儚い羊たちの祝宴

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103014720

作品紹介・あらすじ

ミステリの醍醐味と言えば、終盤のどんでん返し。中でも、「最後の一撃」と呼ばれる、ラストで鮮やかに真相を引っ繰り返す技は、短編の華であり至芸でもある。本書は、更にその上をいく、「ラスト一行の衝撃」に徹底的にこだわった連作集。古今東西、短編集は数あれど、収録作すべてがラスト一行で落ちるミステリは本書だけ。

感想・レビュー・書評

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  • 本作は、5つの短編小説からなり、夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」が共通キーワードである。また、短編それぞれが独立していて、使用人がいるような大きなお屋敷の雇主あるいはその家族、親族とそこで働く使用人がかなり歪んだ性格を持って登場している。

    最後の「儚い羊たちの晩餐」で、それまでキーワードのごとく出てきた「バベルの会」が、ここで大きく展開し、話が結末へと動く。

    身内に不幸がありまして
    5歳の時に、孤児院で育った村里夕日が名家の丹山家・丹山因陽に娘・吹子の身のまわりの世話のために引き取られる。
    夕日より2歳年上の吹子から秘密の書棚を作るように言われてその秘密を共有する。
    ある日、素行の悪い兄・宗太により吹子の命が狙われる。

    秘密の書庫に並べられた本には「眠り」の共通キーワードがあり、吹子と夕日のキーワードでもあり、本作の結末に向かうキーワードである。
    夕日が秘密の書庫の本を盗み読みしていたことに対し、優しいと思っていた吹子が『床を異にして同じ夢を見るつもり?』というメモを短編の最後に挿んでいた行為で、夕日に対する吹子の感情を知った気がした。
    そして、吹子は「バベルの会」の夏合宿に参加できなくなる理由を作るために計画を実行する。

    北の館の罪人
    内名あまりは六綱虎一郎とその妾の母の間の子で、母の死により六綱家を訪れる。
    現当主の光次から提示された小切手を断り、六綱家で住むことを希望する。体裁のために別館の北の館に住むことになる。そして、
    別館で暮らす光次の兄・早太郎の世話と早太郎をこの別館から出さないようにと言い渡される。

    「殺人者は赤い手をしている。」紫で描かれている手。光次と早太郎の妹・詠子は、早太郎が描いた絵画の中の紫色について、バベルの会にその意味するところについて確認したいと言う。紫色はいずれ赤へと変化し、犯人へと導くことになるのを確認するのだ。

    山荘秘聞
    貿易商・辰野嘉門の別荘である飛鶏館の管理を任されているわたし・屋島守子は、雪山で遭難していた越知靖己を助ける。越知の遭難救助のためにやってきた救助隊を迎え入れる。

    人と接していないと人恋しくなるのは理解ができる。
    そして、優秀であればあるほど、自分が優秀であることを認めて欲しいのだ。自分の自慢を他者に認めて欲しいのであれば、越知の養生を隠さなくてもよかったものであるが。一歩誤って道を踏み外す。いや、きっと守子は道を踏み外していることすらわからないほ のであろう。孤独のためにおかしくなったのか、あるいは初めからだったのかわからない。

    玉野五十鈴の誉れ
    駿河灘に面した高大寺といえ地域で君臨している小栗家。小栗家で専制君主的な立場である祖母から、15歳になった日に玉野五十鈴を召使として紹介される。友達がいない主人公・純香にとって、友達であり、使用人であった。

    『始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るなー』このスレーズが、のちに純香を祖母の呪縛から解き放つことになるのではあるが、赤子が焼却炉で泣いていても、この歌のとおりに蓋を開けない。もし、悪気なく、この歌のスレーズを忠実に守ったのであれば恐ろしい。が、それにより救われる命もあった。

    儚い羊たちの晩餐
    主人公・大寺鞠絵は、『バベルの会』の会費滞納により除籍される。表向きは、会費滞納ではあったが、バベルの会の会長から聞かされた真実は鞠絵がバベルの会に必要とされていないからであるという理由であった。夢想家の中の現実家は、排除すべきということであった。

