ボトルネック

著者 :
  • 新潮社
3.31
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本棚登録 : 1344
感想 : 279
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103014713

感想・レビュー・書評

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  • 残酷な物語だった。

    パラレルワールド系が好きな自分はてっきり異世界に迷い込みながらも自分に自信をつけ、元の世界で心機一転生き続ける話かと…甘かった。

    自分の想い人が亡くなった東尋坊でパラレルワールドへ行き、いるはずのない姉と三日間を過ごすが、主人公が自分という存在、価値、全てに絶望をするには充分な期間だっただろう。

    彼の“全てを受け入れる”という術は、彼の残酷な日常生活を生きていくためには絶対必要なスキルであり、それを責めることはできない。

    でもそうやって選択してきた事柄がすべて負の状況を導き出してきていたなんて、、しんど過ぎる。

    自分が憧れている生活をパラレルワールドにいる姉が全て手に入れていて、それぞれの分岐点でも姉は全て正しい方向に行動を起こして、この平穏を手に入れていた。

    暖かい家庭、生きている兄、生きている想い人…
    この全てを見せつけられ、今さら自分の世界に戻ったところでとなるのは当然のこと。

    わたしも『生きていたくない』と思うかもしれない。

    最後の最後、生きる選択をしてくれるか、少しでも生きる希望を持って欲しいと願った矢先の母親からのメール。
    その後の彼の選択は…もう絶望しかないだろう…

  • パラレルワールド作品だけど、そこには自分は存在していなくて、代わりに自分とは性格の異なる一歳年上の姉が存在しているという設定が一段趣向が凝っているなと引き込まれました。その点では漫画「僕だけがいない街」みたいですね。
    その後のストーリー展開もテンポ良く、本の頁数も少なめなので、続きが気になってスラスラ楽しく読み進められました。

    主人公の嵯峨野リョウが好きだった諏訪ノゾミを東尋坊での事故死に追いやったのがフミカと判明するけど、フミカがとっちめられるカタルシスは描写されないので消化不良な気持ちが少しあるが、それを上回る仕掛けが盛り込まれていました。

    ストーリーの随所で、普通の主人公なら仲間に話を打ち明けるようなシーンでも、リョウは唯一信頼できるサキに対しても「それは言いたくない」等と隠したり、嘘をついたりする。その点に少しイライラしていたのだけど、最後になって、サキと比較することでリョウ自身がボトルネックだと分かり、「生きていたくない」と言うほどに絶望する。最後は生きるか死ぬかの二択、戻った世界で母親からの心折れるメールが着信し、リョウは死を選びそうな残酷な描写で物語が終わる。主人公でカタルシスを味わせる珍しい構成が面白いなと思った。

    自分を取り巻く、自分ではどうしようもない不都合な出来事に対して、諦めて受け入れるしかないと考えがちだけど、それが実は自分もしっかりと原因の一要素、なんなら原因そのものなのかもよというとても残酷な寓話だと思う。

    ※読後に読んだレビューサイト「電脳ホテル」さんのレビューが上手くまとめられていて良かったです。

  • 単行本で248ページ。
    流れるような文章も相まってあっという間に読み終えました。
    ただ、読み終えてからが長い、というか考え込んでしまいます。
    初めはただ、パラレルワールドに迷い込んでしまった少年の自分を見つめ直す旅、みたいなものかと思っていました。
    甘かった。
    見つめ直すなんてもんじゃない、突きつけられる、それも受け止めきれないかもしれないほどに残酷で鋭く。
    こんなに胸が苦しくなったのに忘れられない、忘れたくない。
    劣等感が強い人ほどこの小説は辛く、同時に劣等感が強い人ほど惹かれるんじゃないかと、劣等感の塊である僕は思ったりしました。

  •  パラレルワールドに行くことにより、自身の存在価値がゆさぶられた主人公。話の流れからして、主人公は最後に死を選択したのではないか、と私は思う。

  • 自分が生まれなかった世界へ行くパラレルワールドもの。
    自分の不在が、明らかに周りの人間を幸福にしている世界へのバッドトリップ。「間違いは自分」だってことに気づいていく過程がひたすら絶望的。なんという暗黒青春物語。

    ラストに色々な解釈の余地があるのがすごく良かった。

    以下、ラストに対する個人的な解釈(ネタばれ)。
    ※与えられてるものの価値に気づかず受動的に生きるのは、他人に対する冒涜だというメッセージだと思った。
    ※Green Eyed Monsterはノゾミと思う。
    ※お金も両親もいるのに、今もまだ命があるのに、諦念を装って臆病なだけの主人公に対するノゾミの呪い。
    ※最後の電話は死んだツユから。ノゾミが主人公を殺そうとしているのを知って助けようとした。
    ※「自分で決められる気がしなかった。誰かに決めて欲しかった」ところへ母からのあのメールで、やはり主人公は死を選んだと思う。

