親鸞「四つの謎」を解く

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103030249

作品紹介・あらすじ

見捨てられた伝承の中に聖人の真の姿があった――親鸞像の定説を覆す長編力作! タブーを破り妻帯したのはなぜか?「悪人正機説」の悪の自覚はいつ生まれたのか? 晩年に到った悟り「等正覚」とは?――中学生で手にした『歎異抄』以来、常に著者の心の糧であり続けた親鸞。だが近づけば近づくほどいつも撥ね返されてしまう四つの謎。聖人が亡くなったのと同じ齢九十になり、今こそその真の「教え」に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 著者90歳にして親鸞が生きた90年と並んだということで、記念碑的著作。たしかに若い頃にはない90歳的くどさはみられるものの、やはりハズレなし。論点は4つで出家、法然門下、結婚、悪の自覚。内容全てに大賛成とまでは言えなかったが4つともに梅原論はよくわかるし、概ね大納得できる。一番読み応えがあったのは「二種廻向」について。どの作者のどの親鸞本を読んでもやはりとても人間的でフィロソフィカルな学者としての親鸞を感じる。確かに当時としては本当に画期的というか凄まじく突飛な考え方だっただろうと思います。というか、今、私が考えてもやっぱりどうも聖職者の肉食女犯というのがねぇ、、現代はグレーゾーンですが、宗教的に男女平等に救済されることと聖職者が妻帯/夫帯することが繋がらないです。別と感じられてならない。それだけによけいに親鸞に興味がわくのかもしれない。写真も美しくとても臨場感あって良い。

  • 説得力あるが疑問符も あたりまえか

  • 元々父の実家が鹿児島県の浄土真宗の寺でしたし、昨年五木寛之の「親鸞」の第1部を読んだこともあって、親鸞に興味を覚えたところ、新聞でこの本の書評を見ておもしろそうだと思ったので早速読んでみました。
    作者の言う「四つの謎」とは「なぜわずか9歳で出家したのか」「なぜ比叡山を下りて法然門下となったのか」「なぜ妻帯したのか」「なぜ悪人正機説をあれほど強く主張したのか」で、たしかにどれも興味深い問題です。で、これに対して、従来の学説では「俗説」とされていたことが、実は真実ではなかったかとして、その「論証」を行って解き明かしていくという、歴史ミステリー的な展開がされていて、読んでいて非常におもしろかったです。
    内容の真偽については、もちろん僕には判断できる知識はありませんが、たとえこれが必ずしも真実ではなかったとしても、単純に歴史ミステリーとして読んでおもしろい本であることは間違いありません。

  • 90歳の梅原猛の渾身の一冊.親鸞はなぜ出家したのか?なぜ結婚したのか?などという素朴な疑問を本願寺派からは一顧だにされなかった資料も含めて考察する.くっきりとした親鸞像が浮かび上がるが法然、九条兼実など周辺の人物や時代背景もよくわかって学術的な読み物であるにもかかわらず楽しく読める.

  •  「芸術新潮」2014年3月号特集「梅原猛が解き明かす親鸞の謎」をベースに大幅に加筆されたもの。
     巷に溢れる親鸞に関する書物は、実証主義により認められた文書だけを元にしており、これだけでは親鸞をめぐる多くの謎を解明するには不十分だとして、これまでは偽書として顧みられることのなかった『親鸞聖人正明伝』(親鸞の玄孫である存覚の記したとされる文書)を中心に据えて考察をしている。実証主義にとらわれることなく様々な関連文書を読み込み、親鸞ゆかりの地を巡るフィールドワークも行った上で、研究者としての鋭い洞察力・推理力も駆使して、謎に迫っている。これにより、「聖人」として崇められる存在であった親鸞が、苦悩する「人間親鸞」としてあぶり出されている。
     著者が四つの謎を次々と解き明かしていく過程を読み進めていると、ミステリーを読んでいるかのような錯覚に陥る。

     第一の謎、親鸞はなぜ出家したのか。親鸞は源頼朝の甥に当たるという説を踏まえ、父日野有範の子が嫡男をはじめ出家していることなどから、平家から子どもの身を守るために出家させたという結論に至る。
     第二の謎、親鸞はなぜ比叡山を下りて法然に入門したのか。時の政治や権力に左右される師慈円や比叡山のあり方に疑問を感じていた時に、親鸞の見た二つの夢告がきっかけだったとする。
     第三の謎、親鸞はなぜ結婚したのか。定説となっている恵信尼は、実は二番目の妻だったという。親鸞の最初の妻は、九条兼実の娘玉日であり、しかも、この結婚は九条兼実と法然の強い勧めによるものだったとし、この結婚に際しても第三の夢告(女犯偈)が後押ししたとしている。
     第四の謎、親鸞はなぜ悪にこだわり続けたのか。祖父にあたる源義朝が、保元の乱の後、父為義を殺したという史実を踏まえた上で、このことがその後の思想形成に大きな影響を与えたのではないかと推論している。

