レインツリーの国

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103018711

作品紹介・あらすじ

きっかけは「忘れられない本」そこから始まったメールの交換。あなたを想う。心が揺れる。でも、会うことはできません。ごめんなさい。かたくなに会うのを拒む彼女には、ある理由があった-。青春恋愛小説に、新スタンダード。

感想・レビュー・書評

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  • “見る”と”観る”、”読む”と”詠む”、そして”笑う”と”嗤う”、同じ読みでも意味合いが異なる動詞というものはどうしてこんなにたくさんあるのでしょうか?

    私たちは会話の中で、同じ読みでも意味合いが異なるそんな動詞たちを、目にしているイメージの中に自然と使い分けています。そして、文字として書き起こした時に改めてその字の違いから意味の違いを意識することになります。上記で挙げた三つの例など、同じ読みにも関わらず、その意味するところの違い、用いる場面の違いを思うと日本語のある意味での難しさを感じるところです。

    では、そんな同じ読みの動詞の中で”聞く”と”聴く”という二つの動詞の違いを上手く説明することができるでしょうか?前者は一般的に”聞く”行為を意味し、後者は音楽を”聴く”、そんな違い程度かな?、どうでしょう、それが一般的な感覚ではないでしょうか?もしかすると、上記で挙げた三つの例ほどには、この両者に違いはなく、似たようなもの、と考えてもいいようにも思います。

    しかし、『聴く』ことはできても『聞く』ことはできない、そんな風に自分のことを説明する女性がここにいます。『聞く』という行為は『耳から入ってきた音や言葉を漫然と聞いている状態』にあるのに対して、『聴く』とは『全身全霊傾けて、しっかりと相手の話を聴く』ことである。自分には後者の『聴く』しかできない、とその女性は語ります。この作品はそんな女性がヒロインとなって、『「聞こえる」側』にいる主人公と関係を深めていく物語、時には激しくぶつかり合いながらも次第にお互いを信頼し合いその関係を深めていく、そんな二人の恋の物語です。

    『一体何の拍子でそんなことを調べてみようと思ったのかは自分でも分からない』と『中学のころに読んだライトノベルのシリーズ』について、そのタイトルをパソコンで検索するのは主人公の向坂伸行(さきさか のぶゆき)。『大学を卒業し、関西から上京して入社三年目』という伸行は、かつてそのライトノベルの『結末を呆然と受け止め』たことを思い出します。『俺以外の奴は、あのラストをどう受け止めてたんだろ?』と今更ながらにそのタイトルを検索していた時『…私にとっては忘れられない本です』という感想を見つけます。『滑り出しはハチャメチャなSFアクション、しかも主人公たちは当時高校生の私と同じ高校生』と続くその感想は『最後の最後で打ちのめされるとは思ってもみませんでした』とその結末に触れた後、『私は十年目にして初めて、あの物語のラストはあれしかなかった、と思ったのです』と大人になった今の視点での想いが綴られています。『もしかすると、あの辛いラストは作者からの宿題だったんじゃないかと思います』、『私は、十年目でやっと宿題を終わりました』というその感想は『こんな十年も前の個人的な思い出をクドクド語っても誰も面白くありませんよね。失礼しました』と締め括られていました。それを読んで『いや、俺は面白かったよ』と、心の中でそう返事をする伸行。『十年目の宿題』、『俺もちょっと宿題を考えてみようか』と思う伸行は『この人とこの話をしてみたいかも』と思い立ちます。『ブログのタイトルは「レインツリーの国」』、そして『プロフィールの名前は「ひとみ」で、公開してあるプロフィールは「都内在住、2X歳、女性」だけ』というそのサイト。そんなサイトの下部にメールアドレスを見つけた伸行は、『取り敢えず、書いてみるだけ』と、メールを打ち始めます。『はじめまして。昔好きだった「フェアリーゲーム」の感想を探していて、「レインツリーの国」にたどり着きました』から始めたそのメール。『ひとみさんの感想は、僕にはすごく面白かったです…一方的に話してしまったけど、ありがとうございました』とまとめた後、『本名から一字取って「伸」』と署名に書き入れたそのメール。『そこから何かが続く』とは思わずに、伸行は送信ボタンを押しました。そして翌日、メールチェックをしていた伸行は『ひとみ』という差出人からのメールを見つけます。『メールありがとうございました。「レインツリーの国」管理人のひとみです』から始まるそのメールを見て『すごい、来た、マジで』と思い『あのラストについて誰とも語り合えなかったもどかしさが今更埋められるなんて』とワクワクした気持ちが抑えられなくなります。『まだ話したい』、『もともと返事など期待していなかったのだからどこで切れても駄目元だという開き直り』でそのメールに返信を打ち始めた伸行。『こんばんは、お返事ありがとうございました…でもめっちゃ嬉しいわ、まだ話せるんやって思った』と素直な気持ちをそのままに打ち込む伸行。そして、このメールのやり取りがきっかけとなり、『お互い顔も知らないことが却って短期間で深く知り合わせた』と関係を深めていく二人。そんな中『一体どんな顔をしている?どんな背格好で、どんな仕草をする?スカート派かパンツ派か、髪はショートかロングか』と『飢えのような欲求』に苛まれる伸行。そして二ヶ月後、『なあ、一回勝負してみんか?』から始まるメールを書く伸行。『会って話してみん?顔合わせて、いつもどおり恥ずかしい会話を平常心で出来たほうが勝ち。面白そうやない?』というそのメール。『「ひとみ」はなかなか会うことには応じてくれ』ず、幾度かのやりとりの先にようやく直接会う機会が訪れた二人。そんな出会いを経て繋がっていく二人の恋の物語が描かれていきます。

