よるのふくらみ

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103259244

感想・レビュー・書評

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  • 女も性欲がちゃんとあったり、色気にほだされて人を好きになったり、喜んじゃいけないところで喜んじゃったり、そういう、人間くさいところに、共感してしまう自分がいる。
    窪さんの小説は、人の隠したいところをあけっぴろげにしてしまうんだけど、そこを突いて責め立てるでもなく、ありのままを描き切ってしまうので、それがなんとも言えない読後感を出しているように思います。
    心だけじゃどうにもならない、身体的な男女の関係を、臆せずに、そして美化せず描き切って作家さんとして、窪さんを尊敬しています。
    このお話では、3人の男女の気持ちが交互に描かれます。「ふがいない」に似ているけれど、読み終えた後なんだかスッキリした本作と、希望は見えても棘が刺さったまんま、ってかんじの「ふがいない」だと、読み終えたあとの感覚が違いました。
    不思議と圭祐のストーリーが好き。

  • 子供の頃は深く考えずにただ笑っていれば良かった。
    大人になると人間関係も複雑に絡み合い柵に揉まれたりと溜め息をつくことが多くなる。

    同じ商店街で生まれ育った幼馴染みの3人。
    性格が正反対の兄弟と、弟の同級生であり兄の恋人の彼女。
    3人が交代で主役になって物語が進んでいき、三人三様の複雑な心境が徐々に明らかになる。
    優等生の兄は兄なりの自由奔放な弟は弟なりの、その両者の間で揺れ動く彼女には彼女なりの。
    窪さんがそれぞれの思いをスパッとセキララに描いていく。

    誰も傷つけずに生きていくことなんて不可能だ。
    傷つけ合って相手を憎んだり、そんな自分を卑下したり。
    厄介なことが色々あっても、そうやって人と人が一緒に生きていくことはやっぱりいいものだ、と窪さんから教わった気がする。
    ラストで自分の気持ちを言葉にして伝えられた兄に幸せが訪れますように。

  • 理性と感情、心と体はシンクロしない。自分はこの作品の登場人物ではあきらかに圭ちゃん気質なので、読んでいてちょっと辛かった。

  • 章ごとに語り部が変わり、それによってそれぞれの本当の感情が明らかになる。
    人と人との結びつきは心だけでも、体だけでもうまくいかない。
    好きな人に求めてもらえない
    好きな人を抱くことができない
    女の人にも性欲がある、その当たり前のようでみんなが避けることを描いていて、とても面白い作品でした。

  • どうしようもない遣る瀬無さ、後悔、でも最後にはほんのりとした救い。こういう小説が最近多いような気がする。時代の求めるところなんだろうか。

  • この世のなか真っ当な生き方をしてる人間なんているんだろうかと、窪美澄作品を読むといつも思う。
    みんな何かしらの後ろめたさや秘密を抱えて生きている、そういう闇の部分を描くのが本当に上手だなぁと思う。
    快晴のように晴れやかな気持ちにはなれないけど、雲間から一筋の光がさすような結末に少しほっとした。

  • 商店街で育った3人の男女。
    兄弟の圭祐と裕太、近所に住むみひろの恋愛模様。
    各章が、それぞれの目線で書かれ、ストリーが進んでいく。
    それぞれの想いがつぶさに語られ、それがとっても切ない。
    誰も悪くない。
    なるべくしてなった。
    そんな感じ。


    著者の本は2冊目。
    前回読んだ「水やりはいつも深夜だけど」よりも、こっちの方がずっとずっと良かった。
    作風が、窪さんらしいとのレビューがあったので、他にもいろいろ読んでみたい。

    もしかしたら、最近読んだ本の中で一番好きかもなので、また読み返してみようかなと思ってます。

  • 久しぶりの5つ星、窪さん。

    朝方目が覚めて、二度寝ができなくて
    ぱらぱら開き始めたら、
    あっという間に引き込まれて
    数時間で一気に読了。

    だれもかれもが抱える不安と、やさしさが
    痛いほど伝わってきて。
    ああ、よるべのない感情だなあ、
    私はこの気持ちに
    どう出口を見つければいいのかなあ、と
    浮かべながら読んでいました。

