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- Amazon.co.jp ・本 (607ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103271079
感想・レビュー・書評
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天台宗の開祖となった最澄を主人公とする歴史小説です。第一巻では、のちに最澄となる、少年時代および青年時代の広野が、仏法をこころざしながらもさまざまな悩みに翻弄されるすがたがえがかれます。
著者は、小説家というよりむしろ批評家としての仕事のほうがよく知られており、本書でも著者自身のことばによる歴史的背景の解説に多くのページがあてられています。そのため、読者によってはストーリーのスムーズな進行がさまたげられているように感じられるかもしれません。その一方で、東アジアの国際関係のなかでさまざまな陰謀がうずまくなかで、当時の政治状況が動かされていったとする本作のストーリーの背景は、エンターテインメント性の強いものになっているようにも感じます。また、渡来人の商家の娘である帳詠麗から愛を告げられて葛藤するシーンや、和気一族の葛城克麻呂との交流によって政治の現実を教えられ思い悩むシーンなどにも、近代的な教養小説の雰囲気がただよっているように思います。
歴史小説としての完成度については、個人的には正直なところそこまで高く評価することはむずかしいように感じましたが、最澄という小説の主人公に適さないようにも思われる人物を主人公にとりあげ、彼の特質と当時の社会が切り結ぶ大長編小説であり、読みごたえはあります。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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