    『小牧の勧めで毬江がそのとき読んでいた本が「レインツリーの国」だ。新人作家の恋愛小説で、ヒロインが難聴者という設定だった -有川浩さん「図書館内乱〈二、恋の障害〉」より抜粋-』。

    有川さんの「図書館戦争シリーズ」の第二巻「図書館内乱」に、小説内小説として上記の通り登場するこの作品。「図書館内乱」の表紙にもこの作品の表紙が描かれるなど両作は絶妙にコラボした作品となっています。そんな「図書館内乱」では、聴覚障害を持つ中澤毬江に、小牧幹久がこの「レインツリーの国」を読むよう勧める場面が描かれ、そのことを起点に物語が展開します。『障害を持っていたら物語の中でヒロインになる権利もないんですか?私みたいな女の子が恋愛小説の主役になってたらおかしいんですか?』という毬江の台詞が印象的にシーンを形作っていく「図書館内乱」。しかし、あくまで小説内小説として朧げにその内容が示唆されるだけであり、その詳細が明かされることはありません。小説の中には、「図書館内乱」のように小説内小説として、他の小説のことが語られる作品が多々あります。大半はその作品の中の小道具の一つとして登場するのみで、その作品が現実世界に刊行されることは稀だと思います。私が今までに読んだ作品の中では辻村深月さん「スロウハイツの神様」に登場した「V.T.R.」という作品が思い浮かぶ程度です。そして、この「レインツリーの国」はそんな私にとって小説内小説が現実世界に現れた二冊目の作品になりました。期待度MAXな中に読むことになったその作品。「図書館内乱」において、健聴者である小牧と聴覚障害のある毬江という二人の関係とあたかも重ねるかのように描かれるのは、同じく健聴者である伸行と聴覚障害のある『ひとみ』の二人の姿でした。

    そんなこの作品は、巻末の〈参考文献〉に複数の聴覚障害に関する本の記述が並ぶ通り、聴覚障害に真正面から向き合っていきます。伸行がメールを出したことをきっかけに知り合った二人。しかし『メールも楽しいしもちろん続けたいけど、直に話してみたいんや。君の言葉を君の声で聞きたい』と思いを募らせていく伸行。その一方で『すごく正直な気持ちを言うと、私も伸さんと会ってみたいです。でも、それと同じくらい、会うのが恐い気持ちも強いです』とその心情を吐露する『ひとみ』は、『会ってがっかりされるのが恐いのです。それならこのまま、メールで何でも話せる親しい人のままでいたいなって』と聴覚に障害があることには触れずにその気持ちを綴っていきます。結局、直接会うことになった二人ですが、ここから二人にとっての試練が始まることになろうとは、少なくとも伸行にとっては思ってもみなかったことでした。『少なくとも今日のひとみは伸に障害のことを気づかれたくなかったのだ』と二人の時間を振り返る伸行は『世の中、無意味なもんなんかないねんなぁ』と『文字放送なんて自分には縁のないものだと思っていた』という今までの人生の中で、見えていても見えていなかったものの存在を意識するようになります。お互いがお互いのことをそれぞれに想い合う中で、今まで知らなかったことを自ら学び、今まで意識しなかったことを意識するようになる、人と人との出会いの中には、その境遇に違いがあればあるほどに、その出会いによって見えてくる世界の幅が広がっていくものです。そんな中でお互いの気持ちを確かめ合っていく、そして関係が深まっていく、この作品ではその過程がとても丁寧に描かれていると思いました。

