青年のための読書クラブ

著者 :
  • 新潮社
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  • / ISBN・EAN: 9784103049517

感想・レビュー・書評

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  • 親に捨てられ親戚中をたらい回しにされ施設に入った僕が
    のちに音楽や文学や拳闘に出会い
    耽溺していったのは
    ごくごく自然で必然的な流れでした。
    どこにいても必ず自分は黒い羊だと感じたし、
    改めて何かから逸脱する必要もないくらい(笑)、
    初めから逸脱した存在でした。
    そんなバックボーンがあるからか、
    とにかくアウトローやはみ出し者たちの話に僕は滅法弱い(笑)

    本書はシスターのいるお嬢様学校が舞台なだけに
    今ハマってるクドカンのドラマ「ごめんね青春!」を嫌でも思い出してしまう内容ではあるけど(笑)、
    タイトルどうり
    本好きにはたまらない宝石のような魅力に満ちた作品です。


    東京は山の手にある伝統あるお嬢様学校「聖マリアナ学園」に晴れて入学した
    長身でノーブルな美貌を持つ
    高校一年の転校生、烏丸紅子(からすま・べにこ)。

    コテコテの大阪出身で庶民中の庶民である紅子の出現によって、
    ざわめきたつ良家の子女たち。
    気弱な紅子は美しい容姿を持つものの、隠しきれない庶民臭によって
    どこのクラブに行っても相手にしてもらえない。

    サムワンな友達を求め彼女が最後にたどり着いたのは
    旧校舎裏の崩れかけた赤煉瓦ビルに居を構える
    異形の少女たちの部屋、
    すなわち「読書クラブ」であった。
    やがて部長である妹尾アザミを参謀とした読書クラブ部員たちによる
    「紅子王子化計画」の幕が切って落とされる…。


    本書は学園の創設(1919年)から消滅(2019年)までの100年にかけて続いた、
    読書クラブの歴史と
    様々な時代のクラブ員たちの活躍を綴った
    壮大なる連作短編集です。

    学園の正史に残らない珍事件を
    読書クラブの面々が綴った暗黒のノートをもとに物語は進んでいくけど、
    “校内の異端者だけが集う「読書クラブ」”という設定だけで
    同じく異端者だった僕は俄然惹かれました。

    まるでダウンタウンの薄汚れたパブのようにブルーカラーの気配を漂わせ、
    生徒たちから忌み嫌われている読書クラブの逆襲が胸をすく。

    ある時は学園の王子に君臨し、
    ある時はロックスターに成り上がり、
    ある時は亡命者を匿い、
    ある時は「ブーゲンビリアの君」となり、
    少女たちを助ける姿なき英雄と化す、
    それぞれの時代に生きた
    そんな異形の者たちの痛みや活躍を
    時にシリアスに時にコミカルに
    時には感傷的に
    少女たちの冒険譚を見せてくれるのだから
    はみ出し者であった人ほど
    より共感できるストーリーなのです。


    中でも秀逸だったのは冒頭にあらすじを書いた
    第一章の「烏丸紅子恋愛事件」。

    この女子ばかりの学園では、
    恋愛はしたいが現実の男性には強い嫌悪感を抱くお嬢様な生徒たちのために 
    安全で華やかなスター、
    つまり毎年学園に一人、投票によ
    って 「ニセの男」を作り
    王子と呼んでいる制度があって、
    それを利用し、紅子は成り上がっていきます。

    髪を短くし、夜な夜なディスコやバーに出かけては
    不良少年の仕草をリサーチし、
    完成に近づいていく
    「青年・烏丸紅子」のサクセスストーリーは拍手喝采もの。

    しかしなんと言っても特筆すべきは
    学園一の才媛だけど、
    ゲスな親父がそのまま乙女の制服を着たような(笑)
    小太りの醜い女生徒で
    読書クラブ部長の高校二年生、
    妹尾アザミ(せのお)のニヒリストキャラ!


