軽薄

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103045342

作品紹介・あらすじ

わたしは、軽薄の上に築き上げたすべてを差し出すだろう――。十代の終わりにストーカーと化した元恋人に刺された過去をもつカナ。だが二十九歳のいま、裕福な夫と幼い息子、充実した仕事を手にし、満たされた暮らしを送っていた。そこにアメリカから姉一家が帰国。すっかり大人びた未成年の甥に思いを寄せられる――。危うい甥との破滅的な関係。空虚の果てにある一筋の希望を描く渾身の長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • セックスと薬と酒にまみれた破滅的な生活から結婚を機に何不自由ない人も羨む安寧を一度のセックスで擲ってしまう。築いてきた関係性も積み重ねてきた言葉も行為も全て喪失する。行きつく先の想像のつかなさに途方もない気分が覆いかぶさる。ぽっかり心に穴が開いている感じ。自分の中から突き動かされるような衝動もない。愛しているのかどうなのかを確かめなければならないという衝動と、離婚することになったらという打算だけに突き動かされる。軽薄とは理由なのか結果なのか。

  • 人物描写が丁寧で好き。ストーリーが面白いかと言われれば特にいうことはないのだが、言葉選びが非常に好み。
    ハッとさせられるような一文を書いてくる。
    「生きれば生きるほど無価値な人間に成り下がっていく気がする」というのが自分の思っていることを代弁してくれているようで共感できた。ここまでストレートにマイナスな感情表現をする作家はあまりいない気がする。
    昔から作者の攻撃的な文章は好きだったが、今回は攻撃性よりも諦観が強く出ていて、読んでいて心地よかった。

  • 共感はできないけどおもしろかった。
    未成年の甥を自分好みの男性に仕立て上げようと、
    留学を執拗に勧めるカナの傲慢さが怖かった。
    軽薄というタイトルがぴったり。

  • 平成12年『マザーズ』以来の、金原ひとみ久々の長編。

    この『マザーズ』は紛れもない傑作だと思ったのだが、その後上梓された短編集2編が色々と微妙だったので、本作は個人的にはとても注目していた。

    実際本作は期待に違わず、主人公カナのある意味ドライな世界観を通して描かれる、リアルかつ緊迫感溢れる筆致は、流石だと認めざるを得ない。

    だがしかし終盤、物語が動き始めると、その筆致に乱れが感じられてしまったのは残念だ。

    特に最後の主人公の選択......ジャンル的には純文学なので、これはこれで十分に「あり」なのだが、前半のクールかつドライな世界観からするとやや唐突感は否めない。

    特にその決断の大きな判断要素の一つが、夫の不貞(疑い)というもの、純文的にはなんか『コレジャナイ』感が拭えないのである。

    それなしに主人公の最後の選択に納得感(共感である必要はない)を読者に与えることが出来たなら、何倍も豊かな純文小説になっていたと思う。

    そうすると、もしかしたら題名も『軽薄』ではなく、別のものになっていたかもしれない......と考えると、作者がこの作品で表現したかったものは、いったい何だったのか?......という、残念な結論になってしまった。

    次作に期待する。

  • 金原さんの言葉選びが好きだ。
    あのとき想った感情を言葉にしたらこうなるのか、と唸る。
    読んでいる間ずっと読んでいるよりドキュメンタリーとして見ているような感覚に陥る。
    破滅的で壊滅的で誰も幸せにならなくてそれが奇妙で奇っ怪ででもそこで人が生きている。

    主人公はやはり軽薄なんだろうか。
    彼女は能動的でそこに立っていたら夫と子供がやってきてその後甥っこの彼がやってきた。望まないのに勝手に手に入ったことになっていてそのどれにもこれといった愛も執着もない。手に入れたいわけではないものだから無くなってもへえ、と流せる。

    その様が軽薄に見えるかもしれない。頼みもしないのに手にしたものを大切にしろと言われてもそこまで思い入れもない。そうあしらう彼女は軽薄なのか。

    軽薄じゃない人なんているのだろうか。みんなそれなりに表向き誂えた仮面を被って暮らしているだけで仮面を脱いだ素顔とて素顔かもわからないというのに。
    腹の底で何を思い誰を憎み何を守ろうとしているかなんて、誰にもわかりはしない。

