D菩薩峠漫研夏合宿

著者 :
  • 新潮社
3.40
  • (4)
  • (7)
  • (9)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 85
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103285229

作品紹介・あらすじ

「男子が男子を好きになるのは、おかしなことですか?」「ぜったい一緒に寝ようね。おにいさまより。」 漫研の合宿に初参加した15歳の「わたし」は、出発前のバッグの中にメモを見つけて……。テレビもラジオもない漫画漬けの日々、熱愛カップルの復活、思いがけないおしおき、意外な告白、夜更けの甘いあえぎ声……。切なさに胸熱くなるひと夏の物語。著者初の自伝的BL小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 舞台は1970年代の中高一貫の男子校、漫研のひと夏の合宿を描いた自伝的BL小説。
    大好きな藤野さんだが、BLかぁ…ついていけるかなと若干不安だったが、章タイトルが「おにいさまへ…」「こいきな奴ら」「夏の終わりのト短調」など、往年の名作少女マンガがずらり!これは期待できるぞと読み始め、あっという間にハマりました。
    いつもの藤野作品とは何かが違うと思ったら、本作は語りが珍しく一人称なのだ。「少佐」「姫」とあだ名される「わたし」の自意識過剰な乙女っぷりにムズムズする。思春期特有の、頭でっかちな空回りが、滑稽なのに時に甘酸っぱく切なくて。藤野さんお得意の小ネタもかなりいい具合に絡んでいて、無性に当時のマンガが読みたくなりました!
    BLという表現はちょっと違うかなぁ。描かれている少年愛が、萩尾望都や竹宮惠子の名作少女マンガの世界のようで、あくまで舞台は日本だから、どこかおふざけっぽいというか。ちょっぴりエロスを感じさせつつも、イチャイチャの描写がチャーミング。すっかり個性的な漫研の面々に魅了され、それぞれのキャラに愛おしさを感じたところでのエピローグ…胸がギューッとして、泣きそうになる。自伝的小説は自分の軌跡を振り返るのに少なからず痛みを伴うと思うのだけど、本作もきっとそうだったろう。フフフと笑いながらも、目尻にちょっと涙が残るような。私にとっては間違いなく、藤野作品でお気に入り上位だ。この独特な世界観が万人に受け入れられるとは思わないけど、長年の藤野ファンなら必読。

  • 新聞に載ったインタビューにひかれて手に取った、著者初の自伝的小説。いやあ藤野千夜さんがかの麻布学園の出身だったとは。「ずっとフェリスって言い張ってきた」そうだが、「やっと覚悟のようなものができ」三十五年前のことをありのままに書こうと思ったそうだ。

    描かれる状況はかなり特殊だ。中高一貫男子校の漫研メンバー(中二から高二まで)十三人がD菩薩峠(言うまでもないがこれは大菩薩峠)で一週間夏合宿をする。OBが顔を見せたり、日帰りハイキングに行ったりしつつ、基本的にはずっとマンガを読んで議論する。まあ、ここまではそんなに変わっていると言うほどのこともないが、問題は、誰もが合宿でどんなカップルができるか、誰のとなりで寝るか、それを一番に気にしていることだ。

    おや、これってBL小説?と危ぶみながら読んでいったが(私はBLがちょっと苦手)、そういう場面も少しはあるものの至極あっさりした感じで、主に描かれるのは著者自身と思われる少年の揺れ動く心だ。これがねえ、実に覚えのある痛さ、恥ずかしさなのだった。男同士だからどうとか、そんなことあまり関係なく、多くの人が思い当たるであろうあの年代独特の、繊細で、時にひどく鈍感な心情が書き込まれている。

    主人公小笹は、特に誰が好きというわけではないけれど、合宿で何かが起きることを期待している。同時に、何も起きないこと、自分が誰からも求められないのではないかということをひどく恐れている。その描写が実に巧みだ。こういう思いをほとんどしたことがないという人もあろうが、そういう人はあまり小説など読まないだろうし、これなんか読んだら「だから何?」とイライラするに違いないが。

    現在の視点から書かれるエピローグが切ない。長い時間がたって、それぞれの人生にも転変があり、過去の出来事はおぼろな記憶の中に沈んでいる。それを著者がまるで昨日のことのようにすくい取っていることに感嘆した。



    ・この表紙はちょっとどうだろうか。あまりにもそれっぽくて敬遠しちゃう人もいるのでは?