    はじめは、『アミルスタンって言う種類の羊がいるのか?例えば、牛であれぼ、ホルスタインとかのようなそんな感じだろうか?』と考えていた。なぜ、『蓼科』とかぶせるのかと、もしかしてとも思いながら、どんな羊かと調べたところ、スタンリン・エイの『特別料理』で説明されていた。そして人肉食であると言うことだった。
    例えば、「アミルスタンは、珍しい羊ではないが、獲えることは国法で禁止されている。」と言う作品中での記載は『バベルの会』が絡んでいると匂わせる。さらにアミルスタン羊を捕獲に対し、主人公のわたし・大寺鞠絵は、厨娘・夏に助言した「蓼科と言う土地が、きっとうってつけです。羊たちは夏の盛りに、湖畔に現れます。夢を見ているようなひ弱な羊ばかりですから、狩るにも苦労はないでしょう」の言葉でこの羊の意味を確信する。
    つまり蓼科湖畔での読書サークル「バベルの会」の良家のお嬢様たちがアミルスタンであり、そしてタイトルでもある『羊たち』のことだ。

    「厨娘」が贅沢を食で表現するため、1番いい部位を使って後は捨てる事、それはバベルの会全員を亡き者にするということであった。

    読むほどに意味が理解でき、そして意味がわかるほどに歪んだストーリーであると思えてならなかった。
    ただ、怖いもの見たさのような、怖いもの知りたさの感覚が先走り、読後の達成感はあった。

  • 最後の1行で「大どんでん返し」という触れ込みだったので、ミステリーファンとしてはがぜん気になって読んでみた。

    最後の1行で真相が分かる、というよりは、ラスト数ページでじわじわ、「こうかな」と思わせて、すこしズラしたオチがあるホラー、という感じ。

    五篇中三篇目の「山荘秘聞」が1番後味がよかった。

    次いで、「玉野五十鈴の誉れ」かな。

  • ゾクッとするホラーの短編集。
    「座布団10枚級大どんでん返し!」と言うほどではなく、私の好きな小池真理子さんの書く薄気味悪いホラーに似ていた。同著者の【王とサーカス】を読んだばかりだったので、こんなに違う文体で書けるんだとその文才に感心した。

  • 5篇の連続短編小説。
    米澤ワールドのミステリーです。
    帯に「ラスト一行の衝撃にこだわり抜いた、暗黒連作ミステリ。」とある。
    正直、三篇目までは「ふ~ん」という感じでしたが、四編目の「玉野五十鈴の誉れ」は、とても良かった。
    二度三度と読み返してしまった。
    この作品だけが、ただのミステリパズルではなく、胸にじわじわ来る。良い。
    五篇目の表題作「儚い羊たちの祝宴」は黒い。暗黒です。

  • 米澤穂信さんの作品として上がってくる本著に興味があり、読んでみた。
    個人的にはすごく米澤穂信さんらしさが出ている気がした。短編のようでいて、バベルの会という富豪の子女が集まる読書会という伏線でつながっており、ラストに持っていく。
    お手伝いや付きの人を雇うほどの富豪の子女か、その雇われ人が主人公なのだが、幸せってなんなのかな?とふと考えてしまう感じだった。ラストが衝撃すぎて、余韻にひたるけど、なるほどタイトルはうまいことついてるなと思った。

    バベルの会の者たちは幻想と現実の間に強固な壁を持たないか、持っていても少し脆い。
    儚くてよわい羊たちは晩餐のために駆逐された。

  • 5話からなる短編集。
    やっぱりおもしろかった(^^)
    格式ある旧家名家から成り上りまで、上流階級と呼ばれる人々とそこで使われる者とが主となる黒い話。
    ミステリー…ほとんどホラー。
    お嬢様たちが集う大学サークル「バベルの会」が5つの物語を1つとする。
    最後の1行で「ガツン!」と見事に落としてくれます。

    1話1話の主人公たちの忠実で慇懃で残酷な冷淡さがジワジワくる。
    誰にも黒い部分はあると思うのだけど、これほどに温もりのない感情。自分のことだけを徹底的に優先した感情。
    否…〝感情〟という感情がスッポリと抜け落ちていると言ったほうがしっくり来るかも。

    物語の中に、本がたくさん出てくるのですが、どれひとつとして読んだことがない。中身を知らない…それが、ちょっと悔しい。

    ・眠りを題材にした本を愛するお嬢様は、合宿へ行くことをとても楽しみに…。
    ・飛鶏館の管理人を任された私は、ここでお客様をお迎えすることを楽しみに…。
    ・貧しい暮らしの中で母が亡くなり、私は父を頼りお屋敷へ…義兄は、妾腹の子である私を快く迎え入れてくれました。
    ・格式ある家で、厳しい祖母に逆らえぬ、母、私、養子の父…十五歳の誕生日に祖父から与えられた贈り物は同い年の五十鈴だった。
    ・成り上がりで見栄っぱりの父が招き入れた厨娘は、晩餐専用の料理人だった。

