草祭

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103130413

感想・レビュー・書評

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  • 美奥と言う土地を舞台にした五つの短編集。

    現実世界と妖しいものの世界が重なる不思議な世界がありました。
    静かな、穏やかな世界に潜むこの世ならぬものたちの息遣いが聞こえてくるようで時折、ぞくりとしながら読みました。

    その土地が美奥と呼ばれるようになった由来が書かれた『くさのゆめがたり』が緋と橙の鮮やかなオロチバナ、秘薬のクサナギと言った登場する言葉の印象も美しく、一番心に響きました。

  • 恒川さんの作品で一番初めに手に取った作品です。

    美奥という町に纏わる不思議で恐ろしく、美しい物語です。
    言葉にすることが難しい感覚が詰まっています。
    なんというか、まさにこの表紙のような感覚。なんだかおそろしいのに美しくて惹きつけられるような夕暮れ。鼻の奥でつんとする切ない気持ち。かなぁ
    この空気感はこの方にしか作れないだろうなと思います。

    ホラーくくりみたいですが、内容はホラーという程怖くはないです。どちらかというと怪しい、恐ろしい(微妙なニュアンスなのです。)感じです。

    たぶんずっとずっと好きな作品、作家さん!

    怪しい話が読みたい人、夏の夕暮れ、秋の夜長におすすめです。

  • 美奥という土地で繋がる5つの物語。そこでは危ういバランスを保ちながら日常と異界が混じり合う。恒川作品はこの境目の曖昧さが癖になる。切なくて心ときめく静かな怖さ。

    ・けものはら
    ・屋根猩猩
    ・くさのゆめがたり
    ・天化の宿
    ・朝の朧町

  • 美しい風景の中に潜む不思議な世界を描くのが得意な恒川さん。
    この作品もそうかなと期待をして読みました。
    その結果、予想以上の作品でした。

    お話は、妖怪のような「のらぬら」や薬草の知恵に秀でた少年が生活する
    美奥という山奥の美しい村の物語でした。

    「けものはら」「屋根猩猩」「くさのゆめがたり」
    「天化の宿」「朝の朧街」

    5編の短編はいずれも美奥村にまつわる物語です。
    遠い昔のお話かと思えば、つい最近の出来事のような内容の話もあり、
    時代がさだかでないことからも
    美奥という村の不思議さが感じられました。

    ホラーかなと思ったのですが、ホラーではない。
    大自然の中の摩訶不思議現象を
    美しく幻想的に描いて、作品に組み込まれています。
    これは作者独特のファンタジーなのでしょう。
    やはり上手いなあと思いました。

    こんな不思議な村が今でもあるのなら、
    何も知らない旅人のふりをして訪れてみたいと思います。

  • 「深遠なパーツで組み立てられた町」

    町の水路から原始を思わせる謎の野原に迷い込む「けものはら」、木造瓦屋根の古い民家が並ぶ尾根崎で地区の守り神として選ばれし者を描く「屋根猩猩」、草に精通する少年「てん」が苛酷な体験の末にに生み出した薬・くさなぎ。美奥の名の由来を物語る「くさのゆめがたり」、森の奥を抜けた家で一生に一度だけ行える「天化」。人の苦を解くのだというゲームの行方―「天化の宿」、カラスのくれたガラス玉の中にある町はそこを訪れた人々の記憶により常に変化していた。町を知ったことにより再生される未来を予感する「朝の朧町」。いずれも「美奥」の町に絡めて語られる6編。

    日常のすぐ隣にある異世界を描いて秀逸というのは『夜市』でも感じたことだったが、『草祭』では全ての短編を「美奥」という一つの町をキーワードとして描いたことで、不思議で哀しくてなぜか懐かしい、その世界観がより鮮鋭化して見えたように思う。五感にまで働きかけてくるその表現や描写は言うまでもないのだが、各編ごとにある、物語の鍵ともなるパーツが素晴らしい。

