とにかくうちに帰ります

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 254
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103319818

感想・レビュー・書評

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  • 会社から無事に家に帰るという毎日繰り返している当たり前のことがとてつもなく困難なことになる時がある。
    例えば台風。
    電車が動かなくなったり、ひどい混雑で乗り込めなかったり、最寄り駅までなんとか到着したけど家まで歩くのが命がけに思えたり。
    そんな時に心から欲しているのは家に帰って荷物を下ろし、疲れた体を無防備に横たえることだったりする。
    「帰りたい」
    その思いがますます人々を駆り立て、混雑した駅はさらに過酷な戦場になっていく。
    困ったものだ。

    この小説で人々を翻弄するのは豪雨。
    循環バスが運休になり、家を目指す人々は雨の中自力で橋を渡り始める。
    「帰りたい」という思いを胸に。

    今家にいられることが本当に幸せだなぁと思う。
    そして、大人って格好いいなとも思った。
    誰かを突き飛ばして家に帰るような大人にはなっちゃいけない。
    これは本当にそう思う。

  • 久しぶりの再読。
    やはり津村さんのオフィスものは面白い。
    営業の態度如何で書類の引き渡し時間を変える田上さん、何かと女性社員に突っかかっては嫌われる北脇部長、いつの間にか人の文具を持ち出し代わりに自分の文具も持ち出される間宮さん、次々と社員がインフルエンザに倒れていく中で最後までなんともなかった浄之内さん。
    表題作は豪雨の中、橋を渡り家に帰ろうとする二組のドラマが面白い。特にそれぞれに何かが起こるわけではないのに、やりとりや悲喜こもごもが何とも独特でワクワクする。

  • ’21年9月5日、読了。津村記久子さん、2作目。

    とても、良かったです。楽しんで、読みました。

    「職場の作法」、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」、「とにかくうちに帰ります」の3作を収録ですが…表題作が、一番好きかな…。

    「職場〜」「バリローチェ〜」の2作は、登場人物が同じだったので、「とにかく〜」もかな、と思って読み始めたら、これだけ違う話で、ちょっと違和感が(どうせなら同じにして、連作短編集にすればいいのに、なんて思いました)。でも、読んでいくうちに、不思議な緊迫感(!)を感じ、かなり集中して読んでしまいました。

    大雨の中を、登場人物達がなんとか帰宅しようとする話なのですが…遭難するのでは?なんて、考えてました。そして、若い頃、新聞配達のバイトをしてた時の事を、思い出しました。

    台風直撃の最中、配達をした時の事を…。
    新聞を濡らさないように、できるだけ時間指定も守って…なんて焦りながらやってましたが、途中から義務も何も、全部ぶっ飛んでしまい、妙にハイ・テンションになった時の感覚…意識があるのかないのかも、分からなくなり…最後の方は、笑いながら(???)配達してました。その時の感覚が、脳裏に浮かんできました。死に際に、走馬燈を見たような感じ…。
    登場人物達の、体力消耗や、不安、何かに&何にでも縋りたい、という思い…とても、共感しました。それでも人を助けたい、という思いも。

    3作とも、「働きながら生きていく人達への、エール」と、僕には感じられました。

    感想がちょっと長くなりましたが…僕にとって、とても印象深い作品になりました。津村さんに、感謝!

  • 鳥飼さん、田上さん、浄之内さんの3人がいる職場、いいなと思った。
    お仕事小説なんだけど、独身者たちのプライベートなおうち時間の過ごし方がいい感じで羨ましい。
    最後の表題作「とにかくうちに帰ります」だけ登場人物たちが違うんだけど、それぞれの「うち」に帰りたい気持ちが、豪雨の中という非常事態だからこそ、普段より高まっていくのが面白い。
    おうちでのんびりっていいよね。

  • 6編の短編
    職場の何気ない日常が描かれていていいな
    表題作もちょっとスリリングでなかなか楽しめた
    表紙が好きではないけれど
    ≪ 小さくて わからないけど その誇り ≫

  • 「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」が結構ツボ。

  • フツーの会社員たちの、フツーなようで・・・なんかちょっとおかしい部分も含んだ日常風景を、細かく丁寧にあぶりだしていく作者の技巧があいかわらず冴えた物語集。
    大きなひとつのエピソードで引っ張るのではなく、個人個人のディティールがあるからこその些細な描写で楽しめます。スケートの話なんて、オチがないようで、けれどほのぼの?と楽しめるのは、そこまでの個人のいろんなエピソードがあるからで、面白い書き方をするなあとあらためて思うのです。
    「とにかく・・・」は、「ウエストウイング」を先に読んでいたので、同じ大雨エピソードときいてプロトタイプか、と思ってたのですが、方向性はぜんぜん違う話でした。うちに帰る切ないまでの志が素敵。なにげないふれあいで見えてくる個人の善の部分、あたたかい部分が見えて、ほっこりします。登場人物たちは、凍えてましたが・・・。

  • なにげない、普通のひとなら気にもかけないであろう小さなネタを掬い上げて、ここまで広げていくのはほんとにすごいと思う。どの話も、こんなにおもしろくなるもんなんだなあと感心せずにはいられなかった。
    職場でのどうでもいいようでちょっと重要なのかもしれない、微妙な人間関係がさらりと書いてある、そこがたまらなくすきだ。津村さんの書く登場人物って、腹の中に黒いものを抱えているのにそれを出さずに不器用に生きていくひとが多いんじゃないかなあ。だらだら書いてあるといらっとくるんだけど、津村さんはそこの加減がほんとにうまいと思う。
    文房具返してほしいなあ、知名度の低いフィギュアスケーターが気になる、とにかく家に帰りたいんだよ。ほんとに日常の中にある小さなことなのに、視点を変えればこんなにもおもしろい。ちょうどいい温度で、文章がとびこんでくる。心地好い空間に浮かんでいるようだった。

    (182P)

  • 表題作が、雨の中家に帰る話で
    ちょうど大雨の日にビニール袋に、包んで鞄に入れて持ち歩き読んでいたので印象が強い。
    事務員さんの話、フィギュアスケート選手を応援する(気にしてるだけ?)人の話も表題作も
    視点が面白くてしかも読みやすい。
    文章の良し悪しに精通しているわけではないけど水のようにするすると入ってくる感じで
    他の作品も読んで見たいと思った。

  • なんだろう、この、後味が全くない感じ。
    面白くないということはなくて、むしろ楽しんで読めた。
    あまりにも日常のヒトコマ感が強くて後味ゼロなのかな。
    ありふれた日常の中にこんな瞬間ございますね、という感じで、それをとてもユーモラスかつリアルに描写されているなぁと思いました。
    他の作品も読んでみたいと思いました。
    特に表題作は、色々なものが素敵に展開していきそうな雰囲気の中終わってしまったので、続きがあれば読みたいなぁ。

著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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