- Amazon.co.jp ・本 (532ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102451045
感想・レビュー・書評
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ポール・オースターといえば、いわゆるポストモダン系の独特の世界観を、美しい文章(音楽的ともいうそうだ)で描く、というようなざっくりした印象を持っていたが、本作はそういった曖昧な感想を全て吹き飛ばすほどのインパクトをもっている。過去の作品では、ストーリーが進行しても何も起こらない(だけど面白い)という作風が一つの持ち味だったが、本作ではいろんなことが起こり、ストーリーもアクロバティックな展開をする。そして当然であるが、その方が小説は面白い。
分類としては青春小説と言えるだろう。著者自身が在籍していたコロンビア大学を舞台に物語は始まり、書き出しから独特の切実さが感じられる。60年代の物語でもあり、親子間のつながりの物語でもあり、生と死をめぐる物語でもある。やっと手に入れたものが、脆くも失われていく。それらに共通する一つのシンボルとして語られる、タイトルにもなっている月が、非常に効果的に幻想的なイメージを喚起させる。
著者自身は本作を「これまで書いた唯一のコメディ」だと語っている。ストーリーは全く思いもよらぬ方向に進んでいくが、読んでいて違和感は覚えない。「コメディは、いつ陰惨な悲劇に転じても不思議はないことが見えるとき、正当なる切実さを獲得する」これは訳者である柴田元幸の言葉。
今年読んだ中のベストです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
章をまたいで続くものは殆どなく、人間関係も場所も変わってゆくんだけど、月だけは形を変えながらもどの章にも現れる。
チキンホットパイのくだり、わかるような気がするなあ。 -
『幽霊たち』が好きだったので読んでみた。
頭のイカれた男の大学生時代の鬱陶しい独白が100ページくらい続いて参った。
全体と通して老人の気持ち悪い食事のシーンや肥満男の不快な描写など気分とことん害してくれる。
金があるから豊かなんだという80年代的な美学に貫かれており、そこにも寒々しいものを感じた。 -
少年が淡い光を頼りに月夜を彷徨している印象だ...叔父との貧しい思い出。老人の回想録。歴史学者との旅路。何か繋がりがあるのか...そこが物語の核心だ。面倒なアメリカ文学特有の比喩的表現は寧ろ心地良く、軽妙な話術も作者の力量を存分に楽しめた。
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読みながらメモ
・出たしは目的が見えずつらい
・訳に関して。翻訳本で清水の舞台から飛び降りるなんて訳はやめて欲しかった、頭が混乱する
・大きな話の流れが見えてくるわけではなく苦痛なく読み続けられる不思議な本だと感じる。翻訳小説は言い回しや考え方、クセに馴染めず鬱屈するがこれはいける。サクサクまでとはいかないけど読み続けられる。たまにいいこと書いてて小纏め的要素があるから自分の中で句読点つけやすいのかも。114p時点 -
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マーコ、フォッグなどいろいろ呼び名がある「僕」が主人公。「僕」の父は不明で、母は早くに亡くし、唯一の家族だった伯父も「僕」が大学生のときに亡くなってしまう。「僕」は人生を放棄し、公園で浮浪者の生活を送るようになってしまうが、限界のところで、友人のジンマーと中国生まれの美人、キティ・ウーに助けられる。そこから画家や歴史研究者の出会いを通して、自分の人生の過去、現在、未来を見つめていく物語。500ページほどあるが、すんなりと退屈せず読めた。すべてを失ってから、また新たに人生を始めていこうとする流れが好きかなぁ…
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序盤、中盤、終盤と全く違う男のストーリーが展開し、偶然がつなぐ...などと陳腐な言葉を使うと物語の根本を全く説明できていないんだけど(読めばわかるんだけど)、とにかくその偶然が感動的に物語を突き動かす力にはなっておらず、むしろ主人公の取り留めのない夢想癖に加担する形になるため、「偶然」という事象に対して読んでいる間ぼやぼやと考えることになる。(この現象は「偶然」にだけでない)
映画や、よくある娯楽小説のように激しく物語がにわかに展開していくなどのわくわく感はないけど(作者の作風からして)常に頭を使い続ける感じの読み方はができるので面白いと感じる。 -
著者の作品は三冊目。毎作品根幹にある【喪失と再生】は著者の普遍的テーマなのだろうか。今作はロードムービーテイストの親子三代に渡る大河的なストーリー。彼らの悲劇的かつ喜劇的な人生を『著者唯一のコメディ』と評されると確かに合点がいく。興奮と退屈が交互に訪れる起伏の激しい展開だが、この掴み所のない冗長さが終盤戦への前フリとは思わなんだ。しかし、今作の作中掌編のディテールには流石に閉口する。私は作中の『人は絶望によって解放される』という台詞がとても印象的。余談だが、チャンドラーの影響を既読作品中最も色濃く感じた。
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ニューヨーク三部作より好み。20代が読むといいと思う。