苦役列車

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著者 : 西村賢太
  • ¥ 1,296
  • 新潮社 (2011年1月26日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (147ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103032328

苦役列車の感想・レビュー・書評

  • 「苦役列車」
     生来身についた人の怠惰や緩慢といった醜い性質は、井戸に差し込む光のような友人との邂逅があったとしても変わることはないのかもしれない。その人をその人たらしめる核となった性質が、簡単に洗い落とせるわけもなく、一度改心させるような出来事があったとしても、それが過ぎてしまえばまた元どおりになる。
     主人公の貫太は日雇い労働で日銭を稼ぎ、なんとか空虚な日々をつなぎとめる中卒の青年だった。彼が怠惰な性格を持ち合わせたのも、幼少期に父が性犯罪で逮捕されたことから環境が変わり、いろいろなことがねじ曲がってしまったことによる。
     人足仕事に出ても誰とも関わらず、家に帰ればひとり酒を啜り、自慰に耽る日々であったが、日下部という専門学校に通う男と出会うことで日常に変化が訪れる。荷役労働へと向かうバスでたまたま隣り合い、そこからお互いに話すようになった。今まで人との関わりがなかった貫太にとって、それは自らの人生においても、自分を満たしてくれる尊い時間であった。それからも意気投合し、日雇い労働が終われば飲み合うような仲にまで発展していく。
     しかし、日下部に彼女ができてから、その掛け値なしの日々にも暗雲が立ち込める。日下部の彼女から女を紹介してもらおうとふたりを野球に誘い、その後3人で酒の席へと向かったのだが、どうも貫太は会話に入ることができない。インテリ染みた話をするふたりに入り込むことができなかったのだ。そのことに腹を立て、自分はどうもバカにされているらしいと思い、怒鳴りちらしてしまう。
     その後は日下部とも飲みに行くことはなくなり、人足仕事もクビになってしまう。貫太は日銭を稼ぐ術もなくなり、途方にくれるが、なんとかまた日々を繋ぎとめようと新たな人足仕事を探す。
     彼女と結婚もし、郵便局へと就職した日下部と、未だ人足仕事を続ける貫太。お互い意気投合した瞬間はあったものの、こうして成功と怠惰の対比されるような関係となってしまった。
     まるで終点の分からない苦役を続ける列車に乗り込んでしまった貫太はこれからどこへ向かうのだろうか。いや、どこへも向かうことはできないのだろう。人生の不条理さを嘆きつつも、貫太は片道切符で乗り込んだ列車から降りるともなく果てる人生に辿りつくのだろうか。

    「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」
     貫太はぎっくり腰を患ってしまった。いや、ぎっくり腰ではないのかもしれない。腰を痛めてから10日ほどは部屋を出ることもままならぬまま、部屋に横臥してそこから動けなかった。そんな辛く暗い日々の中でも、彼には縋るべく蜘蛛の糸が一筋垂れていた。それは川端康成文学賞の最終候補まで残っていることだった。これを受賞することができれば、名を広めることもできるし、何よりこの賞の性質から自分の作品が全うに評価されることへの期待もあった。
     なんとか街に出るまで回復した腰を引きずり、病院まで行った帰りに貫太は古本屋へと寄る。以前受賞した野間文芸賞のときからのジンクスである、かの賞に付けられている文豪の作品を見つけることができればその賞を受賞することができる、というものから川端康成の作品を探そうとする。幸運にも彼の作品は存在し、古本屋の安売りラックには置いていないような貴重な本も同じく見つけることができた。その本は堀木克三という文芸評論家のものであった。一時期は需要があった彼の批評も、吐いて捨てるように時代とともに切り捨てられた。貫太はその堀木のように自分もいつかは切り捨てられてしまうのだろうなと、自身の生活とオーバーラップさせて感慨に耽る。
     結局、彼は川端康成文学賞を取ることもなく、この作品は幕を閉じる。
     自身が認められることで何かを得たかった、という気持ちがありありと伝わってくる作品であった。自身の生み出した作品が世間で評判を得... 続きを読む

  • 文章が作者の云う「藤澤清造」の歿後弟子からか、古風で漢字、語句の意味が良く分からず辞書のお世話になってはじめてスッキリ。疲れましたよ。

  • 2編収録。図書館本。 65

  • ★想像通り★読んだのは表題作のみ。平成の私小説作家、日払いの作業員暮らし、ダイジェストに書かれたままの青年の屈折した思い。たとえ私小説のパロディとしても、想像の範疇を超えるものではなかった。でも、珍しいのが面白いのかな。

    20年ほど前、旅行先の札幌の大通公園で昼間寝転んでいたら、「仕事ないのか」と声をかけられたのを思い出した。汚い身なりだったからかな。行ってみればよかった。

  • 著者本人のエッセイなのかと思うくらい話にのめり込んだ。

  • まあまあですね
    賞を取るほどの作品じゃない
    3.1点

  • おもしろかった。貫多。読んでて嘘なくて清々しい。はじめちょっと読みずらかったけど、それをこえてから一気に読んだ。難しい漢字多い。言葉の表現おもしろい。西村さんの本をもっと読みたい。図書館で借りてきてから芥川賞って知った。映画にもなってるみたいだからTSUTAYA行ってこよう。森山未來くん主演。どんな貫多か映像で見てみたい。

