ローマ人の物語 (6) パクス・ロマーナ

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103096153

作品紹介・あらすじ

天才カエサルの後を継いだ天才でない人物が、いかにして天才が到達できなかった目標に達したか-人々が見たいと欲する現実を見せるために、見たくない現実を直視しながら、静かに共和政を帝政へ移行させた初代皇帝アウグストゥス。ローマを安定拡大の軌道にのせるため、構造改革を実行し、「ローマによる平和」を実現したアウグストゥスの運命と意志の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 初代皇帝アウグストゥスの生涯が書かれています。
    カエサルの後継者でありながら、慎重で、戦いに弱く、才能よりも血にこだわるなど、カエサルとは異なるところが多かったようですが、カエサル以後のローマを平和に導いた功績は大きいと思われます。
    カエサル以後の割と平和な時代には、アウグストゥスのような人物がローマを率いたことはローマにとって良かったのではないでしょうか。
    アウグストゥスはカエサル程、才能には恵まれてはいませんでしたが、統治能力、慎重さ、平和裏に帝政へ移行する忍耐力等は優れており、自分に才能がないところは、アグリッパ、マエケナス2人の友に支えられながら、ローマを平和にしていきました。
    カエサルとはまた違った魅力を感じる人で、苦労した人生を見ると親近感が湧く人物でもあります。

  • カエサルとは対照的、地味で堅実なアウグストゥスの功績。カエサルの後継者選びの炯眼には驚かされる。

  • アクティウムの海戦にてアントニウス・クレオパトラの連合軍を打倒したアウグストゥスに権力が集中する一方、アウグストゥスは危機管理を忘れなかった。内乱期に獲得した特権を放棄し、共和政に帰す事を突如元老院議員の前で宣言したのである。特筆すべき特権は課税権を伴った「イタリア宣誓」であり、これは対アントニウス戦のために国家ローマのためにアウグストゥスを総司令官と定めた特別法であったからだった。
    チグリス・ユーフラテス川の両川を拠点とするパルティアの問題はオリエントの防衛にとって長らく無視できない重要な課題であった。初めて正面からぶつかったクラッススは無残な敗北を喫し、オクタヴィアヌスとの権力争いの中で自身のプレゼンス向上を図りたかったアントニウスも失敗ではないものの軍勢を削られる芳しくない結果に終わっている(どちらにも共通するのは自身の政治的な劣勢を覆す起死回生の一手としてパルティア遠征を活用している点が面白い)。パルティア問題は放置すればするだけ、東方の安定に影を落とすためカエサルであればアントニウスを打倒した直後にパルティア問題に着手していたであろうが、アウグストゥスはそうしなかった。3度目の失敗は取り返しのつかない事態に繋がることから、自身に軍才がないこと、右腕アグリッパも天才的司令官ではないことから軍事力での解決は絶対的な一手に欠けるというのが理由だと考えられる。着手は絶対権力者となってから10年後にパルティアの内紛(王の老齢化に伴い、王弟が政権簒奪を狙うが失敗する)に乗じてであった。この時、アルメニアは親パルティアの国であったが、アウグストゥスは義子ティベリウスに進軍させ、アルメニアの親ローマ化に成功する。パルティアは友国アルメニアの親ローマ化を受け自国の政情不安も重なってローマとの講和を結ぶこととなった。こうしてアウグストゥスは長年の問題であったパルティア問題を兵の損失なく解決したのであった。
    特有の事情からアウグストゥスの私有地としていたエジプトであるが、アウグストゥスは灌漑工事に着手すると共に土地の私有化を推し進める。自作農でないと生産性の向上にインセンティブが働かないからである。灌漑工事は成功するものの、古来より小作農が一般的であったエジプトで私有化は上手く進まず一部のみに留まったが、生産性は飛躍的に向上した。
    西方・東方の安定化にひと段落をつけたアウグストゥスはいよいよ、本国ローマの統治体制の改革に着手する。とはいえ、スッラ/カエサルの二の舞にならないようにであった。スッラは純血主義ともいえる形で元老院強化を推し進め、カエサルは統治体制の開国を図り反対派に暗殺された。アウグストゥスが着手したのは、ローマ市民権所有者全体の強化でった。統治改革の前提には、ローマ市民権所有者の質と量があると考えたからであった。内乱終結後のローマでは少子化が進んでおり、アウグストゥスは少子化対策として2つの法案(ユリウス二法:ザックリ独身だと税制面で不利になったり、不倫を公の罪にしたり、といった法案)を提出した。子供が産まれる産まれないは個人の特性にも依るため、子に恵まれなかったとしても税制面の不利が緩和された法案に修正され成立している。軍制改革にも着手した。パルティア問題が解決したことにより、ローマ軍の方針は「防衛」に限定された。パルティア以外の国境を接する国はどれも蛮族であり戦利品など期待できないからである。スッラ、ポンペイウス、カエサルのようにカリスマ性による軍の統制ではなく、システムにより統制されることが重要と考えた。常備軍の設立や、報酬の増額、退職金制度の設立、常備軍への兵役の年限など、数々の改革を行った。改革の中に、属州国民で構成される「補助兵」の正規兵化があり、除隊後はローマ市民権を付与するものであった。これは、防衛費の削減や自国は自分で守るという意識づけにも役立った(属州税だけ払えば防衛はローマがやってくれる、という意識は人間を堕落させるというのが古代の考えでもあった)。加えて、属州内での下層階級への失業対策や、「軍団兵(ローマ市民で構成)」と肩を並べて働くことによる文明化にも繋がった。

