- Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103276616
作品紹介・あらすじ
京都の大学で、『アンネの日記』を教材にドイツ語を学ぶ乙女たち。日本式の努力と根性を愛するバッハマン教授のもと、スピーチコンテストに向け、「一九四四年四月九日、日曜日の夜」の暗記に励んでいる。ところがある日、教授と女学生の間に黒い噂が流れ…。(わたしは密告される。必ず密告される)-第143回芥川賞受賞。
感想・レビュー・書評
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わたしにとって乙女とは、少女でも彼女でもない。女性という響きとも全く違う。
毒々しいほどの深紅の薔薇。指先をのばせば突き刺すのは神経を麻痺させるような棘。
おいでおいでと手招きされるのに、近づけば心臓を引き裂かれるようなダメージを笑いながら与えられる。
そんな乙女には滅多にわたしは出会わない。
あくまで、わたしの思い描く乙女は!だけどね。笑
乙女という生き物は、日常から遮断された、独特な空気感漂う世界に存在しているんだと思う。
その世界では、しらけた真実は必要ない。
真実を持ち出すことほど、“あほ”なことはない。
噂のなかで、乙女は華やかに舞い、胸をときめかせる。
バッハマン教授がみか子に語る、「一九四四年四月九日、日曜日の夜」
わたしの頭の中で、ぐわんぐわん響きながら、走馬燈のようにゆっくりゆっくりと回転する。
アンネ・フランクはこの夜、本当に無事でしたか。
本当に命拾いしましたか。
真実を語ったのは誰か。それは密告者。
乙女にとって、真実は禁断の果実なのです。
それでも、真実は必要なのです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2010年芥川賞受賞作。
赤染さんはかなり露悪的で、ひとが悪くて、でも実は繊細なひとなんじゃないかとおもった。「乙女」って言葉がこれでもかと出てきて、美文とは到底言えないにも関わらず読ませてしまうリズム感、ドライブ感といい、さらっと見せているけれど確信犯的に書いているんじゃないかな。アンネをそんな風に使っていいのか、みたいな、単純だけどごもっともな怒りを感じるひとは多いだろうし、ふざけてるのか切実なのか正直これだけだと判断しきれない。でも、純粋に現代文学はこんな風に多様なんだ、豊かなんだ、ってわくわくさせられた。わたしがわたしであること、ことばを持つこと、そんな普遍的にして重要な問いかけをこんな風に表現するひとがあっただろうか。おもしろい。今後もぜひ追いかけていきたい作家さんだ。 -
「わたしはこのバラが好きです。わたしはアンネを悼みます。ただし、これは一本のバラです。乙女はこのバラをアンネと呼んではいませんか」
初めて読んだのは10年前。話の意味を完全には理解しきれていなかったんだけれどそれでもずっと好きな小説です。10年間何度も読み返したはずなのにやっぱりわかるようでわからない、痒いはずなのに違うところを掻いているような、霞をつかむような話。今回またふと読みたくなって読んでみたらなんか以前よりも理解できてる気がする。バッハマン教授はアンネをロマンチックに語ることを許さない。そしてアンネが自分がオランダ人になりたいと言った日を一番大切な日だと言う。
タカヨも麗子様もアンネの言葉で自分が何者かを語ったけれど、「それは許されないこと」だと断言する。タカヨのことはバッハマン教授の知るところではないが知ってたとしてもやっぱ「許されない」って一刀両断するんじゃないかな。だからタカヨが女王様って言葉を忘れたときにタカヨ!!ってキレながら拍手していたと思うし。
名前を奪わせるな、おまえが何者かを忘れるな。それを忘れたときに乙女はおまえを密告する。乙女とはなにか、どうしてミカ子は他者になりたかったのか。
理解できる気がするだけで、やっぱりまだ全然理解できてないのかもしれない。それでも好きな小説です。 -
「ポケモンGO」もいいけど、やっぱり小説。
というわけで、最近、すっかりハマっている赤染晶子さんの芥川賞受賞作です。
アンネ・フランクの受難を縦糸に、女子大生と教授の織り成すドタバタ劇を横糸に紡ぎ合わせた物語。
よくまあ、こんな物語をこしらえようとしたものだと、そのことにまず感服します。