    ・漫研合宿だから当然あれこれのマンガが登場する。私は著者とほぼ同年代なので、それらがとても懐かしい。各章のタイトルも名作マンガからとられていて、エピローグの「夏の終わりのト短調」なんか、ほんとぴったり。

    ・「大菩薩峠」と聞いて何を思い出すか。これは年齢や趣味関心によって違うと思われ、結構面白い質問かもしれない。「セキグンハ?」と聞き返す当時の著者はまったく何も知らなかったようだが(大菩薩峠は赤軍派が武装蜂起を目指す軍事訓練を行った所)、舞台がここであることが小説全体に響かせている意味は軽くないと思う。
     この合宿は1979年のことと思われる。著者は高二。中学校入学は1975年になる。その頃の麻布は、いろいろな形で70年前後の学生運動の余波がまだあったようだ(ほとんど校則らしきものがない自由な校風や、運動会がないことなど)。しかしそれは作中では完全に「背景」であって、直接的には語られない。
     この感じはとてもよくわかる。自分の出身校も田舎なりに運動の盛んな高校だったそうで、75年入学の私にもその残り香のようなものが感じられた。でも、それは自分のこととして切実に考えることではなかった。ちょうど小笹が大菩薩峠で赤軍派のことなど何も知らず、手紙をくれた「おにいさま」は誰かということばかり考えていたように。情けなかろうがなんだろうが、それが私たちの「リアル」だったのだ。

    • meguyamaさん
      コメント&フォローありがとうございます。こちらの作品もさることながら、『私の息子はサルだった』のレビューにもとても共感いたしました。よろしく...
      コメント&フォローありがとうございます。こちらの作品もさることながら、『私の息子はサルだった』のレビューにもとても共感いたしました。よろしくお願い致します。
      2016/02/10
  • 藤野千夜さんの小説を読むのはこれが初めてだが、面白かった。都内某私立男子校(どこがモデルなのかは明らか)漫画研究会の1週間にわたる夏合宿を、大人になった主人公の視点から振り返るものがたり。
    まだ男にはなりきっていない中性的な少年たちの自意識とのたたかいと性のめざめが、けなげで可愛くて、私は女だけど、自分の中高時代なんかも思い出しつつ、また、息子の学生生活とも重ねつつ(のぞき見させてもらっているような感覚で)興味深く読ませてもらった。
    先輩・後輩・OBとの関係なんかもリアルだし、顧問の先生がこれまたいい先生。脱力系でマイペースなんだけど、きっちり子どもたちを見守っている。この子たちが、持て余すほどの、息苦しいほどの、自由を謳歌できたのは、このような先生の存在あってからこそなのだよね。
    「BL小説」とうたわれているけど、ことさらに煽ることなく、当事者の視点で率直に描かれていて、まったく抵抗なく読めた。面白半分・興味本位とか、売れるからとかそういう目的じゃなく書かれているから、どんな人にも共感しうる心の動きとして、むしろ普遍的なものに感じられた。
    そして、男子校の漫研がどんな漫画を研究しているのかと思いきや、少女マンガなのですね、これが。
    往年の少女マンガがちりばめられていて、たのしかった。「お神酒徳利」というワードにピンときた方はぜひ♡

    • たまもひさん
      はじめまして。こちらのレビューに「そうよね~」と思うところ大でした。ほんと、「需要があるジャンル」だから書いた、という感じが皆無で、BLはい...
      はじめまして。こちらのレビューに「そうよね~」と思うところ大でした。ほんと、「需要があるジャンル」だから書いた、という感じが皆無で、BLはいいやと思ってる人も読んだらいいのにな、と思いました。

      これからもお邪魔させてください。よろしくお願いします。
      2016/02/10
  • 面白かったー!タイトルからして濃ゆい話が読めるのではとわくわくしました。後から知りましたが作者の自伝的小説なのですね。たった7日間の出来事を事細かに描いており、何気ない描写も取りこぼさずに描かれているので読んでいて楽しい。また登場人物の生きているのが伝わってきて、部員の仲間入りをしたかのような気分になります。こういう話は書けるようでなかなか書けないように思います。この方、上手だなぁという印象です。作者はまさかの女装をされた男性と知り、ビックリ。(女性だと思っていました。)藤野千夜さん、他の作品もどんどん読んでみたくなります。 

