霊獣―「死者の書」完結篇

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著者 : 安藤礼二
  • 新潮社 (2009年5月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (166ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103153313

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霊獣―「死者の書」完結篇の感想・レビュー・書評

  • 折口が「死者の書」を書きあげて、
    想い人と訪れたのは若かりし入唐以前の空海が修業していた室戸岬。
    この地で空海は、空と海が絶えず混交され
    生死を繰り返す景色から、無垢な世界の姿を確信した。

    唐で空海は、キリスト教と仏教が融合した思想に出会ったと推測される。
    イエスと仏陀の伝記に共通するエピソードは、実は同じ神話をもとにしている。
    その神話は、言葉や時代によって一見違うもののように見える。
    普遍の真理と、各具象が網の目のように繋がる構造は、まさに曼荼羅そのものといえる。

    折口の思想の根底に流れる幻想は、
    荒ぶる死者が異国の姫によって浄化され、神となる神話。
    このストーリーはエジプトの死者の書や世界に伝わる古い神話にも見出すことができる。
    「死者の書」の大津皇子は南家郎女と夢で交じり、衣を得る。
    それを纏うことで、皇子は怨霊から仏に昇華(浄化)する。

    折口自身も、記憶の中で怨霊に変えてしまった過去の恋人たちを、「死者の書」を書きながら自分が姫となり、昇華していた。
    一方で、折口は自分の抱える罪を、同性の恋人たちによって浄化させようとしていた。

    どうして荒ぶる死者・怨霊が生まれてしまうのか。
    それは、新しく何かが生まれるためのカタストロフィである。
    混沌とした荒ぶる海が鎮まり、穏やかな詩人として再生して、初めて時間が発生する。

    空海は、これを室戸岬で見、密教の真実とした。
    再生して地上に降り立つものは、世界各地で弥勒菩薩やキリストと呼ばれる。

    折口は「死者の書」の続篇に、空海を描こうとしていたと考えられる。
    全ての怨霊をなだめ、再生させるためには、空海が示した道を行き、
    空海が今も籠る高野山の石室を開けなければならない。

    本書は折口信夫の自身の解説だけでなく、空海の思想についてもかなり踏み込んだ内容になっている。
    折口、空海、折口の恋人、異国の教徒のイメージが何層にも重なり、その中からゆっくりと一つの神話をすくいあげる展開は、圧巻でした。

  • 文藝(2009秋)にレビューされていた本

    新潮2009年9月に書評されていた本

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霊獣―「死者の書」完結篇の作品紹介

未完に終わった、もうひとつの「死者の書」。それは高野山の霊窟に生きながら入定した空海の物語だった。愛した少年たちへの供養のため折口信夫が描いた壮大な曼陀羅の全貌がいま解き明かされる。古代と近代は一つに重なり合い、仏教とキリスト教は融合し、世界神話の構造が立ち現れる。大江健三郎賞を受賞した気鋭の、新たなる飛翔。

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