夢の泪

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著者 : 井上ひさし
  • 新潮社 (2004年7月17日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103023296

夢の泪の感想・レビュー・書評

  • 昭和史の暗部を摘出する戯曲シリーズ第2作。
     1928年のパリ不戦条約に遡る歴史的文脈を探り、また敗戦時に大量の公文書を焼却することによって、戦争犯罪を秘匿しょうとした日本政府と軍部を描写し、更に焼却出来なかった公文書を押収して、自国に有利なもののみを裁判に利用しようとした米国、という時代を活写諷刺する。
     劇中歌、「酒のしずくは夢の泪」ほか10。

    以下《Play of the Month》http://performingarts.jp/J/play/0701/2.htmlによる。
     敗戦のあくる年4月。伊藤菊治と妻・秋子は、空襲を免れた新橋のビルで弁護士事務所を営んでいた。法律を勉強するスイトン屋の青年・田中正を助手として雇ったところへ、「丘の上の桜の木」(または「丘の桜」)は自分の曲だと互いに争うナンシー岡本とチェリー冨士山という二人のクラブ歌手がやってきたため、早速、正が調査をしに出かけて行く。

     秋子と菊治は、東京裁判の被告人の一人、松岡洋右の弁護を引き受けることになった。秋子は、松岡の締結した三国同盟からはじめて無罪を証明しようとするのだが、父の代からの知りあい弁護士竹山に、アメリカはもっとさかのぼってパリ不戦条約から追求するに違いないと指摘されてしまう。満州事変、上海総攻撃、国際連盟脱退、第二次上海事変と、そこからの日本は条約違反を繰り返していたのだ。

     菊治たちは、被告人からも国からも、一銭の弁護料も出ないことを知り、街頭で市民たちからカンパを募りはじめる。しかし、連合国総司令部の法務官・ビル小笠原から国民が裁判に関心をもつと困ると街頭募金を禁止される。変に国民が裁判に関心を持つと、天皇の戦争責任に国民の目が向いてしまう。天皇は裁かない。そう結論が出ているのだと小笠原はいう。弁護料はアメリカ法務局から支給されることが決まるのだが、秋子は検察側の国から弁護料をもらうことについての矛盾を禁じ得ない。

     同じ頃、日本人闇市のうしろにいるやくざの尾形組と、朝鮮人闇市を仕切る片岡組の新橋周辺を巡るなわばり争いが激化する中、片岡組を背負う片岡健が、秋子の連れ子である永子に、尾形組の味方ばかりする警察を訴えたいのだがと相談を持ちかける。しかし、秋子・菊治・竹山の三人に、今はじっと我慢するしかないと言われ、健は、自分たちも含め、辛酸をなめさせられている国民は日本から「捨てられた」のだと吐き捨てる。

     正の元に再びやってきたナンシーとチェリーは、入院中の両者の夫は偶然にも同じ部隊の所属であり、作曲家だった小檜山中尉からその曲をもらったのだと告げる。その部隊は広島の原爆投下直後の後始末にかり出された隊で、小檜山中尉も体調の不良を訴えて入院中であるという。

     小笠原の執務室を訪れた永子は、私たちは捨てられたのでしょうかと尋ねる。小笠原は、私たちも同じ思いを味わったと、日系人がアメリカで経験した差別と偏見について話しはじめる。法律に従わなければならない以上、いい加減な法律を作らせないために、「市民が議員を監視しつづける」必要があるとも訴える。

     無罪を立証するための書類を探しまわった秋子は、敗戦間際に重要書類がことごとく消却され、残ったものもアメリカ軍によって持ち去られていることを知り愕然とする。折もおり、事務所に電話が入り、松岡被告が明日をも知れぬ重病で、弁護スタッフは解散と知らされる。

     組同士の抗争で傷を負った健の見舞いから帰ってきた永子は、「連合国に……というかひとさまに裁いてもらっても仕方がないんじゃないかしら/……わたしたちが、わたしたちを……/日本人のことは、日本人が考えて、始末をつける。……捨てられたはずのわたしたちが、わたしたちを捨てた偉い人たちと、いま、いっしょになって逃げてい... 続きを読む

  • 終戦のあくる年、東京裁判の被告弁護を引き受けることになった弁護士事務所の一騒動を描いた戯曲。敗戦と日本人について考えさせられる作品をエンターテイメント性を失わずに描くことのできる井上ひさしのような作家は、これからそうは出てこないのかも。

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夢の泪の作品紹介

焼け野原の東京で、A級戦犯容疑・松岡洋右被告の弁護人は、日本の未来のために大車輪!東京裁判とは何だったのか?東京裁判の真実に迫る傑作戯曲。

夢の泪はこんな本です

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