    この作品では、聴覚障害と一言で言ってもその内容は幅広く、同じ聴覚障害のある人の中にも対立が生まれるなど、その厳しい現実が、とてもわかりやすい言葉で綴られていきます。決して知識の押し売りなどではなく、伸行の気づきの中で自然と説明されていくその内容は「明日の子供たち」で児童養護施設を扱われた有川さんの姿勢を思い起こさせます。しかし、この作品について有川さんはこんなことをおっしゃいます。『私が書きたかったのは「障害者の話」ではなく、「恋の話」です。ただヒロインが聴覚のハンデを持っているだけ』というその姿勢。『聴覚障害は本書の恋人たちにとって歩み寄るべき意識の違いの一つであって、それ以上でも以下でもない。ヒロインは等身大の女の子であってほしい』と有川さんがおっしゃる通り、主人公の二人は『ひとみ』の聴覚障害の現実に向き合いながらも関係を深めていく、恋を成就しようとする姿が描かれていきます。障害に向き合うということは、決して生優しいことではありません。綺麗事だけではやがて綻びも生じるでしょう。しかし、現実社会の恋人たちの間にも、その成就への過程の中で、例え二人に障害がなくても、別の様々な試練が待ち受けていることに違いはありません。そんな試練と二人で一つひとつ向き合い、二人で意識を共有し、昨日より前へ、昨日より深く関係を進め、深めていく。これが恋愛であり、それを描くのが恋愛物語の王道です。そんな恋愛物語に定評のある有川さんだからこその物語は、『聴覚障害の女性が健聴男性と結婚するのは難しい、という残酷なデータもある』という、厳しい現実を背景にした二人の恋愛を描いた物語として、二人の心の機微を絶妙に描いたとても読み応えのある作品だと思いました。

    世の中において障害のことを話す時、その場の空気感が変わるようなところがあるように思います。障害というものを真剣に捉えなければいけない、という思いが、人々に緊張を強い、そこから笑顔を失わせるその瞬間。それは、自分が他人からどう見られているか、それを意識しすぎる自然な感情の現れなのかもしれません。しかし、そんな気持ちの行き着く先は、障害について語ることを面倒に感じさせ、障害を語ることを遠ざけてしまう、そんな感情を生み出しかねません。あくまで『恋の話』の中に、聴覚障害に向き合う人たちの姿を自然に描き出したこの作品。それは『どうしてひとみの言葉がこれほど好きなのか分かった』と伸行が気づくその先に、『あの人が私を幸せにしてくれたように私もあの人を幸せにできますように』と願う『ひとみ』の想いの先へと続いていくものでした。

    「図書館内乱」を読み終えた時からとても気になっていたこの作品。「図書館内乱」同様、聴覚に障害を持つ女性の心の機微を丁寧に描き出したこの作品を読んで、両作品を通じて有川さんが描こうとしたこと、語ろうとしたこと、そして伝えようとしたことが二人の繋がりの向こうにふっと浮かび上がったように感じた、そんな作品でした。

    • さてさてさん
      魔法の小瓶さん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      この作品は有川さんの数多ある作品の中でも名作の誉高いものであることは知っていま...
      魔法の小瓶さん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      この作品は有川さんの数多ある作品の中でも名作の誉高いものであることは知っていましたので緊張感の読書でした。結局、レビュー前提の読書なのでどうしてもそうなってしまいます。よくないのでしょうけど。
      ただ魔法の小瓶さんにそう言っていただけて嬉しいです。時々書いたレビューの視点に自信がなくなる時がありますが、”たしかに、私も”と書いていただけてホッとしています。ありがとうございます。魔法の小瓶さんがレビューで書かれている通り、「直接会って話す」ということの意味をとても感じた作品だと思いました。
      こちらこそ、引き続きましてよろしくお願いします!
      2021/07/29
  • 2021/03/11読了
    #有川浩作品

    1冊の本で繋がった聴覚障害者と
    健聴者の恋愛小説。
    かなり激しい言葉でぶつかりながらも
    一つ一つの言葉・文章が丁寧で重く
    愛に溢れている。
    すごく感動できた。