  • カエサルのカリスマ性を持った天才ではなかったが、偽善という性質は持っていたアウグストゥスが帝政を築き上げていく物語。自分が見たい現実しか見ない人間が多くいる中、アウグストゥスは見たくない現実も直視した。それ故、見たい現実しか見ない阿呆の相手をするには苦痛を伴ったが自己制御能力が抜群であったため、長時間かけて段階的に帝政を完成させていく。合法に見えるやり方でも、つなぎ合わせれば非合法の帝政を達成させた。しかしこれらの成功の影には常にカエサルが現れた。

    1.統治前期
    自らが持っていた特権を廃止し、共和政復活を宣言するも、内実は手放した方が利益になる特権を廃止したにすぎず、浅はかな元老院は上っ面しか受け取れなかったため帝政を進めることになる。彼は、周りからの熱があってようやく取り組む姿勢であって、カエサルのように一挙に進めることはしなかった。それ故、周りを欺き、訂正を進めることができた。14年の内乱がありながらも他国や属州から反乱がなかったのはカエサルがそのような統治体制を整えたおかげである。死してなおその姿を残し、大きな貢献をもたらすカエサルの偉大さたるや。
    西方に次ぎ東方の再編成を終え、権威と権力を着実なものにする。有力貴族ではないため、先に名声を高め、その後明らかな帝政制度を進める基盤作りをしたのは自然な流れに感じる。カエサルと違い30代から動けたアウグストゥスにはのんびりと着実に進めることができたが、これもまたカエサルのおかげである。かといって全てを段階的に進めるではなく、時には考える隙を与えず次々と法を整えていたから、巧妙さが伺える。
    2.統治中期
    帝政の核とすべきローマ市民の質と量の確保に努める。属州民の更なる同化。信頼たる部下、アグリッパらを失う。
    3.統治後期
    固執した血の繋がりを重視した計画をことごとく失敗したため、次期皇帝ティベリウスに近づいていく。遺言でも細かな現状情報と指示を与えており、高効率な国家の運営と平和の確立を目指したアウグストゥスの働きぶりが現れている。一度も元老院達の大きな反発なく死を迎えられた点は、アウグストゥスの偽善が効いた証である。属州で反乱が起こったのは、アウグストゥスが現地で考えることを怠ったため、正確に把握できずに判断を鈍った故だと思う。今まで反乱が起こらなかったのはカエサルの統治能力に依るものである。

    if.アウグストゥスが帝政を全面に出した政策を打ち出していたら?

