痴者の食卓

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103032373

作品紹介・あらすじ

このままでは本当に、いつか破滅の日がやってきてしまうに違いない。なぜ、カッとなると後先のことを考えず、女であろうが容赦せず、思うさまに怒りを爆発させてしまうのか――。同棲する恋人への暴言、暴行、燃えたぎる憤怒が鎮火した後の激しい後悔と罪悪感をも描く五篇。二度は戻れなかった生育地への、長年心の奥底に引っかかっていた残影を描く一篇。平成の無頼派真骨頂の最新私小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 主に同棲した秋恵との関係を書いた短編集。DVをする男の心理が理解できるかも。失いたくないのに性格が短気な主人公貫多。感受性が豊か過ぎるため(じゃなきゃ作家にはなれないけど)いちいち相手の言葉に隠された意味を探ってしまい怒りが爆発する。怒りにまかせて暴力を振るった後、謝り、二度としないと自制しようとするが同じことを繰り返す。確かに秋恵の言葉には人をカチンとさせる部分があるかもしれないがそれ以上に主人公は誰ともいっしょに住めないタイプだろう。西村さんの小説はその日暮らしをする男の生活がわかる。

  • 秋恵に対して爆発するまでの貫太の心の動きがよく分かる。秋恵からしたら貫太の怒りは理不尽でしかないということを、貫太自身理解したうえで、なお感情を抑えられない、そのこと自体を仕方のない事と諦めているところに、秋恵との破局の時がそう遠くないことを予感させる。

  • 図書館借り出し。
    秋恵もの。
    DVが激しい時期だね。

  •  西村賢太さんの作品を読んだ方ならもうお馴染み(あまり馴染みになりたくないのですがw)、これでもかというDV癖の描写。「痴者の食卓」、2015.7発行。人工降雨、下水に流した感傷、夢魔去りぬ、痴者の食卓、畜生の反省、微笑崩壊の6話。気のいい女性、6歳下の同棲相手、秋恵への北町貫太の一方的な暴言と暴行。打擲(ちょうちゃく)、足蹴、髪を掴んでの引きずり廻し。そして、いつも、あとから反省。その繰り返し。話の展開はともあれ、微笑崩壊で鶯谷の「信濃屋」が舞台になっていて、これは嬉しかったですw。

  • 尾道の図書館で読む。
    いつの間にか秋恵という女性と同棲している。「秋恵もの」と呼ばれているらしい。同じようなはなしでどれもいやなDV描写で終わる。続けて読むと胸焼けしそうでちびちびと読んだ。
    無職の暴力男とけなげな中年女の組み合わせというと、業田良家の『自虐の詩』を思い出させるが、読んでいる最中には、まったく思い浮かばなかった。なぜこんなにも違うのだろう。

  • 西村賢太の私小説作品には秋恵の存在がとても重要である。彼の作品の大半に登場する彼女。罵詈雑言、常に殴られ蹴られて、貫多の凶暴性の引き立て役にある。悲しいけど。
    極論、秋恵無しでは多くの物語も生まれなかっただろうし、もしかしたら彼がこれ程まで世に知れ渡る作家になることもなかったかもしれない。秋恵に感謝せい!

    そして先日、作者である西村賢太氏が急逝した。とても残念でならない。ご冥福をお祈りする。秋恵はきっと清々しているだろうけど。

  • またかーって感じの秋恵ものだが私小説ならではのリアリティが面白くついつい読んでしまう。

  • 相変わらずの素晴らしきマンネリ、北町貫多&秋恵シリーズ。2人のかみ合わない同居生活の中、寛多が自分勝手に憤怒して幕を引く短編集。内1作は小説家として成功した寛多、つまり現在の著者の身辺報告。

    寛多の爆発を誘発する起爆剤としては、金魚の飼育、古本店主との会話、居酒屋での外食などなど。毎回、これだけのネタを用意できる作者に感心。

    で、これらをきっかけに発生する理不尽な怒りを秋恵へのDVで発散させる寛多。フェミニストが読んだら卒倒しそうな展開ばかり。特にタイトル名の短編は非道すぎるが、それらを笑えるかが西村賢太作品を読み続けることができるかの登竜門だ。

  •  6編を収めた短編集。そのうち5編までが、いつもの「秋恵もの」。
     
     残り1編の「夢魔去りぬ」は、テレビ番組の企画で自分の母校(小学校)を訪問した顛末を綴ったもの。
     現在構想中らしい、自らの父親を描く長編の前準備にあたる作品のようだ。が、これだけを読んでも落語のまくらだけ聞かされるようなもので、とくに面白くない。

     5編ある「秋恵もの」も、全体に低調な印象。
     クライマックスで貫多が癇癪を爆発させ、DVに走るという構成は相変わらずだが、いつものユーモアは影を潜め、ただただ陰惨で後味の悪い“最低男小説”に堕してしまっている。

     「西村賢太の作品は、元々陰惨で後味の悪い“最低男小説”ではないか」と思う向きもあろうが、そうではない。『小銭を数える』あたりの作品は、最低男のDVを描きながらも、笑いがあり、不思議な哀切があったのだ。
     
     本書所収の「下水に流した感傷」は、『小銭を数える』所収の傑作「焼却炉行き赤ん坊」の直後の出来事が描かれたものだ。しかし、2作を読み比べてみると、「下水に流した感傷」のほうがガクッと作品のボルテージが落ちている。

     ネタを小出しにしてきた「秋恵もの」も、いよいよ限界だな――そう思わせる、過渡期の一冊。

     私は西村賢太の短編では、デビュー作「けがれなき酒のへど」がいちばん好きだ。あの作品のように、風俗行脚から生まれたエピソードを短編にしたほうが、まだしも面白いのではないか。

     もっとも、「けがれなき酒のへど」は、お気に入りのソープ嬢に大金をだまし取られた顛末を描いたものだから、いかな賢太といえども、あれほどドラマティックな体験はほかにないのかもしれないが……。

  • 西村氏の貫多シリーズは、秋恵との同棲以前以降とでその味わいが分かれるという私見。以前以降であれ、主人公の貫多の癇癪と自責の念の揺れ具合がなんとも味わい深いところではあるのだけど、伴侶的な存在の秋恵の存在により、それが絶妙に描かれる。その意味で秋恵が全編出てくる本作は当然五つ星。

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著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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