  • 久々に恋愛小説を読みました。
    みっちみちの、青春菌(本書より)満載の、ある小説か縁で繋がった二人の物語。
    どちらにも、人には理解してもらうのが難しい苦悩があり、それをどう受け止め、向き合い、自分のものにしていくのか、人への共感と諦観につなげていくのか、読みながら考えさせられました。
    途中で泣くのを堪えているときの、喉がちょっと痛くなった台詞に遭遇。
    「それでもやっぱりわたしは、恥じなくていいはずの障害で恥ずかしい思いや嫌な思いをいっぱいしたし、私は伸さんの悪意を疑ってるんじゃなくて、世の中を信じることが恐いんです。」p93
    私自身も、似た経験があり、自分の中に消化しきれず残っているんだなと。
    恥じなくていいはずのことを恥じるのは、辛い。
    希望を持って、悲観と楽観をどちらも抱きつつ歩もうとする二人に、勇気をもらえました。

  • うらやましいほどのラブストーリーです。
    そして、日頃考えていた事に、自信が持てた一冊でした。
    誰にでも、コンプレックスは有ると思います。
    人に助けて貰わなきゃならないようなハンデを持つ人も…

    でもみんな各々必要な手助けや欲しい言葉は違うと思う。
    自分の価値観だけで、力になってあげてるって考えるのは、自己満足でしかないんじゃないだろうか?
    だからって、周りの人みんなに、理解してもらいたい訳じゃなかったりして…

    このお話の『ひとみ』や『伸』のように、何度ぶつかっても、お互いを解りたいと思える相手に出会うこと、それ自体が奇跡なのかも知れません。

    思うところ有りすぎで、感想がやっぱりうまく纏まりません。
    読むと心が揺さぶられてしまいます。大好きな大好きなお話です。

  •  私が伸ならどうするだろうと考えてみる。
     何となく魅かれるな、と思って、会ってみるものの、ネットで会話しているようにかちりとは、はまらない。分かり合えない。相手の築く壁は固すぎる。
     私が伸ならキレル。そして、切る。「どうせ、あなたには分からない。」と何度も眼前で扉を閉められる真似をされたら。
     「もうええわ。付き合ってられるか。障害がそんなに偉いんか。そっちこそ、一人でやっとれや!」で、終わり。

     ひとみの、あの頑なさから、伸くん、よく逃げなかったよなあ。それだけひとみのサイト「レインツリーの国」に書かれていた文章には魅力があったんだな。『耳が不自由な分だけ言葉をとても大事にしている』ひとみ。だからこそ、序盤の伸を傷付けようとしたメールはやりすぎだろ・・・と思ったが。
     
     ひとみは、もっと人と生の付き合いをして、人との距離を学んでいけばいい。髪を切って服を変えたひとみは、きっと綺麗なはずだもの。
     二人のこれからが幸せなことを祈ります。
     
     

  • 面白かった。いろいろ打ちのめされた。

     昔に大好きだった小説のレビューをネットで見つけた伸。
     「レインツリーの国」の管理人ひとみ。
     伸がひとみに送ったメールがキッカケで惹かれあう2人。
     でも、会うと何かが噛み合わない...

    「普通」ってその人にとっての基準の普通。
    それを持っていない人にとってはそれが普通じゃなくて、持っていないことが普通になる。だから言い争い、感情のズレが起きてしまう。

    2人が言い争う言葉に端々に(あ〜俺もそんなこと言ったり、そんな表情きっとしてた...)(そっか〜、相手にとってはそう聞こえるし、そう思ってたんだろうな)とズキズキきた。

    経験した辛いことを相手にぶつける必要もないし、話す機会があった時に同情されなくてもいいと思う。
    深く大変な経験をした人は自分だけが・・・と思いがちだけど、人それぞれ生きてきた環境や時間の中で辛い経験をしてきていると思うから。

    時がそれを癒し、時がそれを生きる糧とし、いつかお互いを大切に理解しあうために、その経験を重ね合わせることができたら幸せだろうな、きっと。

  • 203ページ
    1200円
    8月25日〜8月25日

    伸行は忘れられない本があり、その
    ラストを他の人はどう受け止めたの
    かが気になり検索する。そこで見つけたのが、ひとみが管理する『レインツリーの国』というサイト。好きな本の感想を通して意気投合した二人は、やがて会うことに。伸行は、ひとみのちぐはぐな行動に疑問をもち、それが聴覚障がいからくるものだとわかる。二人はぶつかり合いながらも親密になっていく。

    メールのやり取りで進められる物語に自然に引き込まれる。聴覚障がいについての理解も多少深まり、それでも障がい云々でなく、その人の性格が大きいと感じさせてくれる物語。おもしろかった。

  • 数年前に読んで「これはいい小説だな」と印象に残っていた。
    その記憶を確認するために再読。
    最初からひとみの秘密はわかっている訳だが、その視点で読むとひとつひとつの表現の意味がわかる。
    読みやすいし、いろいろと考えさせられるし、やはりこれは名作。

