- Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103096382
作品紹介・あらすじ
この人を見よ! その生と死とともに、中世が、壮絶に、終わる―― ! 構想45年、ユリウス・カエサル、チェーザレ・ボルジアに続いて塩野七生が生涯を描き尽くした桁違いの傑作評伝が完成! 神聖ローマ帝国とシチリア王国に君臨し、破門を武器に追い落としを図るローマ法王と徹底抗戦。ルネサンスを先駆けて政教分離国家を樹立した、衝突と摩擦を恐れず自己の信念を生き切った男。その烈しい生涯を目撃せよ。
感想・レビュー・書評
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展開の速さと面白さに、食事中も手放せずに読むというお行儀悪いことしながら読み切ってしまった作品。
13世紀の中世ヨーロッパ。当時の誰もが最高権力である事を疑わなかったローマ・カトリック教会との対立を辞さず、封建領主制の軛を脱して法治国家への道を推し進め、そのあまりの先進性から、「世界の脅威」と呼ばれた神聖ローマ帝国皇帝でシチリア王でもあったフリードリッヒ二世の劇的な生涯を描いた本作。
両親の早逝から、十字軍の嵐が吹き荒れる時代に、キリスト教徒とイスラム教徒が奇跡的に共存するシチリア王国で孤児として育ち、何も持たなかった17歳で一大勝負に出て、ヨーロッパにおける世俗上の最上位である、神聖ローマ帝国の皇帝に即位。
その後は持ち前の合理性と胆力、知的好奇心を駆使して、「教皇は太陽、皇帝は月」の宗教全面支配の「暗黒の中世」時代に抗うようにローマ法王と真っ向から対立し、法王最大の武器である「破門」を三度もくらいながらも、なんのその。
「皇帝のものは皇帝のものに、神のものは神のものに」を生涯のモットーに、イスラムのスルタンと友情を結んでの第六次十字軍と聖地エルサレムの無血開城やイスラム教徒との共存、ヨーロッパ初の世俗主義国立大学の設立、封建制の縮小と世俗法の制定、政治機構の大胆な構造改革など、理想とする近代的な国家づくりを推し進めて行く。
困難な時代に生まれついた五十余年の短い人生の中で、よくもここまで同時に次々と…感嘆せずにいられないぐらい、フリードリッヒ二世は大胆かつ逞しく、しかも冷徹に、政治的にも軍事的にも、自身が決めた事をこなしていきます。
物語の最後は、彼の死後に、彼ほどの才覚も運も持たなかった息子や孫たちの敗北と死によって、彼が理想とした法治国家の終了で終わります。
しかし、彼の行為が彼の死後約半世紀後に訪れる、ローマ・カトリック教会の権威の本格的な失墜と、中世の軛を脱したルネサンス始まりへのきっかけとなったことは疑いようもなく、まさにその、先進的に駆け抜けた一生を、塩野さんらしい、冷静だけど情熱的な文体で描き切ってきます。
フリードリッヒ二世や、彼に尽くした忠臣たち、いずれも不幸な最後を迎える息子たちの人生の終焉を、端的だけど巧みな伏線で暗示している点や劇的な瞬間の描写も実に見事で、読み始めたらページをめくる手が止まらなくなってしまうすごい作品です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あーあ、読んじゃったよ(T_T)
面白かった!!
