに行け」という。
    デュラーンの部屋では、ガンビーノと麻薬の取引が行われていた。

    そこへ大男が現れ、コールは拳銃を奪われ、殴られる。
    ガンビーノが拳銃を構えたとき、銃声がして、彼の身体が弾き飛ばされた。
    エレンが戸口に立っていて、発砲したのだ。
    コールが大男と格闘している間に、デュラーンが剣をかまえて、エレンの方に向かって行った。
    エレンはデュラーンが倒れるまで銃を撃ち続けた。その顔にはためらいもおびえもなかった。
    コールは肩を撃たれ、助骨を折られながらも大男を倒し、ペリーを探そうと起き上がったとき、男たちがやってきた。
    そのなかにオバノンの姿を確認し、気絶した。

    ペリーは無事救出された。
    パイクは手術し、容態は安定していた。
    FBIはデュラーンとガンビーノが取引をするという情報をつかみ見張っていたのだが、二人を刑事だと思い、エレンが入るまで突入しなかったのだという。
    コールはエレンに「モートンは、ペリーを連れ去られたので追いかけて行った。自分の息子の命を救うために死んだのだ」と告げた。
    そして、パイクの待つ病院に向かった。

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