劇的な人生こそ真実: 私が逢った昭和の異才たち

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103168126

作品紹介・あらすじ

戦後最大の奇書『家畜人ヤプー』の沼正三、「暗黒舞踏」の土方巽、「ドッキリチャンネル」の森茉莉、「天井桟敷」の寺山修司…。あの時代のホンモノの才人たちが鮮やかに蘇る。

感想・レビュー・書評

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  • 桜庭一樹さんの読書エッセイで知った本。萩原朔太郎を祖父に、萩原葉子を母にもつ萩原朔美による自伝的エッセイ。「寺山修二」「沼正三」「森茉莉」をはじめとする才人たちとの回顧録。

    でてくるひと、でてくるひと、浮世離れ感。
    寺山修二の章に美輪明宏がでてきた。美輪明宏の昔の写真を見て、美しさに衝撃をうけたことがある。あの美しい写真の頃のエピソードなんだなあと思いをはせた。

  • 歴史

  • 2015/2/24  2冊目 前知識なしで読んだが、登場人物が演劇よりだったので、ピンとこなかった。★3つ

  • 萩原朔美という名前をはじめて目にしたとき、なんというたいそれたことするものだ、と正直驚いた。萩原朔太郎といえば口語自由詩の完成者としてあま りにも有名。その大詩人から三字を勝手に拝借するなんて、あまりにも畏れ多いと感じたのだ。高校の教科書に載っていた「青樹の梢をあふぎて」に出会って以 来、詩が好きになり、作品はもちろんのこと評伝なども片端から読み漁っていた愛読者としては、してやられたという気持ちもひとつにはあった。そんなことが 許されるなら自分だって筆名にしたい、というような気持ちだ。

    後に、朔美が朔太郎の長女である萩原葉子の実子であることを知り、 自分の早合点に苦笑することになる。朔太郎という人は詩人としての名声はゆるぎないが、実生活者としてはあまり幸せとはいえなかったようだ。その辺のこと は葉子の小説『蕁麻の家』にしっかり描かれている。葉子も早くに離婚し、作家活動に入っている。家でひたすら物を書きつづける母と母ひとり子ひとりの生活 を続けるうちに朔美は内向的な少年に育っていった。

    その少年が寺山修司率いる演劇実験室・天井桟敷に入ったことで変貌する。そこ で演出を任されるうちに、当時の日本を席巻していた錚々たる顔ぶれに引き合わされることになる。土方巽、澁澤龍彦、三島由紀夫、美輪明宏、さらには母の友 人でもある森茉莉、パルコの創始者増田通二、美術評論家東野芳明、変わったところでは『家畜人ヤプー』の作者沼正三。

    これは一人 の青年が、昭和の異才たちの風貌、人となりを捉えたポルトレであり、彼等との個人的な出逢いを披瀝するエッセイ集である。また萩原朔美という人間がそれら の人々によって形づくられていく記録ともいえる。絵描きを目指していた青年が劇団員となって役者修業に励むうち、座付き演出家(後に東京キッドブラザース を起こす東由多加)の退団によって図らずも演出家を任される。それだけでもすごいことだが、この青年の演出に寺山はいっさい口をはさむことがなかったとい うから畏れ入る。

    美輪明宏と対等に口を利き、三島由紀夫には役者時代に演技指導までされている。「君のおじいさんの詩、若い時 よく読んだよ」と三島が言ったというから朔太郎の孫だということは周囲の人にはよく知られていたのだろう。本人にその気があろうとなかろうと、朔太郎の孫 というのはすごいネームバリューであったろう。それに加えてその美貌である。朔太郎ゆずりの大きな瞳と憂いを秘めた顔立ちは、後に美大の教授となってから 女学生に、不倫してみたい先生ナンバーワンの称号を奉られているほどだ。

    全裸の土方巽と少年航空兵の上衣と帽子だけを纏った朔美 が白馬に跨る写真は澁澤が編集長をつとめていた雑誌『血と薔薇』創刊号の頁を飾ったもので、朔美にモデルの依頼があったという。酔った東由多加が、「あな たはは寺山さんに可愛がられていたからな」とからむところや、個展会場で土方に何でもいいから選べと言われ、池田満寿夫の版画をプレゼントされるところな ど、名だたる異才たちにかなり愛されていたことが分かる。もっとも当時の朔美はそんなことに気づくはずもなく当たり前のようにそれを受け容れていたという から、そのノンシャランなところが貴種というものだろう。

