西行花伝

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (525ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103142164

作品紹介・あらすじ

美と行動の歌人西行の生涯を浮び上らせた絢爛たる歴史小説。

感想・レビュー・書評

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  • この小説はただただ美しい。中世の始まりである院政期に生きた歌人西行の生涯を格調高い雅な文体で描き切る。まるで西行の歌の世界を追い求めるように。
    院政期は華麗な王朝の輝きとともに、中世の幕開けとなる動乱の始まりでもあった。その中で栄達の挫折を味わい、旅を通して達観した文化人としての境地。それら全てを辻邦生は本小説に注ぎ込んだ。美の境地とは何か。辻が西行の足跡とともに再現する傑作。

  •      -2016.01.19記
    その最終章に藤原俊成の遺した
    「かの上人、先年に桜の歌多くよみける中に
    願はくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃
    かくよみたりしを、をかしく見たまえしほどに
    つひにきさらぎ十六日、望の日をはりとげけること
    いとあはれにありがたくおぼえて、物に書きつけ侍る
    願ひおきし花のしたにてをはりけり蓮の上もたがはざるらん」
    と献じた一文を引いたうえで、西行の一首
    仏には桜の花をたてまつれわが後の世を人とぶらはば  
    でこの大作の幕を閉じている。

  • 本との出会いも不思議な縁を感じる時がある。ちょうど話の流れから、友人の勧めで、辻邦生の『西行花伝』を図書館で借りて読んだ。辻が、谷崎潤一郎賞を受.賞した歴史小説である。花鳥風月の中に真如の世界を見つめ、歌を追及していく西行の生き様は、800年の時を超え、現代の我々が忘れかけている深遠なる美の世界を教えてくれる。圧巻は、『願わくば 花の下にて 春死なん その望月の如月の頃』という歌の通り、春の望月の頃静かにその生涯を終えられたという。
    もう一度読みたくなる1冊でした。

  • 義清(西行)自身、早世した従兄・佐藤憲康、弟子・藤原秋実、待賢門院堀河、寂念・寂超・寂然の大原三寂兄弟などの独白の語り言葉を繋いでいくだけに、その世界に完全に入り込むリアリティがある。その語り言葉が何と風雅に富み、柔らかく、美しいことか。西行の待賢門院への思い。堀河局へ門院への思いを告げる場面、待賢門院の娘の統子内親王と池の畔で初めて逢う場面、峠で清原通季の妻と出会う場面そして40年後に同じ場所を通り回想する場面、西行が秋実の見守る中で最期を迎える場面などの美しさ!待賢門院、崇徳院、平家、源義経、奥州藤原など、没落していく人々の無常、儚さが切ない。また和歌、蹴鞠、流鏑馬などの時代の平安文化の香り満載。

  • (2012.12.17読了)(2012.12.10借入)
    【平清盛関連】
    いつかは読もうと思って、文庫版を購入してあったのですが、積読の山の中から見つけだすことができなかったので、図書館から借りてきました。
    「西行」について、すでに4冊読んだので、5冊目になります。読んだのは、西行の作品鑑賞や随筆なので、小説は、初めてです。
    小説の語り手は、藤原秋実という人物です。西行と出会う前のことは、西行の関係者に会って聞いたり、すでに死亡して直接聞くことができなければ、霊を呼び出してもらって聞いたり、という形になっています。西行と出会って後の事は、西行に直接語らせたりします。小説の良さは、その人物をいきいきとイメージさせてくれるところでしょう。
    小説家によって、どのような人物になるかは、随分変わってしまうわけではありますが。
    辻さんの描く西行は、世捨て人としての西行ではありません。出家=世捨て人という、イメージがありますが、西行は世俗の欲を断ち切って、森羅万象と直接対面し、その喜びを言葉として(和歌として)表現し、残したかった、ということです。
    ただ、世俗のしがらみとして、待賢門院への思いや崇徳院への思いは、断ち切れなかったようで、どこまでもこだわったようです。
    晩年には、蓮華乗院勧進や東大寺の勧進にも携わっています。
    この本を原作にして、大河ドラマをつくってくれないかな、とか思います。
    西行物語絵巻に出てくるという、出家の際に、娘をけ飛ばしたとか、頼長に歌を贈ったとかいう話は、出てきませんでした。