     著者は、最後に、親鸞の思想の根幹ともいえる「二種廻向」(往相廻向、還相廻向)について言及している。往相廻向とは、穢土から浄土へと向かうことをいい、還相廻向とはいったん浄土へと往生した後で再び穢土へと還ることを指す。この二種廻向にこそ親鸞の思想の核心があることは、すでに吉本隆明が『最後の親鸞』で触れている。梅原は、過去から現在そして未来へと繋がる生命の連続性・永遠性を意味しているとしている。一方の吉本は、この概念を軸に、知的上昇過程(往相)は単なる自然過程に過ぎないとして、大衆の原像を繰り込む思想形成(還相)の重要性について論じている。
     どうやら私も、この二人の考えに触発されたらしい。親鸞の二種廻向について、今存在することの奇跡の自覚を「往相」とし、それに対する返礼としての贈与を「還相」と捉えることができないか、などと思いを巡らしている。

  • いろいろな文献にあたり、丁寧に読み込まれ、訪れた寺や史跡などの写真も掲載されていて、難しいながらもわかりやすかったし、推理小説を読むようなわくわく感もあり非常に面白かった。

  • いやあ、本願寺の嘘がバレたなあ。

  • 平成26年12月13日に久しぶりに著者の講演を聴けることになった。それまでには読んでおきたい。

    並行してといえば西川照子氏の随伴取材記である『幻の、京都』(光村推古書院)を読んでいるが、今回の取材も親鸞の足跡を追って回ったのだろう。

    著者にとって親鸞の四つのことが分からないという。
    1.出家の謎
    2.親鸞が法然門下に入門した謎
    3.親鸞の結婚の謎
    4.親鸞の悪の自覚の謎

    1.なぜ親鸞は出家しなければならなかったのか?

    親鸞の曾孫の覚如が著した『親鸞伝絵』によれば「興法の因うちにきざし、利生の縁ほかに催ししによりて」9歳で出家したとあるが、それ以上の説明がない。

    父の日野有範は貴族であるにも関わらず、長男の親鸞以外の全ての兄弟が出家している。異常なことではないか!

    その死んだとされる有範卿が実は生きていた。いったいどういう事情がそこにあったのか?

    2.なぜ親鸞は比叡山での修行を止めて、法然に入門したのか?

    慈円のもとで二十年間修行し仏教界での出世が約束されていたであろう親鸞がなぜ乞食坊主同然の法然のもとに入門するに至ったのかということが強く問われてこなかった。


    3.なぜ親鸞だけが結婚することを公然と表明したのか?

    釈迦以来のもっとも重要な仏教の戒律を否定した浄土真宗は、果たして仏教といえるのであろうか。

    「実は親鸞の結婚について、一つの根強い伝承があるのである。それは、正式な妻として多くの研究者にも認められている恵信尼の前に、もう一人の妻として、九条兼実の娘、玉日(たまひ)という女性が存在したということである。」

    定説との違いは存覚の『親鸞聖人正明伝』の扱いである。偽書とみるか、真実を含むとみるか。

    4.「悪の自覚の謎」とは、親鸞が自らを大悪人と同一視するほどに、「悪」すなわち罪悪感を自覚していたことに関する疑問である。」

    五逆の罪を犯したものは救われない。父母殺しの阿闍世を救おうとして親鸞は教行信書の信の巻を書いている。

    教行信書は挫折したので親鸞の執拗さを言われても分からないが、「悪」の自覚が強過ぎないかと思う。どうして「悪」の自覚がこのように強いのか?

    さて、本論をこれからゆっくり見ていこう。

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著者プロフィール

哲学者。『隠された十字架』『水底の歌』で、それぞれ毎日出版文化賞、大佛次郎賞を受賞。縄文時代から近代までを視野に収め、文学・歴史・宗教等を包括して日本文化の深層を解明する〈梅原日本学〉を確立の後、能を研究。

「2016年 『世阿弥を学び、世阿弥に学ぶ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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