ぽっぺん

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 112
感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103034513

感想・レビュー・書評

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  • 後れ馳せながらこの著者の表現に出逢い、言葉の選び方にしみじみ、ああいいなぁ、と思った

  • 『台風一過の川原をぶらぶらめざし、とちゅうの踏切でとまる。ならんで待っている男の子は、おでこに熱さましの湿布を貼って、お母さんに巻きついている。あおあおうるんだ目玉ばかりが、せわしなく動く』-『ぐったり子ざる』

    久し振りに活字から離れた生活をする。その後で、また、石田千を読む。ああ活字って活きている字って書くんだなあ、というようなことを読みながら思う。言葉が緩やかなダンスを踊っている。あっちへいきこっちへもどり。こちらとの距離もついたり離れたり。そんなことを考えていたら、石田千のエッセイはまるで鮮度の良い刺身だなあ、とまたまた思考が寄り道する。

    特に、この一冊には比較的短い文章が収められていて、お刺身の盛り合わせのよう。とは言ってもスーパーで売っているパックではない。きちんとした板前さんのいるお店で頼む旬の盛り合わせ。解り易い石田千が並んでいるのをいいことに、ダンスのステップに酔って着地点が見えなくなるようなこともないまま、一つ一つ短めの文章を口に放り込む。丁寧な仕事ですねえ、と言いながら酒も飲む。

    しかしだからと言って、余りに次々に口へ運んでしまうと、舌が麻痺して味わいが薄くなる。たとえば、久しぶりの日本でちょっといいお店で頂くお刺身は、あまりの旨さにはっとなる。そして外国で、旨いうまい、と喜んで食べていたお刺身が如何に小さな幸せだったのかということが身に染みる。それでも箸がすすむうちに、最初の感慨は薄くなる。次第に特別な思いは沸かなくなる。いけないいけない、そんな風に味わってしまっては、と思い直す。

    ちょっとお酒を汲みながら、一つ一つゆっくりと味わう。じっくりとではなく、あくまで、ゆっくりと。ただ、それだけでよい。緩やかに言葉の後ろから感慨がついて来るのを待つ時間が欲しいだけ。せいぜい数時間もあれば読み終えてしまえる頁数を惜しむようにめくる。

    そうしてじわりと舌の上に広がる味わいを堪能する。ああ活きるって、水と舌、って書くんだなあ、解るわかる。そんな寄り道だらけの思考が楽しい。水と舌。やっぱりお刺身だものなあ。石田千のエッセイは、まさにそんな水と舌を喜ばせる文章だなあ、と思う。

  • あまりにも身近すぎて目に留めることなく過ぎてしまう諸々への思い入れや眼差しを強く感じることのできた1冊でした。最近の石田さんの文章は突き放したようなクールさを感じてちょっととっつきにくいなぁと思っていたので、この本に巡りあえてホッと一息ついた気分。ちょっと疲れていても文字を追ううちに染み込んでくる文章に憧れます。

  • エッセイというより、詩を読んでいるような感覚。独特のリズム。文章から伝わってくる温度がちょうどよい。家族の話しは、いつもどこかせつない。

  • 油断して読むと言葉の波にもっていかれてしまう。気合いを入れて共に波にのると心地いい。独特の文体。私は好きだ。

  • 初めて読んだ1冊目から、すっかりファンになってしまった、石田千さんの短編エッセイ集。
    ミステリーを読むことが多い中、人が死なないほっこりできる本である。
    この人の本は手元において、気が向くときにさっと手にとって読みたくなるような本なので、図書館の蔵書を制覇したら買ってみようと思っている。

  • 2013 1/19

  • 2011/06/27 どこを読んでも、住んでる場所がうらやましい。

  • よく文章を読まないと、前後の脈絡がすぐにわからなくなるので、丁寧に読むしかありません。
    作者が他の人だったらもっと細かく補足説明が入りそう。
    でもこの世界はなんとなく共感できる部分があります。
    他の著作も読んでみたく思いました。

  • 「ぽっぺん」とはビードロのこと。この南蛮渡来のガラスのおもちゃは、壊れやすそうなきゃしゃな外観とそのそこはかとない音の響きが、郷愁を感じさせるものである。あとがきの中に書かれた著者のひと言で、新年の季語とも知った。調べてみると、子供のおもちゃとしてではなく、その昔、一年の厄落としの意味でお正月に吹いたからということらしい。最後に置かれた著者の一句、「ふりむけば ぽっぺんうらやむ 子のまんま(金町)」が、この本の書かれた著者の子供時代をほうふつとさせる。さて、全部で49編のエッセイが4つのパートに分けて編集されたこのエッセイ集。いつもながらの昔の子供時代の思い出話に、食への興味、そして、時々の散策やら人との出会いが書き込められている。印象深い作品は数々あれど、「誰かと夜には音楽」をと題された最後のパートのタイトル作「ぽっぺん」はインパクト大。いかにも大人びた印象の著者が、実は生身の人間で赤裸々な感情を持っていることを「ぽっぺん」に託した一編は、これまでの殻を打ち破った一編。

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著者プロフィール

石田千(いしだ・せん)
福島県生まれ、東京都育ち。國學院大學文学部卒業。2001年、『大踏切書店のこと』で第1回古本小説大賞を受賞。「あめりかむら」、「きなりの雲」、「家へ」の各作品で、芥川賞候補。16年、『家へ』(講談社)にて第3回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。16年より東海大学文学部文芸創作学科教授。著書に『月と菓子パン』(新潮文庫)、『唄めぐり』(新潮社)、『ヲトメノイノリ』(筑摩書房)、『屋上がえり』(ちくま文庫)、『バスを待って』(小学館文庫)、『夜明けのラジオ』(講談社)、『からだとはなす、ことばとおどる』(白水社)、『窓辺のこと』(港の人)他多数があり、牧野伊三夫氏との共著に『月金帳』(港の人)がある。

「2022年 『箸もてば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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