新々百人一首

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著者 : 丸谷才一
  • 新潮社 (1999年6月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (669ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103206071

新々百人一首の感想・レビュー・書評

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  • ■相 模
     手もたゆくならす扇のおきどころ忘るばかりに秋風ぞ吹く

    『新古今和歌集』巻第四秋歌上。また、『相模集』。
     扇は手にもてあそんで心身の快をむさぼる小道具であるゆゑに、情人の比喩となりやすい。これは誰にでもわかるが、アフギにアフ(逢ふ)がはいつてゐることは、現代人は見落しがちだらう。しかし王朝貴族は言葉のうはべにとらはれて生きてゐた。あるいは、それが言葉のいのちだと信じてゐた。たとへば『後撰集』の
        旅にまかりける人に扇つかはすとて  読人知らず
      そへてやる扇の風し心あらばわが思ふ人の手をなはなれそ

    が贈答歌として成立するのは、アフギにアフが含まれてゐるため、再会を祈ることになるせいだつたし、『拾遺集』の、
                          中 務
      あまの河河辺すずしきたなばたに扇の風をなほやかさまし

    は、何よりもまず、二星の逢びきに下界から、アフギのアフで加勢しようといふこころだつた。
     相模の詠においては、情人の比喩としての小道具、およびアフギに含まれるアフによる、色恋沙汰のほのめかしが極めて重要である。これは、夏のうちは手もくたびれるほどあふいでゐた扇なのに、涼しくなると、扇をどこに置いたか忘れてしまふ、といふただそれだけの歌ではない。もしそれだけなら王朝和歌ではなかつた。一首は季節の移り変りを表層において、しかしそのすぐ下に男女の仲があつた。さういふ恋歌がらみの仕掛けでなければ、女房の心の表現とはなりにくいのである。
     それにかういふこともあつた。秋は結婚の季節で、秋になつたらと男が誓ふ意の慣用句、「秋かけて言ふ」があるほどだ。たとへば『伊勢物語』の第九十六段、女の詠める、

     秋かけて言ひしながらもあらなくに木の葉ふりしくえにこそありけれ

    しかし約束は、『伊勢』のこの場合もさうだが、しばしば破られるため、「秋」は「飽き」としてとらへられ、それゆゑ「秋風」は「飽き風」となる。

                          源家長
     真葛原ひとのこころの秋風はかへすがへすも怨めしきかな

     こんなふうに見て来れば、一首は当然、かつては男がせつせとかよつて来たのに、今は飽きられて秋の扇のやうに忘れられた、どうやら住ひも覚えてゐないらしい、といふ閨怨の歌となる。そのなまなましい嘆きの声がさりげなく歳時に移されるのは、むきだしな人事を嫌ふ礼法といふよりはむしろ、迂回と暗示によつて解読の喜びを用意しようとする詩法であつた。

  • 百人一首って要するに、詩のアンソロジーなんだよね。小倉百人一首に遠慮しないで、ほんとならみんなそれぞれの百人一首を自由に組んでみたってかまわないんだ。
    もちろん千年受け継がれてきた小倉百人一首は超ものすごいし、自分なりの百人一首を組むにはそれなりにがんばらなくっちゃだめだろうけど。

  • 一家に1冊、と言いたいところですが、残念ながら現在、文庫版しか入手できず、上下2分冊、になってしまいます。

  • 屏風歌詠みの紀貫之――
     読んでいると、採り上げられた歌の解説に、よく屏風歌であると指摘する箇所が出てくる。屏風歌とは、一言でいえば、屏風絵に画讃として色紙型に書き込まれた歌のことだ。屏風絵-屏風歌の多くは、四季あるいは十二ヶ月の情景をあらわしている。四季折々の情景が、季節の順に画面右方から左方へと散りばめられ、各情景は、添えられた屏風歌とともに鑑賞される。描かれた情景を見、歌を読み、その情景のなかに入り込んでいくとき、画中人物には血が通い、生きる時間が流れはじめ、風景は瑞々しく生動してくるだろう。また、屏風絵全体を大きく眺めわたせば、その四季共存の光景は、彼岸ではなく此岸としての理想郷にほかなるまい。
    この屏風絵-屏風歌が盛んになるのは、唐風の絵画から脱して、国風文化としての大和絵が成立してくる9世紀以降、古今集成立前夜頃であろうとされる。
    考えてみれば、その古今集もまた、屏風絵-屏風歌の構造と同型のものではないか。四季折々の歌が配され、自然を愛で人生を観じ、或は恋に悩み恋に生きる姿が謳歌される。
    丸谷才一によれば、古今集編者紀貫之の「貫之家集」888首の約6割は屏風歌であるとされ、屏風絵の画讃の歌詠みとして貫之は当世流行の職業的歌人でもあったろう、としている。

  • <閲覧スタッフより>
    藤原定家の「小倉百人一首」の向こうを張って、丸谷才一が試みた“新しい”百人一首。果たして「丸谷百人一首」は定番になり得るだろうか??思い入れが強いだけになかなか勇気のいる作業だったというその渾身の厳選と解説を楽しんでください!
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    所在番号:911.147||マサ
    資料番号:10126047
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  • いまちょっとずつ読んでいる、楽しい。蒙を啓くとはこのようなことなのか。日本の文化や精神が、すこしずつ沁み込んでくるような感覚。

  • 丸谷氏の選ぶ百首とは…

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新々百人一首の作品紹介

王朝和歌の世界が絢爛と甦る歴代の名手から新たに選ばれた不朽の秀歌百首。

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