交歓

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103069058

感想・レビュー・書評

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  • 桂子さんシリーズ四作品目、終わってしまったーーーーー。面白かった。どれも面白かったけど、なんだかんだ一番甘やかな(個人的意見)、本作が一番好きかもしれない。神様と美女のあれやそれが好きなので…・カバー装画はルドンの「裸婦」。今もARTIZON(旧ブリヂストン)美術館に所蔵されているやうなので、いつか見に行つてみたゐ。

    夫君である山田氏が亡くなり、ついに登場した入江晃氏!山田氏と同級ということで、入江さんの方が10も年上なのですね。このあと入江さんが政界入りして辞めるところまでも見てみたかったけど、それは蛇足ということで、この一冊の桂子さんと入江さんとの交歓で満足するべきということなのかな~~。入江さんは桂子さんシリーズのなかでは群を抜いて天才少年かつ太陽かつ神様という理想の男性そのものなので、うっとり…。慧くんはまだ弱いものねえ…

    以下好きだったところ
    入江さんの…クラシックの方の好みは、基本的に『中抜き』です。つまり十九世紀ロマン派抜きです。メッセージのある音楽は受け付けない、と宣言してゐたことがありましたね(p102)
    自分がロマン派中心みたいなところがあるので、痺れるゥ

    …このMJQの食卓での話題は桂子さんのところから出す予定の雑誌のことから出版業界のこと、メディア業界のこと、メットの最近の公演がつまらなかったこと、入江さんの反オペラ論、歌舞伎の話、フランスの某画家が歌舞伎と相撲の絵ばかりを描いてゐる話(中略)までとりとめもなく動きまはつたが、その下を通奏低音のやうに流れてゐるのはモダン・ジャズのことで…(p146)
    かっこよすぎる…憧れというかこういう時間過ごしてみたいすぎて痺れる…

    …実はぼくの方から、『さうなつたら桂子さんとぼくの間の関係はどうしますか。このままでいいですか』と訊いてみたものだ。『それは困つた質問です』といふのが入江さんの最初の反応だつた。『仮定法では考へたくありませんね。考へる必要が生じてから考へるとしませう。その時の結論次第ではあなたを抹殺しにいくかもしれない』といふのが入江さんの反応…(p168)
    し、痺れる…何年も前から桂子さんのこと狙っていながら踏み込めず、とはいえそんなこと言ってみちゃう入江晃推せる…なんといっても、
    …かなりの長身で、しひて言へば竹のやうな人である。蘇軾が「無肉令人瘦、無竹令人俗、人瘦尚可肥、士俗不可医」と言つたあの竹で、王徽之の言ふ「此君」である(p104)ですからね、倉橋由美子の「竹のやうな」は超褒め言葉という理解ですし、推せる…。それから、
    …入江さんのやうに桂子さんに向けて強力な光を発してくれる相手に出会つてみると、真夜中に突然太陽を見る思ひがした。相手が太陽である証拠には、桂子さんの方は太陽電池のやうに、会ふたびに充電が進むのを感じる…(p256)最高の男すぎん??
    (なおこのp167には「夢の通ひ路」で出てきたフルート奏者の南いつ子さんの話にも言及あり!ふふ)

    耕一くん関連だと、結局入江さんとの同盟関係が落ち着いた暁には、耕一君との秘密条約も双方の同意の元、破棄されたのだろうか。満智子さんが入江さんの愛人の一人になりたいと言ったのも…
    …この十八時間のことはほんとうにmerci!です。ほとんど、あの昔言つたことがある呪文をまた言ひたい位。言つてみませうか」「あれはもういいよ」と耕一君は照れて手を振つた…(p173)
    ここも「呪文」という言葉であえて明言されていないので、前作品を読んでいない人にはわからないだろうけれど、読んでいる人にはわかる、Je t'aimeという呪文…すべてを書かないこのスタイル、本当にかっこいい。