    自分の容姿にコンプレックスを抱き、
    紅子をスターダムにのし上げることに全精力を注ぎ込む姿は哀切きわまりないし、
    恋は人の容姿にするものか、
    それとも、詩情にするものなのか?
    というフランスの戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』をモチーフにしたテーマが
    深く深く胸に突き刺さります( >_<)


    他にもシェイクスピアの「マクベス」、
    ホーソンの「緋文字」、
    バロネス・オルツィの「紅はこべ」など様々な古典文学のストーリーをモチーフとして各話が構成されているのも巧みだし、
    読書家にはたまらない仕掛けなんじゃないかな。
    (読めば必ず元ネタが読みたくなります笑)

    それにしてもどんなに孤独であっても
    孤独を楽しみ、
    読書を通じてかけがえのない仲間と老後を過ごす
    読書クラブ員が本当にうらやましい。

    たおやかで
    か弱いだけではない 、
    少女たちが持つ悪意の魅力と
    内包する強さを描ききる桜庭さんのポテンシャルの高さにも
    毎回脱帽します。


    行儀のいい小説なんて
    面白くない。

    乙女よ(そして青年よ!)、永遠であれ。
    どんな時も反骨精神を持って
    常に逸脱した存在であれ。

    世がどれだけ変わろうとも、
    どぶ鼠の如く、走り続けよ。
    いつか砂塵となって消えるその日まで…。


    なおこの作品は全国の大学文芸サークルが
    「この1年に最も輝いていた本」を決める2012年度の「大学読書人大賞」にも選出されています。

    • kwosaさん
      円軌道の外さん

      前々から気にはなっていたのですが、この『青年のための読書クラブ』
      円軌道の外さんのレビューによって、僕の中で俄然輝き...
      円軌道の外さん

      前々から気にはなっていたのですが、この『青年のための読書クラブ』
      円軌道の外さんのレビューによって、僕の中で俄然輝きを放ち始めました。
      「お嬢様学校」という閉鎖空間に置ける100年にわたるサーガ的物語に心引かれます。
      なにかのインタビューで読んだのですが、桜庭一樹さんがこの小説を語る時に、バロネス・オルツィの『隅の老人の事件簿』を引き合いに出されていたのも気になりますね。

      そういえば桜庭一樹さんも傾倒する、皆川博子著『倒立する塔の殺人』はお読みになりましたか?
      あれも戦時下のミッションスクールが舞台で、格調高い耽美な物語に魅了されます。
      2014/11/22
    • 円軌道の外さん

      わぁ~い、ここにもkwosaさん発見!(笑)
      毎度毎度お返事遅くなってすいません!( >_<)

      あははは(笑)
      僕の暑苦しいレ...

      わぁ~い、ここにもkwosaさん発見!(笑)
      毎度毎度お返事遅くなってすいません!( >_<)

      あははは(笑)
      僕の暑苦しいレビューが何かの間違いだとしても
      万が一お役に立てたなら嬉しいです!(笑)

      そうなんです!何が面白いって
      桜庭さんの作品は古今東西のミステリーのオマージュや名作を引き合いに出した遊び心が散りばめられているので、
      kwosaさんのようなミステリー好きであればあるほど
      ニヤリとできる所なんです(笑)
      (筋金入りのミステリーマニアである桜庭さんだけに、僕のようなミステリー初心者はほとんど気付かないレベルだけど…)

      kwosaさん御指摘の
      『隅の老人の事件簿』も気になるなぁ~(‥;)

      皆川博子さんはブクログでも読んでらっしゃる方が多くて、
      こちらもめでたく
      『読みたいリスト』入りしました!

