ギリシア人の物語I 民主政のはじまり

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103096399

作品紹介・あらすじ

あのローマ人の偉大なる先人たちを描く、鮮烈な新シリーズの幕開け! 古代ギリシアの民主政はいかにして生れたのか。そしていかに有効活用され、機能したのか。その背後には少ない兵力で強大なペルシア帝国と戦わねばならない、苛酷きわまる戦争があった――。累計2000万部突破のベストセラー『ローマ人の物語』の塩野七生が、それ以前の世界を描く驚異の三部作第一弾!

感想・レビュー・書評

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  • 「ローマ人の物語」を書きあげた塩野さんが「ギリシア人の物語」を書き始めたなんていったら、読まずにはいられない。

    ローマのように一千年の時を享受した巨大帝国にはなれずに衰退してしまったけど、ローマ人が傾倒し、後世から「ギリシア・ローマ時代」と呼ばれるほどの影響力を持った古代ギリシア。

    民主政という政体を産み出し、模索しながら運営し、たとえ短期間でも繁栄した古代ギリシアの黎明期を、諍いを繰り返す当時の無数の都市国家の中でも特に有力でライバル関係にあったスパルタとアテネそれぞれの姿と、そんな感じで喧嘩ばかりの面々が東の大国ペルシアの侵略という未曾有の危機を前に、紆余曲折しながらも団結して立ち向かう姿から描いた本作。

    ポリス(都市国家)、直接民主制、陶片追放…等々、高校の世界史の授業で単語を丸暗記させられた事柄が、塩野さんらしい考察と、冷静だけど情熱的な文体にかかると、こんなにも躍動感と流れのある、面白い物語になるのだから素敵。

    特に、「ペルシア戦役」の英雄たちの姿の描写は見事です。

    後世からは「スリーハンドレッド」として知られる、300人だけで数万のペルシアの大群に挑んで玉砕したとされるテルモピュレーの戦闘のスパルタの王レオニダスと戦士たち。
    ペルシアに勝つためには手段を選ばずあの手この手を尽くし、アテネをギリシア第一の海運国に押し上げてサラミスの海戦を勝利に導き、その後のアテネ繁栄の基盤を築いたテミストクレス。
    ペルシアにとどめを刺したプラタイアの戦闘の総指揮をとり、英雄となりながら、猜疑心の塊となった自国民に滅ぼされたスパルタのパウサニアス。

    悲惨な最期を遂げたスパルタの英雄たちとは対照的に、後年政敵に祖国を追われたテミストクレスの、あまりに図太く愉快なペルシア暮らしと人生を全うした姿なんかは笑ってしまう。
    それよりも大爆笑してしまうのは、ある意味では父の仇といえなくもないテミストクレスを受け入れてしまうペルシア王の描写ですが。
    塩野さんのユーモアあふれる想像力と描写には脱帽です。

    全3巻中の1巻であり、まだ全体像はまだ見えていない物語ではありますが、なにはともあれ、ファンなら相変わらずの塩野節に嬉しくなってしまう一冊だと思います。

  • 『ギリシア人の物語Ⅰ【民主主義の真実】』を読む前に知りたいと思っていたのは、“民主制”というシステムを誰がどのようにして考え出したのか、というその経緯。それと、何故ギリシアには多数の都市国家が乱立し、周辺に生じたさまざまな国家のような規模を目指さなかったのか。という2点。

    最初の問いに対する答えは、ソロン→ペイシストラトス→クレイステネス→テミストクレスらがアテネを牽引していく過程を物語を読み進めていくなかで見えてくるのだけれど、何故という根本的なところは、次のように書かれた
    〜〜
    古代のアテネの「デモクラシー」は「国政の行政を市民(デモス)の手にゆだねた」のではなく、「国政の行くへはエリートたちが考えて提案し、市民(デモス)にはその賛否をゆだねた」からである。
    アテネの民主制は、高邁なイデオロギーから生まれたのではない。必要性から生まれた、冷徹な選択の結果である。このように考える人が率いていた時代のアテネで、民主主義は力を持ち、機能したのだった。それがイデオロギーに変わった時代、都市国家アテネを待っていたのは衰退でしかなくなる。
    〜〜
    塩野さんの洞察をもった言葉で納めさせてもらった。
    それにしても、何故か塩野さんの言葉の裏には現代社会(現代政治姿勢)への厳しい批判が感じられてならない。

