あのひとは蜘蛛を潰せない

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 750
感想 : 130
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103319627

作品紹介・あらすじ

私って「かわいそう」だったの? 「女による女のためのR‐ 18文学賞」受賞第一作! ずっと穏やかに暮らしてきた28歳の梨枝が、勤務先のアルバイト大学生・三葉と恋に落ちた。初めて自分で買ったカーテン、彼と食べるささやかな晩ごはん。なのに思いはすぐに溢れ、一人暮らしの小さな部屋をむしばんでいく。ひとりぼっちを抱えた人々の揺れ動きを繊細に描きだし、ひとすじの光を見せてくれる長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 他人には言えず一人でそっと抱える闇。
    なかなか子離れできない母親や、母親のペースに振り回されなかなか親離れできない娘。
    頭痛に耐えきれず頭痛薬が手放せない女性。
    家庭の味を知らないせいで自らの家庭の味を作れず途方にくれる女性。
    一人で抱えるものにジタバタと足掻いてばかりの女性達に、同じ女性として共感した。
    小さな一匹の蜘蛛がどうしても潰せずモヤモヤ考え込む主人公。
    同じく蜘蛛を潰せない私もこの女性のように優柔不断のジタバタするタイプだ。

    煩わしい様々なことから逃げて、最後まで蜘蛛も潰せなかったけれど徐々に歩み寄るみんな、この先はきっと大丈夫、と明るい予感がよぎった。
    蜘蛛を「潰せない」から「潰さない」に決めたから。

  • 彩瀬さん待望の初の長編書き下ろし小説!期待通り読み応えのある一冊でした。
    「毒母モノの傑作」と一部で評されており、確かに「抑圧する母親からの自立」がテーマのひとつではあるが、登場人物らが抱える心の闇が幾重にも重なり、それぞれに苦しみながら殻を破ろうとする過程がとてもよかった。
    ドラッグストアに勤めるアラサーの主人公・梨枝。大学生のバイト・三葉君と付き合うようになり、それまで自分をがんじがらめにしてきた母の存在が疎ましく感じられ始める。母親の言動がひとつひとつ息苦しいが、話の中でも語られてるように、「毒母」とはいえすさまじく恨めしい、というほどの存在ではない。かつて乳児の弟を亡くし、父と離婚してからは女手一つで自分と兄を育てた。そういう過去があるから母を憎み切れず、「かわいそう」な存在と語る梨枝。でも、人と比べて何が普通なのか、常にものさしで計ろうとする梨枝の生真面目さが、己の心をしめつけている。
    一見快活だが、時々見せる三葉君の冷たさに、彼も何か抱えているのではないかと感じさせられる。少しずつ綻び始める梨枝と三葉君の関係。一方で、梨枝が独り暮らしを始めると同時に実家に引っ越してきた兄夫婦との同居に、母も翻弄されていた。兄・そして兄嫁の雪、ぎくしゃくする3人はそれぞれにひっそりと足掻き、心の距離が縮まらない。更には、ドラッグストアの常連で、必要以上に頭痛薬を買い込む「バファリン女」の存在。それぞれにヘヴィーだけれど、それでも重苦しくならずに読めた。登場人物らの不器用さが際立つけど、だからこそ彼らの悩みに共感できるのかもしれない。
    最後の方の、皆で餃子を作るシーンがとても好きだな。波打つ感情への寄り添い方が、さり気なく優しい。そんな彩瀬さんの描写に好感が持てます。全体的には地味かもしれないけど、心に刻まれる言葉の選び方が印象的だ。心をぎゅっと掴んでねじられるような感覚に捉われるけど、何とも言いようのない切なさに泣きたくなったり。作中に出てくるさざんかの「赤」が鮮やかに感じられ、色々なものを象徴していてとても効果的だった。
    「R-18文学賞」受賞作家はハズレなしとこれまでも同賞受賞作家のレビューで述べてきたが、やっぱり今回も同じセリフを言いたくなります!本書の彩瀬さんのプロフィールに「手触りのある生々しい筆致と豊かなイメージにあふれた作品世界で高い評価を得る」とありましたが、本当にその通りだなと感じております。これからの活躍が楽しみ!応援し続けます。

  • ここのところ、立て続けに彩瀬まるさん読んでます。

    過干渉気味の母親と実家で暮らす梨枝・28歳。
    「きちんとしなさい」「みっともない」あまりに母の言葉に縛られすぎて、
    常に周りの人の顔色を窺ってしまう。
    いい子とか真面目って言われることに、若干の皮肉を感じてしまい、
    きちんと躾けられたことを美点と思えない梨枝。

    バイトの20歳の大学生・三葉くんと初めての恋愛を経験し、
    兄夫婦が戻って来るのを機会に一人暮らしをはじめようとするが、
    母はそれを快く送り出してはくれない。
    自立したい。母から離れたい。
    でも離れたら離れたで母を捨てたかのように感じてしまう…。

    すごく共感する箇所が多かったです。
    好きとか嫌いとか、そんな簡単に割り切れないところが母と娘の一番厄介なところ。

    恥ずかしい、みっともないと思っていることも
    他人からみればそうじゃないこともある。
    要領良く人とつきあえているかのように見えた三つ葉くんも、バファリン女も、義姉の雪ちゃんも、
    みんな何かしらの生きづらさを抱えている。

    陰口を言っていた店員への毅然とした態度、バファリン女のためのファイル、
    ひとつひとつの積み重ねが自信に繋がって成長して行く過程がとてもよかった。
    母と雪ちゃんと一緒に餃子を作る場面が特に好きです。