      はぁ~、1日が48時間くらいあれば 
      もっと本が読めるのになぁ~(;゜д゜)



      2015/04/14
  • 女子ばかりの学園。
    影の薄い生徒で形成されていている読書クラブ。
    学園ができるまでのお話、読書クラブが今まで歩んできた道のり、日常生活の中で繰り広げられる読書クラブ員が仕掛けた罠。

    漫画にしたら、さぞかし面白い作品なのではと思えるほど面白く、このまま本を読み終えてしまうのかと思うと残念すぎて、続編はないものかと思ってしまうほどはまってしまいました。

    でも好き嫌いが極端に別れてしまう本だと思います・・・。

    • kuroayameさん
      あやたーんっ、いつも素敵なコメントをいただきありがとうございます♪。
      ふにょーっ!!。あやたんがすでに購入済みとのことで、びっくりしました...
      あやたーんっ、いつも素敵なコメントをいただきありがとうございます♪。
      ふにょーっ!!。あやたんがすでに購入済みとのことで、びっくりしました♥。
      こんなに読みたいとか読んだとか、あやたんと選ぶものが同じとは、本当に運命を感じちゃいます(>・)。

      あやたんの本棚からGOSICKに出会い、それから桜庭さんの作品を読む機会が増えて、もう独特な世界がやみつきになってしまって、「女性版長野まゆみさん作品」みたいな今回の学園物となりますと、どっぷり浸かってしまいました♪。
      いつも素敵な本のご紹介をいただきありがとうございます♥。
      2012/12/29
    • sorairokujiraさん
      桜庭さんは、未読です。
      結構あちこちでおすすめされているものの、なかなかきっかけがつかめず、未読でしたが、kuroayameさんのレビューを...
      桜庭さんは、未読です。
      結構あちこちでおすすめされているものの、なかなかきっかけがつかめず、未読でしたが、kuroayameさんのレビューを見たら、読んでみたくなりました。
      本が来るまで楽しみです。
      2013/01/19
    • kuroayameさん
      sorairokujiraさん、いつもコメントをいただきありがとうございます(^з^)-☆。

      タイトルと本の表紙がどんぴしゃで私の好みでし...
      sorairokujiraさん、いつもコメントをいただきありがとうございます(^з^)-☆。

      タイトルと本の表紙がどんぴしゃで私の好みでしたので借りてみました\(^o^)/。

      レビューとかした調べなく手にしたので、ドキドキしながら読み始めたのですが、物語の世界観も私好みで、また新たに桜庭さん作品に触れるのが楽しみだと思いました♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪。
      2013/01/19
  • これは面白かった!
    登場人物の少女たちも魅力的だし、物語の構成も好き。
    読み終わってすがすがしい気持ちになる。

  • 正直に言うと桜庭一樹著の小説を読むのは初めてのことだったのでおっかなびっくりに読んでいた。
    砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けないの漫画を読んだことがあるだけでそれも相当昔の話だったから。
    この作家が書いたもののことはほとんど知らなかった。
    けど、桜庭一樹さんがどれほど読書狂であるかは読書日記というエッセイを読んでいたから知っていた。
    だからきっと面白い話を書いているはずだ!と図書館で視界に入った時に何か運命的なものを感じ取った。だから借りて読んだ。
    読んでいるうちに時に笑い、時にハラハラして、時に共感から涙した。
    これは面白い。この作家は面白い!
    私にばっちり印象付られた作品でした。