  • 藤野千夜はずっと好きで、今回は初の自伝的な小説ということで、期待して読んだが、裏切られなかった。藤野さんがあの学校の卒業生だと知っていたが、敢えて自ら触れないのは、いい思い出がなかったからかと思っていたが、読んでみると、あの学校だからこそ、素晴らしい中高生時代が送れたのだとわかった。知的レベルが高くお互いの個を尊重し、個性を重視する先生と仲間がいたから、世の中や自分自身に違和感を感じながらも楽しく過ごせたのだなと。マッチョな学校に行っていじめられたら、今の藤野さんはなかったな、と。
    書くことに迷いもあったろう。「おしおき」なんて、本人にとっては闇に葬りたい記憶だったにちがいない。35年経ってやっと書けるようになったというのは、よく分かる。(「ビューティーペア」はいい得て妙過ぎる。藤野さん、確かに似ている。これは絶対フィクションじゃない。)
    私は藤野さんより少し年下だけど、漫画好きだったので、書かれている漫画のことをありありと思い出した。懐かしい。あの頃の少女漫画は今とは全く違って独特の世界があった。男子の漫画はスポコンかギャグ漫画が殆どで、少女漫画を男子は読まないというのが普通。読んでいるのがバレるのは恥だった。姉妹がいるならともかく、いなければ変態の烙印が押されかねない。そんな少女漫画に心を寄せる男子が集まったクラブなら、ホモセクシャルが多くても納得できる。当時はホモセクシャルは変態扱いだったし。それを個性として当時から認めていた麻布(あっ、言っちゃった)に感動。
    できればこの後の大学時代、編集者時代も書いてほしいなあ。
    それにしても、この表紙の絵はない。恥ずかしくて買えないじゃん!裸でなくてもいいのに。ボーイズラブがメインの小説じゃないんだよ!思春期から青年になるまでの男子たちの個性的で不器用で滑稽で切ない青春小説だよ。その年ごろなら恋愛があって当然。それがたまたま同性愛だっただけ。
    文庫化するとき表紙変えてほしい。

  • 図書館のレビューでは低評価だったが、おもしろそうな表紙に惹かれて読んでみた。
    "おにいさま“が誰なのかワクワクしながら進めた。色々目ぼしい人はいたが、結末は意外な人物だった。
    『ずっと誰からも愛されないかもしれないと怯えていた十五歳のわたし』周りにカップルが増え始める頃になると勝手に悲観してしまう気持ち。分かる。
    作中に数々の漫画作品の名前が出てきたので全部記録してしまった。GEO行ったときにちまちま探そうかな…。

  • 麻布高校でこんなめくるめく世界が展開されているのかと思うと、それは興味深い…でも小説としては「それがどーした」と思えなくもない。自分の高校時代を思い出したりもしたけど、感動は無い。

  • 普通。

  • 作者の藤野氏本人の自伝的な青春譚でいいのかな?
    当時のおたくカルチャー? と伝統的な名門男子校の個性的な登場人物たちが面白かった
    「おにいさま」の正体は誰だったのだろうか 気になるけど分からない方がいいんだろうなぁ

  • どこかで読んだ書評に興味を惹かれ(とはいえ、その内容は忘れてしまったけど…)、読んでみてこういう話しだったのかあ、と(一体その書評のどこに惹かれたんだろう…?)。校内で『ホモとおかましかいないと言われている漫研』の夏合宿は、なんかもう、ホントにこんな風にカップルだらけになっちゃうの?と驚くけれどこれが自伝とは再度ビックリ。悩みを抱え、嫌なことも多分にあっただろうけれど、こうして振り返り、作品にできるというのは、作者にとってはキラキラとした夏の1コマなんじゃないかしらん。そう思いたい。作中に登場するマンガがどれも懐かしい。

  • 思っていたのとちょっと違った。

  • 久しぶりに読んだな、藤野千夜さんの作品。ルート255大好きでした。
    さて、こちらは藤野千夜さんの自伝的な物語、自伝BLです。
    ご本人も性同一性障害なんですよね、確か。なのですごく濃いです。濃いんだけどさらっとしてて読みやすい。青春BL!

全14件中 1 - 14件を表示

著者プロフィール

1962年福岡県生まれ。千葉大学教育学部卒。95年「午後の時間割」で第14回海燕新人文学賞、98年『おしゃべり怪談』で第20回野間文芸新人賞、2000年『夏の約束』で第122回芥川賞を受賞。その他の著書に『ルート225』『中等部超能力戦争』『D菩薩峠漫研夏合宿』『編集ども集まれ!』などがある。家族をテーマにした直近刊『じい散歩』は各所で話題になった。

「2022年 『団地のふたり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

藤野千夜の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×