    新作が楽しみです♪

  • 母親とうまく関係を築けない梨恵は三十を前にして息苦しさを感じていた。就職を機に家を出ていった兄に変わり、母親を支えていのだと自然に地元の企業に就職し、ドラッグストアの店長をしている。夜勤の日、パートで入ってくれている柳原さんがレジにいた蜘蛛を前に動けずにいるところを目撃する。梨恵はさっと蜘蛛を外に逃がすが、蜘蛛をつぶすことを躊躇う柳原さんに親近感のような、シンパシーのようなものを感じる。それからしばらくして柳原さんは夜の店の女の子と失踪したことを彼の妻が申告に来る。彼女は言う。「これは彼の病気なのだ」と。これで三回目の失踪は、けれどまた自分のもとへ戻って帰結するのだとも。その後退職というかたちで存在を消した柳原に代わり、大学生の男の子がバイトに入った。三葉君はなにかと梨恵を気にかけ、そのうち二人は恋人の関係になる。三葉くんの存在から母への反抗を芽生えさせる梨恵は、兄が子供ができたから母と同居しようと思うという話に乗り、一人暮らしを始める。
    三葉君に母と自分のことを理解してほしいと考えながら、母が自身へしてきたようにいつしか三葉君をがんじがらめにし始めた梨恵。兄と結婚した幼馴染の雪ちゃん、同居を始めてから変化していく母親、見えていなかった兄の事、雪ちゃんのこと。そして大切にしたいのに上手には何も伝え合えない梨恵と三葉君。
    それぞれの少しずつ差し出し合った手が、あたたかさに触れるとき、やっとほんの僅か許し合えるような気がする。

    この手の話は、わりとラストには主人公が一人にもどっていたりするのだけれど、梨恵さんと三葉君が穏やかに続いていて、自分でもびっくりするほどうれしかった。雪ちゃんと梨恵とお母さんが一緒に餃子をつくる場面、大好きだ。
    綾瀬さんの心理描写と情景描写がまじりあった表現が好きだ。

  • 母親に萎縮して、物事を判断するのに母の価値観が色濃く出てしまい、それを打ち破りたくても竦んでしまって打ち破れない主人公。この程度の親子関係や、生きる技術に不器用な人はざらに居ると思うけれど、微に入り細に入り巧みに表現されて鮮やかでした。初めて読む作家さんですが、作者さんはまだ27,8歳とか?素晴らしい感性だと思います。

  • 初読み作家さん。読み友さんが複数オススメされていたので読んでみた。とても好みな文章を綴る人だと思った。内容は決して明るくも前向きでもない。でもなんていうんだろう。。一つ一つの言葉がストンと落ちてくる感じが心地よい。28歳でドラッグストアの店長である梨枝が抱える母との確執。年下の彼・三葉との不器用な恋愛がとてもリアルでとても惹きこまれた。自分の悩みを誰かに分かってもらいたいと思うがいざ言葉にしてみると 「イヤこんなこと言いたいんじゃない」と思う。梨枝のカミングアウト後の三葉の反応が綺麗事でなく良かった。

  • 皆それぞれの「かわいそう」で「みっともない」ところを持っていて、自分でもそれが何なのかはっきりわからないから、誰ともわかりあえない。
    家族でも恋人でも友人でも、わからないものはわからない。
    だけどわかりあいたいと、好かれたいと思って言葉を尽くして相手に伝えることって、生きるのに必要な事なんだよなぁ。

    なんだか色んな人と関わって色んな事を話してみたくなった。

    「同じ年頃で、同じように真夜中に働いてて、きっと、一人暮らしで、辛い時期も知ってて、だから、あなたは、わかってくれると思ったのに」
    「わかりません、ごめんなさい。......わからなくて、ぜんぜん別のことを考えるから、こんな風にお話する意味があるんだと......思います」(p208)

  • 暗闇から抜け出せなくても、手を握っているよ。
    恋愛の絶望と希望を描く救済の物語。
    (アマゾンより引用)

    親に言いたいこと言えないってすごいよく分かる

  • 生々しい文章です。
    少しだけエロもありますが、
    マイルドですし、対等ですので問題なし。
    優しいエロです、安心して読みましょう。

    この作品は人の弱さ、醜さ、そして変化を
    実に生々しく表現しています。
    主人公の梨枝はある家庭内の事件がきっかけで
    自分を表現することを忘れてしまった女性。

    そんな彼女に好意を持った青年は
    彼女とは対照的に自分を正直に表現する男性。

    そんな彼らが結ばれ、
    だんだんと梨枝には変化が訪れます。

    この中で突き刺さる言葉があります。
    「かわいそう」という言葉。
    これは人によっては蔑視表現にとらえられるのです。
    なので、なるべく使わないようにしています。

    そして、彼女が変わったのは
    彼女をいじいじといじめる男に対して
    勇気を出して言った言葉。
    その瞬間、世界は変わったのです。

    生々しいけど、なんか憎めないんだよなぁ。

  • 身に覚えのあることが多く…のめり込むように、肩入れして読みました。
    何気ない場面や出来事の中から、等身大の女の子の気持ちがひしひしと伝わってきます。
    『身体と中身が一致しない、グロテスクなオトナコドモだ。』
    自分のことをそう語る彼女は年齢でいえば立派な大人なんだけど、女性っていうよりは女の子、なんですよね。
    ぬくぬくと守られ、それを享受してきた。近くなるればなる程、人間関係は煩わしくて難しい。
    カテゴリーでいえば恋愛小説なのでしょうが、オトナコドモからの成長記に感じました。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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