    ・でも、同情で優しくされるのがイヤなんです。私にだってプライドがあるんです。ずっと楽しくメールをしてきて、お互いの現実を知る前にすごく仲良くなった伸さんだから、伸さんの前では、私は普通の女の子でいたかったんです。
     耳のことで同情されて優しくしてもらうんじゃなくて、同情で楽しい一日をもらうんじゃなくて、メールで楽しかったみたいに、普通に会いたかったんです。

  • 「図書館戦争」シリーズからの流れで再読。

    恋の障害として、女性側の聴覚障害が使われているが、基本的には「人は何で恋に落ちるか」という話だと思う。
    伸行は、「ひとみ」の物事の捉え方、感性、表現の仕方に惹かれたのだ。それはつまり、その人の根本をなす部分に惹かれたということなのだ。
    あんなめんどくさい(笑)感想のやりとりを好むという事自体が、伸行の精神性を如実に表現している。
    だから、伸行と「ひとみ」の相性は悪くないはずなのだ。
    しかし、実際に生身で付き合うとなると、トラブルが生じる。
    そのトラブルは、「ひとみ」の身体的障害がきっかけになるのだが、誤解を恐れずにいえば、程度の差はあれ、どんなカップルにも起こりうるトラブルである。ただ、聴覚障害はコミュニケーション障害でもあるために、トラブルの度合いが深刻になりやすい。
    さらに、「ひとみ」が中途難聴者であるがゆえのコンプレックスもあり、そんなことを想像したこともない「健常者」である伸行との行き違いは、起きて当然のトラブルでもある。

    何度読んでも衝撃をうけるのは、伸行が送ったメールのひとつ。
    P95の「もしかして」というタイトルのメール。
    「ケンカしようや。ガッチリやろうや。(中略)仲直りするためにきちんとケンカしようや」
    受け取った「ひとみ」も戸惑うが、私もそうとう面食らった。
    「仲直りするためのケンカ」という発想が私の中にもないからだ。
    でも、ほんとうはそうやって自分の思っていることをぶつけあい、その都度修正していくことで、本物の付き合いになっていくんだろうなと思う。

    この小説では、「図書館内乱」での設定との絡みで、女性側が聴覚障害を持っている。しかし、聴覚障害に限った話ではなく、すべてのことにつながる話なのだ。お互いに違う人間が近づいて寄り添って生きていこうとするとき、必ず価値観がぶつかる。それをどうすり合わせていくか。
    2人の、ぎこちなく、でも一生懸命向き合う姿が清々しかった。

    障害に対する向き合い方を真剣に考えさせられる作品だった。

  • きっかけは「忘れられない本」そこから始まったメールの交換。あなたを想う。心が揺れる。でも、会うことはできません。ごめんなさい。かたくなに会うのを拒む彼女には、ある理由があった。

    図書館戦争シリーズの「図書館内乱」から、出てきた本。
    とても、素敵なお話でした。

    聴覚障害者の方の大変さなどが、スムーズに書かれておりなるほど・・・と考えさせられる部分もたくさんありました。

    夏に読んでさっぱりする爽快ラブコメでした。


    有川先生らしい、終わりで私は好きです。

  • 心情の、心のその描写がとても美しい文章でした
    話が都合良く進まず、それでも乗り越えていく、とてもリアルでどんどん読み進めてしまいました

  • 全ての人がひとみに投げる言葉、会社での仕打ち、私はこの本は無理。伸の言葉(障害を知る前も、知ってからも)も理解できない。公衆の場でひとみの障害を話すシーンも不快感が。読みながら「は?それ普通言わんよね?」と独り言。めんどくさい、だの自分ばっかりが苦しいと思うなだの・・・それ、言わないよねぇ・・・。小説なんだなって思う。あと、メールやSNSでの関西弁の使い過ぎはいい感じ受けないんだなって思った。私も関西だからつい出てしまう時があるけど、程ほどにしておこう。

  • この作品はサクッと一時間で読めました
    なんども読み返すたびに感動したり、笑っちゃったりです
    私は、この作品で有川浩さんが好きになりました‼︎

  • 自分に ハンデがあり、それを 好意を持っている人に カミングアウトする…ものスゴく 勇気のいる事。そして、カミングアウト後も 以前と変わらぬ 付き合いをしようとするのも かなりの 努力が 必要ですね。