  • 惹かれたキーワード
    ・読書クラブ
    ・山の手のミッション系お嬢様学園

    独特な文体で描かれた連作短編集。

    この本の存在は知っていたけれど、
    なかなか手を出せなかった。

    予想に反して、かなり面白い。
    というかこの世界にどっぷり浸かった。
    最終章の疾走感と華麗な収束感が特に良かった。

    読んだ時期も良かったのかもしれない。
    次に読む時も、どっぷりハマりたい。
    装丁も個人的にとても好みだった。

  • 「青年のための」というタイトルなんですが、完全なる女子高校の中の話。
    女子校!
    私自身も女子校だったので(小学校から大学まで!)、女子校の独特の世界を知っています。
    この本の中の女子校は基本的にはお嬢様学校で、由緒正しい家柄の乙女たちの集団といった感じです。
    そんなお嬢様系の女子校で起こった珍事件を「読書クラブ」の部員がまとめたもの…という形式のストーリーでした。
    私の通っていた女子校は、家柄は由緒正しい人たちも多かったですが、けして「お嬢様系」の学校ではなく、私を代表するような活発なタイプの多い学校だったので、この本の中の学校と共通することなどなにもない? と思って読み進めていたのですが、女子校ならではのエピソードがたくさん出てきてニヤニヤしっぱなしでした。
    特に乙女ばかりの女子校に男勝りの子がいると「王子様」のような扱いになって、多くの乙女が目をハートにさせて追いかける様子とか(笑)(笑)
    アルアルアルーー
    (ちなみに私自身は男勝りだったのかは謎ですが、身長も高いし髪もずっと短いし、割と後輩にハートの目で追いかけられるタイプでした)

    第一話の、家柄の正しくない、途中から入ったちょっと臭くて皆に嫌われている女子を読書クラブの一員がみんなの「王子様」に仕立て上げていく話がツボでした。
    裏工作と、それにひっかかっていく乙女たちがおっかしいのなんの。

    一方、第二話ではその女子校を創立したフランス人の創立時のエピソードが綴られています。
    この話にはポロッと涙がこぼれました。
    なんと切ないのでしょう。

    三話、四話は乙女ばかりの学校に新しい時代の波が少しずつ入ってきて、不良っぽい子が巻き起こす事件と、乙女が豹変してロックスターになる事件について。

    そして五話では、第一話で登場した醜い容姿だけれど頭はとてもいい乙女が大人になった後の話が出てきていて考えさせられました。
    学生時代は容姿ばかりがもてはやされ、容姿の優れないものは目立ちもしなかったけれど、結局大人の世界に出たらやっぱり中身で勝負するべきなのでしょうね。


    一環して、「読書クラブ」のクラブ員は男言葉で話をしているので「青年のための」というタイトルになっています。
    乙女ばかりの女子校の中のはみ出し者たちの集団が男言葉を使って語っている様子は、女子校育ちの私にはとても納得するものがありました。

    アッパレ! 女子校!!

  • 乙女だらけの学園で、“異形”の少女たちが正史には残らない裏の学園史を書き綴る物語。
    物語は時系列順に並び、過去から少し未来へと繋がっていきます。

    幼等部からのエスカレーター式女学園ということがあり、女の子同士の友情や、いわゆるエスと呼ばれる関係が数多く出てきますが、女に囲まれて女に友情以上の感情を持つようになっても、所詮はひとりの小さな女の子なんだなぁと思いました。
    その小さな女の子が学園にもたらす数々の闇の歴史は、とてつもないものだったりもしましたが。
    変わらないものはないけれど、いつまでも夢を見ていたいのは、きっと誰もが同じだと思います。

  • 桜庭一樹に傾倒しております。おもしろすぎる!なにが?
    展開が!キャラが!語彙の使い方が!
    舞台はとある都内の女子校。時代を隔てて起こる名事件珍事件の数々。「カトリック系の一貫女子校」のイメージを膨らませて、作者が遊びに遊んだ小説なのかと。

  • おもしろい!1から5章のつながり、伏線回収も綺麗でわかりやすい。読みやすいし世界観に浸ってしまった。

  • 少女による少女と青年の物語というと語弊があるか、でも正しくその物語だった。最高女女ストーリー集。
    幼稚舎から高等部までの女子校という長く短い閉鎖的な世界で構築される少女たちの関係は、真っ直ぐで夢みがち、排他的で残酷な美しさと愚かさに満ちていた。その世界と時代に生きる一生懸命な生命の輝きだった。可愛い。
    81ページの引用フレーズが一章の紅子の生き様の補完になっていてよかった。
    全章良かったけど物語として好きなのは一章、関係性が好きなのは三章、好きな少女は決められなかった。なんやかんや紅子なのかもしれない。

著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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