晴天の迷いクジラ

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103259220

感想・レビュー・書評

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  • おもしろかった!
    と言っていいものか。
    いろんな痛みがあって
    でも少しずつみんなほぐれてきて
    よかった。

  • ひとつ前に読んだ「ファミリーポートレイト」をひきずっちゃうなぁ。
    コマコほどではないにしろ、恐ろしい母の呪い、痛々しい心の叫びが重なります。

    母親からの愛情を感じられず家を出て、仕事に忙殺されて彼女にフラれて、うつ病の薬が手放せない由人。
    圧倒的な絵の才能が有りながらも泥沼から抜け出せず、子供のまま子供を産み、育児ノイローゼからすべてを捨てて逃げ、そしてまたすべてを失った野乃花。
    強迫めいた母親のためにいい子であろうと頑張り続けても自分を見てもらえず、やっとできた友達を失い、生ける屍のようになった正子。

    ぼろぼろの3人が道連れに、湾に迷い込んで出られなくなったクジラを見に行く。
    それぞれの過去話は重苦しく痛々しくて、子供を捨てた野乃花でさえ嫌いになれず、必死にもがく様子にひりひりしました。
    3人もクジラも、死の淵が一歩先まで迫っていたけど、そこを踏み出さずにいることはそんなに難しいことじゃないってことに気付いたラストは、すーっと心が凪いだ。
    クジラの町で出会う人々、特におばあちゃんがいい。

  • 登場人物たちの辛い境遇が、読んでいて息苦しいほどだった。
    真夏のように暑い春の日に、沈む夕陽の中で正子が食べた水色のソーダアイスが印象的。甘くて悲しい味が私の中にも広がるようだった。

  • 激務と失恋の痛手でうつとなった由人、
    倒産直前の由人の勤める会社の社長野々花、
    極端な潔癖症で過干渉な母に追い詰められ、心を壊していた女子高生正子。

    死と隣り合わせ、自ら命を絶つことを覚悟していた3人が、ひょんなことから、浅瀬に迷い込んだクジラを見に行くことに。
    そこで出会った人との時間、それぞれとの時間で、生きることを考えていくようになる。

    窪さんの本、やっぱり好きです。
    途中、ちょっと自分的に停滞した感があったのですが、最後は、グッと気持ち掴まれました。

    3人とも、ホントにきつかったと思う。
    あんな思いしていたら、心を壊すのも分からなくもない。
    結局は、クジラと言うよりは、雅信さんちのおばあちゃんと雅信さんのおかげ、だったかも。

    今度は、窪さんのデビュー作『ふがいない僕は空を見た』を、是非読んでみようと思います。

  • 由人、野乃花、正子。三者三様の生き辛い事情を抱えている、この物語の主人公たち。ふとしたきっかけで座礁したクジラを一目みてから死のうとするが・・・。
    3人のそれぞれの物語は過去から遡り、軽すぎず重すぎず、でも読み手の心にその痛みが素直に入ってくる、絶妙なさじ加減のエピソードでした。(もっと掘り下げれば、3冊の本ができてしまいそう。)
    彼と彼女らは、旅先で出会った人々の温かい心に触れて、そんな人たちにもやはり辛い過去があって、一人では冷たくて仕方なかった指先を、誰かに温めてもらったり、もうダメだと思っていた自分が、誰かを温めることができると知ったとき。。「まだ、頑張れるかもしれない。もう少し、生きてみようか」と思い至ったりするんだろうな・・・そんな読後感でした。
    くじらの描写もよかった。一度座礁したクジラが沖に帰っても2日以内の生存率は半分だそうだ。それでも、クジラは納得してその生を閉じるだろう。やれることはやったのだから。
    (だけど僕は死なない。たぶん。)

  • デザイナーの由人、その会社の社長の野乃花、女子高生の正子。

    3人はそれぞれに傷を抱え、精神的に追い詰められていた。

    それぞれが死を選びそうになった時、
    野乃花の故郷に近い湾に迷い込んだクジラを
    由人は見に行こうと社長の野乃花に提案する。

    途中で正子を拾い、3人はクジラを見に行く。

    その村で出会った雅晴とおばあさんの家でお世話になりながら、3人はそれぞれに回復していく。

    どんなにつらいことがあっても死んじゃダメだって
    思い詰めている当人に言うのは、酷なのかもしれない。
    でも、そういってくれる人が身近にいるだけで
    力になるんだって、そう思える。

    雅晴もおばあさんも3人からしたら赤の他人なのに、
    死について、思うことがあって、
    それに裏打ちされた言葉は強い。

    あんなに暗く後ろ向きだった3人が徐々に
    前向きになるのは、なんだかうれしかった。

    3人のバックボーンが丁寧に描かれていたから
    同じ境遇ではないけれど、きちんと感情移入して読めたし
    おばあさんが正子に語った話では泣いてしまった。

    クジラが海に帰るのと同時に
    彼らは回復する。

    これからも迷うことがあったとしても
    きっと彼らは大丈夫なはず。

  • 淀川のクジラは残念だったが、このお話と重なりニュースをずっと気にしていた。読み終わった後だったので、衰弱していくことも何となく予感はしていた。
    前半はとても重く、登場人物たちの生きづらさがのしかかってくる感じだった。自分とも重ねて読み進めるのがつらい、つらい。クジラを観にいく後半からは、優しい人たちに包まれて、3人と一緒にほっとすることができた。

  • タイトルが、のほほんとした印象だったけど。
    闇を抱えた母親三人。歪みを抱えながら人生をひた走る三人。その周辺の人たちも、ゆがんでたり、いびつだったり、…
    クジラは再び外海へ出ても、生きられるとは限らないけど、人間はまた扉の向こうへ戻っても、ヘタに長く生きられそう、ということに、納得できるから不思議。

  • ただ「死ぬなよ」って、それだけ言えばよかったんだ――『ふがいない僕は空を見た』の著者が放つ待望の二作目。感涙長編小説。

    内容(「BOOK」データベースより)
    壊れかけた三人が転がるように行きついた、その果ては?人生の転機に何度も読み返したくなる、感涙の物語。

  • 鬱病に陥った青年
    過去に我が子を捨てた女社長
    母親の屈折した愛情から逃れてきた少女
    達が鯨をキッカケに再生への道を歩み始める


    鯨を見たから癒されたという感じではなく、それぞれがそれぞれの悩みに全力でぶつかっていった感じが良かった。

著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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