  •  その非劇的な結末のためにどうしても忘れられなくなってしまった本の感想の応酬メールを通じて知り合った20代半ばの男女の物語です。

    結末に納得できず不満を抱えることになった小説に、同じように、しかし、少し違う感性で夢中になっていた十代の頃から偶然に知り合うまでの約10年の間に彼らが経験し、抱え続ることになってしまった、家族にもその真情を吐露できないそれぞれの悲しみや鬱屈、会えばお互い相手に対して感じる不満のぶつけ合いの繰り返しによって、双方のことを本当に知ることを一つ一つ繰り返すことで、彼らは成長していきます。

    特に、或る「ハンデ」を抱えるヒロインの気づきと成長は著しく、彼と気持ちをぶつけ合うことで、自身の持つ、エゴ、わがままさ、甘さ、卑屈さ、恵まれた環境、いつも達観しているような優しい彼がずっと抱え続けてきた悲しみ、そういった多くのことに初めて気がついて自分を見つめなおしていく過程の描写はとても丁寧で、惹きこまれます。「(自分だけでなく、人は誰でも)他人に理解できない辛さを抱えている」、そのことに漸く気がつき、自分を変えて前向きに生きていく決意をした彼女と、そして彼の未来は、あまりに不確かで前途多難そうですが、自分の殻に逃げ込むことを辞め、それでも後悔は絶対しない、と腹を括った彼女には、拍手を送りたいと思いました。 

    ただ、かなり甘口なお話で、普段そういった話を読まないので、個人的には途中でなんだか恥ずかしくなってきました …。

  • 健聴者の伸と聴覚障害を持つひとみの物語。

    序盤で彼が彼女に対して、「恥をかかされた」「みっともない」と思うシーンがあります。
    人に対してあまりにも簡単にそんな風に思える彼の事が一変にダメになってしまって…もうその部分から素直には読めなくなってしまいました…。
    謝ってはいるものの、「でも」「でも」ばっかり。謝る気なんてないだろう、とか。
    深い話しをしたわけでもないのに、同僚に対して頭薄っぺらい女って思うところとか。どこまで傲慢なんだと。
    サバサバしてて、自分のことをちゃんとわかっている感じで、彼みたいにいい奴ぶってなくて、私は好きだったけど。

    でも健常者と障害を持つ者が、お互いにわかりあっていくにはどうすればいいのか、一つの問いかけにはなっていると思います。

    どうすればいいんだろう。
    聞いていいのかな…と思ってしまうことってあります。
    昔、ある場面で「傷つけてしまったらごめんね。でも、わからないから教えてくれる?」と率直に聞いた人がいました。聞かれた彼女の方もうれしそうに「うん」と言っていて、あぁ、この人には勝てないなぁと思ったことをふと思い出しました。

  • これ。厳しいですけど現実だと、こんなにすんなりいかないかと。でも、あえて世に問いたかったのでしょうね。

    図書館内乱の内容を受け、夢のように優しい物語を期待しているのなら、それは脆くも崩れ去ります。

    耳に障害を持つ彼女。
    過去に悩みの深い傷を持つ彼。

    分かり合うということの根幹は、健常者同士でも同じですがこの恋の鬱陶しさとかけがえなさは、またこの組み合わせに特有のものがあると思います。

    終わる確率も高く、続いても目線が揃うことが難しいふたり。

    彼女が可愛い、あまり障害者っぽくないひとみさんじゃなく、いかにも大変そうな人だったら?
    彼がもし。もっとリアリストで、しんどくないミサコさんを選んでいたら?

    あんなにあっさり恋は継続するかなあ??
    どうしてもハッピーエンドが唐突で

    「ええ??」

    と思ってしまう私はクソ意地の悪い女です(苦笑

    本当は、よかったねって言えればw
    てか普通は言いますねえw

    参考にならない感想でごめんなさい。

    • しをん。さん
      確かに…。冷静になって考えてみるとそのような考え方もあるのですね♪
      確かに…。冷静になって考えてみるとそのような考え方もあるのですね♪
      2012/08/31
    • 瑠璃花@紫苑さん
      >紫苑様

      コメントありがとうございます。
      同じお名前なのですね。
      どうぞよろしくお願い致します。

      私は、このお話の恋が壊れたらいいなって...
      >紫苑様

      コメントありがとうございます。
      同じお名前なのですね。
      どうぞよろしくお願い致します。

      私は、このお話の恋が壊れたらいいなって
      思っているわけではないんです。

      疲れて、傷ついて、
      相手の暗い部分に惹かれるあげくに
      離れてしまうのが切ないから
      手厳しいのかもしれません。

      お互いのつらいことを、一番真剣に
      感じてあげられるけど、普段はとても楽しい…
      ってならないと、壊れちゃうと思って。

      そこへたどり着くのは、もっと時間もかかるし
      好き同士のふたりでも大変なことかなって^^;

