よるのふくらみ

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103259244

作品紹介・あらすじ

その体温が、凍った心を溶かしていく。29歳のみひろは、同じ商店街で育った幼なじみの圭祐と一緒に暮らして2年になる。もうずっと、セックスをしていない。焦燥感で開いた心の穴に、圭祐の弟の裕太が突然飛び込んできて……。『ふがいない僕は空を見た』の感動再び! オトナ思春期な三人の複雑な気持ちが行き違う、エンタメ界最注目の作家が贈る切ない恋愛長篇。

感想・レビュー・書評

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  • ありていに言えば陳腐な話である。
    一人の女性と彼女を好きになった兄弟の三角関係の話なんて少女漫画かメロドラマみたい。
    とはいえ、使い古されたストーリーを窪美澄が描くとどうなるか。

    “「血の通った」とはよく言われる言葉ですが、
    それをここまで体現する作家は、まれだと思います。”

    これは本の帯に書かれている西加奈子さんの文章。
    まさにその通りで、窪さんの描く世界は圧倒的なリアルで胸に迫る。
    生身の人間が傷ついたり傷つけたり恋したり欲情したり・・・。
    どうにもならない人間臭さに登場人物の全員にあますところなく共感してしまった。

    この物語の核とも言える“セックスレス”。
    私の知人にもこれが原因で離婚した人がいる。
    結婚してから一度もないなんてどういう事よ!と当時は妻の立場になり大憤慨。
    でも今自分が歳を取ったせいもあるかもしれないが、この小説を読み改めて圭祐の立場になって考えると、考えがぐらぐら。
    EDで離婚された男ほど辛いものないんじゃないかと。

    でも、夫婦の形は人それぞれ。他人がとやかく言うもんじゃない。
    改めてそんな風に感じさせてくれた小説だった。

    前回の短編集でちょっとがっかり感はあったけれど、この作品はよかった。
    ドロドロしているだけじゃなく、読後感爽やかな窪さんの小説が戻ってきて嬉しくなった。

  • きっと、あらすじを説明するのは、簡単なことだと思う。そしてその時に、誰を主語にして語るかどうかは、人によって、異なるんじゃないかな。

    窪さんの独特の表現が、すごくすき。ふだん、恋愛小説を読まないわたしだけれど、この作品は、立ち読みをしていたら止まらなくなるほど、引きこまれた。

    『ふがいない僕は空を見た』以来の窪さんの作品。
    また、あの時と似たような感覚。
    それぞれ、みんないろいろあって、それをうまく言えずに、あるいは隠して、一生懸命生きている。苦しいのは、辛いのは、自分だけじゃない。
    みひろが主人公でも、裕太が主人公でも、圭ちゃんが主人公でも、胸が苦しくなった。
    誰かが、何かが、悪いわけではないのに、うまくいかないことは、いくらだってある。それでもきっと、誰かのせいにして、誰かを許して、生きていくのだろう。人のぬくもりを頼りに。

  • 兄、圭佑がEDで婚約者みひろとセックスレスが原因で、弟、裕太とみひろが最終的に結婚する。
    3人とも商店街の幼馴染である。
    人間の本能が勝り性欲の在り方が生々しく感じた。

    よるのふくらみの章で、セックスレスで悩む、みひろが圭佑と別れを切り出す。
    愛があるけどセックス出来ない圭佑を見ていると倦怠感しかなかった。
    ヤゴが孵化し旅立つシーンが、圭佑とみひろの旅立ちの様に描かれたいる点が儚く思った。

    許し許され人は繋がりを持って行く。愛の温もりを感じながら。
    そんな官能的な文体が切なく綺麗に描かれていました。

  • 表題作を含む6つの短編集です。
    圭裕・裕大の兄弟と、みひろの3人がそれぞれ短編ごとに入れ替わり、主人公になります。

    商店街で育った幼なじみでもある3人ですが、高校時代に圭裕がみひろに告白をしたところから、3人のバランスが少しずつ崩れていきます。

    この小説のいいところは、同じ時間を語り手を代えて見るのではなく、次の短編へうつると時間も進んでいるところです。
    3人それぞれの気持ちと体のすれちがいが、痛々しく、でも時間だけは平等に流れていくことで、変わらないように見えた3人も少しずつ前に進んでいきます。

    小さな3人の輪のなかで絡み合った恋愛感情が、オトナになってもここまで絡み合うものなんだろうか?とも思います。
    けれど、そう思っていてもなお、ひとつひとつの物語にひきこまれてしまうのが、窪美澄さんの小説のすごさです。

    気持ちだけでも、身体だけでも、つながりきれないものがこの世の中には存在します。
    それを知ることで、読み終えたとき、たいせつな人に出会えて、一緒に歩めることは、とてつもない奇跡なんだなと、思いました。

  • 自分の生きている狭い世界で、生き続けていくのって難しい。商店街、兄弟、幼なじみ…自分では経験したことのない世界だけど、読んでいてしんどそうだなと思った。
    三人とも自分勝手なように感じたけれど、ある意味人間らしいのかもしれない。

  • 小さい棘が、知らないうちに心に刺さっていたような気分。読み終わって、晴れ晴れするわけでもないし、むしろ落ち込んでしまっている。土下座をしてまででも好きな人を手放したくなかったこと、ずっと好きだった人が忘れられないこと、誰かに負けること、全部全部がわたしの心を痛める。
    途中で、みひろと裕太が腕を組んでスキップしたという描写があって、それが一番好きだったという、、、
    全体的に心苦しかったけれど、みんなちゃんと道を進むのだなあと思いました。わたしもちゃんと進みたい

  • ある年齢を過ぎると、してない、ということが人には言えない秘密になる。
    言う機会なんてないのだが、それでも秘密を抱えている重い気持ちになる。

  • 窪美澄の書くままならない人たちがもがく姿が好きだ。

  • 情なのか欲なのか。
    かなり近いところで線が交わる。
    この結末みたいに、
    みんな素直に生きて、
    みんな幸せになれればいいなー。

  • 読み終わって泣いた。みひろの圭ちゃんへの思い、祐太への気持ち、圭ちゃんのみひろへの思い、京子の救い、祐太の里沙さんへの思い、みひろへの思い全てが共感できて、ただただ切なかった。

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著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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