  • 20210509
    アントニウスを倒し唯一の実力者となったオクタヴィアヌスは、共和制復活というフィクションを元老院階級に信じ込ませながら世襲の元首政を確立した
    ・彼の特質である慎重さをいかし、若いがゆえにあった時間を使った反撥を起こさせない茹でガエル的な変革
    ・無理をしない人、持続する意志の持ち主。体は丈夫でなかったが休みたいときに休み、強引に自身の意向を押し通さない
    ・カエサルが任命した軍事面でのアグリッパと、自分で発掘した外交・広報担当のマエケナスに支えられたチーム。自らは業績録によって帝政への歴史の支持を集めるとともに、マエケナスが後援した詩人たちによるパクス・ロマーナが政体の正当性を宣伝した
    ・共和政復帰宣言、キケロへの師事という偽善的なイメージ戦略
    ・パクス・ロマーナという大義名分、その実現
    ・カエサルが示した、ライン、ドナウ、ユーフラテスにわ防衛線とする方針に背き、ゲルマンを征服してエルベまで領域を拡大しようとしたのは唯一の大きな判断ミス
    ・常備兵による軍制を確立。組織では防衛のための25個軍団制とし、報酬では満期除隊の年数と退職金を定めた
    ・属州を、軍事力をおかない元老院属州、軍事力をおく皇帝属州、皇帝自ら統治する特殊なエジプトの3分類にわけ、元老院属州においても徴税権は新設の国税庁が担うことで皇帝への集権化を進めた。元老院属州と皇帝属州の予算のやりくりをすることで、帝国を守る軍事力を確保した
    ・血の存続に執着し、また良き家族を守らせるための法律である姦淫法を定めた。☆彼の文化面での保守性を示すのではないか。血の存続については内乱を避けるために必要であったのかもしれないが、実力制、任期制ではだめだったのかが疑問。

  • 図書館長 井上 敏先生 推薦コメント
    『ヨーロッパの歴史を理解するにはまずローマの歴史。独特な書き方だが、ローマの建国から西ローマ帝国滅亡までの通史を知るにはちょうどいい。研究者からの批判もあるが、理解しやすい。』

    桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPAC↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/248993

  • 塩野七生 「 パクスロマーナ 」 初代ローマ皇帝アウグストゥス の生涯。財政政策と文民統制による国家運営

    平和に必要なのは軍備力→軍備力に必要なのは国家財政→税収増加が必要

    本のテーマは 「カエサルすら出来なかった国家運営を、なぜ アウグストゥスができたのか」
    *ヒトとカネの扱い→バランス感覚と多様性
    *殺されない→使う言葉の選択を間違えない
    *血縁の後継者に失敗→血縁外のティベリウスを指名

    アウグストゥスの政治
    *共和制(元老院体制)復帰→アウグストゥスの尊称を得る→実質は 帝政のまま
    *属州統治「価値観さえ共有していれば、妥協は常に可能である」=ユダヤ問題
    *税制改革=国税庁、相続税の創設
    *少子化対策=子のない独身女性に重税、離婚公表制

    ローマは法治国家「公正を得るための法律でも あまりに厳格な運用は不公正につながる」

  • ジョン・ウィリアムズ『アウグストゥス』から、史実はどうなのか興味が湧いてこちらを読む。天才の後を継いだ、天才じゃないアウグストゥスが、いかにしてローマの平和を築き、持続させたのか。いやー、面白かった。苦悩も含めて。ますます興味が沸く。

    (こうしてみるとウィリアムズはほぼ史実に忠実で、そこから人物と物語を深めたこと、特にユリアを膨らませたことで物語の厚みと影が出来たことがよくわかる。これを読んだ後で、ウィリアムズを再読するとまた更に面白そう。)
    しかしこれを書いた時点では、塩野さんはウィリアムズ未チェックだった模様。

    いやー、ローマ面白いわー。

  • 歴史ドキュメンタリー。

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