    これから、『ギリシア人の物語Ⅱ』を読み始めるわけだけど、ギリシアが都市国家ポリスという極めて小さな国家の単位を選択した理由を見つけることはできていない。
    もしかしたら、この疑問に答える回答は直接的には本から得られないかもしれない。そしたら更に『ギリシア人の物語Ⅲ』を読んでみよう。それでもその答えが見つけ出せなかったら…。
    これだけ、ギリシアの世界に浸ったのだから、ギリシア人の考えに共感する部分を持てているかもしれない。つまり、自分で答えを導き出せるようになっているかもしれない。
    自分のとらえた歴史であり、物語だから自分なりの答えでもよい。
    実際には明確にどこかに答えが用意されていて、知らないのは自分だけなのかもしれない。

    それよりも、古代ギリシアの世界を旅させてくれた『ギリシア人の物語』を読んだからにはそのお土産にそれくらいの想像力は身につけていたいものだ。

  • 陶片追放って制度
    今の日本にあったら
    誰が追放されるのかな




  • 古代文明の中で、直接民主制とポリス社会という先進的なシステムを生んだギリシア人。
    他地域の国家には専制君主制が多い時代、東方にある大国ペルシアもその例に漏れません。
    ポリス同士の睨み合いが続く中、ペルシア王親子のダリウスとクセルクセスはギリシアを徐々に征服していきます。
    アテネとスパルタを二本柱にギリシアは団結し、大国の侵略を実に見事に、劇的に阻みます。
    マラトンの戦い、サラミスの海戦、プラタイアの戦い…全てギリシアの名将による奇抜な作戦により、数では勝るペルシア軍は惨敗します。
    アリステイデス、テミストクレス、パウサニアスのアテネ・スパルタ式ではない戦い方・考え方が結果を出したのです。
    彼ら英雄はその才能ゆえに、戦争後の平時には国家から危険視され、相応しくない最後を迎えます。
    しかしテミストクレスだけは、陶片追放された上に国際指名手配までされても飄々としていて、あろうことか敵国ペルシアに亡命し、地方長官にまでなってしまいます。
    情報量も多く楽しく読める歴史書です。
    2巻にも期待します。

  •  スパルタの政体をリクルゴスが定め、アテネの民主政体は紆余曲折を経てクレイステネスによって確立される。そして、やがて起こるペルシアとの戦いの中で、これらの政体の真価が試される。――シリーズ全三巻の劈頭を飾る本書のストーリーは、十五巻から成るかの大著『ローマ人の物語』の第一巻『ローマは一日にして成らず』と第二巻『ハンニバル戦記』を一冊に凝縮したかのようだ。
     ペルシア戦役における西方と東方の対決、あるいは「質」と「量」の対決という構図は、『海の都の物語』や『コンスタンティノープルの陥落』など、これまでの塩野作品でもたびたび描かれてきた。テルモピュレーで玉砕するスパルタの戦士たちには、『ロードス島攻防記』の騎士たちがオーバーラップする。時に「質」が「量」に勝り、時に「量」が「質」を圧倒する。そこには進歩も退歩もなく、ただ時を超えて繰り返される人間の所行があるだけだ。
     まったくもって、首尾一貫という点において塩野七生の右に出る者はいない。これまでに書かれてきた作品群の全体が、巨大な一巻の書物のようにも思われてくるのである。