  • 知り合いが「芥川賞なのに、すごくおもしろい」と紹介していた本。映画にもなったらしい。
    一ページ目の下ネタ(?)でだめかと思ったけれど、地の文は社会や他人への憎悪がひどいけれど、台詞が寅さんを思いださせる東京の下町弁。それがよかった。
    終わり方もひどいけれど、人生、ちゃんと生きようかなと思わせてくれる。
    一時間で読める量もちょうどよかった。

  • こういう救われない話は好きだなー。その先に何があるのかは分からないが、報われない中で必死に苦悩し、そのレベルでもがく主人公の姿っておどろおどろしくも清潔だ。清廉ですらある。汚い思想がこびりついた決して報われることのない人間性はもはや如何ともし難く、芥川賞受賞もなるほど頷ける。人間失格よりも表層でばたつく姿は、深海に沈殿していく大木に比べて幾分光のさす海面でばたつく雑魚のよう。だから共感しやすい。深い闇へと堕ちていくのに誘われてしまうよりも遥かに健康的だ。ドラッグ依存まではいかなくても、軽く健康を害する喫煙のよう。うまく比喩できないが、でもやっぱりこういう作品でも永く浸ると精神を病むのであろう。程々な塩梅が絶妙だ。

  • 漫画「デトロイト・メタル・シティ」に通ずるものを感じた。リア充爆発しろ的な。
    主人公はロクデナシだけど嫌いになれず。かといって好きにもなれず。
    読後は薄ら寒い寂寥感、諦念、虚しさが残りつつもどこかサッパリとしており不思議な感じ。

  • なるほど。これは自伝的要素も入っているのか? 現代小説で荒廃的な世界を見たのは久しぶり。

  • この本を読んでるとけだるさ、心の不潔感に包まれる。

  • 腰痛の記述あり

  • …普段はミステリばかり読んでいるものだからか、こういった作品を読むにはどうしても身構えてしまう。

    …うん、まあ、筆者の意図は伝わるし…、特にこれといった感想があるわけでも無いが、読んだことを後悔することもない。

    筆者について検索してみたところ、私小説中の私小説といった感じであるという点に興味が引かれた。古書店等で見かけることがあれば、他の作品も手に取ることになりそうな予感。


    ※いわゆる「文学」風な語り口(?)…国語の教科書に載せられる文学者達の文体のような…で、舞台は昭和50年代であるのに、ところどころで現代風な単語や言い回しが使われている点が気になった。時代考証はしっかりしましょう。
     ※デリヘル・・・1990年代半ば以降の言葉のはず
     ※ファクシミリ・・・一般的に実用化されたのは、や  はり90年代半ばくらいから
     ※コンパ・・・これも、ねえ…?

    ★3つ、7ポイント
    2014.08.04.図。

  • ■芥川賞とか知らずに、あー映画あったなぁと思ったあとで作家さんテレビで見たわ、と思って読んでみた。こんなに暗い話で映画どうなるんだろうなぁその日暮らしのそういう生き方もあることはあるんだろうなぁ。昭和だからできたというか、あれだけど。

  • ムズカシイ言葉 イッパイ。

  • 友人に勧められたがイマイチ何が面白いか分からなかった。ただ、立ち食いソバがやたら食べたくなったな。。

  • 西村賢太はメディアに出張っているからあまり好きではなく、小説も「どうせ大衆向けのサービス小説なのだろう」とタカをくくっていたが、これが存外に面白く、また批評性に富んでいたので悔しかった。
    自身でも言うように、これは「私小説のパロディ」となっていて、視点の置き所に注意を払って見てみると、それを感じることができる。
    単なる告白に終わらず、それをエンタメへと昇華させた西村氏は、太宰に薫陶を受けたと見える。

  • 正直に言うと「こんなものか」と言う感想。 作者を先にTVなどで見ていたからかもしれません。 単純にどうしようもない青年のどうしようもない人生。目先の事しか考えられず、他人と自分を比べてどうにか優位に立ちたいと思い相手を貶したり、逆に敵わないとなると卑屈になったり。 でも、どうしてだろう、何故だか放っておけない感じがするんですよね。 苦役列車というタイトルからもっと過酷な職業かと思ってたんで拍子抜けしたのかな。イメージが先行しすぎました。

  • 芥川賞という事で読む。私小説らしい。
    底辺の生活、プライド高く性格悪し。
    読んでいて何も残らなっかた。

  • 私小説。ここまで自分を晒す。小説家って大変そう。

  • 日雇い労働者の貫多の底辺の生活を描いている。日雇い先で日下部という専門学校生に会い、話をするようになったが、日下部は仕事をまじめにこなし倉庫番になったが、主人公は日下部と会ってから毎日働くようになったが、怠けて倉庫番ではなくなる。
    次第に二人の間に距離ができ、日下部は彼女がいて毎日が充実するが、主人公は相変わらずの生活を続け、日下部が結婚しても相変わらずのの日雇い労働者であるという話。

    暗い話だが、こうはなりたくないと思わせるものがあった。

  • ダメダメな人間ですが、親がその形成に少なからず関わっていること、言い訳を作らせてしまったことを、今の自分は肝に命じて生きていかないといけないなと思いました。寛太のような妄想?は自分にも少なからずあって、それでも生きるチャンスはたくさんあった。でもなかなか変えられない自分がいる。生きるのは苦役列車に乗っているようなものなんでしょうか。深く考えないようにしてますが。

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そんな名作25作品が、ざっくり10ページくらいの漫画で描かれています。
端折られた部分も多くありますが、名作のあらすじや雰囲気を知ることができます。
この漫画を読んで気になった作品は文庫本を読む、という読書も面白いのではないかと思います。

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