    【目次】
    序の帖 藤原秋実、甲斐国八代荘の騒擾を語ること、
        ならびに長楽寺歌会に及ぶ条々
    一の帖 蓮照尼、紀ノ国田仲荘に西行幼時の乳母たりし往昔を語ること、
        ならびに黒菱武者こと氷見三郎に及ぶ条々
    二の帖 藤原秋実、憑女黒禅尼に佐藤憲康の霊を喚招させ西行年少時の
        諸相を語らしむること、義清成功に及ぶ条々
    三の帖 西住、草庵で若き西行の思い出を語るを語ること、
        鳥羽院北面の事績に及ぶ条々
    四の帖 堀河局の語る、義清の歌の心と恋の行方、
        ならびに忠盛清盛親子の野心に及ぶ条々
    五の帖 西行の語る、女院観桜の宴に侍すること、
        ならびに三条京極第で見る弓張り月に及ぶ条々
    六の帖 西住、病床で語る清盛論争のこと、
        ならびに憲康の死と西行遁世の志を述べる条々
    七の帖 西住、西行の出離と草庵の日々を語り継ぐこと、
        ならびに関白忠通の野心に及ぶ条々
    八の帖 西行の語る、女院御所別当清隆の心変りのこと、
        ならびに待賢門院の落飾に及ぶ条々
    九の帖 堀河局の語る、待賢門院隠棲の大略、
        ならびに西行歌道修行の委細に及ぶ条々
    十の帖 西行の語る、菩提院前斎院のこと、
        ならびに陸奥の旅立ちに及ぶ条々
    十一の帖 西行が語る、陸奥の旅の大略、
         ならびに氷見三郎追討に及ぶ条々
    十二の帖 寂然、西行との交遊を語ること、
         ならびに崇徳院の苦悶に及ぶ条々
    十三の帖 寂然、高野の西行を語ること、
         ならびに鳥羽院崩御、保元の乱に及ぶ条々
    十四の帖 寂然の語る、新院讃岐御配流のこと、
         ならびに西行高野入りに及ぶ条々
    十五の帖 寂然、引きつづき讃岐の新院を語ること、
         ならびに新院崩御に及ぶ条々
    十六の帖 西行、宮の法印の行状を語ること、
         ならびに四国白峰鎮魂に及ぶ条々
    十七の帖 秋実、西行の日々と歌道を語ること、
         ならびに源平盛衰に及ぶ条々
    十八の帖 秋実、西行の高野出離の真相を語ること、
         蓮華乗院勧進に及ぶ条々
    十九の帖 西行の独語する重源来訪のこと、
         ならびに陸奥の旅に及ぶ条々
    二十の帖 秋実の語る、玄徹治療のこと、
         ならびに西行、俊成父子に判詞懇請に及ぶ条々
    二十一の帖 秋実、慈円と出遇うこと、
          ならびに弘川寺にて西行寂滅に及ぶ条々