    今まさに愛してると告げたその彼ですら本当は何を考えているか、もっといえばちゃんと愛してくれているかもわからないのに人は嘘を付く生き物でその嘘はなんのためにつくのかもわからないけれど今目の前にいるこの人といたい、そう思う気持ちだけはまだきれいな気がするから身を委ねられる。そんな情愛がそこにあってそれはやはり軽薄な気がした。

  • 海外から帰ってきた姉の息子(甥)から
    熱情をぶつけられ
    関係を持ってしまう主人公。

    いやいや
    合法ですけど、甥か〜〜〜〜

    共依存だった若い頃の彼には刺され
    逃げた先の海外での生活

    スタイリストとしてモデルたちとの仕事

    そして甥とのただれた関係

    この人は安定した生活は向かないんだろう

    高スペックの夫と生活にも
    結局満足してないんだもんね
    子ども作らなきゃよかったのに

    物語としてはおもしろかったけど
    友だちだったら縁切ってるわ〜

    エッチの最中にかかってきた電話
    いつのまにか通話になってて
    しばらく聞かれてたシーンには
    血の気が引いた(笑)

  • 世の中の常識と言われるものが、
    2人だけの関係性の中では覆る。
    実際はいろんな関係性の中で人間関係は成立するけど、
    限定された関係性の中でしか芽生えない常識があるのかもしれない。
    狂気は正常に、罪は誠実になる瞬間がある。
    その関係から逃げることは軽薄になる。
    カナを刺した男との関係は熱情の中にあって、
    互いに殺し合いっても良いと思えるくらいの狂気が正常と思えるような関係性だったにも関わらず、
    常識を表面的に手に入れて狂気を避けたカナにとってはそれは異常なストーカーから向けられた偏愛へと変化する。
    それでもずっと心に抱えていた欠落は正確に狂気を感じ取って、無意識に弘斗を選んでいるようにも感じる。
    2人だけの世界になった時、狂気の中で拘束感と解放感が激しいほど感じ世界は鮮やかに彩る。

  • 暴力に引き寄せられる人の気持ちは全く理解できないけど、周りに意外とそういう人はいたりしてリアリティがありました。話を聞いてるとあーあと思うのですが何もしてあげられないもどかしい気持ちを読んでいて感じました。小説としては予想外の終わり方でしたが、現実は極めて現実的。
    まだ小さいこどもの存在感があまりにもおざなりなのが気になりました。

  • 著者名で図書館から借り、冒頭読んで、マジか。と呟いたが結局読んだ。
    気持ち悪いと思った反面、先が気になる好奇心が勝った。夜にボーっと読みたし。

  • すごい…もう終盤はよくわからない笑みを浮かべてしまった。いろんなベクトルで恐ろしい19歳の男性。

    金原さんの作品は何冊か読んでるけどこの本村上春樹っぽい。どんなところだろう言語化難しいけど比較的富裕層で丁寧な暮らししているところとか官能的なところとか恋愛感情というか性的なことに主軸を置いている(私にはそう見える)所とか。

    「気がついたら好きだった。だから多分、出会ったその日から好きだった」ってセリフとかも…遠回しでいろんな意味を含みセンチメンタルな雰囲気を漂わせてる所とかインテリ具合が村上春樹感ある。
    いっぱい読んでるわけでもないしファンでもないけど近しいなと思った。

    金原さんの言葉は相変わらず綺麗で洒落ていて時々毒を含んでる。時間をかけてゆっくり私は金原さんのファンになってる。だって次も読みたい。

    タイトル通りな内容だった。倫理的には許されないことだろうし冷めた目で見ればしょうもない話だし主人公もみっともなくて自立してるんだかしてないんだかよくわからず男性に振り回されすぎなのに依存してない所とか相反するものが入り乱れすぎてる。でもそんなところがリアルでよくある話だしこんな人多いよねって思える不思議。

    矛盾していて飛んでいて自分勝手なところが愛おしいのかもと思える。心がぐちゃぐちゃになる生々しさを感じる。なんだか好きになってしまう。

    幼い子供にグラフを見せて駄々こねることがいかに無駄かということを説いてなんで時間というものを把握できないのかイライラしている描写は笑ってしまった笑

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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