モノクローム

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103299820

作品紹介・あらすじ

母さんはなぜ、僕を捨てたの? 答えはきっと、盤の上にある。母子家庭で育ち、幼いときに母に捨てられた少年・慶吾。孤独の中で囲碁に打ち込む慶吾の姿を、写真部の香田のカメラがいつも捕らえていた。香田の屈託ない態度のおかげで徐々に心を開いた慶吾は、それまで避けて通ってきた母の家出の理由と向き合おうとするが……。囲碁を通じて自分を取り戻す青春ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 5歳の時3日後に帰ると言って出掛けたあの人。
    どうして帰って来ると言ったのに帰って来なかったんだろう。
    あの夜、僕を捨ててまで彼女は一体何をしていたのだろう。
    あの人が、僕に対するよりもずっと真剣に
    夢中になって見つめていたもの…囲碁
    沖田慶吾13歳だったあの夏。
    彼女と初めて対局し、完膚なきまでに負かされた。
    あの日からずっと、一人になりたかった。
    早く大人になるんだ。一人でも生きて行ける大人に。
    そして、あの人にやり返す。復讐してやる…。

    慶吾は5歳の時に母親に捨てられ施設で育った。
    慶吾は自分の寂しさを隠し、大人びた子供となる。
    高校でも友人を作らず、敢えて一人でいた。
    囲碁に打ち込む慶吾の姿を写真に撮りたいと言ってきた香田
    正直で一直線な香田純隆
    屈託のない香田の態度や言葉…慶吾の唯一の友人になった。
    良かったね。

    香田が父を亡くした哀しみを他人事の様に捉え
    勝手に苛ついて、ひねくれて子供の駄々のように…。
    でも、きちんと香田の気持ちに向き合えた。
    謝りたいのに謝れず…来るはずのない香田の為に
    自分の食費を削ってまで香田の好きなコーラを買い続ける慶吾…。
    痛々しかった。
    香田と仲直りしたシーンでは、涙がほろりと零れました。
    一人で居たかったと思っていたが、一人でいるのと一人になるのは
    全然違うって気付いた。
    香田の言葉に背中を押され、今迄心の扉の奥の奥の奥深くに、
    蓋をして見ない様にしていた、母の家出の理由と向き合う事に…。

    母が慶吾を捨てた日。彼女は大きな囲碁の大会に出ていた。
    その時の棋譜を見れば、彼女の心の動きがわかる。
    でも、囲碁がわからない私には、大切なそのシーンに
    入り込めなかったのが、残念でした。

    苦しみもがいて生きて来た慶吾
    でも、最後には母の幸せを心から喜べた。
    もう、大丈夫だね。

    表紙が可愛くて借りた本…乾さん、初読みでした。
    心理描写がとっても繊細で好きでした。

  • 意味もなく置かれた石などない…。
    与えられたものだけで人生はつくられない…。

    意志と行動で変わる。変えていける。
    本当にそうできたらいいなと思います。

    とても静かでせつない話でしたが、香田君に救われました。

    私もよくモフモフのお腹に顔をうずめてなぐさめてもらったっけ。。。

  • 題材の1つに、将棋や囲碁が関わっているとつい読みたくなる。将棋や囲碁はルールが分かる程度のド素人で、詳しい事はよく知らないのだけれど。将棋や囲碁を扱う小説の多くは、対局場面など緊張感があり、棋士同士の駆引き、思考の深淵に沈み究極の1手を探すと言った展開など、少なくても私を惹き付けるストーリーがある。
    ただこの小説では囲碁はストーリー上、重要な要素ではあるが、ストーリーの根幹をなす「メインテーマ」は「孤独」或いは「育児放棄」であり、囲碁は添え物にすぎない。
    この小説を読み進んでいけば、この「育児放棄」が、世間一般に言われている育児放棄と違い、己れ自身の生き方を貫くための己れと息子に対してのギリギリ取れる最後の境界的行為だったのだろうと言うことが分かる。
    これが最後!という行為は、しかし思わぬ事態が起こり、母と息子の致命的なすれ違いを招く。他人は母を「無責任」と言い、息子である主人公は母を求めながらも怨みそして憎む。主人公「沖田慶吾」の、この母請いとそれが叶わない怨み辛みが、主人公自身を1人「孤独」に追いやる。そしてその「孤独」が、周囲の人の優しさを撥ね付け、恋人を去らせ、親友を傷付ける。
    親友「香田純隆」と喧嘩して暫く会わなかった時の慶吾の行動が悲しい。慶吾の部屋の冷蔵庫の中の大量のコーラは、香田がまた来てくれるかもしれない期待の表れ。自分から謝りに行けない不甲斐なさ情けなさの象徴。
    慶吾の人生が、無意味なものから有意義なものになるには、真っ正面から「母」そして「囲碁」と向き合わなければならない。
    慶吾の背を押したのも香田!慶吾は母と「自分を捨てた」時そのままの碁を打つ。ただ途中から当時の自分の手ではなく、今の自分が考え感じた手を打つ。それが慶吾の成長、そして母への思いを語っている。
    私的には、けっこう面白く一気に読めた作品だった。