たとえば、アンネ・フランクを題材に1万人に小説を書かせたとして、本作のような設定の物語が誕生することはまずないでしょう。
赤染さんはそれを堂々とやってのけ(まるで、これ以外にアンネ・フランクを現代の小説に仕立てる術はないのだという確信に満ちています)、しかも芥川賞まで受賞してしまうのですから、並大抵の力量ではありません。
あらすじはですね、えーと、外国語大が舞台です。
主な登場人物は、いずれも女学生で主人公のみか子、スピーチの上手い麗子、それにドイツからの帰国子女の貴代、あとちょっと地味ですが百合子。
ある日、アンゲリカ人形をこよなく愛するバッハマン教授が、彼女たちにスピーチコンテストの課題を与えます。
それが「アンネの日記」。
ただ、スピーチの練習は、ことごとくうまくいきません。
そのうち、バッハマン教授と麗子との間に、乙女には許されざる噂が持ち上がります。
乙女の世界は、真実より噂が優先される世界です。
そして事件が起こります。
バッハマン教授のアンゲリカ人形が誘拐されたのです。
それをみか子がかくまうことになります。
最後はスピーチコンテストの本番。
ステージに立ったのは、みか子。
練習では、いつもつかえて止まってしまっていた言葉が出てきます。
「アンネ・フランクはユダヤ人です」
という言葉です。
アンネ・フランクは自ら密告をしたのです。
このあたりは、芥川賞の選考委員の間でも物議があって、たとえば宮本輝は「強い抵抗を感じ」たとして受賞に賛同しなかったそう。
私は特に抵抗を感じることなく、最後まで面白く読めました。
誰もが密告者になり得るとか、アイデンティティーをどう考えるかとか、本作の問題提起は重いものばかりです。
ただ、そんなことを特段考えなくても結構。
作中の随所にちりばめられた諧謔に触れるだけでも値がある作品だと思います。
いやー、好きだわ、赤染晶子。 -
初読み作家。
芥川賞をとってすぐくらいに買ったまま放置していたもの。
みか子の通う女子大のドイツ語のスピーチの教室では変わったドイツ人教師が教鞭を振るっていた。
彼は行き帰りのバスに少女の人形を抱きしめて乗り込み、その間人形に話し掛け続ける。
みか子を含め、スピーチのクラスにいる女子たちは乙女と教授に呼ばれていた。
乙女は噂好きで、乙女は真実を見ない、そして美しい園の中で生きる。
そんな乙女で有り続けるひとり、何年か就職に失敗し大学に残っているスピーチ大会荒らしで有名な麗子さま。
彼女には乙女としての純潔を疑われる噂がたちはじめていた。彼女のスピーチの文章がこんなにも早く用意できたのは教授とやましいことをしているからではないのか、と。
乙女たちはその噂を信じ、あっちこっちで囁くが、麗子を尊敬していたみか子はその中に入っていけなかった。
乙女であるのに真実を知りたくなった彼女は教授の部屋へと向かうのだった。
アンネフランクの日記の文章や、アンネのまわりの人たちがみか子のまわりの迷子の乙女たちに重ねられ、そしてみか子もそのうちの一人となることを望むのだが…。
アンネの残した本当の功績。それを受けて私たちがするべきこと。乙女たちの真実との融合。
淡々とした文章はぶつ切りのようで、面白かった。
ただ余白と文字の大きさが久しぶりすぎて戸惑ってしまった。これは中編でもいいのでは? -
何が言いたいのなわかんないよ…
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閉鎖した空間で暮らしたアンネの日記と
閉鎖した女子大の空間のリンクさせる
手法が、なかなかうならせた。
女ばかりの集団の妙な空気、
女だからよくわかる。
2010年芥川賞受賞作。 -
ページ数も少ないし1頁の文字の量も少ないのでサクッと読める。
がこの本読む前に(読んだ後でもかまわないけど)
「アンネの日記」は読んどいた方が良いと思う。
「アンネの日記」の知識が皆無だとサッパリなんじゃないか?と思う作品。
さて・・・時代設定は現代で良いのか?とかちょいと解りにくい。
設定的には現代のような気もしますが、今時の女子大生で「乙女」である事を
強調するって・・・いんの?とか思ったので(笑)
考える事が明治・大正辺りの女学生みたいな事を云ってるな~と
乙女の潔白を晴らすとか・・・
女の根拠のない噂話好きは、まぁ解る。
それが「アンネの日記」に被せてあるんで、アンネの知識は多少なりとも
必要と言う事を考えたら
☆3・5くらいなんですが、四捨五入で4にしました。