    森茉莉の家には小学校時代からお使いに行っていたが、人見知りの少年時 代は、話すこともできなかったという。ある日夕飯時になっても母と話し続ける茉莉に「人の迷惑も考えてよ」と言ったことがあり、その時の茉莉の困った様子 を見て傷つけたことを後悔する少年でもあった。大人になってからは部屋に入ることもあって、森茉莉の部屋の様子をスケッチしてみせる。殆ど物のない部屋 で、森茉莉の書くものとの落差に驚かされるが、生活臭のなさというのは分かる気がする。洗濯が苦手で、下着は近くを流れる川に捨てては新しいのを買ったと いうから半端ではない。

    朔美は森茉莉をいくつになっても大人になりきれない「子供大人」と評している。子どもの頃は、それにいら ついていたのに、今大人になって思うのは、自分も本当はああいう子供大人になりたかったのだ、という思いである。「1660年代のヒッピーのように、放浪 し、愛し、作り、味わい尽くす。そんなような生活を理想として思い描いていたのに、いつのまにか日常の些末な出来事に囚われて、凡百の世俗の殻に自ら閉じ 込もってしまった。」この後悔を我がことのように感じない同世代はいないのではないか。多摩美術大学の教授となった今の自分を「芝居を捨て凡庸を選んだ 者。かたぎに堕した男。それが熱中するものの無い人間を支える、甘い故郷のような自己憐憫である」と自嘲するその口吻に祖父朔太郎の面影が重なる。

    沼 正三にマゾヒズムの神髄を教えられる一章から東野芳明によって多摩美に呼ばれることになる最終章まで、一人の青年が60年代、70年代を無我夢中に駈け抜 け、ふと気づくと妻子も家もある大学教授になっている。振り返ってみれば、贅沢なメンターたちに囲まれていた、あの「劇的な人生こそ真実」であったのだと 気づく。この人でなければ書けなかった貴重な体験記。全共闘世代と括られることが多いけれど、アングラの時代でもあったのだ、とあらためて気づかされた一 冊であった。

  • 著者の出逢った7人、沼正三、パルコを創った増田通二、土方巽、森茉莉、寺山修司、母親の萩原葉子、多摩美術大学教授の東野芳明。彼、彼女らとの交流で印象の強かったエピソードが綴られている。著者は本当に沼正三=天野哲夫を初期の頃から知っていたのだと感嘆し、森茉莉はベッドの足許にテレビを置き、枕元に本を積み上げその間で背中を90度に曲げて寝るといった記述にさもありなんと思ったり、増田通二氏の経営者としての判断力の素早さに驚き、でも一番凄いと思ったのは、やっぱり美輪明宏でしょう。

  • Weフォーラムのため、1週間ほど留守にすることもあって、その前しばらくは本の予約を控えていた。フォーラムがすんで帰ってきて、ぼんやりと図書館の新着リストを見ていたら、萩原朔美のこんな本が出ていた。誰も借りてなかったし、ちらっと目次を見ると増田通二さんが出てたので、おっと思って借りてきた。ニキ美術館をつくった増田静江さんの夫で、あの建物を設計した人である。

    プロローグに、寺山さんのアフォリズムを真似てみたくなった、とこんな言葉が書いてある。

    ▼『面白い人が居ない時代は不幸だ。しかし、面白い人を求める時代はもっと不幸だ』 (p.5)
    増田さんのほかに出てくるのは、真似てみたくなったという寺山修司、母の萩原葉子、森茉莉、土方巽、沼正三、東野芳明。「私が逢った」というとおり、私・萩原朔美が見た、そして関わりのあった「異才たち」の人生が書かれている。借りてきた日に読みはじめたら、ぐいぐい読んでしまった。

    もう「異才たち」はみなあの世へ旅立った。萩原朔美だって60代なのだ。1946年生まれ、じじいになりつつある萩原朔美の、若い頃の話でもあって、同世代といってもどこにいたか、何をしていたか、どんな履歴かによって様々だろうけれど、(団塊とよばれる世代の先頭が若かった頃は、こんなんでもあったんかなア)と思った。

    私は萩原葉子の暗い暗い、自伝的といわれる小説を高校生の頃に読んでしまったせいか、ずっと長いこと萩原葉子といえば陰惨な印象ばかり強かった。それがあるとき、親しい友だったという森茉莉の『ドッキリチャンネル』を読んでみたら、そこに出てくる萩原葉子は、むしろコミカルで、律儀で、ヤッタルデとがんばる人で、ほんまに同じ人なんかと思ったくらいだった。

    息子の筆になる萩原葉子は、「年齢同一性障害」と書かれたりして、これがまたおかしい。萩原葉子が亡くなったあと、追悼展の際に「葉子像」をもってきたという、旧知の人らしいMさんという人がずっとイニシャルで登場するが、一カ所だけ、イニシャルにし忘れたのか、名前がそのまま入っていて、(ええんかいな、ここまでとここからイニシャルにした意味ないやんか)と心配してしまった。

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