その日東京駅五時二十五分発

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103325819

感想・レビュー・書評

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  • その日、昼には「玉音放送」のある朝、東京駅から始発に二人のもと兵士が乗り込む。
    彼らは、すでに日本の敗戦を知っている。
    それは何故か。
    彼らにとっての通信兵としての戦中の日々と、その日が交雑していく。

    やっぱり、映画的だなと思った。
    たんたんといた展開が西川監督らしい。

    あの戦争の中でも一人ひとりが色んな生き方をしていたんだという当たり前のことが書かれている気がした。

  • 映画監督・西川美和の大ファンなのですが、やはり彼女の本領は映画だな、と確認させる一冊でした。
    ただ、『蛇イチゴ』『ゆれる』『ディア・ハンター』と老人の描写が冴えわたっているのは美和さんがおじいちゃんっ子だったから、というのが何となく分かったのは収穫でした。
    それから、彼女には是非「あの戦争」を描く映画を撮って欲しい。うまく行けば、『永遠の0』なんて問題にならないほどの大傑作ができるんじゃないだろうか。もしかすると、西川先生は自分があの戦争を撮れる年になるのを待っているのではないだろうか。この本のあとがきを読んでそう感じた。

  • 中江有里さんの本で知って、借りてみたこの本。
    読み終わって登録しようとしたら、すでに「読みたい」本として登録されていた。
    過去の私よ、いつの間に!

    戦争の話ですが、あまり悲惨さを感じません。
    でも確かにあの時代、こんな風に時を過ごした人もいるんだろうなあと思いました。
    限りなく運のいい人なんだと思うけど。

  • 終戦直前の日本。
    東京駅から広島へ向かう電車を土嚢に寝転がって待つ主人公。友人とくだらないおしゃべりをしていたところを兵士に見咎められる。

    通信兵として玉音放送よりも早く敗戦を知らされた主人公たちは、全てを焼き捨てて故郷へ帰るところだった。

    戦地に行くことなく、平穏無事な戦時下を生きる青年の日々を描いた話は他の戦争ものとまったく印象が異なる。
    淡々とした展開だが、これは西川さんの伯父の手記を元にした物語であることを加味すると趣が深くなる。
    あとがきでこの作品は完成されると思う。
    ”「全てに乗りそびれてしまった少年」の空疎な戦争体験”と表現された通り、国中が戦火に飲まれ、家族や友人たちが命を落としていく中、戦争のリアリティから遠い場所でモールス信号を勉強する青年の疎外感や負い目を想像しながら読み返すと、また別の印象を持ちそうだ。

    まだ敗戦を知らず、戦い続けようとする兵士と主人公たちの温度差を思い返すと、冒頭のエピソードの鮮やかさが増す。

  • タイトルの「その日」とは、昭和20年(1945)8月15日のこと。通信隊に所属していた「ぼく」は、玉音放送が出る前にいち早く敗戦を告げられ、隊は解散し、すべての証拠を焼き尽くして、故郷広島へ帰るために列車に乗っていた。

    著者の伯父の手記が元となっている。
    通信兵として東京で訓練を受けていた19歳の少年からみた戦争。故郷・広島に新型爆弾が落とされたということも、どうやら戦争が終わったらしいことも、すべて現実味がなく、当事者意識を持てないでいる。
    ただ何か、とてつもなく恐ろしいことが、自分の遠くで起こっているという感覚。
    訓練していても、切迫感のないことが、焦りにつながる。
    そうした心情がとてもリアルに伝わり、共感できた。
    短かい作品だが心に強い余韻を残す。

    あとがきも含めて、一つの作品という気がする。

  • 五時二十五分発は、敗戦を受けて隊が解散になり、訓練先の東京から故郷の広島へ向かう列車の出発時刻だ。
    列車が発車するまでの間、のんびりと土嚢の上に寝そべり、仲間とくだらない話をして過ごす。
    時は昭和二十年八月十五日、玉音放送があった日だ。ということは、故郷の広島は壊滅状態のはず。
    ところが、主人公と仲間のやりとりには微塵も緊張感がなく、列車に乗り合わせた乗客もどことなくのんびり。
    そもそも彼自身、兵役は通信兵として三ヵ月の訓練を受けただけで(それもどこか楽しげ。)、戦争経験はない。
    列車で友とくすくす笑いあいながら過ごして大阪で別れを告げ、着いた先は焼け野原。慣れ親しんだ風景はどこにもない。さすがの彼も意気消沈。自分をよく叱ってくれた祖父に会いたいと涙を流した。
    そんな時、火事場泥棒の姉妹に会ったのだ。何もないところからまた生きようとするたくましい二人。その後ろ姿を見て、主人公はうつくしいと捉える。

    これは映画監督である西川氏の伯父さんの体験に基づく話である。彼女が話を聞いて執筆を始めたころ、奇しくもあの3・11東日本大震災が起こったのだ。
    テレビをつければ日本が大変なことになっている危機感にかられる。ところが、情報から遠ざかると何事もない平和な日常にもどる。…戦争もそのようなものだったのか。

    起こってしまったことや、受け入れざるを得ないことは淡々と受け止め、また明日に向かって歩きはじめる。
    人間は意外と強い生き物なのだ。

  • いわゆる戦争ものというのではなく、日常の中の戦争を淡々と描写した体験談。もひとうの戦争小説。

  • なんか良かったよ。

  • 著者の伯父の実体験をもとに書かれた、戦争を背景にした小説。
    こういう戦争小説もあるのかと思わされた。

  • 西川さんはやっぱり映画だな、と

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著者プロフィール

1974年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。在学中から映画製作の現場に入り、是枝裕和監督などの作品にスタッフとして参加。2002年脚本・監督デビュー作『蛇イチゴ』で数々の賞を受賞し、2006年『ゆれる』で毎日映画コンクール日本映画大賞など様々の国内映画賞を受賞。2009年公開の長編第三作『ディア・ドクター』が日本アカデミー賞最優秀脚本賞、芸術選奨新人賞に選ばれ、国内外で絶賛される。2015年には小説『永い言い訳』で第28回山本周五郎賞候補、第153回直木賞候補。2016年に自身により映画化。

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