    窪さんは性描写が多いので
    作品によって得手不得手が明確に分かれますが、
    窪さんが苦手な人にも
    読んでほしい作品です。

    もう一度ページを開きたい。

  • 今回の作品は全てがストレートで心にズーンといろいろな感情が押し寄せてくる。みひろ・圭祐・裕の交錯する気持ちが切なくて、思い通りにいかない恋愛を見ているともどかしい。セックスという身体同士の繋がりも大切なのかもしれないが1番重要なのはお互いの心の繋がりなのかもしれない。この作品から学んだ事は自分が思ってる事や感情をきちんと伝えないと相手には伝わらないという事。3人共、悩みを抱えながらもがき苦しみ、最後には全員救われた。みんな、苦しかっただろうけどこれで良かったんだと思う。

  • 最初の『なすすべもない』読み終わって溜め息。ふぅ~凄い、エロさが日常や家族的なものを丁寧に描いてる故に際立ち、彼女の苛立ちが映える、そして最後の行動の熱の行き先と高まりが。
    二人だけでいいのに付随してくるものや関係性。

    『よるのふくらみ』もだし過去作も連載中『さよなら、ニルヴァーナ』も連作短編集として各登場人物の視線から一話が書かれて一冊の小説に綴られている。だから窪さんの連作短編集はやはり素晴らしく巧いし、いろんな読者から支持されるのはいろんな視線があるから。

    『平熱セ氏三十六度二分』はもう、こういう話大好きというかもうねえって感じだわ。窪さんの小説好きな人は『素晴らしい世界』『ひかりのまち』なんかの初期の浅野いにお連作短編好きだと思った。

    『なすすべもない』読み終わった感想。男女の空洞が互いに挿入され擦れ熱が生まれる。溢れでる液体は喜びや哀しみ、愉悦や劣情様々な感情をすでに孕んでいる。熱と液体により生まれた僕たちは空洞を埋めるためにもとめるが満たされることはなく、満たされても刹那という永遠の中に。

    「星影さやかな」を。主要人物三人の視点で各話展開しているから少しずつ同じ時期の出来事に対しての想いやバックボーンがわかってくるから三者三様の中に自分に似たものを見つけることになる。そういうのを読むと窪さんは丁寧な書き手だなあといつもながら思う。丁寧に傷に塩を塗り込んでくるとも言える。

    マリアさんの胸に顔を埋めたいと思わずにいられないのが「星影さやかに」なんだけど、いんらんおんなと言えて自分のしてきたことを引き受けるしっかりしてる女に甘えたいんだよなあ男は。
    で、その弱さもわかるし彼女は何にも言わないからどうにもならい怒りが圭ちゃんみたいに表れるんだよなあ、本当に。最終的にミミと圭ちゃんの関係にも繋がるわけで。

    『よるのふくらみ』表題作を読み終わると朝だった。ふくらんだものは膨張し破裂するか抜けて萎むしかない。生活の中で想いや性欲やそんなものたちは自我で抑え込めるか膨らむのを止めないか、だけどもどちらになろうとも後悔は後ろ髪を引きずっと居座るんだろう。
    羽化(浮か)して翔べるんだろうか?

    六つ目の「瞬きせよ銀星」読み終わり。
    四つ目の「よるのふくらみ」以降が特に心を揺さぶられた。五つ目の「真夏日の薄荷糖」と最後の「瞬きせよ銀星」で泣かされた。心の奥の方の自分だけの場所をかき回された感じがする。正確には読んで波立てたのは自分なのだけど。
    なんだろう、三つ目の「星影さやかに」以降なんか、なにかが明らかに変わってる感じがすんだよなあ。窪さんの執筆力というよりもなんか最初の二編となんか違うものが宿ってるそういう感じっていうか、なんだろうよくわかんないけどギアチェンジというか意識が変わってるというか。そんな気がした。

    『よるのふくらみ』はいろんな人を泣かせる小説になると思う。感動とか泣けるとかじゃなく泣かせるのは無意識化に、ブラックボックスに仕舞いこんだ自分の感情や欲望と小説を読みながら向かい合うことになるから。自分の感情や欲望に向き合うとチャクラが開かれていろんなものが開放されてしまう。
    開かれた後の大問題はそれもう閉まらないよっていうラインを越えてしまうから戻れない。こういう作家は怖いんだ、世界のみえかたを改変させれちゃうから。窪さんといい樋口さんといい、熱狂的な支持を受ける作家は読者のOSを新しく物語によりインストールして尚且つアップデートしちゃう、質が悪いw

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著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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