  • 最初の「神話」の部分は、この本を読む前に「神話」が専門の藤村シシンさんの著作を読んでいたせいか、ちょっと拍子抜けしました。が、やはり「歴史」を書き始めると、塩野七生さんの本領発揮。どんどん古代ギリシアの世界に引き込まれていきます。「魅力的な男」を書かせたらこの人以上は、いないんじゃないでしょうか。映画でも有名なレオニダス、そしてパウサニアスの知らなかった一面に魅了されるばかりです。

  • ペルシア戦役とテミストクレスが中心の第1巻。ローマ人の物語同様、とても面白く一気に読んでしまう…民主政というシステムを生み出した他、様々な分野での業績を残しながらも全体としてはまとまらないギリシア人は基本アーティスト志向というかスペシャリスト集団なのだろう。

    しかし、テミストクレスもパウサニアスもこの話通りだとすると晩年は厳しい…政体に関わらず「狡兎死して走狗烹らる」という結果になるとは人の妬みとは何とも恐ろしい。ローマのスキピオなんかも同じか。その点、そこまで見通していた漢の張良は賢かったな。

    あとこれ読んでホメロスにも挑戦してみようかとちょっぴり。読めるかな??

  • 【ギリシアも一日にして成らず】世界史の一時代を画し,今日に至る影響力を誇る古代ギリシア世界。民主政の成立と凋落,アレキサンドロス大王の大遠征等を取り上げながら,古代ギリシア人の歴史を鮮やかに描き出す大作です。著者は,『ローマ人の物語』等で多くのファンを獲得している塩野七生。

    読んでいる間はもちろんのこと,読後に頭の中を様々な思考と思いがかけめぐるところまで含めて塩野氏の作品はやっぱり素晴らしい。わかりやすさと深さを兼ね備えた類稀なる歴史の語り部として,リアルタイムで作品を読める喜びを噛み締めながらの読書となりました。大部ですが文句なしにオススメです。

    〜アテネの民主政は,高邁なイデオロギーから生れたのではない。必要性から生れた,冷徹な選択の結果である。このように考える人が率いていた時代のアテネで,民主主義は力を持ち,機能したのだった。それがイデオロギーに変わった時代,都市国家アテネを待っていたのは衰退でしかなくなる。〜

    あとがきに読者への感謝を綴られていましたが,読む側こそ感謝しきりです☆5つ

    ※本レビューは第1〜3巻を通してのものです。

    • masaaki.oyabuさん
      今、『Ⅰ』読んでいるところでところですが、こんな見晴らしの良さに連れてってくれる予感は既に感じています。
      今、『Ⅰ』読んでいるところでところですが、こんな見晴らしの良さに連れてってくれる予感は既に感じています。
      2018/07/13
  • 4年ぐらいまえに見たテレビで塩野七生女史が「書きたい男性が二人います」と言われていて、そのうちの一人はフリードリッヒ二世でした。
    もうひとり、誰なんだろうとずっと思っていたら、このたび『ギリシア人の物語』発刊。

    あと二巻続くので、一番が誰だったのかは断言できないのですが、塩野七生コミュのかたの予想で、「アレキサンダー大王とアルキビアデス」と言っていたかたがいて、イタリア人に違いないと思っていた私は「うーん、すごいなあ」と思うばかり。

    この第一巻でかっこよく描かれていたのは、アテネのテミストクレス(表紙の人)とスパルタのパウサニアス。
    でもすごく理不尽で、特にパウサニアスのほうは、読んでいて苦しくなりました。

    とはいえ、第二・第三巻が楽しみで、あと二年も待てないよーと思っているところです。



  • ローマ人の物語を読み終わって、久々の塩野作品。
    世界史の教科書に肉付けした感じのさらりとした文体。

    そして、ギリシアと言えば、取り敢えず、スパルタ!
    スパルタの訓練のエグさを初めて知りました。
    映画も見たけど、テルモピューレでのスパルタ300人の戦闘。スパルタのレオニダス対ペルシア王クセルクセス。ただ、描写は抑えめ控えめな印象。

    個人的に、その後のストーリーはあんまり頭に残せなかった…

    再読したら理解が深まるかな?と考えつつ、次の本に進む事にしよう。




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