    主人公のみならず、回りの登場人物も含めて、常軌を逸する人たちが繰り広げるパラレルワールド。
    今年の16冊目
    2016.05.10

  • うわぁ~、後からじわじわ怖い。
    ラスト一行とまでは言わないけど、最後のオチは確かにゾクッと衝撃的。
    どれも見事な出来だと思うけど、「身内に不幸がありまして」と、こないだストーリー・セラーで読んだ「玉野五十鈴の誉れ」が特にいい。

    それにしても、旧名家だとかその御子女だなんて、ミステリー的にはおどろどろしい感じしかしませんな。
    「バベルの会」なんて、華麗なお嬢様方が古典を読んで優雅に談笑してるとは思えないんだけど、なんか禁断の魔術とか使ってそうなんだけど、と思っていたのだけど、最後の「儚い羊たちの晩餐」で、バベルの会の参加資格を知り、納得しました。

    アミルスタン羊は察したけど、雄は下々の食材だが雌は羊よりも味が良いとか、唇が良いとか、ほんと怖いよ。
    厨娘は中国の古典に元ネタがあるようで、何とも奥が深い。
    大寺鞠絵の手記、「わたしは」の後はどう続いたのか。

    程よい余韻が余計に怖いわ。
    おもしろかったです。

    • kwosaさん
      tiaraさん!

      >どれも見事な出来だと思うけど、「身内に不幸がありまして」と、こないだストーリー・セラーで読んだ「玉野五十鈴の誉れ」が特...
      tiaraさん!

      >どれも見事な出来だと思うけど、「身内に不幸がありまして」と、こないだストーリー・セラーで読んだ「玉野五十鈴の誉れ」が特にいい。

      わかります。
      僕もその二つが気に入っています。

      「どんでん返し」というよりも「最後の一撃」という方がしっくりくるオチの付け方。
      ラストに近づくにつれて厭な予感が膨らんでいき、最後にゾワッと。

      じわじわ怖いけど、やっぱりおもしろかったですよね。
      2013/08/31
    • tiaraさん
      kwosaさん

      ほんと真犯人とかトリックそのものではないところのオチが衝撃的でゾクゾク背筋にきますよね。
      嫌な終わり方ですけど、そのダーク...
      kwosaさん

      ほんと真犯人とかトリックそのものではないところのオチが衝撃的でゾクゾク背筋にきますよね。
      嫌な終わり方ですけど、そのダークさ加減がよかったです。

      「ボトルネック」や「インシテミル」から入ったので、最初の印象はそれほどでもなかったんです。
      でも「氷菓」を読んで面白いなーと思いました。
      他のも読んでみたいです。
      2013/09/01
  • 読み終えたとき、背筋がゾクッとしました。

    独立した短編集だと思い、読み始めました。
    しかし読み進めるうちに、5編の短編集をつなぐものがあることに気づきます。
    それは「バベルの会」という読書会です。

    どの短編も、昭和頃と思われるの財閥や良家が舞台または背景にあるお話になっています。
    良家や財閥家系にある、独特の歪みが、それぞれの話の中で見事にえがかれています。

    4編目の「玉野五十鈴の譽れ」は、別のアンソロジー集で独立して読んだことがありました。
    まさかそれが他にある短編とつながって、最後の「儚い羊たちの晩餐」につながる道になっていたとは…びっくりです。

    じわじわ迫ってくるサスペンス、お楽しみください。

  • 「どんでん返し」「衝撃」って程ではなかったかな。
    ただある程度予測しながら読んでいたら「えぇ……そっち………」てなることは幾度かあった。
    文章が流れるように頭の中に入ってくるので読みやすい。
    けど内容がミステリーというよりホラーだったからそれはプラスの評価になるのか迷い所(笑)気味が悪かったです。

  • 米澤穂信さんの短編は、とても読みやすくてとても面白い。

    「バベルの会」という、良家の子女が集まる読書会を軸とした連作。
    読書会が登場するだけあって、国内海外の古典名作文学のタイトルがたくさん出てくる。
    古典文学は高校の現代文授業程度の知識しかない私は、自分の教養の低さを実感するものの、知識はなくても楽しめます。
    むしろ、分からないこそのムズムズ感を楽しむ本なのかな。

    全体的に不気味なんだけど、そこの不気味さの正体はなんだろう?と考えたとき、
    使用人たちの主人に対する絶対的な服従にあるのだと気付いた。
    登場する使用人たちは、無理なことを言い渡されても、絶対に成し遂げようとする。
    それが、とても残酷で不気味。

    読書会の秘密は最後の、同名短編で明かされるんだけど、ゾーッとした。
    なんか既視感?と思ったら、多分暗黒女子と世界観が似ているのかな。あれも読書サークルだったもんな。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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