    「けものはら」では太い注連縄の張られた卵型の岩。大小さまざまな無数の獣たちが、月の光を浴びてその岩を囲んで蹲っている。その輪の中で彼らとともに蹲るとき人間は名も無き獣であり、原始的なものの一部としてそこに深い安堵があると書く。

    「天化の宿」なら、一生に一度だけできやり直しはきかないというゲーム「天化」。「細部のルールは複雑怪奇で、それらがゲームの世界に緻密に、そして有機的に絡んでいき、原因と結果―因果の糸が独特な世界を浮かび上がらせて」いき、「理性の材木で城を作ろうと試みるも、全てはでたらめに破壊されて」いくのだという。何十枚ものカードを使って世界を構築する「天化」とはいったいどんなゲームなのか。

    ひとつひとつのパーツが実に深遠なのだ。そうしたパーツが組み合わされることによって、ひとの心を捉えて止まないこの異空間・美奥の町は出来上がっているのだろうと思う。

    その意味では今回手にした本の装丁はこの美奥の物語の世界を見事に表現していて興味深い。モダンな線で描かれた和風とも洋風ともつかぬ町の一角。卵型の岩やゲーム「天化」こそないものの、けものはらへの入口となる水路、猩猩の守る瓦屋根、森の奥へ続くトロッコ電車の線路、禁断の神薬クサナギの原料となるオロチバナなど、重要な物語のパーツが描き込まれている。

    時間帯も気になるところ。オレンジ色の空のもと紫に染まった町。黄昏なのか暁なのか。だが昼でも夜でもないこの微妙な時間帯は見ようによっては「恒川ワールド」の真骨頂でもある。人が一切描かれていないことにも注目したい。この物語の主役は、人を包み世にも稀なる方法で再生させる美奥という「町」に他ならない。

  • 「美奥」という土地にまつわるお話が、時代や視点を変え様々な角度から語られる5編の連作短編集。
    どこか『遠野物語』や恩田陸の常野三部作を彷彿とさせるものがあります。
    和の趣を湛えながら紡がれていく死と再生の物語は、美しさと怖さ、哀切、畏怖といったものが絶妙なバランスで混じりあい、幽冥の気配を感じさせる。
    描かれる世界の日常と非日常の境界の曖昧さが、逆に現実味を感じさせるのか、自分がその世界に紛れ込み、覗いているような感覚に。
    装丁も物語の世界観を表していて素晴らしいと思います。
    『屋根猩猩』『くさゆめがたり』がお気に入り。

  • 感情の起伏が非常にフラットな状態で読めた。
    短編だが、一つ一つの話はうっすらとした繋がりがある。
    古い家の廊下の様な、神社の森の中のような、不思議な感覚を感じた。現実世界で囚われていたものがどうでも良くなるような。

  • ホラーとも呼べず、ミステリーでもない。
    気持ち悪くてそれがキモチイイ恒川さんの小説はこの路線でずっと行って欲しいと思っています。
    他の誰にもまねできない方向性です。

  • 恒川さんの作品はホラーっぽいイメージがあって今まで読んでなかった。勝手なイメージを反省。ホラーというより摩訶不思議な空気感が、時に恐ろしくも哀しくも、また幻想的にも感じさせる。自然の描写が見たこともない美奥の地を懐かしい場所のように思わせてくれる。現実の世界とうっかり繋がってしまう別世界に妖しい魅力を感じる。

  • ファンホラ/ホラファン?とにかくファンタジー&ホラーというジャンルを確立してる。

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著者プロフィール

1973年東京都生まれ。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー。直木賞候補となる。さらに『雷の季節の終わりに』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(後に『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補、『滅びの園』は山田風太郎賞候補となる。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。その他の作品に、『南の子供が夜いくところ』『月夜の島渡り』『スタープレイヤー』『ヘブンメイカー』『無貌の神』『白昼夢の森の少女』『真夜中のたずねびと』『化物園』など。

「2022年 『箱庭の巡礼者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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