    また昨今スーパー・ノヴァ的な新人が生れないことに関して、どこが駄目で光らないのだろうかという問いに対しては、超編集長の嘉治さんと桂子さんの以下のやりとりには唸りつつ、大手を振って賛成でした。
    「星になつて光らうといふ志がないからでせう。最初から自分は並の人間だと決めてかかつてゐて、並の小説の枠の中で人より少しいいもの、変はつたものを書く、といふことしか考へてゐない。それで凡庸さの中に居座つて、実に素直に書いてゐる。この貧困さには耐へられない、とホランダーさんは言つてゐましたがね」「いつだつたか、内藤さんもおつしやつてゐましたね。近頃の文学青年、文学少女は文学的な育ちが悪い、いいものを余り食べてゐないらしい、贅沢を知らない、だから自分といふ材料を素直に出しさへすれば大人は喜んでくれる、といふ子供のレベルで書いてゐる、お手本なしに平気で書いてゐる、かういう文学的養分とも伝統の土壌とも関係のない作文は文学以前です、とか」「あの方も筋金入りの古典主義者ですから」と嘉治さんは笑つた。「学生の試験ならともかく、文学以前のものに相対評価で点数をつけてみても仕方がない、と匙を投げていらつしやる」(p179)
    これは書いてゐる人だけが言ふことを許されるやうな文章だなあ

    そして二人が甘やかに交歓するようになった後の描写も久しぶりに「憂国を全く春本として読み、一晩眠れなかった」という状態になりました。
    …家隆の「ながめつつ思ふもさびしひさかたの月の都の明け方の空」になるのは、歓を尽くしたあとの朝の桂子さんの半ば習慣のやうなものである(p242)
    …「あれで私は嬉しかつたの」…「怖かつたといふのは、私としては最大級の感激なんです。怪物でも半神でも半獣でもいい、とにかく普通の人間の男とは違ふ方のものになるといふ経験はこれが初めてですから…」「当初のシナリオでは、こちらは女神に奉仕する半獣神といつた役どころを務めるはずだつたんですがね」「それはそれで愉しさう。そちらでもいいし、何でもいいの。いささか自信を得たと言つたのは、もうどんなことでもやつていける、どんなにされても大丈夫、といふことなんです」(p246)
    ...「とにかく、今度の集まりでは、みなさんの前で踊つて見せてもいいだらう」「うまく踊れることを披露したい気持ち」「それなら照れないでやつてみやう」
    桂子さんがデレてるーーーーーかわいいーーーー

    …桂子さんは二階の入江さんの部屋に案内した。「特別室でございます」「高さうだね」「あとでもう一人押しかけますから、特別広い部屋をお取りしておきました。ではどうぞごゆつくり」「これは些少だが、取つておきたまへ」と言つて入江さんは桂子さんの唇にすばやく「心付け」を押し付けた…(p271)

    …その夜、シュンポシオンが終はつて人々が寝静まつた真夜中に、桂子さんは入江さんと大浴場に行つた。この前のやうに三島君が待ち伏せしてゐる気配はない。それに入江さんは誰かが入つてゐることを気にする様子もない。照明を暗くして、頭上に月と星を見ながら湯槽に体を沈めてゐると、昔、夫君とまだ小さかつた子供たち二人とでここに来てこの風呂に一緒に入つた時のことを思ひ出した。子供たちは桂子さんの乳房を湯に浮かぶ満月のやうに持ち上げて不思議さうに眺めた。同じやうなことを去年三島君がした。その記憶を混ぜ合はせながらぼんやりしてゐると、入江さんの腕が延びてきた。それは子供たちや三島君の場合とは違つて、いきなり桂子さんの後ろから回されてきてもつと強い力で二つの満月を捉へたのである。(p278) これで完!!

    ひょーーーーーーーーー入江晃ひょーーーーーーとなってました。↑には直接的な部分を抜粋しましたが、モダンジャズやら東西の絵画やら漢詩から和歌まで解するという前提でさらにこれができる竹のやうな男?太陽のやうな人間離れした男?それはまさに神様ですって…入江さんのあれやそれめちゃくちゃ読みたかった…

  • 昔、図書館で借りて読んだのだが、古本で見つけたので再読。桂子さんシリーズはぼ〜〜〜っと読むのに適してるなぁ。<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4062750198\" target=\"_blank\">よもつひらさか往還</a>のクラブも登場。       山田信(没) = 牧田桂子(40前) = 入江晃(後の総理)                └ 智子(16)                └ 貴                └ 優子慧(けい) 入江の孫。桂子との血の繋がりはない。よもつひらさか往還、<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4828822364\" target=\"_blank\">ポポイ</a>P150舞(まい) 入江の孫。桂子との血の繋がりはない。ポポイ

  • 桂子さん、やっぱかっこいいわ~
    何事にも動じないところがあこがれ。

著者プロフィール

1935年高知県生まれ。大学在学中に『パルタイ』でデビュー、翌年女流文学賞を受賞。62年田村俊子賞、78年に 『アマノン国往還記』で泉鏡花文学賞を受賞。2005年6月逝去。

「2012年 『完本 酔郷譚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

倉橋由美子の作品

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