63年も前の本。イギリスのボーイソプラノ合唱団Liberaが歌う「彼方の光」という美しい曲を今度演奏することになり、2006年のNHKドラマ「氷壁」の主題歌として作られた曲ということで、ドラマは観たことが無かったのでその原作はどんなだろうと興味を持って読んでみた。
山を愛する魚津と小坂という2人の男が中心となって話は進む。2人で雪山登山中にナイロン・ザイルが切れて滑落した小坂は亡くなってしまい、失意の中日常に戻った魚津は切れるはずのないナイロン・ザイルが何故切れたのかという追究を始める。行われた再現実験ではザイルは切れず、世間では2人の技術的な問題があったかどちらかが故意に切ったという憶測が広がる。雪解けシーズンを迎え遺体を収容してみると、ザイルは故意に切られたものではないということが分かった。ではなぜ切れたかということは判然としないまま夏になり、1人で事故後初めての登山をして、降りたところで事故後親しい仲になっていた小坂の妹かおると落ち合う計画を立てた。しかし予定を過ぎても魚津が姿を現す気配はなく、捜索したところ遭難して亡くなっていた。
登山用語など全然知らないので雰囲気で読み進めたところもあったけど、500頁超ずっと引き込まれるものがあった。ハッピーエンドではなく結局短期間のうちに2人も亡くなってしまうし、ザイルはなぜ切れたのか分からないままだし、物語に関わってくる2人の女性が握っているものもとても大きいのではと勘ぐらせる終わり方。「もしかして美那子がすべての厄の元なのでは?!」とか思ったり。そういうことや季節に応じた山の描写含め、とても想像力を掻きたてられる物語だった。63年も前の本だけあって、夫を立てる妻や男女の立場の描写などには流石に時代を感じた。
登場人物で一番いいなと思ったのは魚津の上司の常盤。豪胆だけど人を信じるということにおいて強靭な信念を持っている。無条件に自分を信じてくれる上司のもとで働けたのは魚津も幸せだっただろうと思う。