この時代のものは興味がないと読みにくいと思うんだけど、塩野さんが書くとさすがに読みやすい。
中世と云うと暗黒時代というイメージを持っている人が多いと思うのだけれど、この時代だからこその面白さをこの著作を通じて感じてもらえるとうれしい。 -
塩野さんの著作は気になるなーと思いつつこれまで手を付けてなかったんですが、すごいなあ。
高校の世界史で習った覚えのある単語がちらほらと出てきて、しかしその当時の薄ぼんやりした認識に理由や来歴を流し込まれてそうだったのか! と驚くことしきり。
もちろん塩野さんの肩入れや思い入れのある見方による物語だとは思いますが、それでも例えばこの一部なりとも高校時代に聞いていれば、もっと世界史に興味が湧いたに違いないなあ。 -
・・・・・・っということで、フリードリッヒ2世というと、あのフリードリッヒ2世のほうを思い浮かべる人のほうが多いんじゃないだろうか。
あのフリードリッヒ2世とは18世紀に生きたプロイセン王で、「フリードリッヒ大王」の呼称で有名なほうである。
こちらのフリードリッヒは13世紀を生きた神聖ローマ帝国の皇帝である。
知らなかった。
「ストゥポール・ムンディ(世界の驚異)」といえばこの人を指すのはヨーロッパ人の常識らしい。
読み進む中で思い出さされたのだが、あの第6次十字軍を組織して、イェルサレムの無血占領に成功した皇帝だった。
【十字軍物語】ではアッサリ書かれていたけれど、敵であるイスラムのスルタン相手に平和交渉に成功した男であるから、只者ではないことは知っていた。
・・・・・・
例によって、塩野七生の本は読みやすい。
結構厚い2巻の書物だけれど、引き込まれてあっという間に読み終わってしまう。
歴史本でこんなに読み易く書けるのは彼女の才能であろう。
取捨選択が大胆で、本筋からブレないからじゃないだろうか。
彼女によって、歴史の面白さに目覚めさせられたのはぼくだけじゃないはず。
しかし、彼女も老いた。
老いた証拠に、同じ事を何度も繰り返す。
もう分かったよと言いたいくらいだ。
まあ、それも彼女の微笑ましい点ではあるのだが。
彼女ももう79歳のお婆ちゃんになったんですね。
・・・・・・
例によって、塩野七生が惚れ込んだ男を書いている。
カエサル然り、マキャヴェリ然り、チェーザレ・ボルジア然り。
彼女が好きなタイプの男性の特徴は一致している。
それは、「先を読める男である」。
先を読める男とは、「時代より早く生まれてしまった男」でもある。
カエサルはローマを治めるのは皇帝しかないと読んでいたし、マキャヴェリは傭兵は排して国民軍を持つべきだ
と読んでいたし、ボルジアは君主は冷徹でなければならないと読んでいた。
フリードリッヒ2世は封建制度ではなく、中央集権でなければならないと読んでいた。
誰が皇帝になっても、法制度を確立した法治国家でなければ長続きしないと知っていた。
そのためには、【政教分離】でなければならない。
彼の目指した社会は遥か200年後に始まるルネッサンスを見越していたのである。
時代より早く生まれてしまった男である所以である。
時代のほうが彼に追いつかなかったのである。
まさしく「世界の驚異」である。
彼の一生は政教分離実現への戦い、即ちローマ法王たちとの戦いであった。
塩野七生女史はずっとこの男を書きたかったそうだ。
満を持して書いただけあって、彼への愛が文章の随所に溢れている。
80歳にならんとするお婆ちゃんパワー恐るべし。 -
「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」読了。
塩野七生の最新作。中世13世紀の神聖ローマ帝国皇帝の生涯をローマ教皇との闘争を軸に、ルネッサンス前に成し遂げた改革について活写している。フリードリッヒ二世は父、祖父とも神聖ローマ帝国の皇帝であったが、幼少期はとても跡を継げる状況ではなかった。しかし、逆に少年の頃から南イタリア、シチリアとイスラムとの交易が盛んで自由な環境で育ったということ、そして、興味の赴くままに学ぶことを許されていた環境が、キリスト教に染まらずにその後の特異な活動の元になっていると思う。血筋もあるが、教育は大事なことだと考えさせられる。キリスト教が絶大だった時代に「神のものは神に、皇帝のものは皇帝に」というイエスの言葉から、精神世界や死後の世界はローマ教皇の担当分野、世俗世界の統治は神聖ローマ帝国の皇帝の担当分野としていたのがおもしろい。今でいう政教分離である。また、人間は死んだらどうなるかについてキリスト教の教義に満足せず、当時文明的には進んでいたイスラムの学者に聞いているのがなんとも笑える。教会からの破門を含むローマ教皇の度重なる攻勢にもめげず、法治国家を目指し、官僚を育成し、軍事力を背景にして十字軍でイスラムとの外交交渉によりエルサレムを解放した。まさに中世を駆け抜けたという表現がふさわしい。しかし、彼の死後20年で築いてきた世界は崩れ去ってしまう。「生ききった男にはどうでも良かったのかも知れないと」著者は言うが「つわものどもが夢のあと」という感じもあって何ともいえない寂しさを感じる。偉大な人物のあとをうまく後継するのはやはり難事業である。 -
塩野さんが書かなかったら、フリードリッヒ二世の生涯を辿ることはなかったでしょう。感謝です。先駆者たる彼が手足を掬われ続けた相手は「中世」ですね。ヴァチカンの手口や根拠もくどい程よくわかりました。「コンスタンティヌス帝の寄進書」を偽造し、千年近くも白を切り通せたのは驚きです。政教分離と法治思想は時代精神を伴う必要があるのでしょう。パラダイムが変わるには歳月が要るものだと知りました。
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(感想は上巻に)