      まだ、自分の心の生傷を癒すのに、ふたり
      精一杯って感じで。

      好意的に見れば、そこを乗り越えてくれたら
      天晴れ!読者としても嬉しい…ですが。
      リアルに書いてある分、難しいかな?
      なんて思って。

      つい真剣に考えたら辛口になっちゃいました。
      2012/09/04
  • 人気の作者、表紙とタイトル買いしたんだけど、読んでる最中のムカムカ、イライラはハンパなかった。

    女流作家の書く女性でこんなに相容れないキャラはなく、さらに相手役の関西弁にもイラッとなった。
    おれは全部わかってるみたいな物言い(わりかし正しいんだが)が高圧的に読めて腹立った(笑)

    薄い本だから一気に読み、友達に貸したら目の前で読まれ「これはないっす」と返された。
    去年の買わなきゃよかったNo.1でした。

    有川作品を結構読んでる人からは「最初がレインツリーだときつい」って言われた。まさに…

  • 難聴の障害を持つちょっとめんどくさい性格の20代の女の子が自分の障害を隠して感性を自由にしなやかにさらけ出して大好きな本の感想を書いたブログを、同じ本の結末に心に棘が刺さったままだった青年がみつけたことから始まる恋。障害を持つことで頑なさの殻からなかなか抜け出せない彼女の気持ちが、ネット上の匿名だからこそ青臭い感情をぶつけ合うという繋がりの中ですこーしずっと解けていく、その過程のやりとりが人間らしくていい。読みやすい。
    図書館内覧で登場した難聴の女の子が好きな人から勧められて読んだ本のタイトルが『レインツリーの国』だった。そうか、あの時彼女は、この物語を読んで、難聴の自分にも恋ができるんだと信じたんだった、という繋がりになるスピンオフ恋愛小説です。

  • 2015/2/23

    913.6||アリ (3階日本の小説類)

    主人公は、ネット上で共通の趣味での話が盛り上がり、どうしても相手と会って話したくなる。
    でも、かたくなに会うのを拒み続けた理由は?
    障害を持っていること、障害者と付き合うこと、お互いを理解すること、”目に見えない障害者”の心など、考えされられる小説です。

  • 理想的な女の子って訳じゃないのが、いいね。

    頑固で、ワガママなくらいなのが、テーマとも合ってるんじゃないかな?

    うーん、遂に図書館シリーズに手を出すべきか…

  • いい話でした。
    オンラインとオフライン、絶対に起こりそうな問題。
    相手のことを自分の世界で作り上げてしまってるからなんですよね、相手は、知りあう前からその人そのものだったのに。

  • ネット出会いの恋、でも会ってみたら彼女は聴覚障がい者で。。うーん。まあ、児童文学だよね。ライトノベルっていうほうがいいのか今。まあ、読みやすさはすごいとおもうけど。本嫌いのうちの息子でも読み終わったといってたから、どんな話かとおもえば、ナルホドのぅ。友だちの恋メールのやりとりを、そのまま見せられて相談されたかんじ。うーん。有川さん、男性の描き方がまんがちっくだよね。りぼん8ジャンプ2だよね。そして女性はいつもどっか卑屈。かわいいのに闇持ちみたいな。高校生くらいまでならそれが共感ポイントなのかもしれないけど。
    さらさらと流れ落ちて笊の底にぁ何も残らない。行間の奥を感じないです。せめて10代向け。うーん。浅田さんや荻原さんの後に読むと、やっぱ違うよなあ。えらそうに申し訳ないけど、たぶん私はハマらないなぁ。こういうのええ話やって素直に思える歳を、過ぎてからであってしまったかんじですね。本の虫だった中学時代だったらオススメ本に出会っちゃった!と思ったかもなぁ。そこがせつないわ。

  • 本を読むことが好きで、
    このようにレビューを書くことを趣味としている私は
    『フェアリーゲーム』という一冊の本の感想が
    伸とひとみを引き合わせたという、この物語の始まりに
    一瞬で心を引き付けられました。
     
    メールのやり取りで、どんどん惹かれあっていく二人の気持ちが
    手に取るようにわかって、まるで自分のことのようにニヤニヤ…
     
    初めて二人が会った日。
    私も伸と同じように、ひとみの言動に対し「???」ばかりでしたが
    聴覚障害があると分かった時は本当にびっくりし
    伸の自分の失態への後悔が、痛いぐらいに伝わってきました。
     
    ひとみの「気を使ってほしいくせに同情されたくない」という気持ち。
    意地っ張りで、それでいて色んなことを諦めていて・・・
    切ないぐらい気持ちが分かります。
     
