帰りたい風景: 気まぐれ美術館

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 14
感想 : 1
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103110033

感想・レビュー・書評

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  • 本当に、洲之内さんのこのシリーズはいい。
    自称えかきの私には、芯に突き刺さる言葉の数々ばかりである。

    とくに、池田一憲氏の話に出てくる「何か」というものについては、日頃私が絵について聞かれた時によく言っていることとまさしく同じであったので驚いたし、よくぞ言ってくれたという気分もした。

    納得することから、改めて心に刻まなければいけないと思うことまで、日頃思うことがたくさん書かれている。

    まさに私にとってはバイブルのような本であるのだが、
    ある人に教えてもらうまで、私は洲之内徹という人をつい最近まで知らなかったのだ。
    あやうく知らずに人生が過ぎていってしまうところだった。
    本当にその人には心から感謝しなくてはいけない。

    * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

    この連載を「芸術新潮」に書いている1976〜1979年の時でさえ、洲之内さんは時代が変わったと言う。
    それならば今の時代は彼の目にはどう映るのだろうかと私は何度も思ってしまう。

    でも、だから、こんな時代に読むからこそ、『気まぐれ美術館』は私の心に響くのかもしれない。

    時代なんかに翻弄される必要なんてないのだ、と
    画家は絵に真摯に向き合う、それだけでいいのだ、と、
    勇気づけられる。


    以前から、今の時代じゃなくてもっと前の時代に生まれたかったと、私はよく思う。
    たぶん古い小説や文章ばかり読むせいである。
    そんなところへ洲之内徹の『気まぐれ美術館』が来て、洲之内さんに会いたかったなぁとしみじみ思ってしまう。

    でも洲之内さんは冷たくて怖いから、えかきとしてではなく、洲之内さんの愛人役の方でいい。

    いや、それでも、そこにいる私も今の私と変わらないのであれば、やっぱりえかきとしてしか会えないのかもしれない。

    自分の作品に自信が持てなくても、私は絵を描かないと生きていけないし、絵に向かう心情の自分が好きなのだから、
    やっぱりえかきとして会うしかないのかもしれない。

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著者プロフィール

洲之内 徹(すのうち・とおる):1913 - 1987年。愛媛県出身。美術エッセイスト、小説家、画商。1930年東京美術学校建築科在学中、マルクス主義に共感し左翼運動に参加する。大学3年時に特高に検挙され美術学校を退学。20歳で再検挙にあい、獄中転向して釈放。1938年、北支方面軍宣撫班要員として中国に渡り、特務機関を経て、中国共産党軍の情報収集に携わった。1946年、33歳で帰国してからの約20年間、小説を執筆。3度芥川賞候補となるが、いずれも受賞はかなわず。1960年より、田村泰次郎の現代画廊を引き継ぎ画廊主となった。1974年から連載を開始した美術エッセイ「気まぐれ美術館」は人気を博し、小林秀雄に「いま一番の批評家」と評された。

「2024年 『洲之内徹ベスト・エッセイ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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