  • 今年読み納めの一冊となりました。

    沖田と香田の関係。高校生で学年が違うのに、同級生みたいな友達づきあいができるものだっただろうか。香田(後輩)が沖田(先輩)に初対面からバリバリタメ口きいているので、不思議な感じでした。
    二人が喧嘩した後も、メールや電話で許しを乞う香田に対し、不注意から携帯が電池切れとなった結果、香田の電話を受けそびれた沖田が、それでもなお自分から連絡しようとせず、ひたすら香田からの連絡を待ち続けるところがモヤモヤポイントでした。「喧嘩はさておき電池切れはお前が悪いんだからさっさと電話してあやまれ!!」と沖田に対して思っていました。

    囲碁がわかる人だと、もっと楽しんで読むことができるのだろうなと思います。
    ストーリー中の囲碁の対局シーンも、ルールがわからないので、「なんとな〜く」の文字を追うだけの読み方になってしまった。

  • 母さんはなぜ、僕を捨てたの?
    答えはきっと、盤の上にある。
    母子家庭で育ち、幼いときに母に捨てられた少年・慶吾。
    孤独の中で囲碁に打ち込む慶吾の姿を、写真部の香田のカメラがいつも捕らえていた。
    香田の屈託ない態度のおかげで徐々に心を開いた慶吾は、それまで避けて通ってきた母の家出の理由と向き合おうとするが……。
    (アマゾンより引用)

    香田くんがめっちゃいい人

  • 「まるきり気にならないなら、
    そもそもそんなことなど思いもしない。」

    そうか、そうだったのか。
    わたしも色眼鏡持ってたんだな。

  • 香田くんはもしかすると実在しないのかもしれないとすら思いながら読んでいた。沖田くんの欲している言葉とか自分でも見えていない感情とか、そんなものを引き出すもう一人の沖田くんのような、そんな一番そばにいるけど触れられない存在のように見えた。

  • 5歳の冬に帰ってこない母に捨てられ、施設で育った慶吾。

    当時母が夢中になっていた囲碁をやるようになり、高校の囲碁部で、香田と出会った。

    高卒後、信金で働きながら夜間の大学に通い、彼女もできた。
    それなのに、体調を崩して大学も中退をせざるを得なくなり、彼女にも愛想をつかれてしまった。

    母に捨てられたという気持ちから逃れられないままの自分。

    香田と喧嘩して、自分の殻をわずかにでも破ることができた慶吾は
    自分を捨てた母が当時何をしていたのかの真相と向き合うことにした。

    一人になりたくて、一人で生きてきたつもりだったけど
    自分の味方になってくれる人は何人もいた。

    一見物わかりの良さそうで実は押し殺した部分を持っていて、どこか諦めていて、頑なだった慶吾が
    香田に自分の思いを爆発させるところが
    よかった。

  • 2017.9.2 読了


    幼いときに 母親から置き去りにされた
    過去を持つ 沖田慶吾。

    ずっと『母に捨てられた』記憶に苛まれ、
    けど、それを思い描いても びくともしないような
    強い人間になりたい、
    悲しいからと泣きわめいてジタバタするような
    子供じみたことは したくない、
    早く 大人へ!と 逆に ずっと過去にこだわることになる
    そのもがいている姿が 筆者の筆力でしょうか。

    沖田くんが いろんなことがあり、
    だんだん成長してゆく姿が 目が離せなくなった。

    囲碁という 全く馴染みのない世界の
    描写があって そこは 大事なとこでしょうが、
    残念ながら ちょっとわからない部分もありましたが、
    それを 差し引いても なかなか読み応えありました!

    香田も ほんとに いいヤツ!



  • 小説のモチーフにテーブルゲームが使われているのは大好きなので、楽しく読了。棋譜読めなくても楽しめます。私も主人公の親友の香田のようなまっすぐさ、天真爛漫さを持ちたい。お母さんサイドからの心理描写があると、もっと深みがあったのではないかと感じた。

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著者プロフィール

乾ルカ
一九七〇年北海道生まれ。二〇〇六年、「夏光」でオール讀物新人賞を受賞。一〇年『あの日にかえりたい』で直木賞候補、『メグル』で大藪春彦賞候補。映像化された『てふてふ荘へようこそ』ほか、『向かい風で飛べ!』『龍神の子どもたち』など著書多数。8作家による競作プロジェクト「螺旋」では昭和前期を担当し『コイコワレ』を執筆。近著の青春群像劇『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』が話題となる。

「2022年 『コイコワレ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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