マザーズ

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (457ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103045328

作品紹介・あらすじ

同じ保育園に子どもを預ける三人の若い母親たち-。家を出た夫と週末婚をつづけ、クスリに手を出しながらあやういバランスを保っている"作家のユカ"。密室育児に疲れ果て、乳児を虐待するようになる"主婦の涼子"。夫に心を残しながら、恋人の子を妊娠する"モデルの五月"。現代の母親が抱える孤独と焦燥、母であることの幸福を、作家がそのすべてを注いで描きだす、最高傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 登場人物を通して、私の母のことを思い、未来の私を思った。
    母親も一人の人間であることを忘れてはいけない。
    「母親」という言葉への固定概念によって孤独になったり、強いプレッシャーがかかってしまっている。ただ、その圧は周りからの影響よりも実は自分で自分の首を絞めていることの方が多いのかもしれない。
    自分の本質を受け入れて前に進むのも停滞するのも正解であり間違いでもある。でも自分にとって最適解だと解釈するのであれば、全てが正解なんだと三人の母親を見て感じた。

  • 容赦ない。身も蓋もなく徹底的だ。家族を持つこと、子を育むことがかくも露悪的に描かれる。やはり金原ひとみさんだ笑。
    何度も手にとっては、読むのを躊躇った「マザーズ」だが、出会えて本当によかった作品だ。

    作家、モデル、専業主婦という3人の母親たちがそれぞれの顔を持ち、保育園での出会いをきっかけに物語が進んでいく。
    三人三様であるようでいて、この母親たちはみな自分自身を嫌悪している。親との関係性、原家族の在り方(なにがしかの機能不全家族に育っている)、ドラッグやレイプの過去等が、彼女たちの造形を際立たせる。

    男女という二人が一つ屋根の下に暮らし、子を育む。当たり前のようでいて、容易くはない。女は妻となり、母となる。夫は妻の出産で父となることは女性に比べて難しく、母である女は男に嫌悪さえ抱く(私もそうだった!)。夫であることも疑う。

    母親たちの精神的な孤立や寂しさがこれでもかこれでもかと金原さんの筆で描かれ、改行もとても少ない。頁が怒りと絶望の文字でいっぱいだ。

    彼女たちの寂しさの叫びは、怒りや痛みに変容し、私も30年近く前の頼るべのなかった一人っきりの子育てを何度も思い出した。
    夜中の授乳、夜泣き、乳腺炎の痛み、中耳炎での通院等、私も大声も手も上げたこともあった。

    決して思い起こしたくないあの子育て。分かってもらえない寂しさ、苦しみと同じエネルギーの子どもの愛おしさ。相反する二つの方向の感情で、私もどうしてよいか分からなかった。

    頼れる存在がいないこと。
    助けてと言えない気質。
    どちらも他人事ではなく、3人の母親たちの不道徳とされる行為のなかに、寂しさを重ね、私も没入していく。

    暴力、不道徳、不義、裏切り、不実等々満載だが、「いけないんだ!」の先にある、私たちは生きることに何を求め、何に充たされるかを問うている気がする。

    「社会的な倫理と自分自身の倫理のはざまで、両方の正当性を公平に吟味して、その中で自分がどういう立場に立つべきかもと考えるべきだよ。」

    皆が当たり前のように手にしていること、出来ていることを誰もが自分もと願うものだ。だが、それが本当に自分を充たすものなのか。それさえ手にしていればと、すがっているだけかもしれない。

  • ドリーズルームという保育園に子供を通わせる同世代の母親3人の物語。
    作家であるユカは昔から手をつけていたドラッグを手放せない。
    モデルの五月は夫との不仲を抱え大学の非常勤講師である待澤と不倫。
    専業主婦の涼子は神経質な母と育児に無頓着な夫との間で育児の孤独を味わう。

    3人の誰もがみな、何かしらの問題を抱えそれを話せずに包みこみ隠し込み
    押し殺して日々の生活を送っているが
    少しずつ歪が生まれ、それが徐々に浸透してくる。

