死の棘

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103101031

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいた『城の中の城』付録のインタビュー記事にて、倉橋由美子が「…重要なのは狂気や病気をいかにしてうまく排除するかといふことで、この処理の仕方を描けばまづは喜劇になるしかない、と考えた方がいい。例えば、島尾さんの『死の棘』などは狂気を扱つたスラップスティック小説の傑作だと思つてをります…」という風にコメントしていて気になっていたところ、友人がたまたま『狂うひと』がやべえ本だぞと話していたタイミングが重なり、『狂うひと』を読むためにもまずは『死の棘』をということで手に取りました。

    まず思うのは作品の面白さや価値を説く前に、この本は気力・体力を奪っていく本なので、十分な休みや回復イベントを差し込めるタイミングで読むべきということ。たまたま休み期間中だったので良かったですが、普通に仕事しながら~とかは絶対読みたくない笑。『狂うひと』も長いのでこっちはちょこちょこ他の純粋に好きな小説を読みながら(三島とか澁澤とか倉橋由美子とか)読もうと思います。

    だいぶ長い割には、なんでこうなったんだ、というところから途中でK病院に入院したり、佐倉に引っ越したり、やはりだめで入院準備…など場面転換はあるので飽きはしないし、それは島尾敏雄の力量なのだと思う。だけどやはり永遠にも続くように持続的に繰り返される発作と、それに怯える自分・なんなら狂気で対応する自分を繰り返し繰り返し読んでいると、こっちまでノイローゼ気味になるのが否めないし、本当に疲れる笑
    確かに倉橋由美子がいうように"喜劇"として笑える部分もたくさんあるが、それ以上に"喜劇"と捉えないとそもそもやってられない。そうでなければ、普通に二人で早く心中しろOR離婚しろって思って何も楽しめないんですよね…『狂うひと』側ではそもそもというところからミホ側の話や実際にあった話などが読めると思うので、楽しみではあるし、そちらを理解するうえでも『死の棘』を読んで正解だったとは思っていますが、人に薦めるかと言われたら否ですね笑。

    笑ったところを少々
    「おまえ、ほんとにどうしても死ぬつもり?」
    「おまえ、などと言ってもらいたくない。だれかとまちがえないでください」
    「そんなら名前を呼びますか」
    「あなたはどこまで恥知らずなのでしょう。あたしの名前が平気でよべるの。あなたさま、と言いなさい」
    「あなたさま、どうしても死ぬつもりか」
    このやりとりが最初の方にあったので、耐えられたといっても過言ではない笑

    「ここでいいです。もう帰ります。もう来ませんから」「いいわ、わかったわ。じゃ、あたしのこと、きらいになったのね」
    「きらいになったのじゃない」
    「すき?」
    「うん、好きだ」
    言ってしまってから自分でおどろき、涙がとめどなく出てきた…
    序盤のトシオのくずさというかどうしようもなさにも笑いました。好きだ、じゃないんだよ…

  • 長かった。そして、ループループループ。何度、読むのをやめようかと思ったか。しかし、なんだかやめられない不思議さ。妻に問い詰められる→追い詰められる→逆上→何とか仲直り→妻に問い詰められる…と延々続いていく。間に子どもにあたる、子どもから非難されるという要素がはさまりつつ基本的にはループ。浮気相手の登場が、変奏部分かしらね。しかし、妻を子ども扱いするところとか、暴力をふるうところとか、問い詰められて答えるところの描写が少ない(=自分の恥は描写しない)ところとか、やっぱりマッチョなんだなーと思う。浮気相手を妻が肉体的にいたぶるのを止めないところなんて、卑怯のきわみで、へにゃへにゃマッチョもいいところだ!都合のいいときだけ「男らしさ」「父の威厳」を振り回す主人公にはうんざりする。16年間に渡ってこれを書き続けたのがいちばんすごいことである気がする。っていうか、そんなに長い間実生活でもこれと似たループがあったんだとするとそうとうすごい。本作品内で「私の文学が」的な熱がチラホラ見えるが、生き残っているのはこの作品だけなのだから、本当に奥さんに感謝だなと思った。

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著者プロフィール

1917-1986。作家。長篇『死の棘』で読売文学賞、日本文学大賞、『日の移ろい』で谷崎潤一郎賞、『魚雷艇学生』で野間文芸賞、他に日本芸術院賞などを受賞。

「2017年 『死の棘 短篇連作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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