    ●雅とは余裕の心(62頁)
    「目的を達したとき、人は満足し自分や自分の周囲を見まわす余裕ができる。もはやがつがつしないですむ。おしゃれもしたくなる。おいしいものも食べる気になる。花見にもいってみようと思う。だが、がつがつしていたら、こうはならない。余裕があったとき、初めてこの世を楽しもうという気になる。この楽しもうと思う心が雅なのだ。雅とは余裕の心のことだ。」
    ●生も死も喜ぶ(81頁)
    (流鏑馬の矢が)当たるを喜び、当たらないのを悲しむのが雅でないのなら、生を喜び、死を悲しむ態度も雅ではないはずだ。雅であるためには―この世の花を楽しむには、生を喜ぶと同時に死を喜ばなくてはいけないんじゃないだろうか
    ●義清の歌(97頁)
    ある意味で、義清どのの歌は、念力とでも申したらいいような心の思いが、言葉のなかに包みこまれておりまして、たとえば藤原俊成どのの優美幽玄な秋草の風情に較べますと、言葉から柔らかな詞藻の装飾が削り取られていて、まるで言葉の意味だけが、乾いた言葉の殻をくっつけたまま立ちはだかっているように見えました。その歌は決して優美でも濃厚でもございません。ただ言いたいことが溢れていて、とても歌の濃艶な衣裳にかまってはいられない、というような、前のめりになった激しさがありました。
    ●歌の力(102頁)
    義清どのは、歌ほど尊いものはなく、それは心のうちをただ表すだけでなく、人の心を変え、ひいてはこの世を変えることができるように思うが、と言ったのでございます。
    ●歌詠み(103頁)
    歌会には歌詠みという同じ好み、同じ願いで集まった人が、生きている今の思いを、心をこめて述べ合う。よい歌を詠める人間が身分を超えて尊ばれる。勅撰集にだって入ることができる。なるほど歌は風のようなもので、打ってくる太刀を受けることはできない。だが、激しい風が家を吹き倒すように、歌も人の心を吹き倒すことができる。天地の色合いを変え、悲しみを喜びに、喜びを悲しみに変えることができる。性情を変え、運命をすら変える。歌にはこの世を変成する力があると思うな
    ●藤原為忠、源顕仲(164頁)
    藤原為忠殿、源顕仲殿が親しく教示を垂れてくださいました。今では、ただ歌の心に生き、歌を作り、歌に励むことだけが生きるに価することと信じられるようになりました。
    ●空仁上人(172頁)
    「女人がおることは素晴らしいことじゃ。それは花が咲き、蝶が舞うのと等しい。女人のおかげでこの世の花が咲く」
    「しかし花はいつまでも咲き続けることはない。花の散る夕べは寂しい。哀れである。女が老いるのも、尼寺に入るのも、哀れで、寂しい」
    ●藤原為忠(232頁)
    「義清、言葉で作る歌は綺麗かもしれない。だが、綺麗な歌を作る人が、そうした現実を生きていないのでは意味がない。大事なのはその綺麗さを生きることだ。それを生きて、その結果、綺麗さが溢れて滴り落ち、それが歌になったのなら、その綺麗さは真に生命を持ったものと言える。」
    ●西行の言葉(272頁)
    「歌は枝葉を飾り立ててよくなるものではない。胸の内からこみあげてくる真の高揚を言葉の網目で捉えるのだ」
    ●藤原頼長(273頁)
    従来、品目の記載があれば、それで足りた。ところが、蔵人所別当に藤原頼長殿が補されて以来、どのような些細な事項も正確に細大漏らさず記録するように指令された。たしかに記録は正確であるに越したことはない。だが、蔵人所の所管事項を、事の軽重に関係なく、べたに記録することは、無意味である。
    ●吉野の西行(304頁)
    吉野では、花は、ただ花のなかへ私を解き放つのだ。ここには花しかない。
    この花のなかに合体し、花と生死をともにして、どうしていけないことがあろう。どうして悔いることがあろう。いや、地上にいるとは、こうして愛しい花のなかに埋もれ、花の生命と一つになり、花と溶け合って天地に白く無数の胡蝶のように舞い上がることではないのか。
    ●歌(391頁)
    歌はただ歌会の遊びでもなく、勝手気ままな胸の思いの吐露でもない。歌は、浮世の定めなさを支えているのだ。浮世の宿命は窮め難く、誰にも変えることはできない。だからこそ、歌によって、その宿命の意味を明らかにし、宿命から解き放たれ、宿命の上を鷲のように自在に舞うのだ。
    ●仏道(396頁)
    私にとって仏道とは、森羅万象のなかに仏性の現れをしかと見ることであった。
    ●歌なき宮廷(400頁)
    歌なき宮廷は操り人形の群がる繁文縟礼の行政所にすぎない。権力と名誉と物慾が歌なき宮廷を雁字搦めに縛りつけている。そこに歌が導き入れられると、人々はようやくこの世にただ生かされ、右のものを左へ、左のものを右へ動かしているのではなく、地上の好さ、美しさに気づき、思わず働く手を休めて、その好きもの、美しいものに見入るのである。
    ●出家(420頁)
    この世をより深く豊かに生きるために、浮世を棄て、出家遁世の身となったのであって、決してこの世を厭ったからではない。厭ったのは、浮世の我執であり、しがらみであり、権勢慾であった。
    ●義仲を討つ(444頁)
    北陸道に義仲を討つために、平維盛殿は十万余という軍兵を集めたと噂されたが、検非違使庁の男の説明では、その軍兵は、諸国から徴収された農民や樵、職人、漁師などの若者で、徴収されてはじめて槍や刀を持ったという者が大半だった。

    ☆関連図書(既読)
    「西行」高橋英夫著、岩波新書、1993.04.20
    「西行」白洲正子著、新潮文庫、1996.06.01
    「白道」瀬戸内寂聴著、講談社文庫、1998.09.15
    「西行-魂の旅路-」西澤美仁編、角川ソフィア文庫、2010.02.25
    (2012年12月19日・記)

  • この本はわが書棚に15年も鎮座していた。そして未読であった。

    今度こそはと手にとって、やはり70%読んだところで読み続けることを放棄した。

    結局辻が描くところの西行にも女院にも、まったく魅力を感じないのである。シンパシーがかわないのである。

    もう読むことはない。

  • 十五年前に読んだときは何も分からなかったけど、三十過ぎれば分かることもある。

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著者プロフィール

作家。1925年、東京生まれ。57年から61年までフランスに留学。63年、『廻廊にて』で近代文学賞を受賞。こののち、『安土往還記』『天草の雅歌』『背教者ユリアヌス』など、歴史小説をつぎつぎと発表。95年には『西行花伝』により谷崎潤一郎賞を受賞。人物の心情を清明な文体で描く長編を数多く著す一方で、『ある生涯の七つの場所』『楽興の時十二章』『十二の肖像画による十二の物語』など連作短編も得意とした。1999年没。

「2014年 『DVD&BOOK 愛蔵版 花のレクイエム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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