閉鎖病棟

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103314073

感想・レビュー・書評

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  • 精神科医である著者が書いた精神科の病棟を舞台にした小説。
    細かい個々の話が重なって、ひとつの大きな話になる。

    病院の風景や患者の暮らしや医療の問題は面白い。
    ストーリーも先が読めるけど一応面白い。
    けどヒロインの扱いだとか、色々モヤモヤする。
    1994年の出版ってことを割り引いて考えるべきとはいえ。

    「島崎さん」(由紀ちゃんではない)が一貫して「女性」として扱われているのが気になる。
    いや女性なんだけども中学生はもっと子供扱いされるべきだ。
    子供扱いというと言葉が悪いかもしれないけれど、周囲の大人はもっと大人として接しなきゃだめだろと。
    まだ保護されるべき年齢なんだから。

    そんでこのこの良い子ぶりは、気持よく同情できる便利で美しい被害者像だ。
    しかも中高年男性に夢を与えてくれるきもちわるい美しさ。
    あんなトラウマ発生現場(レイプされた場所とセカンドレイプされた場所)に勤めたがるか?
    中高年も検閲前提の手紙で「守ろうとした」はずのプライバシーを平気で書いちゃうし。

    冒頭の産婦人科はかなりダメ医院だと思った。
    患者を見て驚いて見せたり、親身な顔で話も聞かずに説教をかましたり。一人称が「先生」なのも嫌だ。
    ダメ医者として描写されているならこれでもかまわない。
    最初は鈍い人として書かれているんだと思った。
    けれど、先生さまたちの一人称がことごとく「先生」だったり、親しみの表現だけじゃなく敬語を省略していたり、そんな場所に女の子が喜んで勤めているところをみると、著者がナチュラルにパターナリズムに漬かってるようだ。

    死刑にウソ臭さを感じるけれど実際のところはよくわからないからそこは保留。
    うーん明治なりたてくらいならともかく、それはないんじゃないかなあ…

    気質の人とメンタルの人は良い子だけど、覚醒剤中毒の元やくざは迷惑な悪人という区分けは、なんだか「人格障害お断り」に通じるものがある。
    まあ嫌なんだろうけどさ。扱いやすさで良い患者悪い患者をわけるのは医療としてよくない。

    古い本ってことを考えなければダメなんだけど、当時の常識やら倫理やらにいやーな思いが残る。
    自分の領域のリアルさと、それ以外の部分のケレンのバランスが悪い。

著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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