    全く異なるタイプの3人に共通するのは、孤独であるという事。
    自分のおなかから生み落とした、分身とも言える、自分に一番近しい存在があることで
    彼女たちは「母親」であり続ける。
    そのために多くの事を犠牲にして、言葉に出せずに、伝えられずに
    「母親」ではない本当の自分を殺して、孤独に苛まされる。

    母親であることの嬉しさ、幸福感、そして絶望と孤独。
    を苦しいまでに細かく細かく書き綴られている。

    ◇◇◇

    この本、全編を通して一貫しているのは「孤独」

    母親は子どもにとって神よりも絶対的な存在で
    いつもそこに変わりなく
    自分のすべてを
    ただただ丸ごと受け入れてもらえるものです。

    子どもはそれを無意識に認識します。
    社会は母親が子供にとってそういった存在であることを当然であり、
    それが出来ない母親は悪であると認識しています。

    そして母親はそれを完璧に一片の曇りもなくやり遂げなければいけないという認識をせざるを得ない環境にいて
    孤独にならない方がおかしいでしょう。

    この本はそういった孤独を本当に細かく伝わりやすく(伝わりすぎるくらいに)書かれています。


    育児だけではなくて女として人としての考え方にもはっとさせられる部分も多くて
    今回特に印象に残っている言葉は

    「(子宮を摘出した母がホルモンバランスのせいで鬱になった事から)男は、女が陥ったら鬱になるような状態で生きているのだ。
    女にあって、男にないものは、自分自身の胎内にありながら自分自身を大きく左右し、人生をも変えてしまう抗う事の出来ない絶対的な存在だ。
    女は成長過程で思いのままにならない体や現実を受け入れ、
    その条件下で生きていく術を身につけていくのに比べて、
    男は絶対的なものが自分の胎内ではなく外にあると思いこむから幻想を追い続けながら生きていくことが出来るんじゃないだろうか。」

    「理解できないものはとりあえず否定、という人たちを私は否定しない。
    理解できないものをとりあえず肯定しようとする人たちは偽善者だし、
    それは肯定を装った否定だ」

    まだまだあったけど、この二つを挙げます。

    とりあえず、この本はいつも自分が目をそ向けたい部分にばかり切り込みを入れてくるから心が苦しくなるし
    自分のいやしい部分が浮き彫りにさせられる。

    この本を読んで、どこにも心底共鳴できる部分がなかったとしたら
    その人は女神かそれとも自分の事を何も知らないんじゃないかなあと思う。

    そのくらいに女性の事が緻密に書かれてるんじゃないでしょうか。

    同時に、男性がこの本を読んだらどういう感想を持つんだろうと気になりました。
    もしこの本を読んで登場人物に不快感を持つだけだったとしたら
    きっと母親たちの孤独は今後も深まっていく気がして怖いですね。

  • 私はモデルでもないし作家でもないし、
    クスリもやらなければ不倫もしなかった。
    そして虐待も。

    だけど子供を2人育ててきた上で
    悩みにぶつかったり「なぜ私ばっかり」と思ったことも
    多々あった。
    ちっとも何も悩まずに苦しまずに子育てできる人って
    いるのかな。
    よく雑誌で素敵な奥さんライフを紹介している
    女優やモデルや素人さんがいるが
    あれはきっとうわべだけなのだ。
    みんな何かしらぶち当たっているはずなのだ、あの時期は。

    金原さんは残酷なことをズバズバと書く。
    もうここら辺で…と言うことをしない。
    たたみかけるような叩きつけるような長台詞が続く。

    読んだ後は疲れと重いため息。
    そして判らないでもない若い母親の苦しみ。

    これは是非「男性」に読んで欲しい。
    結婚を考えている男性とか、子供が出来る前の旦那さん。
    怖いけど読んで欲しいな。

  • 同じ保育園に子供を通わせている3人の母親の話。
    三人三様なかなか壮絶な話で、読んでいて結構しんどかった。
    でも、子供は可愛いく、母親は無条件の愛を注げるもの。そんな綺麗事だけでは語れない母親の苦しみが描かれていて、同じ母親として胸に迫るものがあった。