    • kwosaさん
      naokoulaさん

      >ラストに色々な解釈の余地があるのがすごく良かった。

      そこが面白いですよね。

      僕は別の解釈をしました。
      ノゾミは...
      naokoulaさん

      >ラストに色々な解釈の余地があるのがすごく良かった。

      そこが面白いですよね。

      僕は別の解釈をしました。
      ノゾミは主人公の可能性を見せてくれた。
      そして最後の電話は「警告」
      ここが分岐点であると。
      そして主人公はあのメールを見て、うっすら笑い運命に抗ったのではないかと。

      naokoulaさんをフォローさせてください。
      とても魅力的な本棚ですね。
      時々、覗かせてもらいます。
      2013/02/05
    • naokoulaさん
      kwosaさん、コメントありがとうございます。
      なるほど、そういう解釈もありですね。
      こちらこそフォローさせていただけると嬉しいです^^
      kwosaさん、コメントありがとうございます。
      なるほど、そういう解釈もありですね。
      こちらこそフォローさせていただけると嬉しいです^^
      2013/02/05
  • パラレルワールドでの自分探しの旅かと思いきやどこまでも貶められるようで読んでいられなかった。最後まで救いを求めていたのは自分に劣等感を抱き続けている私自身だったのかもしれない。それにしても自分が生まれて来なかった世界がこうであったのなら生きる意味を失ってしまうだろう。負のスパイラルに陥ってしまわないよう次は元気の出る本を選ぼう。

  • パラレルワールドだが、これまでにないパターンかな。不快になることこの上ない。せめてハッピーエンドにするべきだろう。例えば、ノゾミが東尋坊に行く前に戻って来て、やり直すとか。

  • 暗ぁ…、「生きててどうもすみません」米澤バージョンやん。
    心をすさませたい人、やるせない思いをしたい人、心に寒風を吹かせたい人ご一読を

    と書いたところで、こっからあとは、核心部のネタバレです

    俺のせいで、俺がいるから、俺さえいなけりゃ、どうせ俺が悪いんやろ…
    こういう負の自意識は誰でも持つもので、そんな考え方をしてる時の人とははウザいからあんまりお近づきにならないか、親友だったり家族だったりちょっと干渉しなあかん立場の人なら「お前な、自分が思ってるほどたいした人間ちゃうんやで」と諭してやるかだろう。でも、それが過剰じゃなく妥当な自意識。つまりそいつのせいやったとしたら…。

    俺は、今まで色んなことを人のせいにして生きてきたから、それではアカンと、エエ歳こいてやっと自己責任ってのを考えるように頑張ってるのだけど、自己責任と自意識過剰の境界を線引くのはなかなかに難しい。

    お前がしたその行動の結果…という「せい」はあっても、お前という人間自体が…という「せい」はないんだと思いたい。それは周りの人間がお前の「せい」にしてるだけのことであると思いたい。

  • 著者の紹介からしても、この作中主人公は一般的な幸せからほど遠い、なかなか手厳しい状況にたたき込まれるのは必至です。
    実際、読み進むと暗澹たる思いやため息で、
    最後は「ウウウウウム」と唸り続けるような中身です。
    他の方がこの本についてどんな感想を持っているかと、興味をもってネットでいろいろ調べたら、
    概ね「否定的」な講評でした。
    ウウウウウウム。
    主人公が等身大で読み手が自分を反映して、抜け道が見つからず追い込まれる息苦しさがあるんでしょうね、この本には。

    ただ、私個人はとても面白く積極的に評価しています。
    年齢的に主人公の「青春」年代から、随分と年齢を重ねているからかもしれませんね、、、ははは。
    もし10代後半から20代でこの本を読んだら、やはりやりきれないな、、、と想像はできます。
    が、
    年齢を重ねた私が読むと、この本のパラレルワールドの意味って著者の内容紹介とも違ったものになりました。
    つまり、
    「人生は自分がつくる。周りの関係も自分がつくる」というこの本の一貫したテーマをポジティブに受け止めることができるのです。
    そうだよな、、、って。
    誰だって誰かの人生に影響しているし、
    誰だって誰かの人生から影響を受けているし、、、
    そんな関係から引き出していくものは自分の人生にド〜〜ンと一人背負い込まずに
    「ポジティブ・シンキング」に生きいていく、あるいは生きていこうと努力することだと、
    読み取りました、、、

  • 主人公こうなるのか…米澤さんてこんな鬱な話書くのか。救いがないな。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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