アナーキー・イン・ザ・JP

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103046325

感想・レビュー・書評

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  • 元祖「新人類」中森明夫による、「初の純文学作品」。
    「初の小説」ではない点に注意。中森は1980年代に青春小説の傑作『東京トンガリキッズ』や、一部で高い評価を得た『オシャレ泥棒』をものしているのだ。

    本作が版元が言うように「純文学」かどうかは、やや疑問。とくに前半のスラップスティックな展開は、純文学というより、『東京トンガリキッズ』の流れを汲むポップなエンタテインメントの趣である。

    現代のパンク少年の心にアナキスト大杉栄の霊が降りてきて、少年の身体を借りて21世紀の日本を体験する物語。アナーキズムという共通項が、パンク少年と大杉の霊を架橋するわけだ。

    この設定はすごく面白いと思うのだが、読んでみたら内容は期待したほどではなかった。
    まず、主人公のパンク少年や彼が憧れる美少女アイドルなど、登場人物のキャラクターが紋切り型にすぎる。

    少年がセックス・ピストルズのビデオを見て突然パンクに目覚める、なんて設定もひねりがなさすぎだし、雨宮処凛をモデルにした登場人物の名前が「天野カレン」だったりして、人物造型がいかにも安直(宮崎あおいがモデルの「宮崎やよい」なんてのも出てくる)。

    前半にはポップにはじける笑いの要素も強い。いっそのこと全編スラップスティック・コメディにしてしまえばよかったと思うのだが、後半になると妙にシリアスだったりセンチメンタルだったりして、物語がいろんな方向にとっちらかっている。

    中盤、主人公の兄(サブカル系売れっ子ライターという設定)と大杉の霊の対話などという形を借りて披露される中森流の大杉栄論は、たいへん面白い。だが、それは小説として面白いというより、小説に無理やり評論を接ぎ木したような面白さなのである。

    そもそも、本作を小説にする必然性があったのだろうか? いっそストレートに大杉栄論ないしは評伝として書いたほうが、中森の力量が発揮できた気がする。

  • セックス・ピストルズに魅力された17才の高校生シンジがなんとかシド・ウ゛ィシャスと対面しようと、霊媒師を訪れる。しかし、何かの手違いで、シド・ウ゛ィシャスではなく、大正時代のアナーキスト大杉栄が百年の時を越え、少年の脳内に取り憑いてしまう。大杉栄が見た百年後の日本は・・・。

    という荒唐無稽な小説である。話の運び方も荒っぽい。ツッコミどころが満載だ。

    例えば、主人公シンジの好きなアイドルの通称が、りんこりん、モデルは言わずと知れたあの人だ。モデルではなく、実名で、小泉純一郎、石原慎太郎、宮崎哲弥も登場する。フリーターやニート、ワーキングプアのデモ(雨宮処凛がよくやってるロスト・ジェネレーションを主体とした運動)の光景や、新宿のライブハウスの光景など、大杉栄が見た今の日本を描く為に登場するが、なんか、それらが上手くこの小説の盛り上がりになっていない。消化不良な感じである。現代を描く為にあれやこれやと詰め込みすぎ、メインのおかずはどれなんだ、という幕の内弁当状態である。

    しかし、俺のような、別冊宝島を読むような、なんちゃって共産趣味者(共産主義者ではないので、くれぐれも誤解なきようお願いします。「共産趣味者」という言葉は、ウィキペディアに項目があるので、興味がある方は、そちらへ) には、この小説内で語られる、実際の大杉栄のエピソードは、わかりやすかった。以前に竹中労の著作「断栄大杉栄」を読んだが、あまりにもきつかった。これに限らず、左翼系の本は、結構読みづらい印象がある(まあ、俺の国語力が低いのかもしれないが)。で、別冊宝島では、淡々と書かれているエピソードが、この小説では立体的に入ってくる。
    それと、大杉栄と交流があった、幸徳秋水、荒畑寒村、吉田大次郎などのエピソードや、大杉のそれらの人物へのメッセージや人物評は、楽しく読めた。
    大杉栄が見た現代より、大杉栄の回想がこの小説の一番の見所と思う。

    あまり出来がいいとは思わないが、なんか引っ掛かる小説であった。

    大杉栄は、関東大震災後の混迷の中、憲兵に捕まり、リンチされ殺害される。

    この小説を読む前から、俺はその事は、知っていた。しかし、この小説の結末が近づくにつれ、「殺さんでくれ」と悲しい気持ちになった。出来があんまりだ、といいつつも、俺は、この小説の中での大杉栄を好きになっていたのだった。

  •  イタコに頼んでシド・ヴィシャスを呼び出そうとしたパンク少年が大正のアナーキスト大杉栄に憑依されるという、なんともアクロバティクな展開のお話。
     妙に細かい描写と深みは無いが滲み出るパンク・スピリッツ。
     軽妙な語り口と馬鹿馬鹿しくも生真面目に飛躍する考察が面白い。
     そしてその蠢きの中に、サブカル世代がゼロ年代以降に襲われた違和感が詰まっているのだ。
     80年代の「言葉」が叩きつけられるラストの「うた」はバカっぽいが感動的でもあります。

  • 自分は後半から読むのが面倒になったけど一定のレベルのおもしろさはある作品だと思う。

  • 参考文献の数の多さ。中森明夫さんの言葉が大杉栄になり語られる。

  • 中森さんが、日本の初期(明治?)社会主義運動史をお勉強する過程にお付き合いしたって感じかな。おさらいになってちょうどよかったよ、印象悪くない。まじ『寒村自伝』とか松下竜一さんの『久さん伝』を読み返したくなったしね。

  • 毒気に当てられること必至の怪作。まさにタイトルどおりのアナーキーな展開で、読んでいる者の脳みそをひっかき回すに十分な作品だ。まず、驚くのは少年に取りつくという設定の「大杉栄」に関する著者の知識のべらぼうなことだ。著者はもちろんのことだけれど、担当編集者も膨大な作業をさせられたに違いない。巻末の参考文献の細かいポイント文字を見るだけで気が遠くなりそう。 著者のアイドル評論家としての知識も存分に生かされて、TVに登場する有名人たちもメッタ斬り。実名で登場させられる評論家の皆さんや文化人の方々はお気の毒さまだ。100年近く前に死んだはずの大杉栄の人間的魅力(女にもてることも含めて)と博識ぶりがたっぷりと披露され、その非業の死ゆえに「真のアナーキスト」として持ち上げられることへの苛立ちも語られる。過去何度かあった大杉ブームについて、彼がもてはやされる時代は夢が閉ざされた閉塞した時代だと看破するところには共感を覚える。 今しか通用しないポリティカルな話題や芸能人ネタもたくさん盛り込まれており、それがこの小説の賞味期限を短かくしてしまっていることが残念。最後が尻つぼみになりかけているけれど、この本のアナーキーな面白さに変わりはない。

著者プロフィール

1960年生まれ。作家・アイドル評論家。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』(新潮社)、『学校で愛するということ』(角川書店)、『アイドルにっぽん』(新潮社)など。

「2013年 『午前32時の能年玲奈』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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