  • 何と言う小説だろうか。

    話の中に出てくるお母さんたち。
    自分にも身に覚えがあり過ぎて、不快感を感じた程。
    母親とは、そう孤独なものなんです。
    愛していると憎たらしいの間を毎日行き来して、
    自分はこんな母親で良いのだろうか、いやまだ大丈夫だ。と否定と肯定の繰り返し。

    ここまで生々しく突っ込んで母親の精神を描いた作者は物凄い繊細か鈍いかのどちらかだと思う。

    これは気持ちが浮上するのにしばらく時間がかかるぞ。

  • 文字が胸に入ってくる度、閉塞感で窒息死するかと思ったー。
    小説を読みながら手が震えて身体が硬直して、わなわなしたのは久しぶり。
    三人の女を生きて、私がぶっ壊れるかと思った。パーンするかと思った。
    それほど、本作で描かれる三人の女は私であり、どこにでもいる女であり、容易に想像できる未来の自分でもあったのだった。

    けれど勝手に悔しく感じちゃうのは、きっと思ったより多くの人がこの小説を本当の意味で受容し、許容し、理解するということがないだろうということだ。

    残念だけれど、育児は、そして母という生き物には、実際になって、しかもこうした苦しみを経験してみなければ本当には理解したといえないのだ、きっと。
    病気だって小さな悩みだって、その当事者になってみなければ分からないと言えるかもしれないが、育児というのはそれとはまた少し違うと思う。

    何故なら、多くの人の根底に「母は子を無条件に愛し、保護し、養育すべきであり、だから自分のことを優先したり自由を欲したりなど愚かなことであり、つーかそんな母親に育てられる子供マジ可哀想ありえない」というどこで植え付けられてしまったんだか分からないが、思ったより深くまで根付いている幻想が少なからずあるからだ。

    書かれている苦しみに顔を歪ませ、目を背けたくなり、胸を痛ませても、結婚出産未経験の女性や男性、結婚出産をしていても幻想の中で生きていけた人やその幻想を崇拝している人にとっては、それは分かった気になっているというだけで、どんなに痛ましさや苦しさに涙しても、心の奥深くにはそうして狂う母親たちに僅かでも嫌悪を覚え、軽蔑を滲ませた人がいるはずだ。
    特に涼子になどは、なんだこの女サイテーだなと引いてしまう人が思った以上にいる気がする。

    でもそれは当然のことなんだろう。
    遺伝子のせいなのか、メディアのせいなのか、私には到底分からないが、私たちには(もちろん全ての人にとは言わないが)前述したような幻想がいつしか根付いてしまっているのだし、実際弱者に暴力をふるう行為は最低だ。
    勿論育児や母親の在り方というものには色んな考え方を持っている人がいるし、何が正しいかは価値観の違いによって様々に変化する。
    普通はそうだ。

    でも、本作で描かれた子育てをする母の、全ての思考台詞が「全部、完璧に一寸の狂いもなく分かって受け止めて欲しい」という叫びなのだと私は感じた。
    だからこの小説の中に正しさは一つしかないんじゃないかと思う。
    それはひどくざっくばらんに言うけれど、育児には周囲の深い理解と手助けが必要だ、ということじゃないかなーと。
    ……うーん、難しいな、ほんとざっくばらんすぎで伝わっている気がまるでしない……!


    でだ(震え声)、つまり感想的に一番何が言いたいかってーと、その負のスパイラルが絶妙に描かれているんだよおおってことなのだ。
    分かって貰えないという絶望と、分かってるのに抜け出せない絶望とが合わさって最強に地獄なカクテルが出来上がってるのだ。
    悪酔いしまくりなのである。

    でもまさに「書ききった言い切った」と言わんばかりの文章に、こちらも思う存分悪酔いさせてもらって、なんかもう一周回って気持ちいい状態で昇天しているのであった。
    あんまりトランスしすぎて、ここはどこわたしは誰状態だけれども、だがそれがいい……!!