    『痛みにも悩みにも貴賤はない。
    周りにどれだけ陳腐に見えようと、それに苦しむ本人には
    それが世界で一番重大な悩みだ。
    救急車で病院に担ぎ込まれるような病人が近くにいても
    自分が指を切ったことが一番痛くてつらい。
    それが人間だ』(ひとみ)
     
    相手の悲しみを理解しようとしても
    絶対に100%わかることなんてできない。
    その人にしか、その人の痛みや悲しみは理解できない。
     
    けれど、だから「理解できないから仕方がない」と
    自ら壁を閉ざしたり、諦めるのではなく
    わからないかもしれないけれど
    少しでも理解しようと、相手の心に寄り添うことが
    大切なのだと思います。

    色んなことを諦めていたひとみだったけれど
    そんな自分を変えたいと、補聴器を隠さず、髪を切り、洋服を買い
    少しずつでも、行動に移したひとみの姿は
    最高に素敵な女性でした。

  • 障害があるとかないとか関係なく、可愛くないねえ、彼女。でもだいたい障害があるひとは性格が良く、弱者である、という描かれ方ではないところが、とてもよかった。これはラブストーリーである。という作者の言葉。その通り。

  • 10年前に読んだ本をきっかけにネットで知り合った信とヒトミ。

    聴覚障害をもつヒトミの頑ななバリアを信が少しずつ壊していく。

    2人のメールのやりとりには、うんざり…。
    不幸の張り合い、どうせ分かるわけないというスタンス。

    ラストはやっと気づいたか…って感じ…でも、2人はぶつかり合いながらも一緒にいるような気がしたのが救い。

    ちなみに、外見は気にしないといいながら美容院に連れていくなんてイヤ(笑)

  • 立ち読みして気になったので図書館で借りました。序盤のメールラリーがとても好き。糸が繋がりそうな期待と不安の入り交じる高揚感を、主人公と共にドキドキしながら味わいました。どんな返信がくるのか、ページをめくるのがたのしみでもあり、怖くもあり、物語の先を知るのが惜しくもあり。聴覚障害という展開は意外すぎてびっくりしたけど、わたしももしそんなことになったら、気の利かない人だなあとか思ってしまうんだろうと考えると情けない。そのくらい認識が薄いし馴染みもないし、やっぱり「自分の傷がいちばん痛い」、そういう人間だなあって。納得。有川作品を読むのははじめてだったけど、障害を持つひとみの想い然り、伸の包容力然り(彼は人間が出来すぎている気がしてちょっとこわい)、自分の考えの及ばないことがたくさん出てきて圧倒されてしまいました。なので後半は少し置いてきぼり感あり。サブタイトル「world of delight」は気になっていたので疑問が解けてよかったです。

  • 聴力に障害が無ければ、情けなんていらないのにね。文だけなら、分からなかったのに。知らなかったのに。
    補聴器は、標ですか?小さいものが出ている現状より、補聴器の存在がどういうものか分かります。
    「考える」ことを課題にしてくれるレインツリーの国。毬江ちゃんは、どんな想いで手に取ったのでしょう。

  • 有川さんという作家を知らずにジャケ借りした1冊でしたが、とってもよかったです。

    健聴者と聴覚障害者という2人の恋愛小説だけど、そういう条件一切ナシにしても、恋愛の難しさとか人との関わりとかが率直でリアルに書かれているので面白い。
    いろいろ考えさせてもらえる恋愛小説でした。

    伸が2通目のメールを1日「寝かせて」送信するあたり、そういう計算しちゃうとこが妙に共感できたのも、一気に読み進められちゃった要因かも。

  • 図書館戦争を読んだのはお勤めしてた頃やから、三年前やっけ??
    その中に同タイトルの本が出てくるけど、完全に忘れてました。

    思い入れのある本のレビューをきっかけに、メールでやり取り→実際に会ってデート…って展開。

    目次の「…重量オーバーだったんですね」から、会ってみたら関取系?と早合点したけど、まるで勘違いでした。

    所々、読んでて恥ずかしくなるくらい、くさい表現も出てくるけど、それがまた効果を生んでるのかも。

    自分を健聴者と意識したことはなかったけど、考えさせられた。

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著者プロフィール

高知県生まれ。2004年『塩の街』で「電撃小説大賞」大賞を受賞し、デビュー。同作と『空の中』『海の底』の「自衛隊』3部作、その他、「図書館戦争」シリーズをはじめ、『阪急電車』『旅猫リポート』『明日の子供たち』『アンマーとぼくら』等がある。

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