    本当のところはどうか、判然としないけれど、三人の女の中にひとみさんが散りばめられているような感覚がある。
    特にユカは小説家という設定なので、特にそれが強く感じられる。
    普段なら、そうして作家自身が色濃く反映されたことが読みとれる小説は苦手だ。
    けれど、これは作家が投影されればされるほど成功する稀有な小説と言えるような気がする。(私が作家という人種が大好きだというのも多分にあると思うが

    途中までは三人の中に均等にひとみさんを感じすぎて、どんなにバッググラウンドを書かれてもユカと涼子と五月の区別が全然つかなかったんだが、中盤を過ぎてからやっと三人それぞれににおいが出てきて、最後の方などにおい感じるだけで吐きそうなくらいにどっぷり浸からせてもらった。


    ああ、しかしひとみさんはいつの間にこんな場所まで行っていたんだ。
    ページを捲り、三人の女の言葉を思考を追う度に、そう思わずにいられなくなってしまった。
    当時、『蛇にピアス』のひとみさんの文章は、私には少し幼い感じがして、そのうえ自己を剥がして貼りつけるような投影方法で小説を構築していく彼女の文体に苦手意識があって、もうずっと手にしてこなかった。
    苦手意識というのは、飲み込まれてしまうんじゃないかという恐怖があるからだ。
    けれど、彼女がいつの間にか二児の母となったことを知り、放射能について言及しているのを目にしてから『マザーズ』はずっと気になっていて、今回やっと手にする機会を得た。

    私にはついAV嬢のブログとか手記とか、今にも自殺しちゃうんじゃないかとヒヤヒヤさせられるようなキャバ嬢のブログとか、売れてたアイドルが突然ヌードになる背景とかに勝手に色々かきたてられて夢中になってしまうところがあるのだが、ひとみさんの小説を読んでいると、どうもそうした気持ちになってしまっていけない。
    要望の二つ先のポーズを自分から曝け出す痛々しさが、かえって私の興味をそそり、目を奪うのだ。
    ああ、だから苦手なんだ、と思いながらも没頭させてもらった。
    そして案の定、彼女の起こす奔流に押し流され、訳の分からない場所まで吹っ飛ばされた。
    私はその間、子を持つ三人の女になった。
    気が狂ってヤクに翻弄され、子をひどく虐待し、不倫して流産し、我が子を失った。
    そのあまりの激動した時間に、まだ眩暈がしている。
    一体いつになったら再び地に足がつくのだろうか!(嬉しい悲鳴


    あああちょっと後で絶対書き直すと思う。
    今は全然思うように感想なんか書けないいい。
    まだまだ全然吐きだし足りないお。
    超ちなみに私事だが、私は育児未経験だが今腹に子がおるので、ぜひ本作を夫に読んでもらいたいんだが、それは読書嫌いの夫の前では叶わぬ夢なので今から育児gkbrしている。
    でも本当に今読めて心から良かったー。

  • 前半リアリティが欠ける登場人物にくじけそうになったけど、虐待描写が出てきてからのめり込んだ。

    彼女のターンがかなり興味深かった。

    子供には恵まれず今後も産むつもりはないので、子育ての悩みはまるでわからないけど、私の周りのお母さん達は楽しそうに子育てしているし、会えば子供の話ばかりだから、子供の存在を忘れたいとか思う事もあるんだなとビックリした。

    笑顔の裏に友人にはおろか、家族にすら話せない悩みや葛藤があるんだと、周囲への見方がかわった。

  • 三人の母たちの全ての感情が、私の延長線上にある気がした。
    ほんの数年前、いくつもの負の感情が渦巻いていて、本当に苦しかった。
    本当は一番聞いてほしい相手、夫に、子どものように泣きわめいて、感情を吐露できたらな、と思うけど、難しい。
    読了後、なぜか清々しくて、私はがんばれる、と思った。

  • 今の私には大きく心が揺さぶられる本だった。
    3人の母の心情に、すごくリアルに共感した。
    でも、共感している時点で、私も、「母」に幸福感を抱けてないということなのだろう。
    とても気持ちが重くなる。全部読んで、すくわれるわけではない。正解が書かれているわけでもない。どこまでも見えないゴール。
    それを、希望ととるか、絶望ととるか。私は・・・

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

金原ひとみの作品

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